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佐清
私の母は、海外に在住の友達(以後、母友)とほぼ毎日Skypeでテレビ通話をしている。
私も母友さんの事を良く知ってるし、英語を教えて貰ったり日本語を教えたりの仲だった。
そんなある日、母友さんが急遽引っ越す事になった。
んで、暫くして格安のアパートを見つけたんだが…
まぁ、所謂『曰く付き物件』だったそうだ。
と言うのは私の母のみで、母友さん自身は気付いてないらしい。
具体的に何があったかというと、
・Skype通話中に画面全体が謎の発光現象。(母友さん側のLIVEカメラは普通にこちらが映っている)
・Skype通話中、母友さんがお手洗いに立ち、誰も映らない筈のLIVE画面に、物凄いスピードで横切る白い人影と、此方を覗きこんでくる性別不詳の白い顔。
・母友さん不在時に謎のSkype着信。
…というのが、入居当日から立て続けに起こったらしく、母は完全にガクブル。
仕方ないから、Skype通話中は私も同席する事になった。
んで、ついこないだ。
いつものようにSkype通話に同席しようと母の部屋を訪れたら、母は私の顔見て大爆笑。
実はこの時、私はクリーム状のフェイスパックをしており、さながら『スケキヨ』のような顔だったらしく、それが母のツボに入ったらしい…
「スケキヨ、スケキヨ」と連呼する母に憤る私を、更に面白がった母は母友さんにも見せようと、私の頭を掴むなりLIVEカメラに顔を押し付けてきた。
当然、母友さんのLIVEカメラには私のドアップが映ったのだが、タイミング良く母友さんは退席中で、誰も居ない部屋が映っていた。
「不発だったかぁ…」
と母は残念がっていたが、私は見てしまった。
白い半透明の人影が「ファッ?!」とでも言いたげなオーバーリアクションで飛び上がる様を…
それ以降、白い影は全く出なくなったとの事。
おかげで、母には「スケキヨ除霊師」と呼ばれてる。
orz
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常連客
某チェーン店の居酒屋でバイトしてた頃の話。
Mさんという40代の常連がいた。
常連といっても、俺がバイトを始めた頃から店に一人でやってくるようになったのだが、ほぼ一月ほどは毎晩のように通ってきた。
何でも、居酒屋近くのビジネスホテルに滞在しているらしく、だいたい閉店間際にふらりとやって来て、本人定番のつまみを注文する。
それでお互い顔を覚えて、いつしか気安く対応する間柄になっていた。
何せ小さな店舗で、オヤジ系居酒屋だったこともあって、カウンター内で洗い物をしているとよく話し掛けてきた。
いつものようにモツの煮込みを出すと、Mさんは気味の悪い話を始めた。
若い頃にヘマをしでかし、その筋の方に拉致されて、ダムの工事現場に連れて行かれた時の話だそうだ。
Mさんは普通の労働者とは違って、飯場のような所に軟禁させていたらしい。
そこには似たような境遇の人たちが十人ほどいたという。
場所は人里離れた山の中。
食事の支度は飯炊き女(50代)がまかなっていたそうだが、当然食材は近くの村から配達してもらったという。
ある夜、工事現場に繋がる唯一の道路が、大雨で不通になってしまった。
復旧の目処がたたないうちに、三日が過ぎたそうだ。
蓄えていた食料も底を尽き、全員パニックに陥ったらしい。
その時みんなが目をつけたのは、飯炊き女が残飯を食べさせていた雑種犬。
Mさんは詳しく話さなかったが、とにかくその犬を食べて飢えをしのいだという。
「それからなんだよ。動物って分かってんのかね?俺を見たらどんな犬も吠えやがるんだ。睨みつけてよ」
俺もMさんが裏稼業の人間であることは薄々分かっていた。
相手は店の客だし、深い付き合いにはならないつもりでもいた。
でもMさんは俺のことを気に入ったらしく、仕事が終わったら飲みに行こうと誘ってくるようになった。
最初は断っていたが、ある夜、すすめられたビールで少し酔った俺は、誘いに応じてしまった。
「顔の利く店があるから」
Mさんは、東南アジアからタレントを連れてくるプロモーターだと自称していたが、実はブローカーだった。
連れて行かれた店もフィリピンパブ。
かなりきわどい店だったが、貧乏学生だった俺は結構楽しんでしまった。
Mさんは女の子と延々カラオケを歌っていたが、俺はカタコトの英語で片っ端から女の子を口説いていた。
一人すごくかわいい女の子がいて、その子にも話し掛けようとした時、Mさんは突然マイクを置いて、テーブルに戻ってきた。
「その子はだめだぞ。俺のお気にだからな」
Mさんの目は笑っていなかった。
ぞっとするくらい凄みがあった。
回りも雰囲気を察して、場はしらけたようになった。
俺も萎縮して、すっかり酔いが覚めてしまった。
Mさんは何も無かったように、再びカラオケで歌いだした。
その姿を黙って見ていた俺に、さっきのお気にの女の子がつたない日本語で耳打ちしてきた。
「店ノ女ノ子、全部アイツ嫌イ」
「何で?」
と俺が訊ねると、
「ワカラナイ。デモ、ナンカ見エル時アルヨ」
「何が?」
「死ンダ女ノ子ネ。イッパイ見エルヨ」
俺は思った。
分かるのは犬だけじゃないみたいだぞ。
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専門学校
仕事で某大手専門学校に行ったとき、雑談で役員に聞いた話。
『声優になれる子は初めから決まってます。要は入学段階で目をつけた子。それ意外は選ばれた人間を育てるための資金源です。でも彼らはその事に気付きません。夢と希望に満ち溢れた人間は盲目ですから』
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白い何か
俺が毎日通勤に使ってる道。
田舎だから交通量は大したことないし、歩行者なんて一人もいない。
でも道幅だけは無駄に広い田舎にありがちなバイパス。
高校時代から現在(27歳)まで毎日といっていいほど使っている道だから、その日も特になにも考えず車で通勤。
このときは何事もなかった。
問題は帰り道。
その日は急な仕事で少し帰りが遅くなった(23時頃)
街灯もロクになく、時間も時間なので車もほとんど走ってない。
もちろん歩行者なんて一人もいない…と思ってたら一人の背の高い人が横断歩道の手前で立ち止まっていた。
こんな時間にこんな暗い道を散歩か~物好きやな~なんて考えながら、俺は車内で信号が青になるのを待っていた。
…が、よく考えるとおかしい。
俺が自動車用の信号に引っ掛かって止まっているんだから、歩行者信号は青のはず。
何故渡らないんだ?
暗いので目を凝らしてその人を見ると、全身真っ白。
白い服を着ているとかそういうことじゃなく、ただひたすら白い。
次の瞬間俺はゾッとした。
こいつ両腕がねぇ!
しかも身長が高いという次元じゃない。
細長すぎる。
後から思い出すと顔まで真っ白で、のっぺらぼう状態だった気がする。
不気味で仕方ない。
信号が青になった瞬間、俺はアクセルをベタ踏みして急発進。
あんなものを見たのは初めてだったので、一刻も早くその場を離れたかった。
サイドミラーに映る白い奴がどんどん小さくなっていく。
ベタな怪談話のように追っかけてくる気配もない。
俺はホッとしたが体の震えが止まらない。
温かい飲み物でも買おうと、バイパス沿いにあるセブンイレブンに車を停めた。
車から降りると、すぐ近くのバス停にあいつがいた。
こちらを見ているのかどうかはさっぱりわからないが、コンビニの光のせいで先程より鮮明に奴の姿が見えた。
やっぱり両腕がない。
そして上半身だけ左右にゆらゆら揺れている。
ヤバイ。
直感的にそう思った俺は、降りたばかりの車に飛び乗り家まで直帰した。
自宅に逃げるように駆け込むと居間に母が座っていた。
母が振り向き俺に言った。
あんたどぎゃんした?鼻血垂れ流しとーがね。
鼻血が出たのなんて産まれて初めてだった。
これがあいつのせいなのか、恐怖のあまり鼻血が出たのか、それともただの偶然かはわからない。
しかしいずれにしても、あの道は二度と使わない。
よく考えると、あいつを最初に見た交差点の少し奥には階段があって、その先には草が生い茂り、手入れなど全くされていない神社がある。
あいつはあの神社関係の何かだったのかもしれない。
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銭湯の鏡
貧乏なアパート暮らしの女です。
風呂が無いので銭湯に行ってる。
いつもの店が休みだったから、ちょっと遠くの銭湯に行った。
浴室には数人のオバちゃんがいて、楽しそうに話し合ってた。
洗髪してると視線を感じる。
洗髪を終えてから顔を上げたら、自分の前の鏡に知らないお婆さんの横顔が映ってた。
横目で、こっちを見てた。(洗髪台の正面が鏡になってる。普通なら自分の正面顔が映るはず)
死ぬほどビックリした。
ビックリしすぎると悲鳴も出せないと初めて知った。
思わず後ろを振り向いたら、誰もいなかった。
というか浴室に誰もいなかった。
さっきまで喋りまくってたオバちゃんたちは、みんな更衣室に移動してた。
もう1度鏡を見たらちゃんと自分の顔が映ったけど、絶対に見間違えなんかじゃないよ。
体格もポーズも違うし、白髪だったし、目が合ったし。
あわてて私も浴室から出た。
洗えたのは頭だけで体は洗えなかったけど、それどころじゃない。
怖いよ。
あのお婆さん誰?
もう二度と、あの銭湯には行かない。