怖っ!怖っ?怖い話

いろんな怖い話を集めています。

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「 月別アーカイブ:2015年09月 」 一覧

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私の足を返して

私の足を返して 

当時、独身サラリーマンだった僕は、道路に面した小さな一戸建ての住宅に住んでいました。
玄関のドアを開けるとほとんど目の前が道路という、敷地面積ぎりぎりに建てたのだと一見して分かるような家でした。
しかし、家賃の安い割には交通の便がよい場所にあり、安月給の僕には、そう悪くもない条件だったのです。

ある日、数日間の出張から帰ってみると、僕の家の前の道路に、脇にある電信柱から玄関にかけて、大きく黒っぽいシミのようなものがついていました。

『誰かが何かをこぼしたんだろう』ぐらいに思った僕は、深く考えることもなく、家に入りました。
その夜の事です。

『ドンドンドンドン!ドンドンドン!!』

という物音で僕は目が覚めました。
時計を見ると午前三時です。
いったいなんだろう、と不審に思いながら、僕は玄関に出てみました。
すると、安普請の薄いドアが揺れるような勢いで、何者かが外側からドアを叩いているようです。

「・・・・・何の用ですか?」

僕は玄関の明かりをつけると、ドアの前に立って、向こう側に呼びかけました。
しかし、その何者かは僕の声が聞こえなかったのか、返事もせず、いっそう激しくドアを叩きつづけるのです。
ほうっておけば、ドアを破られそうな勢いでした。

ドアの覗き窓から見ると、ドアの前にいるのは若い女のようでした。
一瞬、子供かと思ったほど背が低く、上のほうにある覗き窓からは頭のてっぺんしか見えません。
女は僕が覗いている気配に気づいたらしく、叩くのをやめ、上を向いて覗き窓のほうへ、ぐっと顔を寄せてきました。
血の気の引いたように白い顔がいきなりレンズいっぱいに広がり、僕は驚いて後退りました。

「こんな時間にすみませんけど、お願いですから・・助けてください」

切羽詰った声が聞こえてきました。
何やら、ただならぬ様子です。
僕はチェーンをかけたまま、細くドアを開けました。
細く開いたドアの隙間から、若い女の顔が見えました。
そのロングヘアの頭は僕の胸のあたりまでしかありませんでした。
息を切らし、引きつったような表情で、上目遣いに僕を見ています。

「いったいどうしたんですか?」

と、僕が聞くと、若い女は

「大切なものを、この家の前でなくしてしまって、でも、暗くて、いくら探しても見つからないんです。一緒に探してください。お願いします・・・・・」

隙間からじっと僕を見ている女の目は異様なまでに見開かれ、充血していました。

「いったい、何を探しているんですか?」

「あたしの、足を・・・・・・」

「足・・・?」

反射的に僕は女の足もとに目をやりました。

すると、女の膝から下はぶっつりと千切れていて。
その端はぐしゃぐしゃに潰れ、皮膚のはがれた赤黒い筋肉の下からは、血にまみれた骨のようなものが覗いています。
もちろん、コンクリートのたたきには大きな血溜まりができ、そうしているあいだにも、赤黒いシミがジワジワと、玄関の内側、僕の足元のほうへ向けて広がっていたのです。

僕が悲鳴をあげると、女は急に、激しくドアを外側から引きました。

しかし、ガツンとという音とともに、かけてあったチェーンが引っかかりました。
それに気づいた女は、隙間から手を差し入れ、チェーンを外そうとします。
僕は死に物狂いでドアを閉めようとしました。
しかし女の手が、がっちりと挟まっていて、閉めることができません。
女は両手をドアにかけながら、隙間に物凄い形相をした顔を押し付け。金切り声をあげて絶叫し始めました。

「あたしの足を返して!あたしの足を返してぇぇっ!!」

僕はなんとかしてドアにかかった女の指を引きはがそうとしましたが、女も恐ろしい力でドアをつかみ、離れようとはしません。
薄いドアが壊れてしまうのではないかというような必死の攻防の結果、僕はなんとか女の手を押しやり、無理やりにドアを閉めました。
それでもしばらくのあいだ、女はドアを叩きながら叫び続けていました。
僕は恐怖のあまり、声が聞こえなくなったあとも、背中でしっかりとドアを押さえて立ちすくんでいました。

やがて夜が明け、新聞配達の物音が聞こえるころになって、初めて、僕はチェーンをかけたまま、恐る恐るドアを開けて外を見ました。

すると、女が立っていたあたりのコンクリートには、べったりと赤黒いシミが残っていて、昨夜の出来事が夢でなかったことを、僕は改めて思い知らされたのです。

後日、近所の商店で聞いた話ですが、ちょうど僕が出張に出ているあいだに、僕の家の真正面の路上で交通事故があり、若い女がトラックの車体と電信柱のあいだに挟まれ、膝から下を切断されたのだということでした。
引きちぎられた脚はズタズタになり、それは無残な状態だったそうです。
彼女は運ばれた病院で亡くなったそうです。

あの出来事以来、僕は悪夢にうなされることが多くなり、しばらくして、その家を引っ越しました。

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アカエ様

アカエ様

俺が小学校低学年の頃の話、もう30年以上前になるけど。

東北のA県にある海沿いの町で育った俺らにとって、当然海岸近くは絶好の遊び場だった。

ただ何故か、かくれんぼだけは海の近くでやってはいけないと、周りの大人にきつく言われていた。

しかし、そこはしょせん子供、俺と近所のくそがきA太B朗C子の四人でかくれんぼをしたことがある。

当時のガキにしちゃあ、丸々と太っていた実質ガキ大将のC子が、どうしてもかくれんぼしたいって聞かなかったんで、俺ら男はなんか臆病者扱いされるのも嫌だったんで付き合うことしたんだわ。

しぶしぶ始めたとはいえ、海の近くで変なくぼみとか一杯あって、めちゃくちゃ楽しかった、てのを今でも覚えてる。

かくれんはじめて1時間くらいたったころ、A太が鬼だったんだけどC子がどうしても見つからない。

仕方なく、かくれんぼを中断して三人でC子を探すことにしたが、なかなか見つからないから、3人で手分けして探すことにした。

それでも見つからないから、もうあきらめて帰ろうと思ったとき、さっき調べても見つからなかった岩場のくぼみににC子を見つけた。

ただC子一人じゃなくて、なんかやたらと立派な和服をきた爺さんが一緒だった。

ガキだった俺は、家の人間が迎えに来たから勝手にかくれんぼ中断しやがったなと一瞬思ったが、どうも様子がおかしい。

普段は大人相手だろうが、子供相手だろうが、のべつまくなしに騒ぎまくるC子がやけにおとなしい、和服の爺さんが何か話てるのにも反応せずに一点を見つめて動かない。

これはやべーんじゃねーのと思った俺は、幸い二人ともこっちに気づいてないようだったので、気づかれないように様子を伺う事にした。

よく見てみると和服の爺さんは、こんな海っぺりだって言うのに全然濡れていなかった。

爺さんはひとしきりC子の体をべたべたと触ったあと、懐から鉄製の串のようなものを取り出すと、おもむろにC子のわき腹に突き刺した。

俺は爺さんの行動にびびって固まった、正直しょんべんも漏らしていた。

しかも爺さんは、その串を一本ではなく、次々とC子に差し込んでいく、しかし奇妙な事に血はぜんぜん流れてこない。

C子も串を刺されまくって、黒ひげ危機一髪みたいになってるのにピクリとも動かない。

そのうち、串を伝って黄色っぽい白いどろどろとしたものが流れ出してきた、すると爺さんは串の根元のほうに白い袋のようなものを取りつけはじめた。

どうやら、そのドロドロを袋に集めているようだった。

多分ものの2~3分くらいだと思うが、どうやら袋が一杯になったらしく、爺さんは一つ一つ口を縛り袋を纏めていく。

一方のC子はあんなに丸々と太っていたのに、いつの間にか干からびたミミズのようになっていた。

これは、冗談抜きでやばいものを見てしまったと俺が思っていると、爺さんが不意に俺の方を向いた。

そして何か言おうとしたのか口を大きく「あ」の形にした。

と思うと後ろから大人の声で「コラー、ドくそがきが!あんだけここでかくれんぼすんなっていってんだろ!」と怒鳴る声がした、振り返るとA太の父。

どうやらC子が見つからなくて、あせった二人が大人に報告しに行ったようだ。

俺はC子が干物になってしまった事を伝えるのと、変な爺さんから逃げるようにA太父のほうへ駆け出していた。

かなり本気の拳骨と、もう一怒鳴り食らって、俺がC子の所までひっぱってA太父をつれていくと、干物ではなく太ったままのC子が倒れていた。

あの爺さんも、串で刺された跡もきれいさっぱりもなくなっていた。

結局C子は、かくれんぼ中にこけて頭打って気絶していたと言う事で病院に運ばれ、その日の夕方には目を覚ましたらしい。

一方で俺ら3人は、死ぬほど説教食らったが、俺はさっきの光景が目に焼きついていてロクに説教も聴いていなかった。

それから数日はC子は何もなく、ぴんぴんしていて近所のクソガキの上に君臨していた。

俺も、アレは暑さでおかしくなってみた幻だろうと思い込み始めていた。

しかしC子は、一週間程たったくらいから、目にも見えてやせ始め、しまいにはその姿を見なくなっていた。

どうやら、何かの病気をしたらしく、俺は母親に連れられてA太B朗やらと一緒にC子の見舞いへ行った。

そこにいたC子は以前の憎たらしく太っていたC子ではなく、ずい分とやせ細った姿だった。

しかも痩せているのではなく、見るからに肌に水気がなく、子供とは思えない程しわだらけになっていた。

あの時の干物の2,3歩手前という感じだった。

俺はもうこいつ死ぬんだなと思った。

 

見舞いから帰ると俺は、母親に例の爺さんと串に刺されたC子のことを話した。

母は俺の話を聞き終えると、「そう」と一言だけ言ってどこかに電話をかけた。

そして電話が終わると、明日その時の事を聞きに人が来るから正直に答えなさいと俺に言った。

次の日、学校の授業の途中に校長に呼び出され、校長室で見知らぬおっさんに爺さんとC子の話を聞かれた。

そのおっさんは古い絵を見せてきて、その爺さんはこんな格好じゃなかった?と聞いてきた。

その絵にはみすぼらしい格好をして、頭が不自然に三角な男と、例の爺さんみたいなきれいな和服をきた男がが描かれていたので、俺はこっち和服の男の格好に似ていると答えた。

すると、おっさんはため息を一つ吐いて校長にどうやらアカエ様ではないようなので、これ以上の心配はないでしょうと言った。

校長も何か安心したような感じだった。

その後、今年は豊漁になるだとか、漁協からC子の家に見舞金を出すとか言う話をしていたが、俺がまだいることに気づき、すぐに追い出され俺は授業に戻った。

C子はその後、割りとすぐ死んだ。

C子の葬式では悲しそうなのはC子の家族だけで、他の大人はみんなニコニコにしていてうれしそうな感じだった。

正直、俺もC子が嫌いだったので心の底ではうれしかったが、今まで経験した葬式との違いに少し不気味に思っていた。

俺の父親もC子の両親に、神様が持っていったようなものだから、と変な慰めをしていたのを覚えている。

その年の秋は、あの時の盗み聞いたおっさんと、校長の話通り、ここ数十年で一番の豊漁になった。

しかし俺の町以外の港では、それ程でもなかったらしく俺の町は大分潤ったらしい。

俺もA太もB朗も、栄養状態がよくなったせいかみんなころころと太った。

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ちーちゃんのマリ

ちーちゃんのマリ  

少し長いですが、お付き合い下さい。

今から20数年前の話です。場所は東京都下H市。
当時、私は中学1年、大きな幹線道路から少し入った所に住んでました。
家の前には幅4~5mの小さな道路。
舗装こそされてはいましたが、車も滅多に通らない文字通りの静かな住宅街でした。

家の前、通りを挟んで向かい側のアパートが在り、そこに千里ちゃんという4つか5つ位の女の子がいたんです。
千里ちゃんは、とても色の白い黒眼瞳のぱっちりした可愛い子で、皆に「ちーちゃん」と呼ばれていてました。
詳しい事情は知らないのですが、ちーちゃんの家は母子家庭で、お母さんは幹線道路沿いのヤマ○キパンの工場で働いていました。

近所に同年代の子供が居なかったのか、ちーちゃんはよく独りで遊んでいました。
縄跳びしたり、蝋石でアスファルトに絵を描いたり。
マリ撞きの上手な子で、ピンク色のゴムマリを撞く音がリズム良く、ポンッ!ポンッ!って延々、聞こえ続けるなんて事もありました。

兄弟の居なかった私は、そんなちーちゃんを妹の様に思い、たまに遊び相手をしてあげたりしてました。
と言っても中学生と幼児ですから、一緒に絵を描いたり、駄菓子屋さんでアイスを買ってあげたりするくらいでしたけどね。
断っておきますが、私は炉梨趣味は有りません。

むしろ、ちーちゃんのお母さん、今思えば、20代後半くらいでとても綺麗な人でした。
長い黒髪を無造作に後ろで束ねて、 化粧ッ気も無く、清楚な優しい感じの女性。
年上の女性に憧れがちな年頃の私は、「いつも遊んでもらって、すみません。」と笑顔で言われるのが嬉しかった訳です。
ちーちゃんも私の事を「お兄ちゃん」と呼んで懐いてくれていました。
通りに面した私の部屋で暇そうに、ちーちゃんの様子を眺めていたりしていると「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」って・・・。

あの日は、ちょうど今と同じ位の季節。夏休みに入って間もなくの、とても暑い日でした。
私は朝から宿題をするつもりで机に座っていたのですが、あの頃は各家庭にエアコンなど望むべくも無く、
暑さにグゥ~ッタリしていると、いつもの様に「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」と、赤いリボンの麦藁帽子を被ったちーちゃん。

宿題は午後から図書館でも行けば良いやって事で相手をしてあげる事にしました。
お絵描きやら、マリ撞きやら、ひとしきり遊んで、ふと時計を見ると12時半を過ぎていました。
いつもなら、ちーちゃんのお母さんは、お昼前には一旦帰って来て、ちーちゃんと一緒にお昼ご飯を食べて、また午後の仕事に戻るはずでした。
私もお腹が空いてきましたし、そういえば昨日父親が珍しくパチンコで勝ったとかで持って帰ったチョコレートとかのお菓子が有ったなと思い、
ちーちゃんに「ちょっと待っててね。」と言い、家に取りに入った時です。

「千里~!遅くなってゴメンねぇ~」
通りの向こうに、お母さんの白いワンピース姿が見えました。
「アッ、お母さんだ!!」
ちーちゃんは言うが早いか飛び出して・・・。

キキキキキィィィィーーーーーーーーーッ!! ガンッ!
その日、幹線道路で工事をしていたため、渋滞を嫌って裏道を抜けようとしたトラックでした。

キャァァァーーーーーーー、千里、千里ぉーーっ!
私は靴も履かずに表へ出て駆け寄りました。
トラックの二つの後輪に頭を突っ込むように倒れているちーちゃんが居ました。

小さな手足が、時々ピクッピクッっと痙攣するように動き、タイヤの下には赤黒いシミが広がって行きました。
お母さんは、私に気付くと両肩にしがみつき
「なんとかしてぇ~~っ!なんとかしてくださぁ~いぃ!!」
揺すりながら泣き叫びました。

その時のお母さんの顔は一生忘れないでしょう。
いつも微笑みを湛えた優しい顔は夜叉の様になっていました。
お母さんは、呆然と立ちつくす私から手を放すと、倒れたままのちーちゃんを抱き締め、車の下から引っ張りだそうとしました。

お通夜、お葬式、両方とも参列しました。
お母さんは一気に20歳くらい歳をとったかのように老け込み、お悔やみの言葉にもウツロな眼で力無く頷くだけでした。
あの日、いつもの時間にお母さんが帰って来ていたら・・・。
あの日、幹線道路が道路工事なんかしていなければ・・・。
あの日、私の家側でなくアパート側で遊んでいれば・・・。
いくら悔やんだって、ちーちゃんは帰っては来ません。

それから、しばらくたった蒸し暑い夜の事です。
寝苦しさに目を覚ました、その時です。
身体が動かせない事に気付きました。『ああ、これが金縛りか。』そんな事を考えていると
網戸だけ閉めた窓の外でマリを撞いているような音が・・・。

ポンッ!・・・ポンッ!・ポンッ!・・ポンッ!・・・ポンッ!・・・

『何か変だな?』妙な違和感を感じていました。
そのうち、音が移動した様に感じました。
今度は明らかに部屋の中で聞こえています。
ベッドでなく畳の上に布団を敷いて寝ていたのですが、その足下辺りから聞こえてきます。

ポンッ!・ポンッ!・・・・ポンッ!・ポンッ!・・・ポンッ!・・・

不思議と怖さは感じませんでした。
『ちーちゃんがお別れを言いに来たんだな。』
そんな風に思ったんです。
その時、ずっと感じてた妙な違和感の正体が解りました。
マリの弾む音がリズミカルじゃないんです。
あんなに上手だったのに・・・。

ポンッ!・ポンッ!・・ポンッ!・・ポンッ!・・コロッ・・コロコロコロ・・

失敗しちゃったみたいです。
足下で撞いていたマリが顔の横まで転がってくるのが解りました。
取ってあげようとしたのですが相変わらず金縛りで動けません。
その時、転がってきたモノが・・・。

「お兄ちゃ~ん、遊ぼぅ~!」って・・・。

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なんで戻ってきた

なんで戻ってきた

引越しの終わったその日、僕は初めての一人暮らしに浮かれていた。
地方から大学通いのため都会に出てきて、そりゃあ不安はある。
でも、それ以上の高揚感が僕を包んでいた。

6畳1間の古ぼけたアパート、とても城だと思えるような間取りではないけど、
それでもここから何かが始まるような予感がしていたんだ。

その日、なかなか寝付けなかった僕は、午前2時ごろ歯を磨いていた。
そのとき、ふとガラスを横切る影。
後ろを振り向いても、何もそこにはない。洗面所から出て、狭い部屋を見回しても、何もない。

きっと、今日は疲れているんだなと思い、洗面所に戻った。
すると後ろから『クスクス……』という女の子の笑い声。

今度は、気のせいじゃない。
背中に走る悪寒。気温が急激に下がったような感覚。

僕は歯磨きも途中のまま洗面所を出ると、布団に包まり、顔だけを出して
きょろきょろとあたりに様子を伺っていた。

『クスクス……』

声は、部屋のどこから聞こえてくるのかわからない。
ぼんやりと薄暗い部屋の隅?さっきいた洗面所からだろうか?
それともすぐ近く……?そう、僕の後ろから……

「バーカ」

左の耳たぶの裏から、吐息まで感じられるような声を聞き、僕は気を失った。

とんでもないところに越してきてしまった。
僕は次の日、焦って引越しを考えたが、ただでさえ格安物件を中心に選択した財政状況ではそうもいかない。故郷の両親にいきなり心配をかけるのもためらわれた。

第一、僕はその姿を見ているわけではない。
血みどろの実像を見てしまったりしていたら冷静ではいられないが、
今の所脅かしてくるくらいじゃないか。

部屋に戻ってきた僕は、恐る恐る部屋の様子を伺った。
真昼間から現れるようならお手上げだけど、それはなかった。
でも、夜、布団に入った途端にそれはまたやってきた。

『なんで戻ってきた』頭に響いてくるあの声。
ふっと壁かけ時計に眼をやると、2時。
僕はまた布団に身をくるむと、うろ覚えの念仏を唱えた。

『そんなもん効くか、アホ』
声は幼く、冷たく、そして絶望的だった。

「たのむよ、僕は邪魔したりしないから。ただちょっと卒業まで住まわせてくれるだけでいいんだ」

家賃を払っているのは僕だなんてことは考えなかった。
僕は、家庭がそんなに裕福じゃないこと、こっちにはまだ友達もいなくて、頼れる人もいないこと、そんなことを念仏代わりに訴えかけていた。

『……ふん、まあ退屈だったし、オモチャができたと思えばいいか……』

彼女はそんな風につぶやくと、ふっと気配を和らげた。

「いいの!?」

僕はかぶっていた布団を剥ぎ取ると、どこに向かうでもなく話しかけた。
返ってきた答えは『うるさい』だった

僕は果たしてオモチャだった。期末のレポート提出に四苦八苦していると

『普段からやってないから今苦しむんだな、アホだ』
『今はじめて参考書を見ているのか、もう終わりだな』
『こんな子供に期待している親が不憫だ、荷物まとめろ』

そんなことを言って、僕をどこまでも追い詰める。
でも、最初感じたような圧迫感はない。僕は相変わらず友達は少なかったし、
バイトで遅くなることが多かったから、彼女がでる時間に起きていることも多かった。

僕は、奇妙なことに彼女によって救われている気がしてきていた。

……相変わらず、姿は見えないけれど。

そんな生活が続くうちに、僕にもそれなりに交友関係ができた。
が怒るかな、とも思ったが、自分の部屋に友達を招いて飲み会をした。
その夜は僕一人になっても彼女はでてこなかった。

いまさらながらに薄気味悪いと思いつつも布団をかぶろうとしたら、テレビの上においていた目覚まし時計が落ちてきて、したたかに頭に命中した。

「な、なにすんだよ」僕はさすがに怒って彼女に呼びかけた

『……あの女は誰だ』

予想外の質問だった、まさか、吉野さんが気に障ったのだろうか?
「サ、サークルの先輩だよ、もしかして彼女が嫌なのか?祓われちゃいそうな霊感があるとか?」

『ふうん、で、お前はあの女のなんだ』

わけがわからない。

「別になんでもない、単なる先輩だよ」
『……どうだか、とりあえず、あの女はもう呼ぶな、次に来たらあの女も巻き添えにする』
「わ、わかったよ」

それきり、その夜彼女は出て来なかった

どうにかなるもんだな、と思っていた。
あれから4年、そんな生活にも終わりが近づいていた。
なんとか卒論を書き終え、後は卒業を待つばかり。

4年間、なんだかんだでいつも近くにいてくれた彼女にもお礼を言おうと思ったのだが、
最近彼女は呼びかけても出てきてくれない。
寝ていると近くに気配を感じることはあったが、呼びかけようとすると気配を消した。

そしてついに引越しの日が来た。地元に戻って家業を継ぐつもりだった僕は就職活動もせず、都会での生活にゆっくりと別れを告げていった。ただ、気になるのは彼女だ。
もう、数ヶ月も現れていない。
厄介払いができてせいせいしているかな、と思うと少しさびしくなった。

空っぽになった部屋に入ると、やっぱり何の気配も感じられなかった。
僕はその部屋にペコリと頭を下げると、ドアを閉めた。

……なんだろう。
後ろから見られているような気配を感じ、後ろを振り返った。
僕の住んでいたアパートが何とか見えるくらいの距離。
僕の住んでいた部屋の窓、そこには確かに誰かがいた。

僕が振り返ると同時に後ろを向き、一瞬、その長い黒髪だけがたなびいた
それきり、窓には何も映らなかった

『何で戻ってきた』

懐かしいフレーズだった。
僕は親に頭を下げ、もう一度ここに戻ってきていた。
あれから数ヶ月、こっちでの就職を決め、またここを下宿先に選んだ。
その間、この部屋は埋まらなかった。まあ、やっぱり何かいわくつきなんだろう。

僕はその声には答えなかった。『お前が寂しくしているような気がして』
なんていったら怒られるのがわかっていたからだ。
『……物好きな奴』
とだけ言うと、彼女はふいっと気配を消した。

その夜、寝付いた頃。
僕は首にかかる圧迫感で、ふと眼を覚ました。眼を開けるでもない、そんなまどろみの中。

「……もう、さびしいのは……」
「……それならいっそ、こっちに……」

彼女の発する言葉に、なぜか恐怖は感じなかった。
僕はもしかしたら、ずっと彼女に取り憑かれていたのかもしれない。

首にかかる力は、もとより強くはなかったが、それがさらに弱まる。
「…………でも、できない…………」
僕の頬に、何か冷たいものが落ちる。

僕は、それでも眼を開けなかった。それが、今までの僕らのルールだったから。
かわりに、僕はそっと手を伸ばす。そこにいるであろう彼女に。
冷たい、でもどこか暖かいような、すべすべとした頬。彼女の手がそこに添えられた。

そして僕は「ただいま」と言った。

彼女の頬は一瞬で温かくなり、途端に手を振り払われた。

そして彼女の答えは

『気安く触るな、ばか』だった

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実在しない月の宮駅

実在しない月の宮駅

36:本当にあった怖い名無し:2011/01/03(月)17:30:54ID:+6K9Q3od0
688名前:本当にあった怖い名無し[]投稿日:2008/02/19(火)23:52:03ID:cORtzJ3a0
書かせてくれ。

夜行列車に乗って東海道を走っていたとき、ウトウトしてたら電車が駅について目が覚めたんだ。

俺は窓辺の席。3時くらいだと思う。駅は名古屋駅のような感じだった。駅の表示をみると駅名のところに「月の宮」って書いてあるんだ。

でも、なんだか雰囲気が不思議な感じだった。現実のものとは思えないような、ちょっと薄暗くて、別に怖い感じはないんだけど。

で、よく見ると背の高い(2mくらい?)の黒いヒョロヒョロの人がホームを歩いていたんだ。複数名。影を立体化したような感じ。

なんとも書きづらいんだけど、でなんだこりゃと思ってたら座席間の通路を同じような人が二人、歩いて電車から降りて行った。

隣でいびきかいて寝てたおっさんは別に普通の人間だったし、まわりも別に普通の人。

で、電車が動き出して離れていきながら街を眺めてたんだけど、暗闇の中に東京タワーぐらいのビルが、摩天楼みたいにそびえ立ってて幻想的だった。

夢にしてははっきりとみてるし、お茶も飲んだ記憶があるから何なんだろうなぁって思う。金縛りのときの現実っぽい夢なのか、何だったのか。

月の宮っていうのは徳島に知名あるらしいけど、違う。名古屋ではない。

37:本当にあった怖い名無し:2011/01/03(月)17:31:36ID:+6K9Q3od0
488:本当にあった怖い名無し:2009/01/08(木)12:28:11ID:cNF9ZiM80
2、3日前くらいに、おそらくここの過去スレだと思うんだけれど、東海道線で夜行に乗っていたら「つきのみや」って実際にはない駅を通り過ぎたってレスを読んだ気がしたんだけど、きのう、自分もその駅見たことを思い出した。

ウトウトと眠っていて、止まった駅でここはどこだろうって見えた駅名がたしか「つきのみや」だった。

自分は浜松の人間なんで、静岡県には土地勘があるから、知らない駅名に、やべっ!愛知あたりまで乗り過ごした!って思って時計見たらまだ到着時刻よりだいぶ前だった。

で、安心してまた寝たんだけど、かなり大きな駅で(??こんな大都市あったっけ?)って思ったのを覚えている。

で、いま過去3スレくらい探したんだけど、そのレス見当たらない。