「 自宅での怖い話 」 一覧
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めしや
めしや
まだ小学校三年の時、姉と2人で「マザー2」ってゲームにハマってたんだ。
俺ん家は「ゲームは土日に3時間だけ」って面倒な決まりがあって、普段スーファミのカセットは、居間に封印してあるんだが、このゲームだけはどうしても我慢できなかった。
幸い自分の部屋には、スーファミ本体とテレビがあったので、夜中こっそり居間にカセットを取りに行っては姉とマザー2をやり込んだ。
んで、実際にプレーするのは俺。
姉は隣りでお菓子食べながら見てて、俺が詰まると色々と知恵出してくれるアドバイザー。
俺より2つ年上だったんで凄い頼りになった。
今でもハッキリ覚えてるが、その頃はゲップーって敵に大苦戦してて、ひたすらレベル上げしてたんだ。
はえみつ使えば楽勝だって事も知らずにな。
時間は大体午前1時、丁度今位の季節で寒かったので毛布にくるまってゲームしてた。
必死に雑魚と戦闘してる時、姉が不意に
「タケ、テレビ消して。」て言ってきた。
俺は訳がわかんなかったから焦って「何で?眠いの?じゃあコイツ倒したら戻ってセーブするからちょっと待ってよ。」と返した。
が「ゲームの電源は切らなくていいから…テレビ消しな」
姉は締切ったカーテンの方を見ながら、静かに呟いた。
俺は少し怖くなって、テレビを消して布団に潜り込んだ。
「どうしたの?」
恐る恐る聞くと、姉は息だけの声で囁いた。
「庭の方で足音が聞こえる」
俺ん家は周りを砂利に覆われていて、人が歩いたりすると「ジャッ、ジャッ」て音がするからすぐわかるんだ。
俺はゲームに夢中で全然気がつかなかったけど、姉は結構前から気付いてたらしい。
で、余りにも立ち去らないから、俺にテレビを消させたんだと言っていた。
耳を澄ますと、確かにジャッ、ジャッ、と庭先の方から聞こえる。
本当に怖くなって「犬か猫でしょ?」と聞くが姉は答えない。
じっとカーテンの方を睨んでる。
次第に足音が近付いて来るのがわかった。
足音が窓外のすぐ近くで止まった。怖くてたまらなくなって姉の腰にギュッとしがみついた。
暫くして「あのぉ…、すいません。」
甲高い女の人の声が呼び掛けてきた。
姉は答えない。
俺は目を瞑り、必死で姉の体にしがみついた。
「起きてますよね?…困ったコトになったんで、ココ開けてもらえませんか?」
来訪者が来るには、ズレすぎたこの時間帯と、深夜の暗さが恐怖を煽り、怖い夢でも見てる感覚になった。
暫くの沈黙の後、外にいる女が窓に手を掛ける気配があった。
ガタガタと窓が揺れだした時、不意に姉が立ち上がった。
俺を振りほどいて部屋の引き戸を開けた。
「おかーさーん!!窓の外に誰かいるーー!!来てーー!!おかーさーーんっ!!」
姉はありったけの声で叫んだ後、廊下の電気を片っ端から点けて俺の手を引いて親の寝室まで走った。
寝室に着き電気を点けると、母さんはまだ寝ていた。
ちなみにウチは母子家庭で父親はいなかった。
姉が揺すり起こし、事情を説明すると、困惑した顔で
「こんな時間に…夢でも見たんじゃないの?」
違うよ!と俺が口を挟もうとした時。
ピンポーン
玄関でチャイムが鳴った。
母さんは驚き、慌てて玄関に駆けて行った。
玄関の電気を点けると、擦りガラス越しに赤い服を着たシルエットが浮かび上がった。
「どなたですか!?」
「夜分遅くに申し訳ありません。…実は急ぎの用事があって この辺りで公衆電話を探していたのですが、どうしても見つからなくて…」
「もし宜しければ、御宅の電話を貸して頂けないでしょうか?」
俺は何だ電話かぁ、とホッとしたのだが
「…申し訳ありませんが、こんな時間に見ず知らずの人を家に上げる訳にはいきません。どうかお引きとり下さい。」
母さんはキッパリと断った。
その時は、電話位貸してあげればいいのに、と驚いたが、今思えば当然だな。
いくら田舎とはいえ、大人が母親しかいない家に、深夜に訪ねて来た他人を上げるのは危険だ。
だが尚も「お願いします。本当に困ってるんです。電話を貸して下さい。」と食い下がる。
が、母さんは断固として「申し訳ありませんが、他を当たって下さい。」と断り続けた。
暫く言い争う感じでやり取りが続いた後、女は急に静かになった。
やがて、玄関先にあった傘立てから傘を抜くのが見てとれた。
そしていきなり「ガンッ!!」
傘の先の方を持って、柄の部分で玄関の擦りガラスを叩き始めた。
再び狂気を感じた俺は、その場に固まってしまった。
女は玄関のガラスを突き破らんばかりに強く叩いてくる。
「いい加減にしなさい!!警察を呼びますよ!!」
母さんは少し怯んだようだが、強い口調で外の女を一喝した。
しかし女は叩くのを止めない。
「あんた達は居間に行ってなさい!お姉ちゃんは警察に電話!!」
俺は固まって動けなかったが姉に手を引かれ、居間へと走りだした。
バーンと音がしたので振返ったら、母さんが玄関脇にあった靴棚を倒してた。
バリケードを作ってたんだと思うが、今考えるとあんまり意味無い気が…母さんもパニクってたんだと思う。
居間に着き、電気を点けると俺はテーブルの下に潜り込んだ。
どこでもいいから隠れたかった。
警察への電話を終えたらしい姉も潜り込んできて、二人で抱き合い震えながら泣いていた。
暫くすると、母さんも居間にやってきた。
玄関からは、まだガンガンとガラスを叩く音が聞こえてくる。
台所から一番大きな包丁をとってきて、テーブルの下にいる俺達を見つけ
「大丈夫だから、ね?お母さんがいるから大丈夫だよ?」と言ってくれた。
だが、そう言う母さんも顔が真っ青で、凄く汗をかき震えていた。
やがて玄関の方から音がしなくなり、家の中が静かになった。
そして母さんが玄関の方へ歩き始めた時。
「ガンッ!!」
と居間の窓から激しい音がした。
俺と姉は「わぁーっ!!」と絶叫して気を失いそうだった。
どうやら玄関は諦め、電気の点いてた居間の方に周り込んで来たらしい。
母は果敢にも窓の方に歩みよりながら
「居たいならずっとそこに居なさい!!もうすぐ警察がくるから、どうなっても知らないよ!!」
普段見せた事の無い様な勢いで怒鳴り、シャッとカーテンを開けた。
「…ヒッ!!」
裏返った母さんの悲鳴が聞こえてきた。
母さんの悲鳴を聞いて、俺も窓の外を見た。
そこにいたのは明らかに男だった。
濃い髭、ボサボサに伸びた髪、真っ赤なワンピース。
ニタニタ笑いながら部屋の様子を伺ってくる。
本当に狂気を感じ、声すら出なかった。
母さんも後退りし、固まっている。
そして男は窓越しに叫びだした。
聞こえた範囲で書くとこうだ。
「ぎゃははは……めしやだ!俺………流せるのに!!ぎゃははっ!!馬鹿が!!ぎゃははははっ!!」
そう言って奴は走り去って行った。
すんげぇ適当だが最初の”めしや”ってのは”メシア”だと思ってる。
邪教に嵌って気が触れた人なのかもしれん。
とりあえず奴が去った後も恐怖が拭えなくて、姉と二人で母さんにしがみついて泣きじゃくってた。
それからかなり時間が過ぎてようやく警察が来たので、
「遅いよ!!なんでもっと(ry」と凄く罵った覚えがある。
頭にドが付く程の田舎だからしょうがないのだが。
それからしばらくは、家族三人で寝室で寝る様にしてた。
とりあえず覚えてるのはここまで、高校の時位にもふと思い出して
「あれ何だったの?」と母さんに尋ねたが
「わかんないよ。警察の人からも結局見つからなかったって連絡だったし。」
いまだに正体は不明のままみたい。
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間違い?
間違い?
ひど過ぎる話。
ある日から、いきなり変な夢を見るようになった。
それは髪の長い女の人が、少しずつ自分に近寄ってくるのだ。
女の人の顔は、何故か自分を憎んでいるかのように怒っていた。
毎日、恐怖に怯えながら飛び起きる毎日。
だがどうする事も出来ない。
仏壇に手を合わせても、お守りを買っても、どうしても夢を見る。
夢の中では動く事も出来ず、固まっているしかなかった。
じわじわと、真綿で首を絞められるように、少しずつ精神も体力も削がれて行った。
ある日とうとう、女の人が自分の目の前まで来て、顔を覗きこむように睨まれた。
そしたら、あらやだ、と言い、今までの鬼のような顔はどこに行ったのか、急に顔を赤らめ、もじもじしながら走り去って行った。
それ以降、夢は全く見ない。
眠れなかった二ヶ月半、返してくれ。
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パワーストーンの呪力
パワーストーンの呪力
私はいわゆるパワーストーンや、占いが大好きなスイーツ脳の女で、ソレ関係の本も出版しているライター。
自称、霊感有りだが、本当にあるのかどうかはわからない。
取材もかねて、パワーストーンやヒーリング、フラワーエッセンスや、霊感アロマなどの取材を趣味と実益を兼ねて首を突っ込みまくっている。
最近、女向けの雑誌で「パワーストーン」「ワークショップ」なんて単語を目にすることがあると思う。
ああいうののチョーチン記事を書くのが仕事。
その日も、ある山間の、ヒッピーの店のような場所で、ワークショップが開かれるというので首を突っ込んでみた。
ヘンプとか自然食とか売っている店で、見るからに怪しい。
だけども、そこが癒しのスポットに見えるらしいんだわ、スイーツには。
そのワークショップってのが、石を使って相談者のハイヤーセルフ(高次元の存在・守護霊みたいなもの)とコンタクトをとるというものだった。
ワークショップの主催は、細っこい中年女性で、「すぴこん」などに出入りしてそうな人。
第一印象は悪くなかった。
私は、そういう広義の意味での占いみたいなことをする人には、引っかけとしてわざと「OLです」なんて嘘を吐いてみるんだけど、それすらも見破れない程度の霊感の持ち主だったので「ああ、これは空振りだったかも」と諦めモードに入ってしまった。
仕事の内容も、過去私がやり尽くしたことを霊視するだけで、未来視はゼロ。
肝心のハイヤーセルフからのメッセージも、「?」と思うような内容。
石とコンタクトを取ったり、天使が見えたり、妖精を呼んだりできるらしいけど、どうも眉唾っぽい。
しょうがないから自分から「私、スピリチュアル系のライターやってて、仕事で悩んでて、その相談に来ました」というと、ものすごく食いついてきた。
「是非お友達になりましょう!是非!是非!」なんて、しつこいぐらい食い下がられて、メルアドだけは教えてしまった。
そのとき、なんか嫌~な予感がして、自分の仕事の方のペンネームは教えず、本名と生年月日だけしか教えなかったんだわ。
その後も、そのワークショップ主催者から何回かメールがあったんだけど、なんとも言えない気持ちの悪さを感じて、メルアドを変えてしまったんだ。
その人のパワー入りの水晶のブレスなんかをお礼にもらったんだけど、何だか嫌な感じがして付ける気にならなかった。
メルアドを変更して、二、三日経った頃の話だ。
私の部屋はフローリングで、荷物はすくなく、ベッドもなく、床に布団を敷いて寝ているんだが、夜中、いきなり目が覚めた。
案の定金縛り。
自分の体が疲れている金縛りなのか、霊由来なのかの区別ぐらいはつくので「おおう久しぶりに霊が来たぜネタにしてやろう」とドキドキしていたら、こいつがとんでもない奴だった。
ずず、ずず、と、布団の周りを何か重たいものを引きずる音がする。
どうやら腕だけを使って這い回っているらしい。
それでも私は自衛隊の匍匐前進を思いだし、怖いどころか、ちと笑ってしまった。
真上を向いて金縛られているので奴の姿は見えない。
笑いを堪えながら金縛りに耐えていると、「○○さーん、○○さーん」と、私の名前を呼ぶ声がする。
拾った霊にしては、私の名前なんか呼びやがってなれなれしい奴だな、と思ってると「どうして返事くれないのー」なんて言いやがる。
あ、あのワークショップのあいつか。
ワークショップなんて開いて、占い師のまねごとなんかするぐらいだから、他人の所に想念を飛ばすぐらい屁でもないんだろうな。
眼球だけは動くので、あいつかどうか確かめようと思って、ちらりと顔を覗き込んだ。
あいつかどうかはわからなかった。
だって包帯で顔中ぐるぐる巻きだったから。
それでもって、ちょうど目の位置に当たる部分だけ、赤い血の染みが浮き出ているんだ。
それで、真っ赤な目に見える。
「血の染みは嫌だなあ、サイレントヒルみたい(まだ余裕)」とか思っているうちに、すーっと気を失ってしまった。
で、翌朝。
目が覚めると、なんか部屋中がクッサイの。
血なまぐさいとは違う、生命由来の嫌な臭いで、あまりの臭さに目が覚めた。
布団の周りには、でっかいムカデが何匹も死んでた。
ただ死んでるだけじゃなく、なにか重いものですりつぶして、私の布団の周りをぐるぐると引きずったような跡があるわけ。
これには参った。
資料として読んでいて、開きっぱなしのページの上にも、私が脱ぎ捨てた服の上にも、全部にムカデの体液。
臭いのなんのって。
それが朝起きたらすでに乾きかけてるの。
悔しいやら気持ち悪いやら吐きそうになるわ、泣きながら雑巾で刮ぎ取った。
服は洗っても洗っても臭いが取れないから捨てた。
後日、ライター仲間に、そのワークショップの主催者について聞いてみると、ライター仲間でも知っている人がいた。
「天使」「妖精」「水晶のパワー」とか言っているわりに、とにかく上昇志向の強い人で、なにがなんでも売れたいという気持ちがすごい人として、ライターの間ではよくない方に有名だったらしい。
そのライターさんに、体験した話をすると、「そう言えばその人、足と目が不自由なんだよ」ということだった。
ああ、だから匍匐前進で、顔を包帯でぐるぐる巻きにして目から血を流しているんだってわかったよ。
「ハイヤーセルフからのメッセージっても当たらないんだけどねアハハ」みたいに笑って話していたけど、ハイヤーセルフや守護霊のメッセージは受け取れなくても、すごい呪いをかけることができる、呪術師としての才能の方がある人なんだなーと思ったわけ。
そんな奴にペンネームなんか教えたら、仕事にどんな影響を及ぼされていたかと思うと気が気じゃない。
今、パワーストーンブレスとか流行ってるでしょう。
ああいうのにパワー込めるとか、天使がナントカとか妖精がナントカと言っている奴の中には、こうやって得体の知れないパワーを込めている奴もいるから注意して欲しい。
もし、自分が悪霊の立場だったとして、このスピリチュアルブームに便乗しない手はないと思うからさ。
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亡者たちが通り過ぎる家
亡者たちが通り過ぎる家
私たち家族は昨年まで千葉県にある高層マンションに住んでいました。
私たちがそのマンションから引っ越すきっかけとなった、恐ろしい体験についてこれから話します。私たちが住んでいたのは三十階建てマンションの二十九階で、二年前にそこに移り住んだ当初は、リビングの窓からの見晴らしのすばらしさと、以前住んでいたマンションに比べて間取りが格段に広くなったことで、とても満足感でいっぱいでした。
ところが、昨年の夏ごろから奇妙なことが連続して起こりはじめたのです。
最初は二人の娘たちのまわりで起こりました。ある日の夜、みんなが寝静まった夜中の三時ぐらいでしょうか、上の娘が私たち夫婦の寝室に突然やってきて、こう騒ぎだしたのです。
「トイレの中におじいさんがいる・・・・・無表情で痩せたおじいさんがいるの・・・・・・・」
私たちは驚いて、すぐトイレまで見に行きました。
しかし、老人の姿などどこにもありません。
その時でした。
今度は下の娘が子供部屋から飛び出してきたのです。「ベッドの横に、おばあさんが立ってた・・・・腐ったおばあさんが立ってた・・・・・・」
「腐ったおばあさん?・・・・・」
私たちはすぐに子供部屋へ行ってみました。
しかし、おばあさんの姿などどこにもありません。「二人とも悪い夢でも見たんだろう。さあ、部屋に戻って早く寝なさい」
しかし子供たちは怖がって部屋に戻ろうとしませんでした。
結局、子供たちはその日は私たちの寝室で一緒に寝ることになりました。
それ以降も、何度か子供たちが恐怖で身体を震わせながら、私と妻に、「おじいさんがいた・・・・・」、「おばあさんがいる・・・・・・」と訴える日がありました。
しかし、私たちがいくらトイレや子供部屋を調べても、そんな老人の姿など見ることができませんでした。
あまりに何日もそういうことが続いたので、私と妻は、娘達の精神状態がおかしくなったのではないかと心配し、知り合いの精神科医に相談したこともありました。
しかし、そういうことはさほど異常なことではなく、思春期前の女の子にはよくみられる事例なので、しばらく様子を見てから判断しようといわれました。ところが、それから数日後、今度は妻が妙なことを言い出したのです。
台所で洗い物をしていると、横の壁を人の影が動いていくというのです。それも一人や二人ではなく何十人もの影で、どの影も骨と皮だけの老人だと言います。
そしてその影は、真横に動くのではなく、後方の壁から天井のほうへ階段を上がっていくように動いていくのだそうです。私は、最初は妻も精神状態がおかしくなったのかと心配しましたが、とりあえず本当にそんな影が現れるのかどうかをたしかめようと、何日間か台所で壁を観察してみることにしました。
しかし、私の前ではその影は現れず、何も見ることはできませんでした。ところがその3~4日後、とんでもないことが起こったのです。
いま思い出しても、本当にこんなことが起こったのか自分でも信じられないくらいです。
深夜の二時ごろのことでした。ベッドに入ろうと寝室の明かりを消したときでした。
寝室はツインベッドで、妻はすでに奥のほうのベッドで横になっていました。
そのとき、妻のベッドの向こう側の壁に、うっすらと老人の影が浮かび上がり、ゆっくりと動きはじめたのです。私はあまりの恐怖にその場から一歩も動くことができませんでした。
その時でした。
娘たちの部屋から、また悲鳴が聞こえたのです。
私は急いで妻を揺さぶり起こし、影のことは気になりましたが、娘に何か起こってるのではないかと心配になり、とりあえず娘たちの部屋へ飛んでいきました。
すると、信じられない光景が目の前に現れたのです。下の娘が、骨のように痩せた老人に腕をつかまれ、壁の中に引きずりこまれようとしていたのです。
私は何が起こっているのか何もわからない状態のまま無我夢中で娘を抱き上げ、こちら側に引っぱり戻しました。
すると、ボキッという枯れ枝が折れるような音とともに老人の腕が折れ、私と娘はその反動で反対側の壁のほうへ倒れ込みました。
床に落ちた老人の腕は、まるで砂のように崩れていき、あとには灰のようなものが残るだけでした。
そして気がつくと、老人はどこかへ消えていなくなっていました。その老人は何者だったのか、なぜ私たちの部屋だけでこのようなことが起こるのかを早急に解明しなくてはと思い、さまざまな人たちに調査をお願いしました。
風水学の専門家や家相の権威、また、霊媒師などいろいろな人に調べてもらいましたが、結局納得できる理由は何も見つかりませんでした。私たちは連続して起こるそのような怪現象について堪えきれずそのマンションを出ることにしました。
ただ、霊媒師の一人が、この部屋は冥界へ続く階段のような通路と重なっている、と言っていたのが、
今となっては非常に印象に残っています。
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慎ちゃんの前
慎ちゃんの前
おとといの晩のことです。
深夜、3歳になったばかりの娘がうなされている声で目がさめました。
「うぅ~ん…いやだぁ~!……うぅん…」
首をイヤイヤするように左右に振り、苦しそうに顔をゆがませています。ここ最近でも寝苦しい夜も続いていましたが、今夜はやけに苦しそうです。
妻も気づいたらしく目を覚ましました。
「麻衣、なんか悪い夢でも見てるんじゃないの?」
「ああ、そうかもな。どれ起こすか…麻衣ちゃん。麻衣ちゃん起きなさい。」しばらくゆすっていると、娘がパチッと目をあけました。
そして、見る見る目から涙を溢れさせ「うわぁ~ん!」と泣き出しました。
抱き上げ、背中をさすりながら「どしたの?怖い夢でも見たか?」と聞きますが、なかなか泣き止みません。すぐ隣には麻衣の下の1歳になる弟の慎二も眠っている。
『こいつが起きてしまっては大変。』とちと焦りながら
「大丈夫。大丈夫。」ととんとんと背中を叩きながら数分、ようやく落ち着いてきた娘が少し話し始めました。「あのね。なんか白いお姉ちゃんがいたの。」
「何処にいたの?」
「うーんとね。ベランダ。」
「それで?」
「慎ちゃんの前がって言ってた。」
「?…慎ちゃんの前がなんだって?」
「慎ちゃんの前って言ってたの!すごい怖かったの!」慎ちゃんというのは麻衣の弟の事であろう。
それと家はマンションの3階に住んでいるのでもちろんベランダもある。
にしても、このぐらいの年の子の言葉は理解が難しい。多少寝ぼけているとはいえその後、いろいろ聞いてみたが要領は得なかった。要約すると
『家のベランダから白い(格好をした)女の人が、娘の麻衣に向かって「慎ちゃんの前が…」と言っていた。それがとても怖い声だった。』
と言うことらしい。とにかくそんな人はベランダに居ないし夢を見たんだろうから安心してお休み、と娘を寝かしつけました。昨晩。やはり同じでした。
うなされ泣き喚く娘。
起こすと同じ話の繰り返し。「慎ちゃんの前。慎ちゃんの前なんだよう!」と言う娘。
今日は部屋の中、娘の枕もとでその白い女性が話し掛けていたようです。
その後何とか娘を落ち着かせ寝かしつけましたが、2日続くと何かやはり気持ちが悪いものです。
すっかり目がさえてしまい、夜中キッチンで妻と話しあいました。「まあ、何かの前触れってことではないけど慎二のことは注意して見ててくれよな。」
「うん、分かったわ。」
「しかし、慎二の前がなんだってんだろうな?」
「慎二の前ねえ…あっ!!!!!」
「ん?どうした?」
「あなた、もしかして…その白い女の人が言ってたことって…」
「なんだ?」「『しんじまえ』じゃないの………?」
「………………」