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古本屋

俺は、二年くらい前から小さい古本屋でバイトをしてる。

まさに『古本屋』のイメージ通りの店。

床や柱は黒っぽい木造で、ちょっと暗くて古めかしい感じなんだが、俺が来る前に入口を改装したらしく、そこだけ不自然に自動ドアになってる。

客が来ると、ピンポーンってセンサーで音がなるタイプ。

こないだの土曜日。

店長と奥さんが地域の集まりかなんかで出かけてて、店には俺一人だった。

まぁそれが暇なんだ。

いつも暇なんだけど、たまに通りすがりの人が、外のワゴン売りの安い文庫をパラパラしてるのが見えるくらい。

店長達がいたらサボれないけど、一人だから堂々とカウンターで本読んでた。

18時半くらいかな?

さすがにちょっと掃除でもしようと思って本を閉じた時に『チリーン』って音が響いた。

風鈴みたいな。

何故かその時、俺はそれが自動ドアのセンサー音だと思って

「いらっしゃいませー」

って入口の方を見た。

自動ドアが開いた。

でも人の姿はなくて、あれ?って思った時、ふいに左側から影が現れた。

反射的に振り向いた。

目の前に麻みたいなガサガサした着物があった。

え、ってそのまま見上げると、のっぺりした黒い一つ目のものがいた。

目というか、のっぺらぼうに絵で丸を描いた感じ。

ロンドンオリンピックの変なキャラクター、あれに似てた。

あれの首をひっぱって伸ばして肌を全部かさぶたにしたような、よく分かんないものが暗い緑の着物を着て立ってた。

腕は無さそうだった。

蛍光灯の灯りが逆光になって、俺にそいつの影がかかってた。

俺はもう完全に固まってて『ひぃ』みたいな声を漏らすだけ。

金縛りだったのかもしれない。

よく思い出せないけど、とにかく動けなかった。

そいつは、その絵みたいな目の黒目をグリグリ回しながら頭を左右に揺らして、ザザザザザ…みたいな変な音を出してた。

声だったのか、あのガサガサの肌と着物がこすれてたのかは分からない。

少しずつ、そいつが顔を近づけてくる。

細くくびれてる首を、ぐにゃ~っと曲げて俺の目の前まで寄った時、またあのチリーンって音がした。

途端、そいつの頭が首からもげるようにべろんって落ちた。

千切れた首の上に下あごが、小さい歯がびっしり並んでた。

黒い穴みたいになった喉から、『おおおおおおおっ』て妙に甲高い震えた声を出しながら、ごぼぼぼ、と黒い血のようなものを吹き出した。

まばたきの間か、ほんの一瞬でそいつは跡形もなく消えてた。

全身の鳥肌と変な汗が気持ち悪くて、できるだけカウンターから離れて、入口の所で外を通る人を眺めて気持ちを落ち着かせてた。

その後、すぐ店長達が帰ってきたけど、こんな話をするわけにもいかず黙って店じまいを始めた。

俺が自動ドアのセンサーを止めてシャッター閉めて帰るんだけど、そのセンサーの下にかさぶたのようなものが落ちてるのを見た時は本当に気持ち悪かった。

もう出ませんように…

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