「 月別アーカイブ:2015年09月 」 一覧
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ドキンちゃんと食パンマン
ドキンちゃんと食パンマン
誰しも、一度も見たであろう「アンパンマン」そのヒロインといえば、大人になれば、メロンパンナやバタ子を挙げるだろうが、小さい子の多くは「ドキンちゃん」と言うだろう。そんな人気キャラ「ドキンちゃん」と言われて。真っ先に思い浮かぶのは、食パンマンへの純情ながら過剰なほど強い片想いだろう。多くのOPやEDでセット出演もあり、本編では食パンマンへの攻撃は仲間のバイキンマンでも許さず、簡単に裏切る。時にはこれによりアンパンマンサイドに変わることもしばし見かける。そんな食パンマン命とも言えるドキンちゃんだが、一つ決められた悲しい未来がある。それは、結婚どころか付き合う事も食パンマンとは出来ないとすでに決められているというのだ。理由は、キャラのイメージや子供に悪影響とかの話ではないらしい。ドキンちゃんはいくら可愛いと言っても、バイキンマン同様、黴菌のキャラ。ならば、食パンの食パンマンとは一緒に出来ないからという、何とも大人の理由である。そういえば乙女という設定で食パンマンが好きなのに、そこそこ距離置いているのは・・・
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銀色の犬
銀色の犬
寮に移り住んでから しばらくたったある日の事。
会社から帰り アパートの階段に足をかけたその時、どこからか子犬のか細い鳴き声が聞こえる事に気がついた。
え!? どこから聞こえるんだ?
声が聞こえたとたんに、まるでスイッチが入ったように捜し始める俺…。
駄目なんだ、ホント。
昔からそうだ。
捨て猫や捨て犬を拾って来ては、母親に怒られていた。
おかげで実家は、今も犬が二匹と猫が一匹いる。
家族が皆 動物好きなので、怒られても 連れて行ってしまえばこっちのもんだった。
さすがに今は違う。
実家から離れているし、俺は寮暮らしだ。
とても飼う事は出来ない…。
頭ではわかっているんだが、鳴き声の主を捜す事はやめられない。
あの声を聞いて、素通りできる人間がいるか!?
しばらく捜していると、アパートのゴミ捨て場から鳴き声がする事がわかった。
黒いゴミ袋が少し動いているのを見て、俺は慌ててその袋を破いた。
中を覗くと、小さな小さな子犬が二匹現れた。
酷い事しやがる…!
ゴミと一緒に捨てるなんて……。
子犬は二匹いたが、残念な事に 片方はもう息をしていなかった。
可哀相に…。この生きている子犬は、最後の力を振り絞り助けを求め続けたんだろう。
俺は死んでしまった子犬を埋めてやり、動物病院へと急いだ。
「かなり衰弱していますね。まだ目もあいていないし、生まれて間もないでしょう。
もしかしたら、初乳さえ飲んでいないかも知れません。
このまま育つのは、大変難しいと思いますね。」
獣医は言いづらそうに、しかしはっきりと俺に告げた。
「そうですか…。でも、俺が見つけたんだし、やれるだけやってみます。」
俺がそう言うと、先生は黙って子犬用の哺乳瓶やミルク、その他一式を出してきた。
「そう言うと思ってましたよ。
これはうちの病院で使ってる物ですが、お貸ししますから使って下さい。」
「あ、ありがとうございます!」
「前にも同じような事を言いましたが……その子にもしもの事があっても、あなたのせいではありませんから。
責めたりしては いけませんよ?」
「…はい。わかっています。」
実はこの先生には 一度世話になっていた。
前にスズメの雛を拾った時も、育つのは非常に難しいと言われた。
でも、2時間おきの餌やりやその他の事を乗り越え、スズメは立派に巣立っていった。(俺のHNはこの事からつけた)
今度も絶対に、助けてやる!
そんな風に気負いながら、俺は家へ 子犬を連れかえったのだった。
家についた俺は、子犬に早速ミルクをあげた。
吸う力が弱いのか、あまり飲んでくれない…。
でも少しずつでも飲んでくれれば、まだ希望が見える。
そう思った俺は、子犬を犬用のクッションに乗せ、タオルで体を包むようにしてやってから、ネット検索を始めた。
さすがに こんな小さな子犬の世話はした事はない。
どんな世話の仕方がいいのか、気をつける事は何か…。
ネットに夢中になっていると、部屋がぼんやりと明るくなっている事に気がついた。
おかしいな、あっちの電気は消したはず…。
そう思い、立ち上がろうとした俺は 思わず息を飲んだ。
犬がいる…。
それはとても大きな、狼のような姿をした犬だった。
昔見た、シベリアンハスキーをさらに大きくしたような犬が、じっと俺を見ている。
でかい…!俺の部屋の二人掛けのソファーよりでかい。
その犬は 自ら発光するように白く光り、毛並みは銀色に輝いていた。
き、綺麗だ…。
思わず見とれ、俺が動かずにいると、その犬が近づいてきた。
椅子に座っていた俺と目線がほぼ一緒な事からも、その犬の大きさがわかるだろう。
犬は 俺の顔や首筋に鼻を近づけ、フフフフと匂いを嗅いでいる。
鼻息がかかって くすぐったい!
しばらく、何かを確かめるようにいろんなとこの匂いを嗅いでいたが、くるりと向きを変え 子犬のもとへ行き、見下ろしていた。
そして何度か周りを回った後、子犬を抱え込むように横になった。
母犬…?じゃないよな、デカすぎるし…。
ミューミューと、子犬の鳴き声が聞こえる。
腹が減ったのかもしれない。
俺はミルクを作り、犬のもとへ行き
「あの…ミルク…やってもいいかな?」
と聞いた。
犬は少し尻尾をあげ、パタンと床をはたいた。
いいって事か?
とにかく子犬にミルクを飲ませようとしたが、舐める程度の量も飲んでくれない。
クッションに置いてやると、子犬は甘えるように 銀色の犬に擦り寄っていく。
そして犬は、子犬を優しく一度舐めると顔を上げ
「ゥオオォーーーーン」
と、遠吠えした。
驚いたが、その声を聞いた時、何故この犬が現れたのか 俺にはわかってしまった。
子犬を迎えに来たのだ…。
そう理解した時、俺は床に手をつき頭を下げ
「よ、よろしくお願いします。」
と、気づくと犬に頼んでいた。
犬は子犬をくわえスッと立ち上がり、俺の周りを一度回ってから消えていった。
クッションにいる子犬は、まだ暖かいが息はしていない…。
知らないうちに涙が出てきた。
子犬を助けてやれなかったから?
いや、そうじゃない。
あの銀色の犬に擦り寄っていた子犬は、本当に安心していたし 嬉しそうに俺には感じられたから…。
俺はきっとまた、捨てられた子犬や子猫を 性懲りもなく拾ったりするんだろう。
「その時の為に…ペットOKの部屋探すかな…。」
子犬を抱きしめ、静かになった部屋で 俺は呟いていた。
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八尺様
八尺様
親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか冬休みなんかにはよく一人で遊びに行ってた。
じいちゃんとばあちゃんも「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで行った。
まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。そうしたら、「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」
と変な音が聞こえてきた。機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じがした。
それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
生垣の上に置いてあったわけじゃない。帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで来ると、一人女性が見えた。まあ、帽子はその女性が被っていたわけだ。
女性は白っぽいワンピースを着ていた。でも生垣の高さは二メートルくらいある。その生垣から頭を出せるってどれだけ背の高い女なんだ…
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、踵の高い靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思わなかった。
その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。
「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」
と言っても「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、
「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」
と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。いや、本当にぴたりと止った。その後、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」
と、じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にある電話まで行き、どこかに電話をかけだした。引き戸が閉じられていたため、何を話しているのかは良く分からなかった。
ばあちゃんは心なしか震えているように見えた。じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。
何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。
と必死に考えたが、何も思い当たらない。あの女だって、自分から見に行ったわけじゃなく、あちらから現れたわけだし。そして、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」と言い残し、軽トラックでどこかに出かけて行った。
ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、
「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何にも心配しなくていいから」
と震えた声で言った。
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してくれた。この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。
八尺様は大きな女の姿をしている。名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼぼぼ」と男のような声で変な笑い方をする。
人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年増だったりと見え方が違うが、女性で異常に背が高いことと頭に何か載せていること、それに気味悪い笑い声は共通している。
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村、今で言う「大字」にあたる区分)に地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。
最後に八尺様の被害が出たのは十五年ほど前。これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、八尺様がよそへ移動できる道というのは理由は分からないが限られていて、その道の村境に地蔵を祀ったそうだ。八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と何らかの協定があったらしい。例えば水利権を優先するとか。
八尺様の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な協定を結べれば良しと思ったのだろうか。そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。当然だよね。
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレのドアを完全に閉めさせてくれなかった。
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には盛塩が置かれていた。
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その上に小さな仏像が乗っていた。
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。これで用を済ませろってことか・・・「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。俺もばあさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。そうだな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。七時になったらお前から出ろ。家には連絡しておく」
と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様の前でお願いしなさい」
とKさんにも言われた。テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛れない。
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気が全くおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、何だか忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。
(この頃は携帯を持ってなかった)なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような音だったと思う。
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつかなかったが、必死に風のせいだ、と思い込もうとした。
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして無理やりテレビを見ていた。そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」
思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。
また声がする。
「どうした、こっちに来てもええぞ」じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に鳥肌が立った。
ふと、隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください」と必死にお祈りをはじめた。
そのとき、
「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」
あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして窓ガラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしのテレビがいつの間にか朝のニュースをやっていた。画面隅に表示される時間は確か七時十三分となっていた。
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか気を失ってしまったかしたらしい。
盛り塩はさらに黒く変色していた。念のため、自分の時計を見たところはぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。下に降りると、親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。そして、庭に何人かの男たちがいた。ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。
「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下を向いていろ。俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」
右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後に親父が運転する乗用車という車列で走り出した。車列はかなりゆっくりとしたスピードで進んだ。おそらく二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。
間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。
「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」
またあの声が聞こえてきた。
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ、下を向いていたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。目に入ったのは白っぽいワンピース。それが車に合わせ移動していた。
あの大股で付いてきているのか。
頭はウインドウの外にあって見えない。しかし、車内を覗き込もうとしたのか、頭を下げる仕草を始めた。
無意識に「ヒッ」と声を出す。
「見るな」と隣が声を荒げる。
慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。コツ、コツ、コツ
ガラスを叩く音が始まる。
周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。
Kさんの念仏に力が入る。やがて、声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが「うまく抜けた」と声をあげた。
それまで黙っていた周りを囲む男たちも「よかったなあ」と安堵の声を出した。やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが「お札を見せてみろ」と近寄ってきた。
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。
Kさんは「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持っていなさい」と新しいお札をくれた。その後は親父と二人で自宅へ戻った。
バイクは後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。
親父も八尺様のことは知っていたようで、子供の頃、友達のひとりが魅入られて命を落としたということを話してくれた。
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは極々薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。
親父の兄弟(伯父)は一晩でこちらに来られなかったため、血縁は薄くてもすぐに集まる人に来てもらったようだ。それでも流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、また夜より昼のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。
道中、最悪ならじいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。そして、先に書いたようなことを説明され、もうあそこには行かないようにと念を押された。
家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、あの夜に声をかけたかと聞いたが、そんなことはしていないと断言された。
やっぱりあれは…
と思ったら、改めて背筋が寒くなった。八尺様の被害には成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということだ。まだ子供や若年の人間が極度の不安な状態にあるとき、身内の声であのようなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。
それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日談ができてしまった。
「八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまった。それもお前の家に通じる道のものがな」
と、ばあちゃんから電話があった。
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえなかった。じいちゃんも起き上がれなくなってからは絶対来させるなと言っていたという)今となっては迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。
「ぽぽぽ…」という、あの声が聞こえてきたらと思うと…
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消えた女性客
消えた女性客
深夜人気の無い郊外で、一人の若い女が手を上げた。
タクシー運転手は直ぐさま女性を乗せ行き先を聞くと女性はうつむいたまま
「真っ直ぐ進んで下さい・・・・」
とだけ暗く小さな声で言う。女性は乗車後もずっとうつむいたままである。
重苦しい空気を払拭しようと運転手は女性に色々と話し掛けるが返事はそっけなく「ハイ・・・」だけである。
女性の言うままに車を走らせると家に到着した。すると女性はどうやら財布忘れたらしく支払いが出来ない。
すると「お金を家に取りに行きますのでこのバックを置いていきます・・・」
お金を払わずに逃げるような人間ではなさそうなので、「分かりました」と運転手は了解した。しかし、女性は戻って来ない。
しびれを切らした運転手は女性宅にバックを持って伺うと両親と思しき中年夫婦が出てきた。
事情を話しバックを見せると夫婦は泣き崩れた。「娘は先日亡くなったのですがそのバックは生前使用していたものです。」
死んだ娘の霊がタクシーに乗って帰宅したというのだ。
「運賃はおいくらだったでしょうか?」
と両親が言ったが、運転手は御代は受け取らず、娘さんに手を合わせて家を後にした。
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女の存在を知らせること
女の存在を知らせること
※※注意※※
この話を読む前に次のことをしてくれるとうれしいです。1、左足のすねを触ってください。
2、触ったまま目を閉じて「篠原」という名前を頭のなかで呼んでください。
3、同様のことを左の薬指と小指にも行ってください。
以上のことを行った方から下にお進みください。
なお、かなりの長文ですが区切らず、話を進めていこうと思います。今から8年と10ヶ月前のことです。当時、高校3年生だった僕は富山の立山というところに住んでいました。桜もほとんどが散り、とても暖かい一日でした。
受験シーズンに入ろうとしていましたが、僕はただダラダラと過ごしていました。
高校を卒業した後、実家の弁当屋の手伝いをすることに決めていたからです。周りもそんな奴らばっかりでした。僕の学校はレベルが低く、ガラの悪いのが当たり前みたいな感じでした。僕自身も髪の色は茶色でした。友達のIとHとは中学からの親友でした。
カツアゲみたいなことはしなかったけれどバイクに乗ったり(当時、無免許でした。)、タバコ吸ったりはしていました。「明日、遊びにいかん?」といってきたのはHからでした。ちょっと遠くにいかんけ、と。富山には、遊べるほどの場所がほとんどありませんでした。あってもパチンコくらいです。「どこに行くが?」と聞くと、Hは「村。」と一言いいました。
「なん、実はそこで肝試しやろっかな・・・って思って。いや、女子とかも誘うし!」と付け加え、行こう、と言ってきました。
正直、楽しくなさそうだなと思っていましたが。女子もくるなら・・・ということでそれに応じました。Iはかなり乗り気でした。「俺、写るんですもって来る!」みたいなことを言ってたような気がします。
「じゃあ俺、女子誘うわ。」といってHが右足の義足を引きずりながら。女子のところに歩いていきました。Hの右足はひざから下がありません。本人は「バイクで事故った。」と言ってました。
結局、集まったのはIとHと僕、女子が3人の計6人。電車を乗り継ぎ、2時間くらいかかりました。「マジで合コンみたい。」「やっば楽しくなってきたんやけど。」といっていました。
Hがいうには普通の村だけどそこで幽霊がでるらしいのです。
といっても怖さは全然ありませんでした。ただのお楽しみ会のようでした。
村ではほとんどが田んぼですが、ポツリポツリと明かりがついてました。まさに「田舎」という感じです。いく当ても無くただ歩いていました。遠くから人が話している声も聞こえてきました。なんかおかしいな、と思い始めたのはそれから5分くらい経ってからでした。
女子が「なんか気持ち悪い。」とか「歩きたくない。」といい始めました。なんの冗談だよ、マジでうぜえな、と思っていた僕ですが、だんだんと目眩がしてきました。キーーーンと耳鳴りもしてきています。このときはまだ余裕がありました。Iは「幽霊来るって。まじカメラもって来てよかったし。」と笑っていたと思います。
ふいに、自分達が歩いているとこがアスファルトから、砂利道に変わったことに気がつきました。あれ?と思い周囲を見渡します。女子の一人が「どうしたん?」と声をかけてきました。
村の雰囲気がおかしかったのです。
邪気とかそういう意味ではなく、なんとなく古くなっていました。昭和の村というか、タイムスリップしたみたいでした。
女子もなんか古いよね、といい始め。Iもカメラを撮り始めました。
目をやると酒屋だと思われるところに「キリンビール」とかいてあるポスターも貼ってありました。その横にはビール瓶とそれを入れる籠が置いてあります。
家からはテレビの音が聞こえてきます。昔の音というか、独特の音楽が流れてきました。
ここまでくるとさすがに不気味になってきて誰からともなく「引き返そう。」というようになってきました。ところがHは「もう少しだけ進もう。頼むから、もう少しだけ。」といってどんどん進んでいきます。
このころから僕はHに疑問をもつようになりました。これまでHは一言もしゃべってないし、適当に歩き回っているはずなのに「もう少しだけ進もう。」と僕たちに言ったりしたり。あきらかにHは「目的をもって」行動していまいした。ただそれは、今だから考えられることであのときは「なんか怖いな、H。」ぐらいにしか思っていませんでした。
Hは右足を引きずって黙々と進んでいきました。
民家からは「東京ブギウギ」が流れてきていました。Hの動きがある家の前でピタッと止まりました。「H、帰る気なったん?」と女子が聞いてきました。くるっとHが僕たちを見回しました。Hが僕たちを見る目には哀れみが混ざっていました。Iが「なに?ここが幽霊でるとこ?」と勝手に入って行きます。女子も入っていきました。それに続いて僕とHも門をくぐりました。
表札には「篠原」と立て掛けられていました。その家は他の家と違って電気はついていませんでした。
庭から物音がすることに気付いたのは女子の一人でした。勝手に入ってたら怒られるな、と思って出ようとすると、Hが「あっちに行こう。」と言い出しました。「ふざけんなや。」IがHに向かっていいましたが。女子やHはすでに物音のする方向に向かっていて、Iも僕もしぶしぶそこに歩を進めました。
そういえば、人に会うのこれがはじめてかも・・・と思っていましたが、真夜中だしこんなものだろうかと思い、気にしませんでした。庭を少し歩くと人がいました。「第1村人発見じゃね?」とIが僕にいってきます。あれは幽霊じゃねえだろ、と考えながらHに尋ねました。
Hの顔が異常でした。鼻息はフーフーと荒く、汗が傍目からでも分かるほど流れていました。足が震え始め、次第には歯を鳴らすようになりました。
Hの目線に合わせて頭をスライドさせてもそこには後ろ向きにかがんでいる人がいるだけ。かがんでいる人は古い花柄のワンピースを着ていて、肩にかからないほどのパーマをかけていました。この人も昭和みたいだな。というのが第1印象でした。
その女の人は右手を振りかざし、そのまま目の前の地面に手刀よろしく右手を振り落としていました。そして、女の人の向こうにはマンホール4,5個分くらいの穴がぽっかりと開いていました。正直、明かりもついてなかったので、女の人がなにしているのかわかりませんでした。穴にもなにがあるのかさっぱりです。黙々と作業している女の人を後ろから眺めている6人の男女。
隣の家からは、「りんごかわい~や~かわいやり~ん~ご~」とかなんとかと歌っている女の歌手の声。
なんだこれは、と一人で苦笑していると突然女の人の周りが明るくなりました。その後にパシャっというカメラのシャッター音。「ああ、まちがってIがカメラを押しちゃったんだな。」と理解する前に僕の頭のなかは目の前の光景に引き付けられました。
女の人の右手には大振のナタがあり、光りでなぜか赤茶色に反射しました。それよりも息を呑んだのは穴の中の光景でした。
一瞬の光りでも僕の目はそれを認識しました。バラバラの手が、足が、指が、胸が、破れた服が、大きい額縁めがねが、頭皮が、髪の毛が見えました。それもいくつも。真っ赤な斑点が無数にとびちり、真っ赤な臓器のようなものも見えた気がします。女の足元には先ほど切ったであろう体が千切れかけで転がっていました。
全身の毛穴が開くような感覚がありました。手が足が震えてきました。唐突にHが門に向かって走りだしました。右足がないとは感じさせないほどはやく、ずり、ずりと。後ろにいたHがいきなり走り出し、僕は顔を後ろに向けました。目線がHに向いていく中、僕の視界は端に女の姿を捉えました。ゆらりと女は立ちあがって体は小刻みに揺れています。ぎゃああああ。
女子の一人が叫んだのが合図になりました。
女は回転切りをするように体を半回転させました。右手にナタをもって、関係の無い左手も思い切りふり上半身だけをまず回し、次に下半身を動かす歪な動き方で。ナタは叫んだ女子のこめかみを捕らえました。女の動きに合わせて女子の体も動きます。シュトっという子気味よい音と同時に女子の叫びもぷつりと切れました。
ナタと一体となった女子は不自然な格好でその場に突っ伏しました。このときには僕やIや女子は走り出していました。
4人の精一杯の合唱も息ピッタリに重なり合いました。「えぐっ。」と呻き声をだして女子の一人が体は走っているのに頭だけは女に引き寄せられていました。見ると長い髪の毛をわし掴みにされ引っ張られていました。僕は顔を前に戻し、走り続けました。女の子を見殺しにしました。あのときは恐怖が頭のなかを占めていてそれどころではなかったのです。
「やめっ、ああああいいいい!!!」女子が叫び、泣き出しました。叫び声をあげている途中もシュトン、シュトンとナタを振り落とす音が聞こえてきました。僕とIと女子一人の三人は一気に砂利道を駆けていきました。
先頭を走っていた女子が方向を変え、明かりのついている家の戸を叩き「助けてくださいぃ!!」とドンドンと引き戸を叩き始めました。引き戸を開けようとすると、スーーっと戸が開き、力を入れていたため、女子は多少よろけています。それでも玄関に転がっていくようにして入っていきました。僕もその家に入りました。「助けったすっ。」と掠れながらも必死に声を出しました。Iは一瞬足を止め、躊躇っていましたが、別の方向へと走っていきました。なかの風景も異常でした。オレンジ色の豆電球が上からぶら下がっているだけ。ちゃぶ台には味噌汁や焼き魚、おひたしが並んでいました。テレビはサザエさんの家にあるような大きなテレビで、ふすまや座布団もありました。
でも人がいません。そこから人だけが消えたよでした。僕はそんなこと気にもせず、「誰かっ。誰か。」と声を出し続けました。涙声で鼻水をズルズルとすっていました。僕と女子は顔を見合わせます。「誰もいない・・・。」一体どうなっているのかわかりませんでした。ガラガラガラガラ・・・
心臓が飛び出るのではないかと思いました。
誰かが戸を開けて入ってきました。Iだろうか?それともこの家の人だろうか?と思っていましたが、女子は顔を強張らせてこっちをみています。あの女だ。
反射的に押入れに手をやりました。押入れの中は新聞紙が敷いてあるだけでした。僕は女子そっちのけでなかに入ります。それに続いて女子も。すっと閉め、息を殺しました。
その直後ぎしぎし・・・と足音が聞こえてきました。脂汗が吹き出てきます。しばらくぎしぎしと音が鳴り。辺りを探していました。よく聞くと「ほほほほほほほっほほほほほほほほほほほほほほほほほ・・・。」と笑っているような声が聞こえました。女の人の金きり声のようでした。ドクドクと心臓が高鳴ります。ふいに、物音がしなくなりました。女の声も聞こえません。無音になりました。僕は女子の顔をみようと顔を上げました。「そこかぁ。」
シュッと戸が開き、向こうから腕が伸びてきました。手は血で赤く染まっていました。その手は女子の首を掴み居間へと引きずり出しました。「いやああああああああああぁぁああ。」と叫ぶ声が聞こえます。
僕は咄嗟に押入れから飛び出しました。彼女を助けるためではありません。今なら逃げ出せる、と思ったからです。
中腰のまま僕は飛び出ました。女は僕に気付き、「あはっ。」と笑い声を出しました。そこで女の顔を僕はのぞいてしまいました。顔色は薄い灰色で返り血や電球のオレンジ色で変な抽象画をみているようでした。唇は不自然な程潤っていて、異常なほど口端を吊り上げていました。目は明らかに焦点があっておらず、半分白目のようでした。口からは「ほほほほほ・・・」と空気の漏れるかのような音をだしています。
女は左手で女子の首を抱え、右手のナタを僕に向かって振り下ろしてきました。シュト
目の前に芋虫のようなものがくるくると飛んできました。なんだあれは、と目をこらすとそれは指でした。状況が判断できず、それでも逃げようと左手を床についたとき、いつもある左手の小指と薬指がなく、代わりに飛び散った血がありました。
「びゃぁああうううう・・・。」情けない声を出して僕は畳を転げ回りました。全身の毛が逆立ち、耐え難い苦痛が僕を襲いました。心臓が早鐘をうっています。それでも僕は左手を押さえながら、必死に玄関に向かいました。
「いやっいやだぁああ!ああああああ!」と必死に叫ぶ声と食器をひっくり返す音を背後に聞きながら僕は玄関を出ました。誰でもいいから助けてください。自分の血が服につき、涙と汗で顔がグシャグシャになっていました。
来た道を必死に思い出し走りました。あああああと叫び声を上げていました。砂利を踏む音がアスファルトに変わっていったのは走り出してしばらくしてからのことでした。ここから後は記憶が飛んでいて、次に思い出せるのは病院で目をさましたところからです。
あのとき、通りかかった人が血だらけにいなりながら泣き喚いている僕を見つけ、近くの労災病院に運んでくれたらしいです。両親は警察に被害届を出しておらず、(普段でも家に帰ってこないことは日常茶飯事でした。)両親が病院に駆けつけたのは僕が目を覚まして両親の名前と住所を言ってからのことでした。
次第に落ち着いてきた僕は起こったことを医師や両親に話しました。肝試しをしにここに来たこと。歩いていたら、景色が変わっていったこと。ナタを持った女が襲い掛かってきたこと、女子3人が見ているかぎりもう死んでしまったこと。僕がこのことを喋ったことで始めて事件としてみてもらえるようになりました。
しかし、5人のうち、女子3人の遺体は発見されず、行方不明者扱いになってしまいました。Iの行方もいまだに分かりません。おそらく女に見つかってしまったのではないかと思います。しかし、Hだけは、自宅にもどり、今回の事件のことを話さないでいたとのことです。目を覚ましてから2日後、Hが僕の病室を訪れました。
「○野(僕の名前)お前に話しておきたいことがあるんやけど・・・。」Hは第一声にこう切り出した後、「とりあえず、助かってよかった。」といいました。
Hのどの言葉がカンに触ったのかはよく分かりませんが、一気に頭に血が上りました。「おんまえ!なにがよかったじゃボケが!てめえがさそわんけりゃこんなことにならんかじゃこのだぼが!」他にも汚い言葉をHにぶつけたような気がします。Hは黙って聞いていて僕が1通り言い終えると「実は。」と言い出しました。ここからはHがいったことを簡単にまとめたことを書いていきます。
実はHはあの場所に行くのは2回目だということ。
高校に入る前に地元の先輩に誘われて、社交辞令的な感じでいき、同じように景色が変わり始めたこと。
「篠原」という家に連れて行かれ、同じようにナタを持った女に襲われたこと。
そして先輩の1人が止めようとして腹を切られてしまったこと。
残りの先輩たちと命からがら逃げたこと。
そしてこの肝試しを考えた先輩がこういってきたこと。「あの女からは絶対に生き延びられない。女は自分を知っている奴らの四肢を少しずつあの世界から奪いに来る。そしていつかは手足の無くなった俺の首を落としに来るだろう。」
「ただ、あの女から殺される時間を少しだけ延ばす方法がある。それはあの女の存在を知らない奴にあの女のことを記憶させること。」
「女は自分のことを知っている奴らを無差別に殺して回っている。裏を返せば、あの女の存在を1人でも多くの人間に記憶させれば、自分が四肢をもがれる可能性が少なくなる。」
「俺は前にも同じ目に会ってあの女の存在を知らされてしまった。俺は少しでも死ぬ可能性を低くするため、お前らにあの女を記憶させた。お前らも少しでも生きたかったら、あの女の存在を他の誰かに知らせてくれ。」
そしてその4ヶ月後、Hはバイク事故という形で右足をもがれたこと。
事故にあったときその女が視界の端にみえたこと。
そしてあの女が自分の右足を掴んで笑っていたこと。
そのことに恐怖を覚えたHは仲間である俺たちにもあの女の存在を知らせようと思ったこと。僕はただ唖然としていました。Hは「すまん。」と短くいうと席を立ち静かに去っていきました。外では鶯がないていました。
この話は上でも話したとおり、9年近く前の話です。あのときから僕は今までのことは忘れようと考え、生活してきました。退院してからなんとか学校にはいこうとしたのですが、休みがちになり、結局、中退という形をとりました。
そのあと、通信制の学校に入り直し、弁当屋を手伝いながら、勉強していました。1年前僕は階段から落ち、打ち所が悪かったのか左足を骨折しました。
そして階段から落ちるさなか、階段の上から異常な程に唇をつりあがらせたあの女がいました。入院を余儀なくされた僕は左足にギプスをつけ、通信制の高校の勉強をしていました。
入院してから左足が熱を持ち始めて痛みを持ち始めたため、医師に頼んでギプスを外して診てもらうと僕の左足はすねから下が腐っていました。切断を余儀なくされました。あの女に左足を持っていかれた。そう思いました。そして、Hと同じ考えを持つようになりました。誰かにあの女の存在を教えてやろうと。ここで一番上の「お願い」について話していきたいと思います。
左足と左薬指、中指は僕があの女に「持っていかれた」部位です。やってくださった方はこれで僕がどこを切断したかを確認していただけたと思います。
次に、僕はこの話をできるだけ「細かく」「詳しく」書きました。それは少しでも読者の方々にあのときの描写を想像してもらおうと思ったからです。
つまり、皆さんにもぼくの「あの女についての記憶」を共有してもらい、僕が次に四肢を失う確率を少しでも下げようということです。本当に申し訳ありません。
身の保身のためだけに今回書かせていただきました。しかし、これを書いていて安心している僕もいます。せめてもということで皆さんのところにあの女がくることが無いように祈っています。