いとこの姉ちゃんが看護婦になったと聞いた時、本当にびっくりした。
姉ちゃんは中学の頃、○市で顔の効く元レディース幹部だった。
中学時代、散々ぐれて無茶な走り方をし、警察から逃げて派手に事故った時、優しくしてくれた看護婦さんに憧れて、どうにか入れた最下位高校で必死で勉強して看護専門に入ったらしい。
そして看護婦になれた。
毎日きつかった。
患者に逆切れしそうになった事。
先輩のいじめ。
それでもがんばった。
ある日、当直の時、患者からナースコールが入った。
そこは個人用の金持ちさんが入院する素敵な別室。
部屋に誰かがいるとの事。
ものすごい苦しそうな声。
姉ちゃんはその頃、先輩からの理不尽ないじめでかなりカリカリしていた。
へこむ前に、逆切れを抑える事で必死だった。
そして部屋に着いた。
姉ちゃんは見た。
うめく患者。
患者を見下ろす黒いコートを着た男。
「あなた何やってんですか?面会時間はとっくに過ぎてますよ!」
姉ちゃんは、とりあえずそう言った。
すると男がゆっくり振り返った。
その顔は……鼻が削げ落ちて穴だけ。
目があるはずの所に、黒い大きな穴が空いている。
頭蓋骨に所々、皮膚を貼ったような不自然な顔。
姉ちゃんは、性質の悪いいたずらだと思ったらしい。
姉ちゃんはブチ切れた。
患者とグルかよ。
あたしは疲れてんだ。
今だって疲れた体、必死で動かしてだのなんだの考えがまとまる前に姉ちゃんはブチ切れた。
「お前どこのもんじゃ!!そこで何しとんねんワレ!!なんやねんその顔、お前なめてんのか?あぁ!?なんか言うてみぃ!」
骸骨顔の男は、一瞬ひるんだらしい。
姉ちゃんは、めちゃくちゃに怒り狂っていた。
引きずり出してやろうと、その男の前まで行き、手をつかむとすり抜けたらしい。
そこで怖がればいいものを、姉ちゃんはさらに切れた。
その時には姉ちゃんも、一応この人は、この世のもんではないと認識はできたそうだが、怒りが止まらなかったらしい。
「お前死んでんのか!なに未練もってさまよっとんねん!そんなんやから、そんな顔になっとるんじゃ!鏡見てみろ、お前きもすぎや!!」
その時、骸骨の彼は間違いなく、はっきりと傷付いたように顔をさらに歪めたらしい。
とどめの一発、
「お前、童貞やろ」
骸骨は下を向き、そして、すうっと溶けていくように消えたそうな。
患者から、後でものすごく感謝されたらしいです。
姉ちゃんいわく、
「幽霊?そんなもんなんぼでもおるけど、人間の方が怖いって。そんなん気にしてたら看護婦やっとれんやろ」
との事でした。
姉ちゃんの方が怖い。
今、姉ちゃんは看護婦を退職し、旦那さんと幸せに暮らしております。