当時、俺はカラオケ店でバイトしてた。
働きはじめて1年くらい経ってたので、フロント、キッチン、ドリンク全部出来たんだけど、その日はたまたまキッチンだった。
土曜の夜はどこのカラオケも忙しいと思うんだけど、うちの店も例外じゃなかった。
ライバル店がなかったのも忙しさに拍車かけてたと思う。
終わりの見えないオーダーラッシュと戦ってるとパントリィ(正式な意味は知らんけど料理やドリンクの受け渡しをする場所をそう呼んでた)が、ざわついてるのに気付いた。
その雰囲気が、雑談が盛り上がってるって感じとも少し違って気になったんだが、キッチンは俺一人で手を止めるわけにもいかなかったし『雑談する暇あんなら手伝えよ!』っていらいらしてた。
ちょっとしたらバイト仲間がキッチンに来て、テンション上がり気味に
『自殺!自殺!』って…
そいつの話では、その客は障害者だったのか怪我してたのか、ともかく車椅子だったと。
一人で入店しフリータイムで入室したが、ファーストオーダーのドリンク以外なにも注文せず、歌ってもいなかったので『変だな…』程度には感じてたらしい。
フリータイム終了のコールをしても出なかった為、そいつがルームに行くと客はソファーに横たわってた。
叩いても揺さぶっても起きず、睡眠薬だかなんだかの瓶が転がってたので、慌てて支配人に報告。
支配人が呼んだ救急車で運ばれてったと…
救急隊員は車椅子を置いてった。
後日、客の家族が来てフリータイムの料金を払い車椅子を受け取ると、何度も謝りながら帰ってった。
正直、その客が死んじゃったのか助かったのかは結局、今もわかってないんだよね。
でも、それ以降うちの店で心霊現象や幽霊の目撃者が相次いだ。
自殺騒動から1ヶ月経ったぐらいかな?
俺はその日フロント担当だった。
平日だったし暇だったので、一緒にフロント担当した新人の女の子と雑談してると、自殺があったルームからコールがあった。
受話器を取ったのは女の子で
「はぁ…はぁ…」
と困惑気味に対応していた。
新人だったその子は、対応しきれないって感じで
「少々お待ちいただけますか?」
と受話器を俺に渡した。
俺が
「内容は?」
と聞くと、女の子は
「よくわかんないんです><;」って…
『新人では対応できないってことはクレームか?めんどいな…』と思いながら受話器を取り客の話を聞くと、ソファーと壁の間から手が出てくる…とゆう内容だった。
これには俺も「はぁ…はぁ…」としか対応出来なかったよw
電話じゃ対応しきれなかったので、ルームに向かった。
『手なんて出てるわけねぇだろw』
とか
『シャブ中だったら違う意味で怖いな…』
とか考えながらノックしてドアを開けると…
確かに手が生えてたw
客から聞いてた『手が出てくる』ってのとは感じが違って、壁とソファーの間から手が生えてた。
にょきっとw
客はスナックのママと常連のオッサンって感じの二人で、ママには手が見えてない模様。
ママはしきりに
「ごめんねぇ、この人飲み過ぎちゃったみたい」
と笑いながら謝っていた。
オッサンはママが謝る度に
「そんなに飲んでねぇよ!酔っ払ってねぇよ!」と怒鳴ってた。
「兄ちゃんにも見えるよな!」
と聞かれたが、そこは客商売。
『確かに手ですねぇ…』なんてのんきな対応ができるわけもなく…
自分には見えないが、気持ち悪いようなら即座にルームをかえると伝え、ルーム移動+それまでのルーム使用料のサービスで解決した。
ルーム移動の後、片付けに行ったら手は消えてたよ。
その後も従業員の半数以上が、閉店後の清掃作業中にスピーカーから男の声がしたとか。
未使用のはずのルームに人がいた等、何らかの心霊体験を経験した。
うちの店は5階建てで、件のルームがあるのは5階、キッチンは3階、フロントは1階。
営業終了後の清掃作業中は1フロアに一人だから、件のルームも一人ぼっちで清掃するんだ。
女の子は怖がるから男連中の仕事になってた。
それでも心霊現象が止まなかったんで、普段は事務仕事しかしない支配人をバックルームから引っ張り出して、モップと掃除機を渡して一度でいいから5階の締め作業をしてみてくれと、バイト仲間がお願いしたことがあった。
少し不機嫌そうに『何も起こらなかったら以降心霊現象で騒ぐのは中止な!』って…
まぁ、色んな意味で営業に支障が出てたんだろうな。
1時間もすると支配人が3階に降りてきて、キッチンを締めてた俺に
「ありゃ、洒落になんねぇなw」って。
モニターやアンプの電源を落としながら一部屋ずつ清掃していくんだが、5、6部屋清掃し終わったときに消したはずのモニターの電源が入ってるのに気付いたらしい。
落とし忘れたかな?程度にしか思わず、全部屋清掃して最後のトイレ清掃に向かった。
大便器の清掃を終えて個室から出ると、トイレから出ていく男の後ろ姿が見えたらしい。
バイトの誰かの悪戯だとはちっとも思わなかったって。
その男は全体的にぼやけてて、生きてる人間とは明らかに違ったから。
それでもバイトの手前、騒ぐわけにいかないと平静を保ってたんだが、清掃用具を片付けてトイレから出ると、全室のモニターとアンプの電源が入っててさすがに怖くなり、駆け降りてきたんだとさw
それ以降は、他のフロアを先に締めて全員で5階を締めるってルールが導入された。
他にも多々あったんだが、どれもたいしたことないからやめとく。
こっからは関係ない話なんだが…
7年以上前の話だし、当時バイトしてた奴で今も働いてる奴はもう一人もいない。
ただ、当時働いてた奴で今もカラオケ店の近所に住んでる奴がいて、そいつに最近聞いた話。
客として歌いに行ったときに、ドリンク運んできた兄ちゃんに
「昔ここでバイトしてたんだけど…(略)まだ幽霊でるの?」って聞いたらしい。
そしたら、
「バリバリ出ますよw」って…
ご丁寧にいわくまで教えてくれたらしいんだが、そのいわくってのが…
『この店のある場所、昔は墓地だったらしい…』ってさ。
もちろん出鱈目で、カラオケが出来る前は確か中古車屋だった。
よくある心霊スポットなんかのいわくってのは、こうやって誰かのホラによって創られてくんだなって思ったよ。