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体育館の霊
動物園で有名な某市の中学校で、実際体験した先輩から聞いた話。
校舎改築する前の旧校舎の体育館で、女子卓球部が15人くらい先生同伴で夜まで特訓してたんだって。
なんか館内の空気がいや~な感じになって、何人かが
「気持ち悪い」
と言い出してザワザワしだした。
でも明日試合だからってがんばってたら、気持ち悪くて泣き出す子まで現れた。
しかたない、今日は解散…て時にいっせいに悲鳴が。
壇上の隣に、足を引きずる男の霊が全員にはっきりみえてパニックになったらしい。
先輩から話きいて、ふぅ~んて感じだったけど、家に帰ってばあちゃん(元教師)に話したら
「それ○○さんだわ…」
って青ざめて話し出した。
昔、その中学にばあちゃんと仲よかった男の先生がいて、事故で片足が不随になりながらも教壇に立っていたらしい。
でもヤンキー女子生徒に足ばらいされて転ばされたり、陰で陰険ないじめをされていて、ばあちゃん夫婦に『教え子に虐げられてる』と相談しに来た次の日、体育館の裏で自殺したんだって。
裏付けを後から知って一人で怖くなったわ。
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事故の多い交差点
小学2年生の頃、交差点で車に跳ねられました。
場所は小学校の通学路で、小学生の死亡事故が何度かあった交差点です。
私は、歩行者信号が赤だったので下を向いて待っていました。
すると数人の小学生が後から追い付いて来ました。
しばらく待っていると周りの子供達が渡り出したので、私はてっきり青になったと勘違いして確認しないで歩き出しました。
すぐに大きなクラクションと同時に車に跳ねられてしまい、入院しました。
幸い骨折程度で助かりましたが、入院中にお坊さんが来てお経を聞かせられたりしました。
退院するとその交差点には、お地蔵さんが設置されてました。
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ボロアパートのシミ
うちのオカンがまだ20代、当時の彼氏と同棲するためにアパートを探していた時の話。
いわゆる『神田川』の時代で、貧乏だった2人は漸くボロい安アパートの一部屋を見つけた。
それでもやっと見つけた2人の愛の巣。
オカンと彼氏はその部屋を借りる事に決めた。
部屋は予想通り汚く、居間と台所の間にはデカいシミまでこびりついている始末。
大家のババアは
「雨漏りがねえ…」
と呟きながら部屋の点検。
浮かれるオカンと彼氏。
夢の同棲生活が始まって数日。
彼氏の仕事も決まりその初日。
体調のすぐれなかったオカンは、布団の中から彼氏の出勤を見送る。
ウトウトしだしてどれぐらい経っただろうか。
突然、オカンの体が強張る。
「…あ、来た」
金縛りだ。
部屋探しの疲れも溜まっていたのだろうが、何にしろ気分の良いモノではない。
暫く大人しくして過ぎ去るのを待っていたが、一向に金縛りが解ける気配が無い。
さすがに焦り始めたオカン。
そして、そのオカンの耳に聞こえてきた声…。
赤ん坊の泣き声だった。
尋常じゃない体験にオカンは金縛り状態のまま気絶。
次に目が覚めたのは、とっぷりと日の暮れた夜中だった。
その金縛り事件の翌日。
オカンは意識不明直前の高熱に襲われた。
風邪をひいた様子もなかったし、取り敢えず慌てて彼氏と病院へ直行。
高熱の原因は不明だったが、ただ一つ、オカンのお腹に宿っていた赤ん坊が流産していた。
医者は高熱の理由をこの流産だとし、数日入院した後、体力の戻り切らぬ体を引きずる様にしてアパートに帰宅した。
やがて体力も回復し、心身ともに回復したオカンは部屋の掃除を始めた。
あの床のシミは拭いても拭いてもなかなか取れなかったが、ふとおかしい事に気付いた。
大家のババアは『雨漏りがねえ』と言っていた。
しかし、この部屋は2階建ての1階だ。
雨漏りなんかする訳がない。
まぁこれだけ古いアパートだ、そう言う事もあるだろうと、部屋の隅にある小さな窓を拭こうとした時、オカンは見つけてしまった。
長い間借り手も付かなかったのだろう。
窓ガラスには埃が積もり、そこに指文字で
『生きたい』
『生きたい』
『生きたい』
翌日、大家のババアを問い質すとババアは漸く白状した。
以前、この部屋には気弱そうな若者が住んでいたと。
ある蒸し暑い夏の日。
その若者は居間と台所の間、その上にある鴨居にロープをかけ、自らの命を断ったと。
結局、流産とその話との関係は解らなかったが、後に聞いた話では、その若者の遺書の中にはその時付き合っていた女性に裏切られた事への恨み言が書かれていたとかいないとか…
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レントゲン写真
病院でレントゲン技師をしとるのだが、一度だけ現像が出来上がったばかりのフィルムをその場で破棄、撮り直した経験がある。
胸部写真で、病巣が何故か真っ白に写ってた末期の肺ガンの患者さん。
不審に思って良く見てみると、病巣全面に渡って小さな顔がビッシリ。
全部同じ顔。
ドクターに相談して患者には見せずに破棄。
次に撮り直した写真には、何故かちゃんと癌組織が写ってました。
病院勤めだから色々あったが、あれほどゾッとした事は無かったな。
ちなみに撮影した患者さんは三ヶ月後に亡くなられた。
どんな境遇の方だったかは知らんのだけどね。
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つんぼゆすり
子供の頃、伯父がよく話してくれたことです。
僕の家は昔から東京にあったのですが戦時中、本土空爆がはじまる頃に祖母と当時小学生の伯父の二人で田舎の親類を頼って疎開したそうです。
まだ僕の父も生まれていない頃でした。
戦争が終わっても東京はかなり治安が悪かったそうで、すぐには呼び戻されなかったそうです。
その頃、疎開先では色々と不思議なことが起こったそうです。
そこだけではなく、日本中がそうだったのかもしれません。
時代の変わり目には奇怪な噂が立つ、と聞いたことがあります。
伯父たちの疎開先は小さな村落だったそうですが、村はずれの御神木の幹に、ある日突然大きな口のような『うろ』が出来ていたり、5尺もあるようなお化け鯉が現れたり。
真夜中に誰もいないにもかかわらず、あぜ道を提灯の灯りが行列をなして通りすぎていったのを多くの人が目撃したこともあったそうです。
今では考えられませんが、狐狸の類が化かすということも真剣に信じられていました。
そんな時、伯父は『つんぼゆすり』に出くわしたのだと言います。
村のはずれに深い森があり、そこは『雨の森』と呼ばれていました。
森の中で雨に遭っても、森を出れば空は晴れているという不思議な体験を多くの人がしていました。
伯父はその森の奥にうち捨てられた集落を見つけて、仲間たちと秘密の隠れ家にしていました。
4、5戸の小さな家が寄り集まっている場所で、親たちには当然内緒でした。
チャンバラをしたり、かくれんぼをしたりしていましたが、あるとき仲間の一人が見つからなくなり、夕闇も迫ってきたので焦っていました。
日が落ちてから雨の森を抜けるのは独特の恐さがあったそうです。
必死で
「お~い、でてこ~い」
と探しまわっていると、誰かが泣きべそをかきはじめました。
伯父は
「誰じゃ。泣くなあほたれ」
と怒鳴ったが、しだいに異変に気付きました。
仲間の誰かが泣き出したのだと思っていたら、見まわすと全員怪訝な顔をしている。
そしてどこからともなく聞こえてくる泣き声が次第に大きくなり、それは赤ン坊の泣き声だとはっきり分るようになった。
ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ ほぎゃ
火のついたような激しい泣き方で、まるで何かの危機を訴えているような錯覚を覚えた。
その異様に驚いて、いたずらで隠れていた仲間も納屋から飛び出してきた。
そして暮れて行く夕闇のなかで、一つの家の間口あたりに人影らしきものがうっすらと見えはじめた。
子供をおぶってあやしているようなシルエットだったが、どんなに目を凝らしても影にしか見えない。
人と闇の境界にいるような存在だと、伯父は思ったと言う。
日が沈みかけて、ここが宵闇に覆われた時、あの影が蜃気楼のようなものから、もっと別のものに変わりそうな気がして鳥肌が立ち、伯父は仲間をつれて一目散に逃げだした。
この話を大人に聞いてもらいたかったが、家の者には内緒にしたかった。
近所に吉野さんという気の良いおじさんがいて、話しやすい人だったのであるときその話をしてみた。
すると
「そいつは、つんぼゆすりかいなあ」
という。
「ばあさまに聞いた話じゃが、あのあたりでは昔よく幼子が死んだそうな。つんぼの母親が子供をおぶうて、おぶい紐がずれてるのに気付かずにあやす。普通は子供の泣き方が異常なのに気付くけんど、つんぼやからわからん。それでめちゃめちゃにゆすったあげく子供が死んでしまうんよ」
伯父は寒気がしたという。
「可哀相に。せっかくさずかった子供を自分で殺してしまうとは、無念じゃろう。それで今でも子供をあやしてさまよい歩いてるんじゃなかろうか」
それがつんぼゆすりか、と伯父がつぶやくと
「鬼ゆすりとも言うな」
「鬼ゆすり?」
「なんでそう言うかは知らんが・・・。まあそうしたことがよくあった場所らしい」
伯父はなんとなく、あそこはそうした人たちが住んだ集落なのだろうと思った。
ほとぼりがさめた頃、伯父は仲間と連れ立ってまたあの集落にやってきた。
一軒一軒まわって念仏を唱え、落雁を土間にそなえて親子の霊をなぐさめた。
そしてまた以前のように遊びまわってから夕暮れ前に帰ろうとしたとき、異変が起きた。
森に入ってから雨が降り出したのだ。
さっきまで完全に晴れていて綺麗な夕焼けが見えていたのに。
伯父たちは雨の降る森を駆け抜けようとした。
しかしどうしてそうなったのか分らないが、方角がわからなくなったのだという。
一人はこっちだといい、一人はあっちだという。
それでもリーダー格だった伯父が
「帰り道はこっちだ間違いない」
と言って先導しようとしたとき、その指挿す方角からかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
一人が青くなって
「あっちは元来た方だ」
と喚いた。
頭上を覆う木の枝葉から雨がぼたぼたと落ちてくる中で伯父たちは立ち尽くした。
仲間はみんな耳を塞いで泣き声の方角からあとずさりはじめた。
「違う違う。だまされるな。帰り道はこっちなんだ。間違いない。逆にそっちにはあの集落があるぞ」
伯父は必死に叫んだ。
そうしている間にも、泣き声は不快な響きをあたりに漂わせていた。
伯父は一人を殴りつけてむりやり引っ張った。
「耳を塞いでろ。いいから俺の後について来い」
そうして伯父たちは泣き声のする方へ歩いて行った。
やがて木立が切れて森を抜けた時、そこはいつもの村外れだった。
みんな我を忘れてそれぞれの家に走って帰ったという。
僕はその話を聞いて伯父に
「雨は?やっぱり降ってなかったんですか」
と聞いたが、伯父は首をかしげて
「それがどうしても思いだせんのよ」
と言った。
これにはさらに後日談がある。
伯父が家に泣きながら帰ってきたとき、なにがあったのか聞かれてこっぴどく怒られたらしい。
当然、もうあの森に入ってはいけないと、きつく戒められたそうだ。
そしてしばくたって伯父は、その家の当主でもあった刀自の部屋に呼ばれた。
刀自は伯父を座らせて言った。
「つんぼゆすりとはそうしたものではない」
この刀自は僕にも遠縁になるはずだが、凄く威厳のある人だったという。
一体誰に吹きこまれたか知らぬが、と一睨みしてから刀自は語りじめた。
この村は昔、どこでもあったことだが生まれたばかりの子供を口減らしの為に殺すことがあった。
貧しい時代の止むをえない知恵だ。
本来はお産の後、すぐに布で首を締めるなりして殺し、生まれなかったことにするのだが、おぶるくらいに大きくなってから殺さなければならなくなったときには世間というものがある。
そこで母親は、つんぼがあやまって赤子を揺すり殺してしまうように、わざとそういうあやしかたをして殺すのだ。
事故であると、そういう建前で。
業の深い風習である。
それゆえに鬼ゆすりとも呼ばれ忌避されるのだ。
「おぬし、弔いの真似事をしたそうだが、そのとき母親に情をうつしておったろう」
伯父はおもわずうなずいた。
「あのあたりに昔あった集落はどれも貧しい家だった。とりたてあそこでは鬼ゆすりが行なわれたはず。いいか、浮ばれぬのは母親ではなく殺された赤子のほうじゃ。助けをもとめて泣き叫び、それもかなわずに死んだ赤子の怨念が、泣き声が呪詛となって母親の魂をとらえ、この世に迷わせて離さぬのだ」
伯父はそれを聞いて総毛立ったという。
やはりあの時、森の中で聞いた声は伯父たちを誘っていたのだ。
『母親の成仏を願ったから』
あのまま元来た道を行っていたら、とり殺されていたのかもしれない。
刀自は静かに言った。
「鬼ゆすりのことを伝え継ぐのはわしら女の役割じゃ。産むことも殺すこともせぬ男はぐっと口を閉ざし、見ざる言わざる聞かざるで過ごすものだ」
伯父は恐れ入って、もうこのことは一切忘れると刀自に誓ったそうだ。
時代が大きく変わる時、廃れていく言い伝えや風習が最後の一灯をともすように怪異をなすのだと、伯父はいつもそう締めくくった。