実体験した話。
別に怖いってわけでもないし、今はそんなこと全然起きなくなったが、とりあえず聞いてくれ。
俺は小さい頃、よく『時間が止まる』現象を体験していた。
なんの前兆もなく、突然『ピタッ』って感じで時間が止まるんだ。
これはその時間が止まったときに体験した話。
10年くらい前、俺が小学校3年の秋ごろ家族で外食して帰る途中だった。
みんな自転車に乗ってて、両親・兄貴・俺の順で走ってた。
十字路で左に曲がれば下り坂ってところで、突然自転車が『ピタッ』って止まったんだ。
別にブレーキかけたわけでもなく、本当に『ピタッ』って感じ。
前を走ってる家族も、凪いでいた風も止まって『え?あれ?何これ?』って不思議に思ってたら、右側前方の民家の玄関先に女の人が立ってるのが見えた。
冬物のセーラー服を着て、スカートは足首まで隠れそうなくらい長く、10年前とはいえ、明らかに今時の女子高生って感じじゃなかった。
その時は、横を向いていたんで顔は分からなかったが、俺がふっと下を向いてもう1度見直したとき、その女の人はいつの間にか体全体を俺に向けてこっちを見ていた。
女の顔色は異様なまでに悪く、目は虚ろで、目の下にはクマがあり、口は半開き、どう見ても健康な人間じゃなかった。
何よりも不気味だったのは、右の袖が風もないのにフラフラ揺れてたことだった。
よく見ると右腕がない・・・・・
『ヤバイ』と、直感的に悟った俺は目を逸らして自転車を漕ごうとした。
その時に頭の中で『プチンッ』って音がして、前にいた両親と兄貴が何事もなかったかのように走り始めた。
俺もそれを追いかけるように走って、曲がる直前にさっきの女の人を見ようとしたけど、そこにはもう誰もいなかった。