「 職場での怖い話 」 一覧
-
-
藁人形
藁人形
俺は建設会社で現場作業員をしています。
ある年の年末に、道路工事の現場で働いている時のことでした。
1日の作業を終えてプレハブの現場事務所へ戻ると、
ミーティングなんかに使う折り畳み式のテーブルの上に、新聞紙が拡げてありました。
真ん中が微妙にふくらんでいて、何か置いた上に新聞紙を被せてあるような感じ。
なにコレ?とか思って、何気なく新聞紙の端を持ってめくりました。
藁人形でした。しかも髪の毛付き。
「っじゃー!!」
けったいな声を上げた俺を見て、人が集まってきました。
「なんやなんや」「うわぁ!これワラ人形やんけ」「こんなん始めて見たわ」「やばいなー」
いつの間にか人だかりができて、ちょっとした騒ぎになりました。そこへ、近くの砂防ダムの現場で働いているオッさんが入ってきました。
この現場事務所は、道路工事と砂防ダム工事の共用だったんです。
「ああ、コレな。松本んとこのオッさんが、木切ってるときに見つけたらしいわ」
松本というのは、下請けの土建屋だったんですが、
そこの作業員が見つけたのを、捨てるのも気持ち悪いということで、事務所まで持ち帰ったのです。
「山に行ったら藁人形かて、タマ~にあるらしいぞ。ワシも何回か見たことあるで」
「人形は、明日にでも近くの神社へ持っていく段取りだ」という話でした。翌朝、朝礼に出るために現場事務所へ行くと、入口のあたりに人が集まっていました。
「どないしたん?」
「夜のうちに誰かが事務所に入ったらしいわ」
見ると、入口のサッシが開いています。
そこから中を覗くと、荒らされている室内の様子がわかりました。
人里離れたところにある事務所だったし、セコムは付いていなかったしで、
朝イチのオッさんが第一発見者でした。
入口には鍵が掛かっていたのですが、無理矢理こじ開けられていたようです。
事務所の中には、パソコンや測量道具など値の張るものが置いてあったのですが、
そういったモノは何も無くなっていませんでした。
ただ、例の藁人形だけがどうしても見つからないそうです。「ちょっとアレ見てみ」
俺の前にいたオッさんが指差す方を見ると、
床や壁の至るところに、泥だらけの足跡や手形が残っています。
「あの足跡な、あれ、素足やな…」
それを聞いて、俺は背筋が急に寒くなるのを感じました。
-
-
頭の長い赤ん坊
頭の長い赤ん坊
私が、高校二年生の夏休みのことですから、もう、かなり前になります。
そのころ、私と母親とは、交代で知り合いに家にベビーシッターに行っていました。
堂本さんというお宅でした。
母ひとり娘ひとりという家庭で、母親は駅近くのスナックに勤めていて、毎日零時を過ぎるまで店に出ていなければならず、当然、ベビーシッターも夜遅くまでかかりました。娘さんは小学生で、ほんとうに屈託のない明るい子でした。
私の自宅とベビーシッター先のマンションとは、自転車で五分ぐらいの距離だったでしょうか、さほど、遠いというわけではありませんでした。
けれど、深夜、誰も通らなくなった、真っ暗な道を帰ってゆくのは、想像する以上に怖さがつのるものです。
母は、私の順番の日には、必ず迎えに来てくれました。
ですが、いつもいつもというわけにはいきません。
風邪を引いたりなどして体調が悪いときなどは、やはり、ひとりで家路につかなければなりますせんでした。
その日も、そうだったのです。前日から、母は、なんとなく吐き気がするといって床についてました。
でも、ベビーシッターを断るわけにもいきません。
母は私に、「あちらのお宅に泊まって朝になってから帰ってきなさい」と言いました。
けれど、私はどうしても帰りたかったのです。いまから思えば、これもまったく不思議なのですが、その日はどうしても家に帰りたくてたまりませんでした。
結局、ベビーシッターが終わった後、心配そうに見送ってくれた堂本さんに手をふりながら、夜道を急ぎました。自宅とそのマンションのあいだには、ずーっと畑がつづいていて、畑中の道を自転車で帰るしかありません。
灯など、ほとんどないに等しいような道です。
かなたの畑の端あたりに傾いた電灯は灯っていたのですが、それがまたいっそううらさびしさをつのらせるようで、なんとなく好きではありませんでした。
どこかで、蛙が鳴いていました。
ほのかな月明かりの中、たったひとりで蛙の鳴き声を聞くというのは、なんとなくいやなものです。
気味が悪くてなりません。
とくに鳴き声が徐々に大きくなってくると、なにやら、目に見えないものが徐々に近づいてくるような気がして、たまらなくなります。「なんだかいやだなぁ・・・」
独り言を呟きながら、いつも曲がる三叉炉の手前に来たときでした。
「え・・・」
どういうわけなのでしょう。
ハンドルをとられて、家とは別の方向の道に入ってしまったんです。
意識するとかしないとか、そんな感じではありませんでした。
そう、ほんとうにハンドルをとられるというか、誰かに無理矢理引っ張られたような、そんな感覚だったんです。
ただ、奇妙な事に、私自身、変だなとは思ったものの、あわてて自転車をとめようとか、ひきかえそうとか、そういう意思は働かなかったのです。今から思えば、この時すでに、私は『何か』に魅入られていたのかもしれません。
しばらくペダルをこぐともなく走っていると、道のかたわらにひとりの女の人が立っていました。その人の前を通り過ぎようとした瞬間です。
急にペダルを漕いでいる足が動かなくなってしまったんです。
決して見るつもりなんか、ありませんでした。
こちらは一刻とも早く家までかえりたいのです。
わけもわからないままに家から遠ざかりかけているとき、いくら時間が不自然だからって、すれちがうだけの人の顔など、覗き込むつもりなんかありませんでした。
なのに。
私の意志とはうらはらに、目だけが、女の人のほうに吸い寄せられていってしまうです。
その時になって、ようやく気づいたのですが、彼女は赤ん坊をおぶっていて、マントのようなものを羽織っていました。
なんといって説明したらいいんでしょう。
コートでもなく、ケープでもなく、これまでに見たこともないような足元まで隠してしまうようなものを羽織っていたんです。
<夏なのに・・・・・>そう思ったときです。
いきなり、女の人が、「赤ちゃんが、ふふふって笑ってるの」
そう言ったのです。
私に向っていったのか、それとも独り言なのか、わかりません。
だって、女の人の顔は、隠れていてまったく見えなかったからです。
ただ、彼女の低くおしころしたような声だけが、私の鼓膜にとどいてきました。<赤ちゃんがわらってる?・・・>
反射的に目をやってしまいました。
その時、私は見たのです。おぶさっていた赤ちゃんの頭が異様にとんがっているのを・・・・・。
どういったらいいのかわかりませんが、ちょうど、イカのような形でとがっているのです。
そして、私のほうを見て、彼女のいうとおり、笑っていました。
いいえ、笑うなどという穏やかなものではありませんでした。
ゆがめていたのです。それも、赤ちゃんなどではなく、見るからに年老いたシワだらけの・・・・いいえ、顔のすべてがシワに埋もれてしまっているような女性の・・・・老婆の顔でした。
それが、いびつな笑いを浮かべているのです。「きゃあっ・・・」
そう、叫んだ事は覚えています。
でも、それからあと、どうやって自宅まで帰ったのかまったくわかりません。
ほんとうに覚えていないのです。
気が付いた時には私は自宅の居間にいて、母に背をさすられながら、コップの水をごくごくと飲んでいたのです。
ただ、たしかなことがひとつだけあります。
家に帰ったとき、着ていた半袖の制服は、そこらじゅうが破れていて血だらけになっていまし。
いったい、私はどんなふうにして家まで帰ってきたのでしょう。それからあとも一生懸命に思い出そうとしたのですが、どうにも思い出せずにいます。
-
-
後ろの正面だーあれ
後ろの正面だーあれ
某大学病院に勤めている研修一年目の小児科医のSさんの体験談。
その日、症例報告の準備などで深夜まで居残っていた僕は、いつものように当直室に泊まろうと思いました。
病院の当直室には簡易ベッドが何台か設置されていて、当番以外の者が泊まる余裕はあるはずでした。
しかし、その日は当番医師のほかにも、重体の受け持ち患者を抱えている先輩医師たちが泊まり込んでいて、ベッドは満員という状態でした。
空いてる病室のベッドで眠ろうにも、その日はすべて入院患者で埋まっていました。最終的に、僕は気が進まないながらも、小児病棟内の『ベビールーム』で眠る事にしたのです。
『ベビールーム』というのは小児病棟ならではの設備で、長期入院の子供達のための遊戯室です。
転んでも怪我をしないように床はジュウタン張りになっており、子供用の滑り台やさまざまなオモチャなどが備えつてあります。
子供のお昼寝用の毛布や布団もあるので、仮眠をとるにはうってつけの場所でした。
それなのに、なぜ、僕が最後までこの部屋で寝ることを避けようとしたのか。
それには、ある理由がありました。
以前、この部屋で仮眠をとった医師たちが、何かいやな目に遭い、それ以来、夜間にここで眠ろうとする者はいない、という噂が、この部屋にはあったのです。具体的に何があったのか、この話を教えてくれた先輩は言葉を濁して教えてくれませんでしたが、
「とにかく、あの部屋には泊まるなよ」
と僕は先輩に聞かされていました。
けれども、その日、疲れ果てていた僕は、何が起こったとしても堅い冷たい床に寝るよりはマシだと思いました。ベビールームのジュウタンの上に毛布をかぶって横になった僕は、すぐに眠りに落ちました。
どれくらいの時間が過ぎたでしょうか。
僕は微かな物音に、眠りを破られました。
まだ半分夢の中のような気持ちで、目を閉じたまま聞いていると、その物音は何かのメロディでした。
誰かが細い声で歌っています。
そっと目だけであたりをうかがうと、暗い部屋の中で、子供たちが歌をうたいながら手をつないで輪を作り、僕の周りをまわっていました。
まだ半分寝ぼけていた僕は、事態がうまく飲み込めず、ぼんやりと子供たちを見ていました。
幼稚園ぐらいから小学校ぐらいまでの子供たちのようでした。
みんな楽しそうに、僕のほうを見ながら歌をうたっています。
やがて、ひとりの子供が僕に声をかけてきました。「お兄ちゃん、一緒に遊ぼう。お兄ちゃんが鬼だよ」
小児科医になったぐらいですから、僕はもともと子供が嫌いではありません。
いわれるままに、子供たちの輪の真ん中にしゃがんで、両手で目をふさぎました。
子供たちの歌が始まります。・・・・・・かーごめかごめ、かーごのなーかのとりは、いついつでやる・・・・・・・。
しかし、子供たちの歌を聞いているうちに、眠気が覚めてだいぶ意識がはっきりしてきた僕は、ジワジワと、得体の知れない恐怖を感じはじめました。
真夜中過ぎのことで、入院している子供たちは、それぞれの病室で眠っているはずでした。
それなのになぜ、こんなにたくさんの子供が電気もついていない部屋で・・・・・・・?子供たちの歌はつづいています。
・・・・・・夜明けの晩に、鶴と亀が滑った、後ろの正面だーあれ・・・・・・。
最後のフレーズとともに、子供たちの動く気配が止まりました。
「・・・・・・・当ててよ、お兄ちゃん。当ててよ。後ろの正面だーあれ・・・・・・」
背後から、妙に近くでささやきかけてるような、細い声が聞こえました。
同時に、小さな手がペタリと首筋に触れ、何か小さなものが僕の背中に寄りかかってきたのです。
その感触は嫌に冷たく、湿っていました。「・・・・・・当ててよぉ・・・・・・、お兄ちゃん、当ててよぉ・・・・・・・・」
細い声は、さらに近く、耳元でささやくように聞こえてきます。
ますます僕は怖くなり、じっと身体を固くしてしゃがみこんでいました。
全身にじっとりと冷や汗をかき、声を出す事もできないありさまでした。
そのときです。「誰かいるんですか?」
声と同時に、パッとあたりが明るくなったのがまぶたを閉じていてもわかりました。
その瞬間、金縛りのようになっていた身体が動き、僕は悲鳴をあげながら立ち上がりました。「あら、先生、ここで寝てらしたんですか。ここの噂、知らなかったんですか?」
顔見知りの看護婦が、驚いた様子もなく、気の毒そうに僕にそういいました。
あとで聞いたところでは、その部屋で仮眠をとったことのある先生はかならず、あの子供たちの歌声を聞いたのだそうです。
あのとき、看護婦が巡回にまわってこず、後ろにいた子供を『当てて』いたら、いったい僕はどうなっていたでしょう・・・・・・?それを思うと、いまだに背筋に寒気が走ります。
-
-
赤い部屋
赤い部屋
深夜、タクシーが赤いコートを着た女を乗せた。
女が頼んだ場所はここからとても離れている山奥だった。
バックシートに座る女はうつむいて表情がまったく読み取れない。
運転手は怪しんだが、言われたところへ女を運んだ。
あたりは人の気配などはまったくなく、あたりはうっそうとした森のようなところであった。
女は料金を払うと木々の間に消えていった。
「なぜこんなところへ…?もしや自殺では?」 運転手は不安になり、好奇心にかられ女の後をつけた。
しばらく行くと目の前に一軒家が現れた。
そこへ女が入って行った。
自殺の線はなくなったが、運転手はこんな一軒家で女が何をしているのだろうと別の興味を持った。
悪いことと知りながらも、鍵穴から中を覗き込んだ。家の中は真っ赤だった。女も見当たらない。
何もかもが真っ赤で他の部屋への扉も見えない。なんだか奇妙なその光景に恐ろしくなった運転手は急いでその場を立ち去った。
おなかも空いていたので、山を降りてすぐのさびれた定食屋に入った。
運転手はさきほどの奇妙な女のことを店主に話すと、店主も女のことを知っていた。
「彼女はね、あそこで隠れるように住んでいるんですよね。 かわいそうに、病気か何かわかりませんが彼女眼が真っ赤なんですよ。」ということは運転手が鍵穴からのぞいた時、女も同じように鍵穴を覗き込んでいたのだ。