十数年前、六甲のとある住宅地で起きた事件。
当時出来たばかりの大型スーパージャスコ。
夕方は、買い物客の主婦たちや、横の公園からジャスコの駐車場まで入り込んで遊んでいる子供たちで賑やかな様子。
俺と友達グループも駐車場の段差の縁に腰掛けて、カードを交換する遊びに夢中になっていた。
すると、外の道から駐車場に入る入り口付近から、
「ギャーーー!!!ギャッッ!!ギャッ!!!ギャーーーー!!!」
という、ものすごい叫びが聞こえてきた。
子供ながらに、瞬時に「事故か!!」と皆で振り向くも、
「ギャギャッ!!!ヒャーーー!!!!」
「ワッ!!ワッ!!!」
「ヒャーー!!!キャーー!!!」
と、異常な悲鳴が伝播していく様子に、俺たちも他の客も一瞬凍り付く。
近くにいた警備員が周りに向かって、
「だめ!!離れて!!離れて!!!」
と大声で呼びかける。
店員が何人か出てきて、ある者は立ちすくみ、若い女性店員やパートのおばさんは、悲鳴の渦に加わる様に叫び始める。
近寄っていいのか、逃げた方がいいのか、判断が付く前に、何人もの店員や居合わせた男性に、
「ここから出なさい!!家に帰って!早く!!」
と怒鳴られ、俺たちはカードをこぼしこぼししつつ、起こっている出来事じゃなく、生まれて初めて見る大人が心底怯える様子に恐怖し、その場から逃げ出した。
当時テレビでも取り上げられてた記憶があるんだが、近所に住む老女が、数ヶ月前に夫に病死されたのだが、どうしていいのか判断が付かなかったらしく、やがて遺体が痛み、首と胴体が離れたのをきっかけに、
「死亡届けを医者に書いてもらおうと思った」
と、近所のスーパーマーケットの駐車場で、山一つ向こうの総合病院まで乗せて行ってくれる人はいないかと、相談に訪れたのだった。
老婆は小さな肩掛け鞄の中に、失効した夫の免許証と現金千円(後に線香代と話す)、そして空いた両手で、胴体から自然脱落した夫の頭部を抱えて駐車場へと入り、
「どなたか病院へお願いできませんか」
と、周囲へ声をかけたのだった。
なお、彼女の自宅は電話とガスが止められた状態で、彼女自身知人もなく、生活保護のみに細々と頼り、弱りに弱った末での行動だったのであろう。
未だに俺は実家に帰ると、あの駐車場を通りかかると、胸に慄然とした恐怖を覚える。
直接見たわけではない出来事。
その事よりも、大人たちが恐怖に叫び続ける、あの夏の夕方の赤い湿った時間が、今でも胸にこびりついている。