怖っ!怖っ?怖い話

いろんな怖い話を集めています。

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「 謎 」 一覧

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長い首

今でもわけがわからない。

4年前、前の職場で働いていたときの話。

季節は冬に入った頃、かなり寒くなってきた頃だった。

その時、少し難しい案件の見積依頼を受けていて、担当者である自分一人だけが夜まで事務所に残っていた。

見積書の提出期限が次の日の朝だったからだ。

深夜1時を廻った頃、ふと見たら窓ガラスに誰かが張り付いていた。

事務所はビルの8Fフロア。

窓ガラスはそいつの周辺だけ、真っ白に曇っていた。

両手を押し付けて、赤い服を着ているように見えた。

曇ったガラス越しでぼやけているので、詳しくはわからない。

押し付けた両手と同じ高さに顔があって、輪郭が白くぼやけていた。

張り付いている奴は荒い呼吸をしているらしく、口のある辺りだけ、窓の曇りがやたら濃くなったり、薄くなったり。

何がなんだかわからないまま、呆然とそれを見ていたら、そのまま後ろに倒れるかのように、べり、と剥がれて居なくなった。

疲れて夢でも見てるんだろうか?と、漠然と思ったけど(もしかして今のは、いわゆる幽霊というやつでは?)と考え出したところで、やっと恐怖を感じるようになった。

今のはなんだったのだろうと思って、あの窓ガラスに近づいていった。

曇った部分に触ろうとした時、向いの鏡張りのビルが目に入った。

俺のいるフロアの真上の窓に、さかさまに張り付いている人間らしき姿が見えた。

首を伸ばして、上から俺を覗きこんでいるような格好だった。

俺は弾かれたように事務所を逃げ出したんだ。

深夜で電車も無かったから、始発までコンビニに逃げ込んで、ひたすら立ち読みして始発に乗って家へ帰って、テレビを点けてソファで震えていた。

これ以降は後日談も何もない。

誰にも話さなかったし、別に何も起こらなかったから。

ただ、本当に不思議な経験だった。

あの髪の無い、つるっとした白い後頭部と、長い首が忘れられない。

でも最悪、顔を見なくてよかったとも思う。

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山道のベンツ

友達と山にドライブに行ったとき。

深夜で、しかも霧がかかってたので、後続車も無いしチンタラ走ってたんだ。

俺達は、頂上付近の展望台を目指していた。

すると、かなりのスピードで俺達に接近してくる後続車。

後ろにいた友人が、

「ベンツや!スモーク張ってるし、やばそう!!」

と。

運転手だった俺は、停車するにもこの勢いじゃ追突される・・・!と思い、アクセルを踏んだ。

まだまだベッタリとケツに張り付いてくるベンツ。

霧などお構い無しに、勘だけを頼りに車を走らせていると、ようやく展望台が見えてきた。

俺は展望台の駐車スペースに、スっと車を入れた。

「これで前に行かせられる・・・」

と、ホッとしていられたのもつかの間。

ベンツも同じように停車した。

しかも、出入り口付近に停車しているので、逃げる事も出来ない。

俺達は恐怖の余り、車内で黙る他なかった・・。

そして、ベンツからいかにもな風貌の男が二人降りてきて、俺達に近づいてきた。

コンコン。

と、窓を叩く細身でメガネの男。

パリっとしたスーツを着て、清潔感もあるが、やはり独特のオーラは消せていない。

俺は窓を10センチほど開けた。

「こんな時間に何をしとるんや?」

と聞かれ、

「ここで夜景を見ようと思って・・」

と俺が答えると、もう一人の体格の良いヤクザ風の男が、

「男ばっかりで夜景かいな?寂しいのぅ!」

と笑った。

「煽ってすまんかったな。兄ちゃんらもええ車乗っとるから、こっちのモンか思ってのぅ。勘違いや」

俺達は一気に安心した。

どうやらこれ以上、怖い思いはしなくてすみそうだな・・と思った。

その後、自販機でジュースを奢ってもらい、タバコを吸いながらしばらく談笑した。

100%ヤクザだとは思うが、普通のオジサンみたいな感じもした。

「ほな、ワシら用事があるから行くわ」

と、細身の男。

俺達は礼を言って、二人が車に乗り込むのを見送った。

細身の男が前、体格のいい方が後部のドアを開けて、それぞれ車に乗り込んだ。

男達のベンツはエンジンをかけたまま暫く動かなかったので、その間、俺達も固まっていた。

3分後くらいにブオーン!と勢い良く、登りの方へ消えていった。

展望台より上に行くと、ほとんど整備されていない獣道があるだけなのにな?

と、少し疑問に思ったが、

みんな安心して、

「マジ怖かったー!」

「洒落ならんわ!」

とか、安堵の表情で言っていた。

でもその中で友人のAだけ、まだ暗い表情をしている。

「どうしたん?大丈夫か?」

と、Aに尋ねた。

Aが、

「俺、見てもうた気がする・・・・」

「ゴツイ方が後ろのドア開けた時に、手ぬぐいみたいなんで口塞がれてる人が見えた・・・」

俺達は考えたくはなかったが『山+893=埋める』という嫌なセオリーを頭に浮かべた。

「はよ言えや!!」

と、他の友人が恐怖に満ちた表情で叫んだ。

俺達は、車に乗り込んで一目散に下山した。

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肉塊

小さい頃住んでた借家が薄気味の悪い家でね。

近くにお墓がいっぱいあった。

近所では事故や火事が沢山おこっててね。

近くのタバコ屋やってたばあちゃんの家も火事になった。

築何百年かという大きい茅葺き屋根のお屋敷でね。

その家にはタバコ屋のばあちゃんと、その子供のおばちゃんの2人が住んでたんだけど、2人とも火傷程度で難を逃れたのだけれど、焼け跡から巨大な肉塊が発見されたんだ。

その焼けたお屋敷にはどうやら座敷牢があったらしく、消防団が中に入った時には、中でものすごい勢いで燃えてたらしいんだ。

弟の友達のお父さんが消防団やってて、一番に入って行ったから後で聞かせてもらった。

新聞にはその肉塊の事は載ってなくて、居なかった事にされちゃったんだけど、タバコ屋は駄菓子も売ってて、俺が小学生の頃、よくお菓子買いに行ってて、ばあちゃんが古い漫画をくれたんだよね。

ばあちゃんが読まないような少女漫画ばっかりだったから、この本誰のだろうって疑問はあったけど、漫画が結構面白かったから、いつももらってた。

今思えば、その漫画を通して唯一世間と繋がってたのかなって、、、

んで、火事から数週間が過ぎた時に事件がおこった。

火事から数週間過ぎた頃に、その焼け跡に車が突っ込んだのね。

直線道路なのに、どうやったらそこでハンドル切るんだろうって謎な事故で、運転してた20歳の男の人は即死だった。

座敷牢の人に呼ばれたのかなって思った。

それから、そのお屋敷跡の前の道路で事故がまぁ起こる起こる・・・

1年で8件の事故がおこった。

そして周辺で火事も多発し始めて、警察も気がついたのかどうか知らないけれど、座敷牢の人について、聞き込みをしていた時期があったんだ。

ある日、神主さんが焼け跡と近所の無縁仏のお祓いをしてて、そのしばらく後に道路が拡張される事になった。

事故が多発した為だろうけど、その拡張工事がどうにもおかしいんだ。

拡張工事が始まる少し前に我が家は引越したのだけど、近所に住んでた友達の家に遊びに行く時に、数年ぶりにその道路を自転車で通った。

そしたら焼け跡にはアパートが建ってて、普通の光景だったんだけど、その横にトタンで覆われたエリアが道路のど真ん中にあるわけ・・・

それは無縁仏のあった場所で、2車線の道路がいきなりそこで1車線になって、道路の真ん中にポツンと存在してるんだよ。

んで、その前後に道路標識の『黄色にビックリマーク』という意味のわからんのが、10本くらい立ってて、まあ、一目見て異様な光景だったんだ。

だったというのは、現在はそのエリアも取り壊されて普通の2車線道路になってる。

あまりにも気持ちが悪い光景だったので、写真でも撮っておこうかと、使い捨てカメラを持って友達と冗談半分で写真を撮ろうとしてた時に、たまたまそれを見てた近所のおじさんが、ものすごい勢いで怒鳴りつけてきた。

怒鳴りつけてきたおじさんが怖すぎて、俺も友人も一目散に逃げたのだけど、

おじさんは『祟られるぞ!!』って怒鳴ってた。

んで、その後に友人と話をしてて、タバコ屋の火事の話になって、タバコ屋にもうひとり人がいたの知ってる?って聞いたら、どうやらそいつも小学生の時にタバコ屋で駄菓子を買った時に漫画をもらったらしい。

肉塊の噂はお互い知ってたから、あの人の漫画だと思う?って聞いたら、そいつその時になって初めて気づいたみたいで、顔が真っ青になって、漫画はまだ家の本棚にあるからお祓いしてもらわないとって事になった。

んで、友人の家にいって漫画の事を親に話して、近所の神社にお祓いに行く事になった。

そんで神主さんに友人の親が電話で事情を話して、俺と友人は神社に着いた時には神主さんが待ってて、事務所みたいなとこでしばらく待たされている間に、神社に警察がやってきた。

俺も友人も、近所であった事故と火事の事を、覚えている限り、根堀り葉掘り尋ねられた。

神主さんが警察を呼んだのだろうけど、どうやら肉塊の事を聞き出したいのはわかった。

案の定、その話になって、俺も友人も存在は聞いたけど、見たことは無いし、この漫画がその人の物かどうかはハッキリとわからないとしか答えられなかった。

その1週間くらい後に、友人から聞いたんだけど、タバコ屋の横にあった古い無縁仏のお墓に、どうやら肉塊が埋葬されたという話を親がしてたそうだ。

どういう繋がりで、どういう人物なのかは知らないのだけれど、そういう一族がタバコ屋のばあちゃんのお屋敷に居たというのは間違いないらしい。

そして、友人がその後、怖い事を言い始めた。

トタンに覆われたその無縁仏の墓を覗いて、名前を見たという。

タバコ屋のばあちゃんの苗字は『W』

無縁仏は『T』苗字が違う。

身内ではなかったというのは、そこではっきりしたが、俺も友人も、それが誰なのか知りたくて知りたくてしょうがなかった。

当時中学生だったので、好奇心が恐怖よりも先にきて、変わった苗字だったので調べてみることにした。

俺と友人はまだ中学生だったので、役所で謄本を調べるとかはちょっと無理だと思ったので、市立の図書館で色々と調べてみたのだけれど、その苗字の手がかりは掴めなかった。

2週間くらい、郷土資料館やらも合わせて調べてみたのだけれど、全く成果が無くて結局謎のまま有耶無耶になってしまったのだけれど、それから10年以上過ぎて遂にその苗字を耳にする日がきた。

その変わった苗字を耳にするというより、本人を見つけてしまった。

仕事の関係で会った人なのだけど、どうやらこの人が肉塊の謎を解く重要人物かもしれないと、このチャンスを逃したら一生、肉塊の謎は解けないと思い、近づいてみることにした。

が、今思えば迂闊だった・・・

肉塊一族で間違いはなかった。

無縁仏のあった場所は、現在では直線道路になっていて、お墓はどこか他の場所へ移されているのだが、それが『T』さんの元にあるのは恐らく間違いないと思う。

道路を最初に拡張する時に、さっさと公共墓地にでも移せばいいものを、それをしなかったということは、身内の存在があって何か衝突でもしてたのだろう。

今思えば、警察がわざわざ神社にやってくるなど余程の事だ。

あの時、警察は『T』さんを知っていたのではないだろうか。

そして現在、肉塊は『T』さんの元で供養されているはずなのだ。

俺がもっと早くにこの事に気づいていれば、肉塊の祟りを受けることも無かったかもしれない。

『T』さんに探りを入れたのが間違いだったのだろう。

当たり障りないように、

「変わった苗字ですが、地元の方ですか?」

と聞いた瞬間、顔色が変わったのがわかった。

中学生の時まで地元にいたという話だけで、後ははぐらかされた。

『T』さんと会ったのはそれが最後で、仕事先でも会う事はなかった。

が、どうも俺はその時、『T』さんと一緒にいた肉塊の霊を連れてきてしまったようで、奇妙な事が身の回りに起こり始める。

それまで金縛りにあったことは無かったのだが、肉塊を連れてきたであろうその晩、金縛りになった。

低い声が聞こえて、仰向けの俺の腹の上に黒い何かが乗っている。

体がぴくりとも動かず、油汗をかきながらウンウンとうなっていた。

体が疲れていて、脳だけが覚めている状態で金縛りは起こるらしいが、そういうものではなく、体を何かが押さえつけている感覚だった。

この時、初めて金縛りにあったのだけど、小学生の時、まだ薄気味の悪い借家にいた時、俺の母親も同じものを見た話を思い出してゾッとした。

小学生だった時のある晩、母親が血相を変えて、俺と弟が寝ている部屋へ飛び込んできて、さらにそこで「エーっ?!」という悲鳴をあげたことがあった。

何があったのかと聞くと、母親の枕元に誰かが近づいてきて、そこで座って動かないものだから、俺か弟のどちらかが、いつまでも寝ずにウロウロしていると思い、早く寝なさいっ!と叱りつけたら誰もおらず、慌てて俺と弟を見に行ったら二人とも熟睡している。

枕元に黒い何かが座ったと言ってたのだが、俺の元に現れたのもそいつなのだろう。

母親が黒い影を見たのは、肉塊が死んだ少し後の事だった。

俺は初めて金縛りにあった翌日、交通事故を起こした。

仕事先に向かう途中で、見通しの良い直線道路で時速は50キロ程度だったのだが、体が重くなり、あっと思った瞬間、民家の壁へ突っ込んでいた。

俺はそこで気を失ってしまったのだが、目が覚めてまっ先に肉塊の事を思い出した。

あのお屋敷の前で起こり続けた不可解な交通事故を、自分が起こしてしまった。

ここで俺は肉塊に取り憑かれている事を確信して、肉塊に連れて行かれるのではと怯えた。

事故で頭と胸を打撲していて、右足にもケガをしていたが、俺はとにかくこれはマズイと、その足でお祓いを受けに行く事にした。

事情をよく知っているであろう、あの神主の元を訪ねてみた。

神主はもう亡くなっていて、当時の事情を知る人はいなかった。

火事の事、無縁仏の事を伝えてみたが、誰も知らなかったが、地縛霊のようなものに取り憑かれていると伝えると、お祓いを簡単にしてくれた。

それがとても簡単すぎるものだったので、俺はこれはダメなんじゃないかと不安になったが、案の定駄目だった。

それからも黒い影が度々俺の元に現れた。

事故のケガはさほど重症でもなかったが、胸がとにかく苦しく、黒い影がひどい時には4時間ほど俺の体を押さえつけて、精神がすっかりまいってしまって仕事には出られず、会社も辞めてしまった。

お祓いというよりも、供養が必要なのではないかと思って『T』さんにどうにか連絡を取ろうとしたが、辞めた会社は取り合ってくれなかった。

とにかく供養をしなければと、部屋にはお清めの塩を盛り、線香を3本立て、成仏してください成仏してくださいと唱え続けたが、黒い影は現れ続け、お寺の住職に相談してみたところ、霊が生前に好きだったものをお供えして供養してあげてくださいと言われた。

俺は肉塊が生前、何を好きだったかなんて知らないし、肉塊になったほどだから、やはり肉なんだろうかと、牛肉をお供えしてみたがその夜も金縛りにあった。

肉塊が好きだった物、そうだ、漫画が好きだったに違いない!

タバコ屋のばあちゃんはあんな少女漫画読まないだろうし、肉塊が座敷牢で読んでいた漫画をお供えしてみよう、俺はそう思って本屋へ少女漫画を買いに行った。

俺が小学生の時、タバコ屋でもらった肉塊の少女漫画。

全部で20冊くらいはもらったはずなのだが、タイトルを忘れてしまっていた。

だけどその中に、俺がすごく面白いと思ったものがあって、パパと私という漫画をよく覚えていてた。

片親の大工のお父さんが子供のミヨちゃんにお弁当を作ったり、裁縫をしたり、ほのぼのとした少女漫画があった。

肉塊はこういう少女漫画が唯一の社会との接点で、外の世界を知るには漫画しか無かったのだろうと思うと、俺は取り憑かれているにも関わらず、本屋でパパと私を手にした時、涙がこぼれて止まらなくなってしまった。

パパと私の話の中に、晩御飯はカレーにしましょうという話があって、大工のお父さんが悪戦苦闘してカレーを作るのだけど、俺はその話をよく覚えていたので漫画と一緒にカレーの材料を買って来て、カレーを作ってあげることにした。

肉も多めに入れておいた。

そして、漫画とカレーをお供えに、線香をあげて供養をした。

不思議というか、やはりというか、その日の夜から黒い影は現れず、金縛りにもあわなくなった。

俺は肉塊を供養することに成功したのだろう。

それ以来、一度も彼女には会っていない。

あれだけ苦しめられた肉塊の存在が、何故か最後の日は少女漫画のミヨちゃんのように思えて、俺のそういう思いが伝わって成仏してくれたのだろうと信じる。

俺はあれ以来、カレーを作ると肉塊の行方が気になってしょうがない。

無事に成仏できず、この世を彷徨っているとしたら、また誰かの元に黒い影となって現れているのかもしれない。

もしあなたが金縛りにあったり、黒い影に取り憑かれたらカレーを作って、どうか肉塊の事を少しだけ思い出して、心の片隅で供養してあげてほしい。

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やってくる

漏れにはちょっと変な趣味があった。

その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出てそこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。

いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しい。

遠くに見える大きな給水タンクとか、酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、ぽつんと佇む眩しい自動販売機なんかを見ていると妙にワクワクしてくる。

漏れの家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ漏れの家の方に向って下ってくる。

だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。

その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら、

「あ、大きな蛾が飛んでるな~」

なんて思っていたら、坂道の一番上の方から物凄い勢いで下ってくる奴がいた。

「なんだ?」

と思って双眼鏡で見てみたら、全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。

奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、漏れと目も合いっぱなし。

ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。

ドアを閉めて、鍵をかけて、

「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」

って怯えていたら、ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。

明らかに漏れを探してる。

「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」

って心の中でつぶやきながら、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。

しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。

もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら、ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。

「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」

って感じで、奴の呻き声も聴こえる。

心臓が一瞬止まって、物凄い勢い脈打ち始めた。

さらにガクガク震えながら息を潜めていると、数十秒くらいでノックもチャイムも呻き声も止んで、元の静かな状態に……。

日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。

あいつはいったい何者だったんだ。

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壁の落書き

この間、ちょうど小学校の同窓会があったんで、その時に当然のごとく、話題に上がった俺達の間では有名な事件をひとつ。

俺が通っていた小学校はちょっと変わっていて、3階建ての校舎のうち、最上階の3階が1・2年の教室、2階が3・4年の教室で、一番下の1階が5・6年の教室になってる。

別の学校に通ってた従兄弟に、この話したらびっくりしてたんで多分、俺の学校が特殊なんだと思う。

校舎自体はコンクリート造りで、相当という程でもないが、そこそこ年数が経ってたらしく、廊下の壁とかは薄汚れていて、汚いなと子供ながらに思ってた記憶がある。

で、6年になるまで気がつかなかったんだが、1階の6年2組の教室の前の廊下だけ、壁が綺麗に塗り直されてるのね。

下級生の時代に6年のフロアになんか怖くて行けないから、知らなくて当たり前なんだけども。

元々のコンクリートの壁と似たような色のペンキ?で、隣りの6年1組との境目から6年3組の境界まできっちりと塗られてる。

そこだけ汚れてないからすぐわかる。

ある日、その塗り直された壁の右下に近い部分(6年3組寄り)に、薄ーく鉛筆で『←ココ』って書いてあるのに気がついた。

『←ココ』と指された部分を見ても、まあ何の変化もない。

ただの壁だ。

その当時、学校では校舎の至る所に、『左へ○歩進め』『真っ直ぐ○歩進め』『上を見ろ』『右を向け』等と書いて、その通りに進んで行く、という遊びが流行っていたので、『←ココ』もその類のものだろうと、気にも留めなかった。

2週間くらいしてからかな、友達のY君が教室の外で俺を呼んでいる。

行ってみると、廊下の壁の『←ココ』の矢印の先に、青いシミが浮き出てたのよ。

5cmくらいの小さなシミだったけど、ちょうど矢印が指している先に出たもんだから、俺とY君で「すげー、不思議だね」とか言ってた。

次の日、そのシミはいきなり倍くらいの大きさになってて、『←ココ』の文字の部分にまで広がってて、もうその文字は見えなくなっていた。

その代わりに、シミの形が人間の手のように見えた。

さすがに俺達以外の生徒もそのシミに気がついて、形が形ってこともあって、瞬く間にクラス中に『呪いのシミ』として話題になった。

その話が先生の耳にも入ったらしく、その日の帰りのHRでは、「何でもないただのシミだから、気にするな」と、半ば強制的に家に帰されたわけ。

その週が空けて、次の月曜に教室に行くと、なんと廊下の壁のシミがあった部分が丸々剥がれ落ちてて、しかもそこを中心に、上下に細い亀裂と言うかヒビが入ってんの。

俺が教室に行くと、すでに廊下で数人が騒いでたので、見たらそんな状態。

朝のHRで先生が来るまでは、俺のクラスと両隣のクラスの何人かも含めて大騒ぎで、「絶対この壁のうしろに何かあるよ」「死体が埋められてる」なんていう話にもなって、クラスのお調子者K君が、カッターでその亀裂をガリガリやろうとしたところに、先生が来てものすごい勢いで怒られてた。

申し訳ないけど、俺はそのとき知らない振りしてた(笑)

その昼休みにK君が懲りもせず、

「朝の続きやろうぜ」

と言い出した。

壁を削る続きをやろうぜ、というわけだ。

俺は怒られるのが怖くて「やだ」と言ったんだけど、K君が「ここ見ろ」と言うので見たら、剥がれ落ちた中の壁から、色の違う部分が見えてる。

灰色の壁に、黒い太い線で横断歩道のような模様が描かれてるのが、剥がれ落ちた部分から確認できた。

「これの続き見たいだろ?」

K君が言う。

K君はカッターを持って、崩れた壁の部分をカリカリやり始めた。

面白いように塗装が剥がれていく。

すると、壁の中から『組』という文字が現れた。

さっき横断歩道のように見えた模様は、「組」の右側だったわけだ。

もうこの後に何かあることは間違いない。

クラスの男子の半分近くが一緒になって、壁の塗装を崩し始めた。

コンパスの針でつついたり、定規の角で削る者、彫刻刀を持ち出す奴までいた。

ちなみに俺は、崩すのを回りから見てただけね。

大抵こういう場合、壁のうしろに死体が埋まってただの、文字がびっしり書かれてただの、お札がいっぱい貼ってあっただのがよくあるパターンで、俺も当時すでに、怖い話としてそういった話をいくつか知っていた。

この壁の向こうにあるものも、まさにそういうものなのか?

そのドキドキと、先生に見つかったらどうするんだと言うドキドキで、心臓がきりきり締め上げられるような気がした。

昼休みが半分経たないうちに、壁の塗装はあっという間に崩れた。

中から出てきたのは、お化けでもなんでもない、子供たちが描いた絵だ。

『平成○年 6年2組』と書かれてる。

当時の卒業生が描いた物なんだろう。

30人くらいの男子女子の似顔絵が、集合写真のように並んで描かれている。

ただし、異様なのが、その顔一つ一つ全てが赤いペンキで『×』と塗られていたこと。

特に上の段の右から3番目の子は、×どころか完全に赤く塗りつぶされ、その下に書いてあったはずの名前も、彫刻刀かなんかで削り取られていた。

俺達は先生に怒られるだろうと覚悟を決めていたが、5時間目に先生が来るといきなり、

「よし、5時間目は体育館で自習だ。ランドセルに教科書とか全部入れて、5時間目が終わったらそのまま家に帰っていいぞ。掃除もしなくていい。教室に戻らずにそのまま帰れよ」

と、全く怒られなかった。

そして次の日に学校に行くと、1階の教室が全て立ち入り禁止になってた。

俺達は急遽建てられたプレハブで、6年の残りの学校生活を送るハメになった。

この間、13年ぶりに小学校の同窓会があって、当然のごとくその事件が話題に上がった。

当時の担任も来ていたので、

「先生、あの事覚えてますよね?あれはなんだったんですか?」

と聞いてみたが、

「いや、そんな事あったか?覚えてないなあ」

とか、超すっとぼけてた。

だが、俺達は全員あの事件を覚えている。