もうかなり前の話だけど…
土方やってたんだが、給料の不払いなんかがあって仕事辞めた。
無職で金もなく職場の寮も出た為、やむを得ず、しばらく連絡もとってなかった悪い友達に連絡した。
友達の先輩の更に先輩って感じでタライ回しに紹介されて、最終的に893屋さんのSさんに紹介された。
Sさんや、Sさんの知人(カタギ)の仕事の手伝いをしてお小遣をもらい、しのいでた時期があるんだけど…
仕事っつっても違法なもんじゃなく、解体現場の手伝いとかね。
まぁ、時には多少違法な仕事もあったかも…
893屋さんも不景気だったし、毎回小遣いもらってたわけじゃなく、一日肉体労働して飯食わせてもらうだけのときもあった。
文句なんてなかったし、あっても言えなかったが…
住んでたのも、そのSさんの家。
まぁ、俺は後輩の後輩って感じで紹介されたわけで、俺自身は893じゃなかったし、目指してるわけでもなかったから『部屋住み』なんて堅苦しい感じじゃなく居候って感じだったけどね。
洗濯なんかも奥さんがしてくれてたし。
でも、はたから見たらチンピラだったろうな…
別に、チンピラな俺!イイ!なんて思ってなかったし、早くそんな生活抜け出したかったけど、ああゆう世界ってのは爪先だけでも踏み込むと容易には抜けられないのよね。
そんな居候時代に知り合ったTさんって人がいる。
俺より3歳年上で、元自衛官。
お世辞にもいい人とは言えず、無責任でキレやすい。
金もあんまり持ってなくて、誘われて飲みに行ったのに会計は俺なんてこともあった。
(もちろん、ある時はTさんが払ってくれたが)
893ってよりチンピラだったな。
年齢的にも若かったし…
今はもう付き合いがないが、居候生活抜け出してしばらくは付き合いがあった。
居候生活から抜け出したばかりの頃。
夜中にいきなり血まみれでやってきたこともある。
ケンカって言ってたが、ケンカであんな返り血見たことない。
まぁ、真相はわからん…
服を借りると、血のついた服は適当に処分しといてと言い残して帰ってった。
今考えるとこっちのほうが洒落怖だなw
当時は麻痺してたわ…
ある日、Tさん電話があった。
T『今、暇か?』
俺『はぁ、まぁ…』
T『家の前にいるから出てこい』
暇じゃなくても連れ出すつもりだったんだろな。
そんな自分勝手な人。
車に乗せられ、到着したのは普通の一軒家だった。
そこまで理由も目的も聞いてなかった俺は、誰の家か尋ねた。
Tさんは『俺の家』ってあっさり答えた。
Tさんが一軒家なんて持てるわけがないと思ったが、もしかしたら後輩におごらせて地味に貯金してたのかとも思った。
そんぐらいセコい人だったから。
しかし、詳しく聞いたらどうやら占有屋的なことをやってるらしい…
『~~~~とゆうわけだから今は俺の家』だってさ。
占有屋手伝わされるんだと思って慌てた。
仕事もあるし無理だと伝えたが
『おもしろいもん見せてやるから一晩だけ泊まってけ』
とのことだった。
家の回りにはカタギには見えない債権者(おそらく)がいて俺はガクブルだったが、Tさんには逆らえなかったので一晩だけ泊まることにした。
家の中は、テレビもねぇ!ラジオもねぇ!って感じ。
Tさんが売り払ったのか債権者が回収したのかは知らんけど、空っぽだった。
クリーニングも済んでない。
まぁ、Tさんが占有してんだから当たり前だが。
中にはTさんの後輩の坊主頭がいたけど、すぐにTさんが帰らしたんで二人っきりになった。
話すこともないし酒飲んだ。
たいした会話もなく、しばらく飲んでるとTさんが酒買ってくると言い出した。
俺も行こうとしたんだが、家を空っぽにはできないとのことで却下された。
(そういや、おもしろいもんって何だったんだ?)
そんなことを考えながら、ぬるいビールを飲んでたら2階から足音がした。
俺はとっさにゴルフクラブ(Tさんが持ち込んだ)を片手に身構えた。
債権者が2階の窓から侵入したと思ったから。
今考えればそんな無茶するわけないけど、そん時はそう思ったんだよね。
殺られる前に殺れ!じゃないが2階に特攻した。
2階の4畳くらいの和室にオッサンがいた。
50代くらいの作業衣着た工場の社長サンって感じのオッサン。
マジで債権者が侵入してきたんだと思った。
そんぐらいハッキリ見えるオッサン。
でも、生きてる人間とはちょっと違った。
うまく表現できないけど幽霊だってわかった。
頭に浮かんだのは自殺。
競売物件だったし。
気付いてないふりして、そーっと忍び足で1階に降りたよ。
触らぬ神になんとやらだし。
俺は『見える』んだけど『祓える』わけじゃない。
祓う力があったとしても方法を知らない。
それに、他人の家でたまたま遭遇した幽霊を祓うなんて、幽霊にしてみりゃ迷惑な話だ。
とにかくTさんの帰りを待つしかなかった。
『おもしろいもんって、多分アレだな…』
とか考えながら一度読んだヤンジャンを何度も読み直してると視線を感じた。
Tさんか?と思い振り返ると…
オッサン下りてきやがった。
オッサンから目が離せなかったよ。
でも、どうやら気付いてるのは俺の方だけ。
オッサンは気付いてないみたいだった。
ずーっとオッサンを眺めてた。
最初の印象は、オッサンが何か探し物をしてるんだと思った。
でも、どうやらオッサンに目的はないみたい。
俺にも全然気付かずに家中を徘徊してる。
例えるならSIRENの前田父って感じ。
前田父と違うのは規則性がないことかな?
階段と玄関の間をふらふらしてる…だけ。
なんか漠然と『無害かな?』って思ったんだが、得体の知れないものはやっぱり怖い。
そんな状況でも逃げ出さなかったのは、オッサンよりTさんが怖かったからだな…
オッサンから一瞬たりとも目を離せなかった。
だって、ちょっとでも目を離したら、次に後ろ振り向いたときに超近くにオッサンの顔が!、とか色々考えちゃって…
そんな状況が1時間ぐらい続いたかな?
人間ってのは適当なのか、それとも防衛本能なのかわかんないけど、緊張が続くと寝ちゃうのねw
酒のせいもあるかもだが…
目が覚めて部屋を見渡したら、もうオッサンはいなかった。
時計見たら3時くらいだったかな?
時間確認した瞬間、再び背後に気配感じた。
振り向いたら階段からオッサン下りてきた…
ずっといたんだorz…
自分が寝てる間にもオッサンが家中を(自分のいる部屋も含め)徘徊してたって考えたら全身鳥肌立ったよ。
相変わらずオッサンは徘徊するだけだった。
次に2階に上ったのが最後で、オッサンが下りてくることはなかった。
今度こそ怖くて眠れなかったよ…
5時頃になって外が明るくなるのを確認したら、少し安心して眠りに就いた。
結局、Tさんは昼頃帰ってきた。
酔っ払ってたよ…
俺が昨夜のオッサンの話をすると『忘れてたw』って…
あらためて幽霊よりTさんが怖いって思ったよw
『あのオッサン、ここに住んでた人ですか?』
って聞いたら、住んでたオッサンは普通に生きてるよってさ。
『じゃあ、なんなんすか?』
って聞いたら
『知らねーよ!貧乏神じゃね?』って…
『貧乏神ってw』
って笑ったんだが、ちょっと考えたら『なるほどな…』とも思った。
幽霊?と一晩過ごしたのは後にも先にもこの日だけ。
どうせならオッサンじゃなくて美人の幽霊がよかったよ。