私の卒業した小学校付近は戦争当時、空襲がひどかったらしく、今でも防空壕の跡地や数年前も不発弾などが見つかったり、慰霊碑などが多く建てられている。
小学生の頃、部活が終わり、さぁ帰ろうとしている時に仲良しのAが、
『あ!給食着がない…もしかしたら教室かも…』と言った。
あいにく明日は休み。
週末は給食着を持ち帰り、洗濯をして次の当番へ回さないといけない為、どうしても取りに行かないと、との事でAと仲良しのBと私の三人で恐る恐る教室へ探しに行くことにした。
教室へ行くには階段を登り、二階の踊場を通り過ぎなければならない。
その踊場の鏡は、この学校の七不思議の一つであり、夕方この鏡を見ると、この世のものではないものが映ると言われていた。
ただの迷信と言い聞かせていたが、やはり夕闇に照らされてるこの踊場は不気味というしかなかった。
目をつむりながら踊場を通り過ぎ、急いで階段を登り、やっとの思いで教室へ辿り着いた。
『あ!あった!』
と給食着を持ち、Aの安堵する表情とは裏腹に、またあの踊場を通り過ぎなければいけないのかと苦痛に思った。
すると、突然Bが、
『ねぇ、あの踊場の鏡ってさ…本当に何かが映るのかな?』
と言い出した。
…おいおい、やめてくれ。
とは思ったが、どっちにしろ帰るには、あの踊場を通り過ぎなければならない。
辺りは一層暗くなるばかり。
それならば早く進むしかないと、意を決して教室を出て階段を降り始めた。
一段、二段と降り続け、とうとう踊場へ。
早く通り過ぎようとするAと私とは違い、Bは興味深くまじまじと鏡を見つめていた。
すると…
『あ…』
とBが呟き、私とAも不意に鏡を見つめてしまった。
そこには、いつもと何ら変わらない情景。
そして私達の強張った表情。
そしてその横に防空頭巾を被ったモンペ姿の女の子…。
私達は、その場から動けなくなってしまった。
その女の子は泣きそうな表情を浮かべながら、私達の方へ必死に手を伸ばし、
『…もう戦争は終わったの?』
とつぶやいた。
私達は、恐る恐る頷いた。
すると、見る見るうちに女の子は笑顔になり、
『…よかった。』
と一言呟き、そのまま消えていった。
私達は歩き出し、気がつくと通学路を歩いていた。
誰も一言も話さなかった。
恐怖というより、切ない虚しさがこみあげていた。
戦争でたくさんの方が亡くなった。
あの女の子も恐らく犠牲者で、恐怖で何十年も隠れていたのだろう。
…鏡の中に。
ふと、見上げると慰霊碑があった。
いつもは何とも思わず通り過ぎていて気づかなかった、ただの慰霊碑。
私達は誰からとも言わず、手を合わせてた。