路地
中学生だったときの話。
夜の8時ぐらいに塾からの帰り道を歩いてたんだけど、なんか様子がおかしい。
見知った住宅街なんだけど、見覚えのない路地があるんだよ。
知らない家と家の隙間で、幅は1mぐらい。
昨日までは、ただのブロック塀で壁になってたはず。
まあ近所だし、迷うこともないだろと思った俺は、好奇心にかられてその狭い路地に入ってみたんだよ。
で、10歩ぐらい進んでから気づいたんだけど、やっぱり何かがおかしい。
夏のゴミ捨て場のような異臭が漂ってくる。
それで、前の方からは
「・・・・・ァ・・・・・・ケ・・・・・・」
と、人の声のようなものが微かに聞こえてきた。
明かりもなくて真っ暗だし、しだいに怖くなってきたんだけど、まだ好奇心が勝っててそのままゆっくり歩き続けた。
それからまた20歩ほど進んだあたりで、俺はあることに気づいた。
というのも、それだけ歩いたら家を挟んで向こう側の道に出るはずなんだよな。
でも左右のブロック塀は途切れることなく続いている。
前方に目を凝らしてみても、出口のようなものは見えない。
さすがにこれは何かヤバイと思って、引き返そうと思って後ろに振り返った。
そしたら、5歩ぐらい離れたところに人影があったんだよ。
2mぐらいのでかい男。
薄汚いコートを着てて、頭にはフードを被ってるから鼻より上が見えない。
手にはナタみたいなのを持ってる。
そいつが棒立ちで俺を見てた。
俺はあまりの恐怖に動けず、唖然としたまま突っ立ってた。
さっきから漂ってた悪臭もそいつが発生源みたいで、鼻が歪みそうだった。
で、ふと見るとそいつ口動かしてんのね。
ボソボソと何か喋ってる。
「・・・・・ァ・・・・・・ケ・・・・・・」
内容が聞き取れないので、耳を凝らしてみると、
「・・アァァ・マ・・クケェアエ・・・・・・」
「マ・・ァア・・アファフヘケラエェヘ・・」
意味不明の言葉を喋ってた。
それも、外国語って感じじゃなくて、ランダムに並べたカタカナを読み上げてる様な感じ。
もう余りにも怖くて、俺は泣き叫びながら全力で走って逃げた。
そしたらそいつ俺を追ってくんの。
右手のナタを頭上に掲げながら走ってくる。
「アァアェ!ケヘフラフェアウェ!クヘフェアァエア!」
ボソボソ声はいつの間にか金切り声に変わってた。
追いつかれたら殺される!って思いながら、涙と鼻水と涎で顔ぐちゃぐちゃにしながら無我夢中で走ったよ。
何とか追いつかれずに、100mは走ったかな。
前の方に路地の出口らしき隙間が見えた。
路地が100mも続いてるとか今思うとありえないんだけど、そんなことは気にせず、とにかく俺は出口に向かって走った。
必死の思いで出口に辿りつくと、そこは知ってる道だった。
たしかに、路地の入口から100~150mぐらい先の住宅街。
位置のつじつまだけは合ってる。
振り返ってみると、路地の先は真っ暗。
そいつもいなくなっていた。
呆然としながらも、周囲を警戒しながら家に帰った。
家に着いた俺は汗だくで、顔もぐちゃぐちゃだった。
母親が何事かと問いただしてきたので、起こったことをありのままに話したよ。
まあ当然信じてもらえなかったし、この辺りに2mの大男なんて住んでないとか言ってた。
それ以来、そのでかい男は見かけてない。
その路地があった道は絶対に通らないようにしている。
ちなみに、この体験がトラウマになって、俺は身長の高い男がものすごく苦手になった。