ちょっと前の仕事が休みだった日、原付で家の裏山を走ってたんだよ。
そしたら空にぽっかりと、赤い鳥居が2つ並んだ状態で浮いてるんだよ。
赤い鳥居が浮いてるっていうより、宙にぼやけてるって感じかな。
道なりにその鳥居があったから、走り抜けたんだよね。
だからちょうど、くぐった感じ。
2つとも。
家に帰って、その日は普通に過ごした。
問題は次の日からで、高熱が出て、薬を飲んでも病院に行っても熱が下がらないんだよ。
母親に、
「何か最近変わったことはなかったか」
と聞かれて、息も絶え絶えで鳥居の事を話したんだよ。
そしたら母親が血相を変えて、
「Aさんに連絡しないと!!!!」
って電話してた。
Aさんってのはユタ(うちの地方じゃ呪い師みたいなもの)だ。
ほどなくしてAさんがやってきて、
俺を見るなり、
「あぁ、これは相当やられてるね・・・」
って、言ってきたんだよ。
何にやられてるのか、何をやられてるのか、全く聞けなかった。
身体が動かなくて、声も出なかったんだよ。
それなのに家の仏壇の前に寝かされて、Aさんがもってきた酒やら米やらを仏壇に並べ始めた。
「鳥居を2つくぐったんだね?」
と聞いてきたから、かすかに頷いた。
「あんたの先祖に守ってもらうように今から頼むけど、それが出来なかったら、あんたは悪いけど、ここで命が切れてしまうよ」
と、物騒な事を言うんだよ。
Aさんは何やら呪文みたいな言葉を唱え始めた。
俺が聞き取れたのは、
『マジムン』『グソー』『ニライ』
の3つだけで、呪文みたいなものが書かれた紙で体を叩かれておしまい。
Aさんが、
「どうにか切り抜けた。あんたよかったね、毎年墓参りにちゃんと行ってて」
て言ってきた。
俺、何となくなんだけど、墓参りだけは親と一緒に行くのを欠かさなかったんだよ。
それが幸いしてたらしい。
で、Aさんが、
「次に鳥居を見たらすぐに離れること。絶対くぐってはいけないこと」
と、言い残して去って行った。
次の日、嘘みたいに熱が下がっていた。
母親にどういう事か聞いてみたら、
「世の中知らない方がいい事もある」
と、最初取り合ってくれなかったが、しつこく聞いてみたら、
・俺の家系に関係している。
・鳥居をくぐったら8割の確率で死ぬ。
・鳥居の数はその人が生きた年数に応じて違う。
・雨の日は鳥居は出ない。
としか教えてくれなかった。
これが今まで平和に暮らしてきた、俺の唯一の洒落にならなかった話。