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銀色の犬

銀色の犬 

寮に移り住んでから しばらくたったある日の事。

会社から帰り アパートの階段に足をかけたその時、どこからか子犬のか細い鳴き声が聞こえる事に気がついた。

え!? どこから聞こえるんだ?

声が聞こえたとたんに、まるでスイッチが入ったように捜し始める俺…。

駄目なんだ、ホント。

昔からそうだ。

捨て猫や捨て犬を拾って来ては、母親に怒られていた。

おかげで実家は、今も犬が二匹と猫が一匹いる。

家族が皆 動物好きなので、怒られても 連れて行ってしまえばこっちのもんだった。

さすがに今は違う。

実家から離れているし、俺は寮暮らしだ。

とても飼う事は出来ない…。

頭ではわかっているんだが、鳴き声の主を捜す事はやめられない。

あの声を聞いて、素通りできる人間がいるか!?

しばらく捜していると、アパートのゴミ捨て場から鳴き声がする事がわかった。

黒いゴミ袋が少し動いているのを見て、俺は慌ててその袋を破いた。

中を覗くと、小さな小さな子犬が二匹現れた。

酷い事しやがる…!

ゴミと一緒に捨てるなんて……。

子犬は二匹いたが、残念な事に 片方はもう息をしていなかった。

可哀相に…。この生きている子犬は、最後の力を振り絞り助けを求め続けたんだろう。

俺は死んでしまった子犬を埋めてやり、動物病院へと急いだ。

「かなり衰弱していますね。まだ目もあいていないし、生まれて間もないでしょう。

もしかしたら、初乳さえ飲んでいないかも知れません。

このまま育つのは、大変難しいと思いますね。」

獣医は言いづらそうに、しかしはっきりと俺に告げた。

「そうですか…。でも、俺が見つけたんだし、やれるだけやってみます。」

俺がそう言うと、先生は黙って子犬用の哺乳瓶やミルク、その他一式を出してきた。

「そう言うと思ってましたよ。

これはうちの病院で使ってる物ですが、お貸ししますから使って下さい。」

「あ、ありがとうございます!」

「前にも同じような事を言いましたが……その子にもしもの事があっても、あなたのせいではありませんから。

責めたりしては いけませんよ?」

「…はい。わかっています。」

実はこの先生には 一度世話になっていた。

前にスズメの雛を拾った時も、育つのは非常に難しいと言われた。

でも、2時間おきの餌やりやその他の事を乗り越え、スズメは立派に巣立っていった。(俺のHNはこの事からつけた)

今度も絶対に、助けてやる!

そんな風に気負いながら、俺は家へ 子犬を連れかえったのだった。

家についた俺は、子犬に早速ミルクをあげた。

吸う力が弱いのか、あまり飲んでくれない…。

でも少しずつでも飲んでくれれば、まだ希望が見える。

そう思った俺は、子犬を犬用のクッションに乗せ、タオルで体を包むようにしてやってから、ネット検索を始めた。

さすがに こんな小さな子犬の世話はした事はない。

どんな世話の仕方がいいのか、気をつける事は何か…。

ネットに夢中になっていると、部屋がぼんやりと明るくなっている事に気がついた。

おかしいな、あっちの電気は消したはず…。

そう思い、立ち上がろうとした俺は 思わず息を飲んだ。

犬がいる…。

それはとても大きな、狼のような姿をした犬だった。

昔見た、シベリアンハスキーをさらに大きくしたような犬が、じっと俺を見ている。

でかい…!俺の部屋の二人掛けのソファーよりでかい。

その犬は 自ら発光するように白く光り、毛並みは銀色に輝いていた。

き、綺麗だ…。

思わず見とれ、俺が動かずにいると、その犬が近づいてきた。

椅子に座っていた俺と目線がほぼ一緒な事からも、その犬の大きさがわかるだろう。

犬は 俺の顔や首筋に鼻を近づけ、フフフフと匂いを嗅いでいる。

鼻息がかかって くすぐったい!

しばらく、何かを確かめるようにいろんなとこの匂いを嗅いでいたが、くるりと向きを変え 子犬のもとへ行き、見下ろしていた。

そして何度か周りを回った後、子犬を抱え込むように横になった。

母犬…?じゃないよな、デカすぎるし…。

ミューミューと、子犬の鳴き声が聞こえる。

腹が減ったのかもしれない。

俺はミルクを作り、犬のもとへ行き

「あの…ミルク…やってもいいかな?」

と聞いた。

犬は少し尻尾をあげ、パタンと床をはたいた。

いいって事か?

とにかく子犬にミルクを飲ませようとしたが、舐める程度の量も飲んでくれない。

クッションに置いてやると、子犬は甘えるように 銀色の犬に擦り寄っていく。

そして犬は、子犬を優しく一度舐めると顔を上げ

「ゥオオォーーーーン」

と、遠吠えした。

驚いたが、その声を聞いた時、何故この犬が現れたのか 俺にはわかってしまった。

子犬を迎えに来たのだ…。

そう理解した時、俺は床に手をつき頭を下げ

「よ、よろしくお願いします。」

と、気づくと犬に頼んでいた。

犬は子犬をくわえスッと立ち上がり、俺の周りを一度回ってから消えていった。

クッションにいる子犬は、まだ暖かいが息はしていない…。

知らないうちに涙が出てきた。

子犬を助けてやれなかったから?

いや、そうじゃない。

あの銀色の犬に擦り寄っていた子犬は、本当に安心していたし 嬉しそうに俺には感じられたから…。

俺はきっとまた、捨てられた子犬や子猫を 性懲りもなく拾ったりするんだろう。

「その時の為に…ペットOKの部屋探すかな…。」

子犬を抱きしめ、静かになった部屋で 俺は呟いていた。

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