何かが聞こえた
俺がまだ幼稚園の年中の頃の話だ。
ある夜に、俺を真ん中に親父と弟とで寝ていた。
ふと夜中に目が覚めた。小さい頃から俺は音に敏感だったから、何かが聞こえたんだと思う。
いつも豆電球をつけて寝ていたからまわりがよく見えたが、何もいなかった。
それでも何故か電球の辺りが気になって眠れない。
暫くすると、そこからラジオのような音が聞こえてきた。
最初は「?」と思ったが、上の階に中学生のお姉さんがいたので、
その人がラジオを聞いているんだと思って、また眠る事にした。
耳をすまさなければ聞こえない程のとても小さな音だったが、やはり音に敏感だった俺は眠れない。
すると今度は、ラジオに代わりピアノ演奏が聞こえてきた。先程よりも音が大きく聞こえた。
お姉さんの家にピアノがあるのも知っていたので、やはりお姉さんだと思った。
とうとう我慢出来なくなった俺は、隣の親父を起こして「ピアノの音がうるさいよ」と言ったが、
親父は耳をすましたあと、「気にしすぎだ、何も聞こえない」と、全く相手にしてくれなかった。
仕方なくまた寝ようとしたが、音は普通に聞こえるくらいの音量になってきていた。
堪らずもう一度親父を起こしたが、親父は全く取り合ってくれなかった。
弟を見ると、弟も全く聞こえてないらしく、ぐっすりと眠っていた。
何でみんな気にならないんだろうと、少し違和感を覚えた頃、ようやく音がやんだ。
安心して目をつぶると、今度は洋楽っぽい音楽が流れてくる。
「……明日は…♪」
男の声で何かを歌っていたが、音が小さくてよく聞こえない。
もう気にするのをやめようと横になっていると、
段々と音が大きくなり、何と歌っているのかが分かってしまった。
「…お前は明日死ね~♪お前は明日必ず…」
ここで初めて俺に歌っているのだと理解した俺は、怖くなって耳を塞いだが、
歌はどんどんハッキリと聞こえてきて、耳を塞ぎながら震えていた。
いつの間にか泣いていたらしく、父が俺の異変に気付いた。
その頃にはもう夜明けだった記憶がある。
親父は訳の分からない事をいう俺を連れて母の部屋に行った。
どうやら俺は熱があったらしい。
俺の記憶はそこまでだが、その後熱がどんどんあがり、
その日の夜には泡を吹いて意識を失って、救急車で運ばれたそうだ。
その歌は、童謡というか、エンヤが唄ってそうな、すごい綺麗な感じの歌で
男の人が2、3人でハモってたような…。
だから最初は、子守り歌みたいで眠ろうとした。
親は、俺が倒れるまでずっと「今日死ぬんだ」と言うのが不気味だった、と言ってた。
幼すぎて、その歌を純粋に信じてしまったのも悪かったのかも知れない。
最近その話の真相を親に言ったら、また違う話になったんだけど。
つい最近その時の話になって、俺はようやく当時の真相を語れた。
すると両親がかなり驚いて、顔が真っ青になっていた。
両親曰く、病院についてから医者が痙攣を抑える為(だけではないのだろうが)に薬を大量に投与したらしく、
両親はとても不審感を抱いたらしい。
もちろん、しばらく入院という事になってたんだけど、
親父が「息子を殺す気か!」と怒鳴り無理矢理家に連れて帰ったらしい。
「普段おとなしい親父が珍しいな」と母に話すと
「だってあんた、救急車待ってる時に、半目で『今日帰してね、明日なら間に合わないから』って言ったのよ。」と答えた。
母も意味は分からなかったけど、後でその事を言ってるんだって「直感した」らしい。
もちろん、俺は言葉どころか、その後半年程の出来事を覚えていない。
ただ、両親はやはり印象に残っているらしく、とても詳しく説明してくれた。
俺は次の日には目を覚ましたけど、薬のせいで一週間ほどボーッとしたまま、
だらしなく口を開けていて、首がずっと傾いていたらしい。
「あの時、首が曲がっているお前を見てゾッとした。
医者はお前にまた薬を投与しようとしていたから、
このままだと助かっても、植物人間になってしまうと思った。
連れだして良かった」そうな。
大袈裟だったのかもしれないけど、俺は両親のお陰で助かったんだと思う。