「 子供に纏わる怖い話 」 一覧
-
-
青いクレヨン
青いクレヨン
ある夫婦が郊外にある中古の家を買った。
郊外だが駅までは近いし近所にはスーパーなども多いし日当たりも良好。それに値段が格安といっていいほどの絶好の物件だった。
友人たちに引っ越しを手伝ってもらい、飲み会をしたあとに遅いのでその日は友人を含めて一緒に新居で寝ることにした。
しかし、夜中バタバタバタ……子供が廊下を走るような音を聞いて何人かが起きた。気のせいだと思ってまた寝ると、今度は子供の話し声が聞こえて目が覚めてしまう。そのために朝まで熟睡できたものは誰もいなかった。
誰もが夜に体験したことを不思議がった。
そして思った。この家には何かある―と。
全員で廊下を調べていると、青いクレヨンが落ちていた。もちろん夫婦のものでも友人たちのものでもない。
そして、とてもおかしなことに気がついた。 この家の間取りが奇妙なのだ。
クレヨンを拾ったあたりの廊下は突き当たりになっているが、家のつくりを考えるとそこにはもう一部屋分のスペースがあるはずなのだ。
壁を叩くと中に空洞がある音がする。壁紙をはがすと扉が現れた。おそるおそるその扉を開ける。
もしかしたらとんでもないものがあるのではないか……
しかし、部屋の中には何もなかった。
ただ部屋の壁すべてに青いクレヨンでびっしりとこう書かれていた。おとうさんおかあさんがごめんなさいここからだしてください おとうさんおかあさんがごめんなさいここからだしてください ここからだしてここからだしてここからだしてここからだして ここからだしてここからだしてここからだしてここからだして ここからだしてここからだしてここからだしてここからだして ここからだしてここからだして……
-
-
こっちにおいでよぉぉ…
こっちにおいでよぉぉ…
僕は子供の頃、東京の外れに住んでいました。
森林に覆われた丘陸地帯に囲まれた、都内とは名ばかりの外れた町でした。
遊戯施設などはほとんどないような場所でしたが、町外れに町営の小さなスケート場がありました。
夏場はプールとして利用されるところを、冬にはコンクリートの底に浅く水を張り、スケート場として開放していたのです。当時、小学生だった僕は、テレビで見たフィギュアスケートにすっかり夢中になっていて、その年の冬休みには、連日、夕方五時の閉場まで、その小さなスケート場に通いつめていました。
僕が奇妙な体験をしたあの日も、いつもと同じように、僕はスケート靴を抱えてリンクへ向いました。子供に特有のあの熱心さで練習を続け、気づいた時には五時を知らせる町役場のチャイムがあたりに鳴り響いていました。
山あいの町では平地よりもずっと早く日が沈みます。
冬のことでもあり、すでにあたりはすっかり夕闇の中に沈んで薄暗くなっていました。
足を止め、あたりを見まわすとリンクの上にいるのは僕一人でした。
まわりにある休憩用のベンチにも人影は全くありませんでした。
それに気づいた時、僕はなんとも言えないいやな気分に襲われたのです。そこはもともと利用者が少ない場所であったし、ましてや、ナイター設備もない野外で、陽も落ちて冷たい夜風が吹き始めるまでスケートに没頭するような物好きはほとんどいませんでした。
閉場のころに僕ひとりだけが残っているようなことは、決して珍しいことではなかったのです。
なのに、その時だけはひとりっきりで冷え冷えとした空気に晒されながら薄暗いリンクの氷の上に立ってることが、やけに不安なものに思えたのです。
昼間のうちは表面が溶けてシャーベット状になっていたリンクも再び凍りつきはじめています。
その鋭く光を反射する表面に、一瞬何か人影のようなものが映った気がして僕は慌てて振り向きました。
しかし、当然そこには誰もいません。どうにも心細くなり、いつもなら管理人が追い出しにくるまで粘るところを、途中で切り上げて、僕はいそいでリンクの出口を目指して滑っていこうとしました。
その時です。
どこかで小さな音がしました。それは、小さくひそめた人の囁き声のように聞こえました。
僕はゾッとして反射的に逃げ出しそうになりました。しかし音の原因が分からないままでいることは余計にいやな気がして、怖いのをこらえてリンクの中央へ振り向き、あたりを見渡しました。
それでもやはり、リンクの上には何も見当たらないのです。<なんだ。きっと町の物音が風に流されてここまで聞こえてきたんだ>
子供ながらに、僕は理屈の通る答えを自分で思いつき、それに励まされるように管理人が来るまでのあいだ、もう一周だけリンクをぐるっと滑ってみることにしました。
その途中、ちょうどリンクの中央あたりでなにかがクッと、エッジに引っかかったのです。
僕はエッジを立ててその場に止まったのと同時に、ふたたび声が聞こえてくるではありませんか。
今度ははっきりと人の声、しかも僕の名前を呼ぶ声でした。僕は一瞬にして恐怖のあまり凍りつきました。
そのあいだにも、声は僕の名前を何度も呼び続けています。
そして、どうやらその声は、すぐ近く、僕の足元のあたりから聞こえてくるようなのです。
僕は怖さで動きもままならない首を無理矢理ねじるようにして足元の氷の上へ視線を落としました。
そこには子供の姿がありました。僕の姿が氷の表面に映っていたのではありません。
まるでガラス窓を覗くように、見知らぬ子供が向こう側から氷の裏に両方の手のひらを押し付けて、じっと無表情にこちらを覗きこんでいるのです。身動きすらできずに凝視しつづける僕と目が合っても、その子供は少しも表情を変えませんでした。
頬のこけた青白い顔のなかで、目だけが黒々と大きく、異様な光を宿してこちらを見ていました。やがて子供は、その血の気が失せた紫色の口を開きました。
『・・・・・・こっちにおいでよぉぉ・・・・・・おいでよぉぉ・・・・ぉぉぉぉ・・・・・』
キイキイと金属をひっかくような何とも気味の悪い声が、氷の上に響きました。
そして子供は僕に向って手を伸ばしてきたのです。
信じられないことに氷の表面から白い指先が何かを探し求めるようにうごめきながら突き出されてきたのです。
やがてその指は、僕の足首をしっかりと握り締めました。
そして次には手首が、腕が、ジワジワと氷の中から現れてきたのです。僕が覚えているのはそこまでです。
母の話では、誰もいない夕暮れのスケートリンクの上で放心状態ですわりこんでいた僕を管理人が見つけてくれたのだそうです。
そのとき僕は全身冷え切って、目は開いているものの話しかけても反応しない状態で、すぐに運び込まれた病院の先生の話では凍死寸前だったのだそうです。そのあと僕は一週間ほど入院しました。
退院するほど回復したころには、足首をつかまれたあとの記憶をまったく失っていたのです。あのあと、僕自身の身に何が起こったのか。
それはいまだに謎のままです。
-
-
アンティークドール
アンティークドール
子供の頃、夏休みに泊まったホテルの地下(レストランの入り口)に、すごい綺麗なアンティークドールあった。
あまりに綺麗で、ヒマあれば見に行って、しまいには夜中に目が覚めた時に部屋を抜け出して見に行った。
夜中にアンティークドールの入ってるケースに張りついてて、警備員さんにみつかり、フロントのおにいさんに部屋まで連れていかれた。
「人形に呼ばれても、来たらあかんで」
って言われた。
-
-
路地
路地
中学生だったときの話。
夜の8時ぐらいに塾からの帰り道を歩いてたんだけど、なんか様子がおかしい。
見知った住宅街なんだけど、見覚えのない路地があるんだよ。
知らない家と家の隙間で、幅は1mぐらい。
昨日までは、ただのブロック塀で壁になってたはず。
まあ近所だし、迷うこともないだろと思った俺は、好奇心にかられてその狭い路地に入ってみたんだよ。
で、10歩ぐらい進んでから気づいたんだけど、やっぱり何かがおかしい。
夏のゴミ捨て場のような異臭が漂ってくる。
それで、前の方からは
「・・・・・ァ・・・・・・ケ・・・・・・」
と、人の声のようなものが微かに聞こえてきた。
明かりもなくて真っ暗だし、しだいに怖くなってきたんだけど、まだ好奇心が勝っててそのままゆっくり歩き続けた。
それからまた20歩ほど進んだあたりで、俺はあることに気づいた。
というのも、それだけ歩いたら家を挟んで向こう側の道に出るはずなんだよな。
でも左右のブロック塀は途切れることなく続いている。
前方に目を凝らしてみても、出口のようなものは見えない。
さすがにこれは何かヤバイと思って、引き返そうと思って後ろに振り返った。
そしたら、5歩ぐらい離れたところに人影があったんだよ。
2mぐらいのでかい男。
薄汚いコートを着てて、頭にはフードを被ってるから鼻より上が見えない。
手にはナタみたいなのを持ってる。
そいつが棒立ちで俺を見てた。
俺はあまりの恐怖に動けず、唖然としたまま突っ立ってた。
さっきから漂ってた悪臭もそいつが発生源みたいで、鼻が歪みそうだった。
で、ふと見るとそいつ口動かしてんのね。
ボソボソと何か喋ってる。
「・・・・・ァ・・・・・・ケ・・・・・・」
内容が聞き取れないので、耳を凝らしてみると、
「・・アァァ・マ・・クケェアエ・・・・・・」
「マ・・ァア・・アファフヘケラエェヘ・・」
意味不明の言葉を喋ってた。
それも、外国語って感じじゃなくて、ランダムに並べたカタカナを読み上げてる様な感じ。
もう余りにも怖くて、俺は泣き叫びながら全力で走って逃げた。
そしたらそいつ俺を追ってくんの。
右手のナタを頭上に掲げながら走ってくる。
「アァアェ!ケヘフラフェアウェ!クヘフェアァエア!」
ボソボソ声はいつの間にか金切り声に変わってた。
追いつかれたら殺される!って思いながら、涙と鼻水と涎で顔ぐちゃぐちゃにしながら無我夢中で走ったよ。
何とか追いつかれずに、100mは走ったかな。
前の方に路地の出口らしき隙間が見えた。
路地が100mも続いてるとか今思うとありえないんだけど、そんなことは気にせず、とにかく俺は出口に向かって走った。
必死の思いで出口に辿りつくと、そこは知ってる道だった。
たしかに、路地の入口から100~150mぐらい先の住宅街。
位置のつじつまだけは合ってる。
振り返ってみると、路地の先は真っ暗。
そいつもいなくなっていた。
呆然としながらも、周囲を警戒しながら家に帰った。
家に着いた俺は汗だくで、顔もぐちゃぐちゃだった。
母親が何事かと問いただしてきたので、起こったことをありのままに話したよ。
まあ当然信じてもらえなかったし、この辺りに2mの大男なんて住んでないとか言ってた。
それ以来、そのでかい男は見かけてない。
その路地があった道は絶対に通らないようにしている。
ちなみに、この体験がトラウマになって、俺は身長の高い男がものすごく苦手になった。
-
-
死んだ幼児を抱いて歩く女
死んだ幼児を抱いて歩く女
<あれ、あの女の人、いったい誰?>
社宅の前の公園で、おなじ社宅に住む主婦仲間と話に夢中になっていた私は、少し離れた場所でしゃがんで土をいじっている三歳のひとり娘・まなみのほうに目をやった時に、心の中でそうつぶやきました。
見知らぬ女性が、まなみを見下ろすように横に立っているのです。
女性は後ろ姿でしたが、なんとなく初めて見る人だと思いました。
また、まなみもその女性のほうに目を向けたまま身動きひとつしないことに気づき、おかしいなと不安をつのらせました。「ねえ・・・・・あの人、誰かしら?」
私は主婦仲間の友達にそう尋ねてみましたが、誰一人として、その女性のことは知らないようでした。
「ごめん、ちょっと、まなみをつれてくるわ」
私は心配になり、娘を連れにいきました。
まなみのほうに近づくにつれ、ますます不安感は増していきます。
女性を見ているまなみの顔が真っ青に青ざめています。
そして、母親の私が近づいていくにもかかわらず、娘は視線を動かそうとしません。
私は足早にまなみのところに駆け寄り、抱き上げました。
その身体は、まるでプールから出てきたばかりのように冷えきっており、ガタガタと小刻みに震えていました。「どうしたの、まなみ・・・・・・大丈夫?」
と、まなみの背中をさすりながら、その女性のほうに振り返った時でした。
私は、自分の見ているものがすぐには把握できませんでした。
あまりにも現実と隔たりがあり、それがいったい何を意味するのかわからなかったのです。その女性は、腕に幼児を抱えていました。
それも死んだ幼児です。
全身が血まみれで、手や足は枯れ枝のように細く、血でべったりと濡れた頭とともに女性の腕から力なくだらりと垂れ下がっていました。
半開きの目には白目しかなく、口からあふれだした血がポタリポタリと地面に落ちています。
私は、この穏やかな晴れた日の午後に、こののんびりした公園に、なぜこんな光景が存在するのか、この女性がどこから現れたのか、混乱と恐怖が入り交じって、どうしていいのかわからなくなりました。
そして、しだいに恐怖心に大きく全身を包み込まれ、ブルブルと身体が震えだしました。
私は、とにかくその場を離れようと、主婦達のいるほうへ逃げるように駆けていきました。「どうしたの、そんな真っ青な顔して」
と、私の表情を見た主婦達が心配そうに聞いてきました。
「あの女の人・・・・・・あの女の人、へんなの・・・・・抱えてる子供がね・・・・・・」
そういいながら、女性を指さそうと私は振り返りましたが、その女性の姿はどこにもありません。
「あれ?ねえ、さっきまであそこに立ってた女の人・・・・・どこ行っちゃったの?・・・・」
主婦達は、その女がどこに行ったかなど気が付かなかったといいます。
私は、その女性が抱いていた子供のこと詳しく主婦達に話しましたが、みんな、ただ笑うだけで信じてくれる人は誰もいませんでした。
「玲子さん、ちょっと疲れてるんじゃない?」
と、苦笑いされるだけです。
私は娘のまなみに何もなかったことにホッとしましたが、しばらくあいだ、その女性の腕に抱えられた子供の姿が忘れられませんでした。ところが、それから数日後、私は再び、その女性と出会う事になったのです。
ある日の夕方、娘を部屋に置いたまま近くのクリーニング店まで夫のワイシャツを取りに行き、帰ってきたときのことです。
クリーニング店から十分ほどで戻ってきた私は、まなみが居間にいないのに気づきました。
娘の名前を呼んでみましたが、返事は返ってきません。「まなみ?・・・・ねえ、どこにいるの? 隠れてないで出てきて」
急に心配になった私は、奥の寝室まで探しに行きました。
そして、寝室のドアを開けたとき・・・・・。
私は冷や水を浴びたかのような恐怖とショックを受けて、その場に立ち尽くしました。きちんと鍵をかけて外出したはずだったのに、いつのまにか例のあの女性が入り込み、まなみと一緒にそこに立っていたのです。
この前と同じように左手には死んだ幼児を抱えており、そして右手ではまなみの手を握って、窓の外に連れ出そうとしています。
女は私のほうに振りかえりましたが、顔はまったくの無表情でした。
私は、まなみをなんとか奪い返さなければと、ガタガタと震える身体を無我夢中で動かして、その女に体当たりしていきました。
女は思わずまなみの手を放し、壁にもたれかかりました。
私は、放心状態のまなみを素早く抱えあげると、台所のほうに逃げるように出て行きました。台所からその女性のほうを見ると、無表情なまま、壁の中にスーッと消えていったのです。
私は、その後すぐにその社宅を出て、賃貸マンションに引っ越しましたが、その後、その女性が社宅周辺に現れているのかどうかは知りません。