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友人からの電話
友人(H)が自殺をしたときの話。
高校時代からの仲で凄く良い奴だった。
明るくて楽しい事も言えて、女子には人気が無かったが男子には絶大なる人気を持ってる奴だった。
高校卒業後に俺は東京の大学に行き、彼は地元の大学へ通ったため別々になり、連絡もあまりとらなくなった。
大学卒業後、俺は東京で就職をしたが、彼は引き篭もりになった。
彼が一切笑わなくなっていたことを、彼の葬式の時に彼の父親に聞いて、俺と友人達は驚いた。
大学で何かあったのか聞くと、3年生になったあたりから段々と引き篭もり始めたとの事だった。
葬式には彼の大学時代の友人も来て居た為、俺や友人達は彼らに色々尋ねてみたが、彼らもわからなかった。
ただ3年生の9月になってから、彼らをも避けるようになったという。
色々情報を集めていると、彼が大学の2年生の2月頃に両親が別居をし、彼の母親が家を買い、彼と2人で住む事になったらしい。
ただ、これが原因とも思えなかった。
彼の両親の不仲は、彼が高校時代から嘆いていたし、本人が
「早く離婚しないかなー。」
とさえ言っていたのだから。
それから三年が経ったある日、友人のSから電話があった。
「あのさー、すっごい変な事言うけど、信じてくれ。」
と、かなり神妙な感じで話を切り出す。
「あのね、Hから着信があった・・・。」
冗談にも程がある。
Hが死んでもう既に三年。
「お前、馬鹿にすんなよ?」
流石に怒って言う。
だけどSは、
「いや、いや・・・。三年経ってるから携帯は解約してるはずだよね?」
と涙声。
「昨日、久しぶりにG(高校時代の友人)と会って飲みに行ったのよ。そしたら、23時ごろに携帯が鳴って見てみたらHから着信あって・・・」
SはHの携帯番号を残しておこうと思い、削除していなかったらしい。
勿論、俺も残してた。
ただ、それでも信じられなかった。
「お前、掛け直してみたか?」
と聞いてみた。
「うん・・・2回掛け直したけど、不思議な事に2回ともつながった・・・。」
この時は、かなり背筋がゾッとした。
「え?つながった?ってことは誰か出たって事?」
「いや、いや・・・・。」
とSは泣き始めた。
何が起きたか分からなかった為
「何?どうした?おい?」
と呼びかける事しかできなかった。
「お前さー、マジで信じてくれるかわからないけど。Gも次に電話してみたから知ってるよ。お前も確認してくれたら分かるけど・・・。」
「だから何だよ?何があったのか言えよ。」
と少々声を荒げて言う。
その後、
「お前もHの携帯に電話してみろ・・・。嘘かどうかは直ぐ分かる。」
と、Sはそれだけ言って電話を切った。
俺は怖くて電話できなかった。
聞かなきゃ良かったと思った。
何故聞かなきゃ良かったかというと、その夜電話が鳴ったから。
着信はHの携帯から。
Hは三年前に自殺してる。
棺の中でのお別れもした。
彼の母親が泣き狂いながら
「H!起きなさい!まだ、間に合うから!」
と叫んでたのを思い出した。
その時にふと思った。
もしかしたら、これは彼の母親が子供が死んだ事が悲しくて受け止められずにやってる事なのでは?と。
2回目の着信が鳴った時に俺は思い切って出てみた。
「もしもし?Hのおばちゃん?」
と少し震えるような声で言うと
電話口で
「ちがうよ。」
とHの声で言われて切られた。
ぞくっとした。
低い男の声で、しかもHの声で返事があったから。
意味がさっぱり分からなかった。
Hは死んだはず。
じゃぁ、今のは誰だ?
何で俺らの電話番号を知ってるのか。
何故、彼の携帯からの着信履歴が残ってるのか。
30分近く震えながら考えたが答えは出てこない。
こっちから電話をしたいが、Sの話が忘れられず躊躇してしまう。
ただ、このままだと埒があかない。
結局、電話をする事に。
手は振るえ、心臓はどきどきしていた。
部屋中の電気をつけて襖やドア、部屋のカーテンを閉めて着信履歴からHの携帯に電話をしてみた。
やっぱりするべきじゃなかった。
受話器から聞こえるコールの音。
1回、2回、3回・・・
心臓がバクバクする。
5回、6回、7回。プッ。。。
留守番電話に切り替わる。
その瞬間
「今から死にます。」
と、Hの声が流れ始める。
「今から死にます。全部の音を残しておくよ。お前を呪ってやるから。呪ってやるからなあああああああ。ガああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ピーー・・・・。
直ぐに電話を切って放り投げた。
Sの言った事は本当だった。
「電話したら、Hの声で。。死ぬ前に取ったっぽいのが留守電のボイスに入ってた・・・。」
すぐにSに電話した。
夜中だったが怖くて、怖すぎて、他人の迷惑とかに気が回らなかった。
Sは寝てたらしいが、Hの携帯から着信があったこと、誰か出た事、電話したら同じように声が流れた事を説明したら、Sは
「どういうことなんだよ。」
とポツリと言い、その後は落ち着くまで付き合ってくれた。
しかし、恐怖はまだ続いた。
「なぁ、S、お前はどういう事だと思う?俺は最初Hの母親があ プッ やしいと おもってたんだけ プッ ど、どうも プ・・・・やばい・・・・キャッチが入った・・・。」
怖くて誰からか見れない。
「おい、×(俺の名前)。無視しろ・・・。俺と話しとけ。」
と、Sが言うのでそのまま話を続ける。
手から汗が吹き出てくる。
耳下にある携帯が凄く異質なものに感じて今すぐ投げ出したい。
プッ プッ とキャッチの音は続く。
数秒後やっとキャッチの音が終わった。
直ぐに電話を自分から離したかった俺はSに断りをいれ電話を切り、放り投げ、部屋のTVをつけ、DVDに取っていたお笑いを入れて見続けていた。
朝まで起きており、会社に行く気になれずに上司に電話しようと携帯を取ると着信履歴14件。
全てHの携帯から。
最後の一件には留守電が入っていた。
朝になっていた為か、少し強気になってきていた俺はそれを聞いてみた。
ピー「お前じゃないかあ。お前かあ?ははははははははははははははははははははははははは」
一気に寒気が来た。
「はははは」の笑い方がHの笑い方にそっくりだったから・・・。
直ぐにSに連絡しHの家に行って欲しいと言うと、他の友人とGも一緒に行って確認してくれるとの事だったので、お願いをして連絡を待った。
夕方の4時ごろ電話が鳴った。
Sの話をまとめると、昼過ぎにSとGとM(高校時代の友人)はHの家に行くが誰も出ない。
MがHの大学時代の友人と知り合いだった為連絡を取り、母親の家の住所(同じく地元)を聞き、向かう事に。
しかし母親の家の住所にあったのは、蔦がグルグル巻きになって見た目はボロボロの家。
買ってまだ10年も経って無いはずだが手入れも全くされていない様子で、ガラスが割れている窓さえある。
人が住んでる様子には見えなかったらしい。
Sが何度かチャイムを押すも音は出てない様子だったので玄関を何度か叩き、高校時代の呼び方で
「Hのおばちゃーん、Sですー。居ませんかー?」
と呼びかけるも出てこない。
ダメかと思い、帰ろうとした瞬間にSに電話が。
着信はHから。
かなり恐怖を感じたらしく、逃げようとした瞬間に割れている窓から目が見えた。
Sは怖さから逃げようとしたが、腰を抜かしたらしい。
しかし霊などに全く恐怖を感じないMは
「居るなら出てきてください。警察よびますよ。これは犯罪ですよ」
と言う。
見ていた人物は直ぐに奥に。
その後、Sの携帯に再度電話が。
ここでMは、Sにしか電話して来ないのは、先ほどの人物がSの呼びかけでSの名前しか確認できなかったのではないかと思い、ドアを開けて(鍵は開いてたらしい)
「おい!いい加減に出て来い!Hに対しても侮辱になるだろうが!!」
と叫んだらしい。
そうすると奥から携帯を持ったHが出てきたので流石に驚いたらしい。
でもHだと思っていたのは、Hの弟で、泣きながら
「お前らが兄貴もおかんも殺したんだ!」
と殴りかかってきたらしい。
Gが直ぐに取り押さえて話を聞いたところ、Hの母親はHが死んだ事を受け入れられずに携帯などは解約しておらず、お金を払い続けていたらしい。
しかし、Hは自殺する際に遺書の代わりにmp3レコーダーに声を残しており、それを母親が見つけてしまい毎日仕事にもいかず聞いて、最終的に気が狂い、同じ部屋で自殺したらしい。
弟は母親の遺書に『Hは誰かを恨んで死んでいった。それを見つけれなかったのが悔しい』と書かれていたのを見てMP3から音源をとり、携帯の留守電のヴォイスに変えて全員に電話をかけるつもりだったらしい。
数人目にかけた俺が、電話に出て
「Hのおばちゃん?」
と言ったため、何故この電話が母と思ったのかと疑い、兄の恨みの相手は俺に違いないと思い、何度も電話をしたらしい。
Sが、俺は高校以後あまり会えなくなっていた旨を伝えると理解してもらえたらしく、SとMとGが必死にこのようなことはしないようにと説得し、何とか分かってもらったとの事だった。
ただ、弟はS達が来た時はずっと2階から様子を見ていたので下には誰も居なかったとの事。
S達が誰か居たよ、俺ら見てたよと言うと、Hの弟は涙を流しながら
「お払いしてもらって、もう2人とも成仏してもらいます」
と大泣きしたとの事。
(ただし、S達もかなりの恐怖だったらしく、Mでさえも何度もHの弟に聞いてたぐらい)
結局、Hの自殺の原因は不明ですが、今まで生きてきた中で一番の恐怖体験だったので書いてみました。
弟君は現在Sと大の仲良しになっており、一緒に良く遊んでます。
俺にも一応、すぐに謝罪の電話をしてきました。
もちろん許しました。
現在は、弟君は母の家をお払い+リフォームして一人で住んでいます。
彼は元々は父方の家で暮らしてたようですが、父親の許しもありそうすることになったようです。
Hの自殺については真相を知ろうとは思ってません。
これは、弟君も同意してくれています。
彼がそれまでに調べてた事によると、イジメが原因ではなさそうなのと、Hが精神的に病んでいたことを教えてくれました。
これ以上蒸し返すのや、本人が望む望まないに関係なく、他人を巻き込むのはやめようという事になりました。
Hが死ぬ2週間前にSに送ったメールで『今度また皆で飲みにいこうぜ』との内容を見た弟君が
「兄はSさんたちを恨むはずが無いです。」と納得。
Sが「お前の兄ちゃんは人を恨む奴じゃない。」と言うと大泣きしてたそうです。
弟君はGやMや俺(帰郷時)とも飲みにいったりするようにはなりましたが、未だに誰も弟君の家には行ってません。
怖い+悲しい思いがするのが原因ですね。
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夜間工事
夜中にテスト勉強してたんだが、表の道でやってる工事の音がうるさい。
夜通しやんのかよ!と思ってたら、急に工事の人達が騒いでるみたいな声が聞こえてきた。
なんか事故でもあったかと思ってカーテン開けて外見たら、窓の正面から見える山の中腹あたりに白っぽく人の顔が七つ浮かんでるんだよ。
子供や若い女や老人、おっさんと老若男女バラバラに七人。
あまりの恐怖に一瞬固まってたが、我に帰ってカーテン閉めて布団に潜り込んで震えてた。
次の朝、親や学校の友人らに話したが、当然信じる奴など一人もいない。
あまりにホラ吹き扱いされるので、俺はついに切れた。
「工事の人達も見ていた筈だ。今から電話して昨日いた人を出してもらう!」
と家に帰り、電話帳で会社の番号調べてかけてみた。
友人らも親もその場に一緒にいた。
そしたら工事会社の人が
「うちはそんな夜中には工事はしませんよ」と。
ちなみに親も夜中までうるさい道路工事の音を確かに聞いていた。
その場にいた全員の背筋が凍った。
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くだん
もう20年くらい前になるかな。
ある日、実家の父から電話があった。
先日、祖父の法要で田舎(父の実家)に帰ったとき、仏間で面白いものを見つけたから見に来いという。
実家まで車で30分ばかりだし、俺はさっそく行ってみた。
父は、他の家族の目をはばかるように俺を手招きすると奥へ向かった。
そして卓の前に座ると古そうな木の箱をとりだした。
そして顎をしゃくって開けて見ろという動作をした。
俺はよく要領を得ないまま蓋をとった。
正直、それを見た第一印象はウェッなんだこれといった感じだった。
綿の敷かれた箱の中に入っていたのは、体長20㎝程の猿の赤ん坊?のミイラだった。
既に目玉も鼻もなく、ぽっかりと穴が開いてるだけ。
剥き出した口には、ギザギザと小粒な歯が生えているので辛うじて人間とは違うなと思う。
ただ猿とも少し違うような。
何コレ?俺は父に尋ねた。
父はニヤニヤしながらワカランと首を振った。
祖父の部屋には、昔からオカしなものけっこうあったそうで、なんぞ面白いものでも無いかと漁っている内に天袋の中から見つけたそうである。
それを黙って持ち出してきたらしい。
俺も父もこういった珍品は大好きだったが、それにしてもこれは余りに薄気味悪く禍々しかった。
箱の面には何か札のようなものが貼ってあったが、文字はもう掠れていて読めなかった。
その日はそこそこ居て帰ったが、翌日から俺は体調を崩した。
熱があると言うわけでもないのに体が重く、体が火照った。
何をするのも億劫だった。
仕事も休んで部屋でゴロゴロしていた。
翌日も休む。
そこへ実家の父から電話が掛かってきた。
お前体に異変はないか、と尋ねてくる。
ヒドくダルそうな声だった。
俺が状況を説明をすると父も同じ状態らしい。
俺の頭にあのミイラの姿がよぎる。
そんな状態がダラダラと幾日か続いた後、再び父から電話がある。
父の所に叔父(父兄弟の長兄)から電話があったそうだ。
あのミイラを持ち出したことかバレた。
電話口で、鼓膜が破れる程怒鳴られたそうである。
直ぐにあれを持って戻ってこいと言う。
あれを見た俺も一緒に。
俺と父は重い体を引きずって、姉の運転する車で父の郷里にむかった。
到着すると、俺達は再び叔父に散々小言を言われた後、今度は叔父の運転する車で檀家になっている菩提寺へむかった。
叔父はあの箱を脇に抱えていた。
車中、父はあのミイラの事を尋ねた。
アレはいったい何なのですかと。
叔父はぶっきらぼうに、あれは、くだん、だと答えた。
くだんって、あの生まれてすぐ予言をして死んでいく牛の妖怪か?
何でも、数代も前のこの家の当主の嫁が産んだと伝えられているらしい。
病死なのか、もしくは余りに醜いので間引いたのかはわからないと言った。
また、嫁もその子を産んだときに死んだとも伝えられている。
ずいぶんと昔の話らしいが、これから行く寺の記録に数行だか残っているらしい。
その後、箱と俺と父は寺で経を上げてもらった。
つまりあれは人間ということになる。
件としたのは、人と明言するのを避けたかったからではないのか。
そしてアレは絶対に持ち出してはならないもので、毎年決まった日に菩提寺で経を上げてもらうそうだ。
丁度、数日前がその日だったが見つからない。
もしやと思って父に電話したそうだ。
叔父が言うには、オマエ等のお陰で経をあげてもらえず件が祟ったのだと言う。
あのまま放っておけは二人とも死んでいたぞ、とも。
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七五三
昔のことなので曖昧なとこも多いけど、七五三のときの話。
こんなことを自分で言うのは何なのだが、私は小さい頃けっこう可愛かった。
今はどうかってのは喪女だということでお察しください。
でも、小さい時の写真を見れば、髪も肩でまっすぐに切りそろえてたから、着物着たらマジ市松人形。
が、そのせいで怖い目にあったことがある。
先に言っとくと、変なオッサンに追いかけられたとかじゃない。
時期は七歳のとき、場所は祖父母の家。
七五三に行く少し前で、七五三のお参りに着ていく着物を祖母に着せてもらう練習かなんかだったと思う。
ともかく本番前に一度着物を着せてもらったんだ。
私はきれいな着物を着せてもらって嬉しくてしょうがなかった。
それを見た母は、絶対に汚さないという約束で、家に帰るギリギリまで着物を着てていいよと言ってくれて、私は着物姿のままで、祖父母の家をぱたぱた歩き回っていた。
祖父母の家は、いわゆる旧家というやつで、家の奥には今はもう物置になっているような部屋がいくつかあった。
私はそこに入り込んで、薄暗い中、古い道具の入った箱の中を見るのが大好きだった。
それでいつものように奥の部屋に入り込んで、古い道具や何かを見ていると不意にすぐ後ろに誰かが来て、
「楽しいか」
と声をかけてきた。
若い男性の声だったから上の従兄かなと思って、
「うん」
と、振り向きもせず遊びながら返事。
すると、
「かわいいね。お人形がおベベ着て遊んでいる」
もっと古風な言い回しだったような気がするけど、そんなことを言った。
振り向こうとすると
「だめだ」
と言う。
目の端に青っぽい模様の入った袴が見えたので、
「お兄ちゃんも着物着たの?」
と訊くと、
「いつも着物だよ」
「わたしね、今日はお正月じゃないのに着物着せてもらったんだよ」
と、しばらくの間、その後ろの人を相手に着物がいかにうれしいかを話していた。
なぜだか後ろは向けなかった。
すると、じっとそれを後ろで聞いていたその人は
「着物がそんなに嬉しいの?じゃあ、ずっと着物でいられるようにしてあげようか。この部屋で、ずっと着物で遊んでおいでよ。お兄さんも一緒だよ」
「ほんと!遊んでくれるの?やった!」
と嬉しそうな私に、後ろの人は続けて言った。
「じゃあ、ずっとここで一緒に遊ぼうね。約束だよ」
「でも、わたし、お外でも遊びたいよ。木のぼりとか虫取りもしたいよ」
「だめだよ。お人形がそんなことをしてはいけない」
「やだよ、お外で遊ぶもん。友達とも遊ぶもん」
「だめだよ。外に出てはいけないよ」
こんな感じの問答をずっと繰り返していると、後ろの人はすっと私の後ろにしゃがみ込んだ。
そして私の髪にさわって、静かな口調で言った。
「かわいいねえ、かわいい。いい子だから言うことを聞きなさい」
ここでやっとおバカな私は、この着物のお兄さんが従兄ではないことに気が付いた。
手元の古い道具ばかり見ていて気付かなかったけども、いつの間にか部屋は暗くなっていて、うっすら白いもやまで立ち込めていた。
「かわいいお人形だ、かわいい、かわいい……」
やさしい手つきで髪をさわっているけれど、背中が総毛立った。
「かわいい、かわいい、いちまかな、カブロかな、かわいい、かわいい、かわいい……」
少し怖くなった私は頑張って言った。
「わたし、人形じゃないよ」
「かわいい、かわいい、かわいい…」
「この着物は七五三で着せてもらったんだよ」
手がぴたりと止まった。
「七五三?」
「うん、着せてもらったの」
「もう七つ?」
ここで私は、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
実際にはまだ六つで、七五三には次の週かなんかに行く予定だったんだけども、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
だから答えた。
「七つだよ」
すると後ろの人は、すっと立ち上がり、今度は頭をなでて
「かわいいね。でも、もうお帰り」
そのとたん、部屋がふっと明るくなった。
慌てて後ろを振り向いたが誰もいない。
変なの、と思ったが、その後は特に気にせずそのまま遊んでいた。
でも夕方だったのですぐに母親に呼ばれて、部屋からは出た。
それでその時は洋服に着替えさせられて家に帰った。
親には一応話したけど、遊んでるんだろうと思って本気にはされなかった。
それで、次の週かその次の次だったかもしれんが、七五三に行った。
神社の帰りに祖母の家に寄ったけども、奥に行く気にはならなかった。
もしあの時『ここにいる』『六つだ』と答えていたら、一体どうなってたんだろう。
可愛いからというより、気に入られたのかもしれないけど、それ以来『かわいい』という言葉には自然と身構えるようになってしまった。
後ろに立ってた人については、いまだに何もわからない。
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違和感
工房2年の10月頃、夕方に友達の家から帰る途中だったんだ。
もう、その時はあたりが薄暗くて足下が見えないくらいだった。
通り慣れた道を自転車で走ってると、大きな声で呼び止められた。
「おい、ちょっと動けなくなってしまったから助けてくれ」
薄暗い中、目をこらして声のする方を見たら、30くらいの兄ちゃんが塀に寄りかかった状態でこっちを見ていた。
その時、違和感を感じたんだよな。
胴体から頭にかけて壁にめり込んでいるというか…
でも、その格好がアホみたいだったので笑いながら
「どうしたんですか」
って聞くと、どうやら何かに挟まって身動きがとれないらしい。
「すまん、ちょっと俺の手を引っぱってくれんか。そしたら抜けるかも」
「どうして、こんな事に?w」
「事故かな…。そこに俺のバイクあるでしょ。」
男の目線の先見たら原付が転がっていた。
「大変でしたね。怪我があるんだったら救急車呼びますけど」
俺がそう言いながら、その人の腕を強く引っぱったら、メリメリって音立てて壁から離れた。
んで、『ありがとう』とか言ってくれるのかと思ったら、そのまま倒れた。
よーく、その人の体見たら、顔の半分潰れてるし胴体の半分も異様な形に凹んでた。
しかも潰れてない方の目開いて死んでる。
もうね、その後は警察やら何やらで…
ショックだった。
さっきまで話してただろ…
俺が見たのは人が死ぬ直前だったのか、それとも既に死んでいたのか…