先に言う。
俺は怖かった。
ここは、地方都市で狭い路地が多い。
そして、行き止まりも。
タクシーが一台、その行き止まりまでお客を乗せてきた。
スペースに余裕が無いから、若干バックして広い所で方向転換をしないと帰れない場所だ。
タクシーが止まり、ドアが開いた瞬間、犬を散歩させていた中年男性が何かをタクシーにむかって投げた。
餌だ。
犬はリードを引きずったまま、その餌をめがけて走る。
狙いすましたように、後輪の影に餌はある。
もちろん、タクシーはバックし始める。
甲高い悲痛の叫びと、ぐしゃと言う鈍い音。
中年男性は、犬に駆け寄る訳でもなく、真っ先にタクシーの運転席向かって行った。
つまり、そういうことだ。
俺は一部始終を見てしまった。
そして関わりたくないから逃げた。