この前、職場の同僚Aと居酒屋で飲んでいたときの話。
偶然、前の職場の飲み会とカチ合った。
俺は特に問題があって辞めたわけじゃないし、前の職場の人とも仲が良かったので、合流はしなかったけれどなんか向こうの人が何人もこっちの席に来て注いでもらったり、唐揚げとか刺身とかをおごってもらったりとかしてた。
そのうち同僚Aが、気分が悪くなったって言い出して俺たちは一足先に店を出ることになった。
店を出て「だいじょうぶか?」なんて言ってたら、同僚Aが
「お前の前に勤めてた会社の課長、ほら、さっき酒注ぎに来てた人。あの人はもう駄目だな」
なんて言い出した。
「なんで?」
って聞いたら、Aは
「あの人、3人の生霊に憑かれてるよ。人間ああなっちゃあもう駄目なんだ。俺、それで気持ち悪くなっちゃったんだよ」だって。
「生霊?マジかよ、そんなのわかるの?」
って聞いたら、どうもAには分かるらしい。
「例えば、おまえでも初対面の人に会って3分話してみて、いや、一目見て嫌悪感を感じる人間っているだろ?見た目がキモイっていうレベルじゃなくってさ」
と、Aはそんなことを言い出した。
「そういう人間ってのは、なにかしら憑かれちゃってるんだよ。あの課長程の凄い憑かれ方のやつは俺も初めて見たけどな」
「そんなに凄く憑かれちゃってるのか?あの課長」
「うん、ああなっちゃうともう駄目だ。何をやってもね」
信じられなかった。
確かに、あの課長は尊敬できない人だったが、そんな強力な生霊が3人分も憑くものなのだろうか?
「生霊って、恨みみたいなもんなの?」
「ああ、恨みっていうより執念、いや、怨念かな?」
「じゃあ藁人形とか、そういうことをどこかの3人がしてるって事?」
「そうじゃないよ。思うだけでいいんだ。」
「相手を恨むには、自分も代償を払わなくちゃいけないってよく言われるけど?」
「そんなのは要らないんだよ。恨みを晴らす代償は、あの課長にされた色々な嫌がらせなり、セクハラなりパワハラなり、とても言葉では言えないような汚いことをされた事で前払いしてるんだから」
「ていうと、頭の中であいつ死ねとか思うだけで生霊が憑くってこと?」
「そうだよ。こわいねー」
まあ、そういうこともあるのかな、と俺は思った。
あの課長なら恨まれても納得だ。
ちょっと気になったので俺はAに聞いてみた。
「なあ、俺には生霊は取り憑いていない?」
「お前には、じーちゃんばーちゃんしかついてねーよ。これからもお年寄りを大切にしろ」
どうせなら、若いねーちゃんに憑いてほしかった。
最後に、一番気になることをAに聞いた。
「それでさ、あの課長に憑いていた3人って、どんな人なの?」
「一人は女の人だね。おとなしそうな感じだけど、よっぽどひどい目にあったみたい」
そうか、確かに前の会社は事務員さんがコロコロ変わっていた。
噂では、あの課長が気に入らなければ即クビになったそうだ。
「あとは男だ。ひとりはなんか思いつめてたなー。ああいうのが一番やばい。恨みに取り付かれると、今の自分の生活なんか関係なく恨みつづけるからね。そのせいで更に状況が悪くなっちまう。恨む事で自分の今の生活を駄目にしてるんだ」
なるほど、恨んでばかりいたら今の生活もままならないって訳だ。
こいつ、いい事言うじゃん、と俺は思ったね。
「3人めはね、お前だったよ」
俺かーwww
そうかもしれないね。
あの課長には本当に死んで欲しいと思ってるからね。
それにしてもAは凄い。
本物です。
本当に見えてるんだね。
それ以来、なんかそういう力を信じるようになりました。