パワーストーンの呪力
私はいわゆるパワーストーンや、占いが大好きなスイーツ脳の女で、ソレ関係の本も出版しているライター。
自称、霊感有りだが、本当にあるのかどうかはわからない。
取材もかねて、パワーストーンやヒーリング、フラワーエッセンスや、霊感アロマなどの取材を趣味と実益を兼ねて首を突っ込みまくっている。
最近、女向けの雑誌で「パワーストーン」「ワークショップ」なんて単語を目にすることがあると思う。
ああいうののチョーチン記事を書くのが仕事。
その日も、ある山間の、ヒッピーの店のような場所で、ワークショップが開かれるというので首を突っ込んでみた。
ヘンプとか自然食とか売っている店で、見るからに怪しい。
だけども、そこが癒しのスポットに見えるらしいんだわ、スイーツには。
そのワークショップってのが、石を使って相談者のハイヤーセルフ(高次元の存在・守護霊みたいなもの)とコンタクトをとるというものだった。
ワークショップの主催は、細っこい中年女性で、「すぴこん」などに出入りしてそうな人。
第一印象は悪くなかった。
私は、そういう広義の意味での占いみたいなことをする人には、引っかけとしてわざと「OLです」なんて嘘を吐いてみるんだけど、それすらも見破れない程度の霊感の持ち主だったので「ああ、これは空振りだったかも」と諦めモードに入ってしまった。
仕事の内容も、過去私がやり尽くしたことを霊視するだけで、未来視はゼロ。
肝心のハイヤーセルフからのメッセージも、「?」と思うような内容。
石とコンタクトを取ったり、天使が見えたり、妖精を呼んだりできるらしいけど、どうも眉唾っぽい。
しょうがないから自分から「私、スピリチュアル系のライターやってて、仕事で悩んでて、その相談に来ました」というと、ものすごく食いついてきた。
「是非お友達になりましょう!是非!是非!」なんて、しつこいぐらい食い下がられて、メルアドだけは教えてしまった。
そのとき、なんか嫌~な予感がして、自分の仕事の方のペンネームは教えず、本名と生年月日だけしか教えなかったんだわ。
その後も、そのワークショップ主催者から何回かメールがあったんだけど、なんとも言えない気持ちの悪さを感じて、メルアドを変えてしまったんだ。
その人のパワー入りの水晶のブレスなんかをお礼にもらったんだけど、何だか嫌な感じがして付ける気にならなかった。
メルアドを変更して、二、三日経った頃の話だ。
私の部屋はフローリングで、荷物はすくなく、ベッドもなく、床に布団を敷いて寝ているんだが、夜中、いきなり目が覚めた。
案の定金縛り。
自分の体が疲れている金縛りなのか、霊由来なのかの区別ぐらいはつくので「おおう久しぶりに霊が来たぜネタにしてやろう」とドキドキしていたら、こいつがとんでもない奴だった。
ずず、ずず、と、布団の周りを何か重たいものを引きずる音がする。
どうやら腕だけを使って這い回っているらしい。
それでも私は自衛隊の匍匐前進を思いだし、怖いどころか、ちと笑ってしまった。
真上を向いて金縛られているので奴の姿は見えない。
笑いを堪えながら金縛りに耐えていると、「○○さーん、○○さーん」と、私の名前を呼ぶ声がする。
拾った霊にしては、私の名前なんか呼びやがってなれなれしい奴だな、と思ってると「どうして返事くれないのー」なんて言いやがる。
あ、あのワークショップのあいつか。
ワークショップなんて開いて、占い師のまねごとなんかするぐらいだから、他人の所に想念を飛ばすぐらい屁でもないんだろうな。
眼球だけは動くので、あいつかどうか確かめようと思って、ちらりと顔を覗き込んだ。
あいつかどうかはわからなかった。
だって包帯で顔中ぐるぐる巻きだったから。
それでもって、ちょうど目の位置に当たる部分だけ、赤い血の染みが浮き出ているんだ。
それで、真っ赤な目に見える。
「血の染みは嫌だなあ、サイレントヒルみたい(まだ余裕)」とか思っているうちに、すーっと気を失ってしまった。
で、翌朝。
目が覚めると、なんか部屋中がクッサイの。
血なまぐさいとは違う、生命由来の嫌な臭いで、あまりの臭さに目が覚めた。
布団の周りには、でっかいムカデが何匹も死んでた。
ただ死んでるだけじゃなく、なにか重いものですりつぶして、私の布団の周りをぐるぐると引きずったような跡があるわけ。
これには参った。
資料として読んでいて、開きっぱなしのページの上にも、私が脱ぎ捨てた服の上にも、全部にムカデの体液。
臭いのなんのって。
それが朝起きたらすでに乾きかけてるの。
悔しいやら気持ち悪いやら吐きそうになるわ、泣きながら雑巾で刮ぎ取った。
服は洗っても洗っても臭いが取れないから捨てた。
後日、ライター仲間に、そのワークショップの主催者について聞いてみると、ライター仲間でも知っている人がいた。
「天使」「妖精」「水晶のパワー」とか言っているわりに、とにかく上昇志向の強い人で、なにがなんでも売れたいという気持ちがすごい人として、ライターの間ではよくない方に有名だったらしい。
そのライターさんに、体験した話をすると、「そう言えばその人、足と目が不自由なんだよ」ということだった。
ああ、だから匍匐前進で、顔を包帯でぐるぐる巻きにして目から血を流しているんだってわかったよ。
「ハイヤーセルフからのメッセージっても当たらないんだけどねアハハ」みたいに笑って話していたけど、ハイヤーセルフや守護霊のメッセージは受け取れなくても、すごい呪いをかけることができる、呪術師としての才能の方がある人なんだなーと思ったわけ。
そんな奴にペンネームなんか教えたら、仕事にどんな影響を及ぼされていたかと思うと気が気じゃない。
今、パワーストーンブレスとか流行ってるでしょう。
ああいうのにパワー込めるとか、天使がナントカとか妖精がナントカと言っている奴の中には、こうやって得体の知れないパワーを込めている奴もいるから注意して欲しい。
もし、自分が悪霊の立場だったとして、このスピリチュアルブームに便乗しない手はないと思うからさ。