「 月別アーカイブ:2013年08月 」 一覧
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やさしげな兵隊さん
子どもの頃、いつも知らない人が私を見ていた。
その人はヘルメットをかぶっていて、えりあしに布がひらひらしてて、緑色の作業服のような格好で、足には包帯が巻かれていた。
小学生になってわかったが、まさに兵隊の格好だった。
その兵隊さんは、私が1人で遊んでいる時だけでなく、校庭で遊んでいる時や母と買い物でスーパーに行った時など、いつでも現れた。
少し離れたところで立って、私を見つめている。
自分以外には見えていないし、いつの間にか消えている。
私も、少しは怖がってもよさそうなものだったが、何せ物心ついた時からそばにいるし、何よりその人から恐怖心を感じるようなことは全くなかった。
きりっとしてて優しげで、古き良き日本人の顔って感じだった。
やがて中学生になった。
ある日、いつもと違うことが起きた。
テストを控えた寒い日、夜遅くに私は台所でミロを作っていた。
ふと人の気配がしたので横を見ると、兵隊さんがいた。
けれど、その日は手を伸ばせば触れるくらいそばにいた。
ぼけた私が思ったことは、意外と背低いんだな、くらいだった。
―それは何でしょうか?
体の中に声が響いたような感じだった。
兵隊さんを見ると、まじまじとミロの入った鍋を見ている。
ミロって言ってもわかんないよね・・・と思った私は、
「半分こしよう」
と言ってミロを半分にわけて、カップを兵隊さんに渡した。
―失礼します。
そう声が響いて、両手にカップを持って、ふうふうしながら兵隊さんはゆっくり飲んでいた。
その時の兵隊さんの顔は、柔らかくてすごく嬉しそうだった。
飲み終わって、また声が響いた。
―こんなにうまいものがあるんですね。
少なくて悪いかなと思った私は、
「おかわりする?」
と聞いたが、兵隊さんはカップを私に手渡して、敬礼してふっと消えてしまった。
別の日に1人で家にいる時、クッキーを作っていた。
焼きあがり、冷まそうとお皿に並べていたら人の気配がしたので窓を見ると、庭先に兵隊さんがいた。
私はおいでよと手招きをしたが、兵隊さんはにこっとして首を横に振った。
あれ?と思っていたら、兵隊さんは敬礼して、ふわっと消えた。
ヘルメットから出てる布が、ふわりとしたことを覚えてる。
それきり、兵隊さんは私の前には現れなくなった。
今でも兵隊さんのことを思い出す。
美味しいものを食べた時や、料理が美味しく出来た時、兵隊さん、どこかで美味しいもの味わえているかなあと。
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断崖絶壁
去年の夏。
友人達と三人で酒を飲みながら夜を過ごしていました。
気が付くと時計は4時10分。
そろそろ寝ようかと思った時、友人がいきなり何を思ったのか、
「朝日を見に行こう!」
って言い出したんです。
自分は
「寝たい」
と言ったのですが、もう一人の友人も
「行くか~」
と言い出し、結局ちょいと遠い所にある、断崖絶壁の灯台の見える丘に車で行きました。
眠たい頭でボーとしながら待っていると、少しずつ空も明るくなってきました。
やがて5時になって、もうすぐ出ると思ったその時、友人の一人が
「なぁ、あそこに誰かおるぞ」
と言い出したのです。
はぁ?と思い、友人の指差した方向を見て驚きました。
灯台の断崖絶壁を、人が這い上がって登っているのです。
初めはロッククライミングかと思いましたが、こんな時間にやるわけがありません。
三人とも無言で、ひたすらその異様な光景を見ていました。
そして、最初は一人が登っているかと思っていたのですが、気が付くともう5、6人ほどいます。
そしてさらに、崖を登る人がまた一人増えました。
海の中からです。
海面にいきなり顔が出てきたかと思うと、そのまま崖を登り始めるのです。
少し遠くて顔は分かりませんが、皆普通の服装で、男も女も混じっています。
「何かやばいって、逃げよう」
友人がそう言いました。
もちろん皆、ここに居たく無いので、すぐに車に乗り込み、灯台を後にしました。
あれから2度ほど灯台には行きましたが、そんな事は起こっていません。
よく地元では自殺の名所と言われていますが、あれが何だったのかは未だに分かりません。
ただ、断崖絶壁の崖を、人が海の中から出てきて登り始めるという光景は、今でも思い出しただけで背筋がぞくぞくします。
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谷川岳の救難無線
部室で無線機をチェック中に、
「どうしても『SOS』としか聞こえない電波がFMに入るんだけど、どお?」
と部員が聞いてきた。
その場に行くと、確かに長点・短点を連続3回クリックする音が聞こえる。
「間違い無いな!」
とアンテナを振り、その方向は上越国境、信号強度は高い。
即座に顧問に連絡し、車を出してもらう。
警察には確信も無いので、とりあえず報告は後にする。
電波の位置を特定する事を『FX』といい、我々は車3台で渋川・沼田へ入り方向を確認。
3時間ほどかけて、ほぼ特定できたのが谷川岳方向だった天神平。
駐車場へ車を入れると、平日の夕方ということもあり、止まっている車は少なかった。
小型の無線機をポケットに入れて、再度方向確認。
もうアンテナが無くても信号強度は強い。
3方向に分けて移動すると、先輩のbさんの無線機が飽和状態で、ハウリングを起こした。
通常こんなことは無いので、一同で驚く。
bさんに続いて登山道を入り、ほんの20m位でザックを発見した。
さらに見回したところ、男性の死体を見つけた。
すぐに自分は取って返して、警察に連絡した。
こんなこともあるのかと一同興奮しながらも、警察がくるのを待った。
その時は誰も気がつかなかったが、もう無線機は音声を出していなかった。
当然、登山者が持っているものと、誰もが疑がわなかった。
でも、どうして死体が電波を出すんだ?
警察も当然その事情を聞き、無線機を探したが、登山者は持っていなかった。
そしてその方は、死後2日はたっているといわれた。
こんな駐車場のすぐ近くで、誰にも見つからずいたのかと思うと不思議だった。
さらに捜索すると、沢の水の中からそれは出てきた。
もちろん水没して使い物にならない。
ではいったい、誰が電波を出したのだろうか?
もしやと思い、人数を動員して付近を捜索したかが、誰もいなかった。
駐車場に残った車も、亡くなった本人の物と確認され、登山カードも他にはなかった。
いったい誰が無線機で俺たちを呼んだのだろうと、同窓会の度に話題になる。
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配達される新聞
10年ほど前、私が学生でアパート住まいしてたときの話です。
ある朝、ポストにとってもいないY新聞が投函されてました。
間違いだろうと思ったのですが、次の日も投函されてます。
販売店が近所だったので、直接、店のおやじさんに間違って配達しないようにと申し入れをしておきました。
ところが次の日も投函されてます。
このまま無理やり購読させられるのではと少々頭にきて、4日目は現場をおさえようと早朝から待機。
ところがその日以降、投函はぱたりとなくなったのです。
後日、ごみ出しの仕分けをしているときに気づいたのですが、配達されたY新聞は2年前のもので、しかも、3つとも同じ日付の同一物だったんです。
単なるいたずらだとは思うのですが、ちょっと気味悪くなりました。
2年も経てば新聞は黄ばんでくるかと思いますが、それは今刷り上ったかのような白さだったのを、今でも覚えています。
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猫
5年程前に、天国に行った猫の話。
ごく普通の猫だったんだけど、一つだけおかしなとこがあった。
それは、竹の子に異常に反応するところ。
キャットフードで育てたから、人間の食事に興味は無かったんだけど、竹の子にだけは、まとわりついて離れない。
調理した後も食卓に登る始末。
普段はそんなことしないのに。
でも食べるわけじゃなく、匂いを嗅ぐだけ。
そんな猫だったけど天寿を全うし、庭に埋めてあげた。
そうしたら、その年から庭に竹の子が生えるようになった。
竹はそれより以前に植えているから、偶然なのかもしれない。
でも、その竹の子を食べるたびに、一家全員
「お礼だな」「うん、お礼だ」
と、ごく自然に受け止めて、在りし日の姿を思い出す。
おいしい竹の子、ありがとう。