十年以上前の話。
自分は男。
地元で有名な自殺の名所といわれる滝に、バイト仲間男女八名ほどで肝試しに行った。
午前3時過ぎ。
完全に真っ暗で、明かりは自分が持っていた懐中電灯がひとつだけ。
山道を100メートルほど歩くと滝があった。
手前に低い柵があり、そこから先は大きな岩盤が滝つぼまで20メートルくらい。
なだらかな階段状になっていた。
自分はひとりで柵を越え、岩場を降り、水をさわるとすぐにみんなの元に引き返した。
懐中電灯で2、3メートル先を照らしながら濡れた岩場を上っていると、怖かったのか、ひとかたまりになって待っているみんなの足もとが光の中に見えたのだが、そのなかにひとり裸足の奴がいた。
ごつい男の足がはっきり見えた。
季節は秋。
結構寒かったので『なんでこいつ裸足??』と思って、懐中電灯の光をなめるように少し上げると、テロテロの安っぽい灰色のスラックスが見えた。
中年オヤジっぽいセンスのやつ。
その瞬間、つまずいて懐中電灯の光がぶれた。
すぐに同じ場所を照らしたが、裸足はいなかった。
「裸足になってる奴は誰だ?」と、みんなに聞いたが、もちろん誰もいなかった。
気持ち悪い冗談言うなと怒られたので、もうそれ以上なにも言わなかった。