「 伝承 」 一覧
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山の神様
母方の実家は山奥のデカい家なんだが、その家には今は祖父母と叔父叔母と従兄弟(40近いおっさん)が住んでいる。
うちからはちょっと遠いこともあって、なかなか行きづらかったんだが、数十年ぶりに母と姉と姉の息子(5歳)と一緒に遊びに行くことにした。
祖父母の家に着いて翌日、真っ昼間から甥っこが行方不明になった。
近所の人までかり出して捜索したのだが、とうとう日も暮れてきて、いよいよ警察に届けようというところで、玄関に気配を感じて見てみると甥っ子がいる。
隣にはどこかで見たことのあるような、甥っ子より少し大きいくらいの男の子。
みんなに甥っ子が帰ってきたことを伝えると、母は大泣き、姉は泣きながら怒っていた。
そして気づくと男の子はいなくなってた。
俺は、どうしてもあの子を見たことあるような気がして、気になって仕方なかった。
甥っ子に詳しくきくと、遊んでるうちに裏の山に入ってしまい迷子になっていたそうだ。
どうやって帰ってきたのか訪ねると、
「おにいちゃんがつれてきてくれた」と。
おにいちゃんの話になると急にテンションの上がった甥っ子曰く、
「へびがでたけど、おにいちゃんがやっつけてくれた」らしい。
さらに、
「おなかがすいたけど、おにいちゃんがちっちゃいいちごをくれた」らしい。
話を聞いていると、うちのじいちゃんと近所のじいさんばあさんが、
「そりゃあ山の神様だ」
と言い出した。
最初は、ああ、助けてくれたんなら神様でいいや、みたいな感じできいていたんだが、じいさんたち曰く、
「山には昔から神様がいて、子供を守ってくれたり、山の生き物を守ってくれる」とのこと。
「子供の頃は一緒に遊んだり出来るが、いつの間にか見えなくなって忘れてしまう」んだそうだ。
それで俺は思い出した。
さっき玄関で見た男の子、俺はあの子と子供の頃に遊んだことがある。
小学生の頃、遊びにきたじいちゃんちの裏の山で、一緒に虫をとった子がいた。
そいつは流石地元の子供らしく、俺よりずっと虫がいる場所も虫の取り方もうまかった。
あの玄関にいた男の子は、あのとき一緒に遊んだあの子にそっくりだ。
まさかと思っていると従兄弟がぼそっと言う。
「○○ちゃん(甥)、そのおにいちゃんはこれくらいの背の高さで、これくらいの髪の長さで、女の子みたいな顔をしているおにいちゃんか?」
その特徴は玄関にいたあの子と完璧に一致した。
甥っ子もぶんぶんと頷いてる。
従兄弟は
「あー、山の神さんだったんかー。昔よう一緒に遊んだなぁ」
と感慨深そうに言った。
俺はそのとき20代前半で、従兄弟とは一回り以上年が離れてた。
なのに、従兄弟と俺は同じ男の子と遊んでいたことになる。
そして驚くことに、近所の人たちも(甥っ子の行方不明はけっこう大きな事件になってしまい、かなりのご近所さんが集まっていた)
「あー、その子なら知ってる!」
と、かなりの人数が言い出した。
うちのじいさんも見たことがあるらしく、うちの母も遊んだことがあるが、叔父(母の兄)は見たこともないらしい。
甥っ子の話では、
「近頃は、この辺に子供がいなくなったから遊び相手がいなくて寂しい」
と言うようなことを、山の神様は言っていたそうだ。
すると従兄弟はいきなり窓を全開にして、
「山の神さん!!子供がいないんなら大人と遊んだらいいが!!俺がいつでも遊んだるが!!」と叫んだw
あとで従兄弟にきいた話では、従兄弟が小学生のとき、川で溺れて死ぬところを山の神様に助けてもらったらしい。
今でも俺は、甥っ子と一緒に年に1度は母の実家に行くことにしているが、山の神様は元気に民家にも現れているらしい。
特に従兄弟とは仲が良く、前回遊びに行ったときは、俺と一緒に飲もうと大事にしまってあった高い日本酒が、封も開けてないのに三分の一減っていたことに対して、従兄弟が本気でキレていたw
「神さんが寂しくないように、子供がたくさんほしいな」
という従兄弟は、めでたく40を超えて今も独身ですw
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山の女
知人Tの祖父の話。
T祖父は若い頃、仲間と組んで山仕事をしていた。
新人の頃、山に泊まり込みで入った時、美しい女が薮の間から覗かれたことがあった。
近くに民家はなく不思議だったが、慣れない作業に没頭するうちに消えていたという。
夕飯時、小屋に戻って話すと、年長の職長が嫌な顔をし、皆に釘をさした。
「片手片足の女だろ?絶対に相手にすんな!」
薮から覗く顔しか見てないT祖父だが、職長の勢いに素直に頷いた。
翌日も女は覗いていた。
相手にする気はないが、女の美しい顔を気にしていると、ついに女は姿を現した。
女は腕も脚も一本で、ピョンピョン跳ねて彼の側まで来ると、彼の股間をまさぐり始めたという。
まだ若く女性経験もなかったT祖父は、驚いて突き飛ばしたが、女は器用に体勢を直し、ニヤニヤ笑って薮に消えた。
女が際だって美しい分、不気味だったそうだ。
その夜、Aという男が小屋に戻らず、皆で心配していたが、夜も更けた頃ひょっこり戻り、道に迷ったと頭を掻いた。
皆が笑う中、T祖父の隣の職長だけは深い溜息をついた。
翌日、職長とAが話をしていた。
ニヤニヤ笑うAの顔は、あの女を彷彿させた。
「互いにええ思いをしただけや」
その一言で、Aがあの女と寝たことはT祖父にも解ったという。
それからAやAと懇意なBが、遅く帰ってくるようになった。
「お前は行くな。手足をなくすぞ」
職長はT祖父に信じられないことを言ったが、どちらにせよ、あんな女を抱こうとは思えなかった。
仕事が終了した日、Aは山に残りたいと言った。
さすがにそれは許されなかったが、町に下りるなり踵を返して山に戻るAを、止められる者はいなかった。
その後のAを知る者はない。
次の仕事にはAもBも来なかった。
Aは行方知れず、Bは手足を失う大事故にあったのだという。
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実家の職業
俺の実家、京都の“ある地域”にあるんだけど(ていうかあったんだけど)、○○省と10年位前までいざこざしてた。
明治時代まで○○の行事に関わる職業というか、それだけで生活してたわけじゃないけど、祭事の時に呼ばれて出てく役目を担っていた。
これは知識としてそうだったって聞かされただけだけどね。
だけど明治になって、○○が東京に住むようになっちゃったんで放り出された。
まぁこの際ハッキリ言ってウチはBなんで、それまでの何十倍もSABETSUされるようになってしまった。
親から聞く話だと、ここから当家の苦難と恨み辛みの歴史が続くんだけど割愛するね。
で、東京に行った人が亡くなったんだけど、その時、時代の名前も変わるし節目だから色々整理する事になり、行事関係の“関係各位様”にも宜しく言う事になった。
だけど、もう定年で辞める直前のような爺が、
「○○の住所はまだ京都にあるから、ちゃんと昔からの人脈を復権させるべきだ」
とか言い出したんだな。
で、わざわざ高級官僚(コイツの家だって代々この仕事してんだぞ)がやってきて、
「来年は東京に来て昔の仕事を復活させようね」
って言ってきやがった。
無論、当時の当主である親父(ホルモン屋経営)が激怒して追い返した。
彼らの名誉のために言っておくけど、この紛争において○○省からの嫌がらせや恐喝・呪詛行為は一切なかった。(こっちからは呪った)
だけど腹立たしい事に、そのいざこざに横から入ってきてカネを掠め取ろうとする団体が出てきて、本当に滅茶苦茶になった。
こいつらは人間のクズで今すぐ地獄に送り返してやりたいが、元々地獄から生まれてきたようなヤツらなのでどうしようもない。
付き合いが深くなるにつれ、こっちまで憎悪の世界に引き込まれた。
元々、我が家の血筋が悪いからか身の回りで凶事が続発した。
最後には、土地を売却して北海道に移住した。
○○省はどうしたかというと、人形でつつがなく代役を立てた。
ほどなく親父は死んだ。
東京に行った人と同じ死因だった。
親父は腺がんで亡くなったけど、病名は本人に告知しなかった。
親父は頑固に依頼を断り続けた割に、いざ本土を離れたら何か使命感のようなものが沸いてきたのか、しきりに霊的な事や○室の事を気にするようになっちゃった。
で、病院で病名を告げられた時には末期に近かったんだけど、死因が同じになっちゃうと、殉死みたいで俺達家族には耐え切れんものがあった。
だから本人には言わなかったけど、全部判ってるような雰囲気でいたたまれなかったよ。
やっぱり、ゴタゴタの最後に人形に魂を分けるような事をしたから、寿命が縮んだのかなって思う事もある。
親父はホルモン焼きながら占い売ったりもしてたけど、全体的に無気力な人だった。
魂分けの儀の時に、省が衣装を持ってきたんだけど、親父が無言で二階にあがってっちゃったのね。
もうその時は、省の人も含めて当事者全員が疲弊しきってたから、親父おとなしく着てくれ~って焦ったんだけど、押入れからボッロボロの衣装を出してきたんだよ。
これは驚いたね。
省が持ってきたのは、玉とか紐とかはガラス・ナイロンなんだよ。
だけどこっちのは正真正銘のホンチャンだからさ。
そんで、省の人って当初から“貧乏人に仕事やるよ”っていう態度だったのが、その時に空気がサっと変わったもん。
あそこが当家のピークだと、今でも酒の席では話題になるよ。
ウチは人に羨ましがられるような家じゃないし、家柄についての誇りは一切ない。
京都の土地は、後になって例の団体が買い取ったと判った。
今はパチンコ屋になってる。
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何かが住んでいる。
うちは東北の田舎の古い家なんだけど、ときどき自称霊能力者という人達が勝手に来ては、
「この家には悪魔が住んでる」
とか言ってくるんだ。
それで不安にさせといて、お祓いのグッズとか売りつけようとしてくるなら、まあ所謂インチキだって思えるんだけど、そういうこともされないし、ただ『悪魔がいる』って言われるだけ。
祖父母の話を聞くと、本当に昔からそっち系の人たちに、そういうことを言われるらしい。
一回、周りの家に
「あの家に悪魔が住んでる」
と言いふらされて、少し頭のおかしくなってたおばあさんに放火されかけたり、『悪魔の子』とか言われて、自分が殺されそうになったこともある。
一族はわりと長生きだし、大病する人もいないし、悪いことなんて滅多に起こらないんだけど、それなのに悪魔がついてるなんてことあるのかな?
ちなみに、自分は霊能力はまったくゼロ。
オカルト大好きだけど、何も見えなさすぎ感じなさすぎで悲しい。
そっち方面に鈍感過ぎる、とか呆れられたことも。
唯一、家に住んでるらしい座敷童が、夜中走り回る音が聞こえるくらい。
座敷童と悪魔が同居できるのかは知らない。
母は霊能力が強いらしくて色々見えるらしいけど、悪魔のことについて聞いてみると、冗談めかして
「私のことよ」
なんて言う。
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サノアさん
母方の実家は、女には悪いモンがつく筋といわれていて、7歳と13歳の時に、実家近くにある神社の池にある小さな祠に、水と黒い石をお供えをして、その悪いモンから守ってもらう、という習慣がある。
そこの神様は呼び方が『サノアさん』(サというよりシャかな?)もしくは『サンノアさん』『サーノアさん』(シャンノアさん・シャーノアさん?)という感じで、私も二度サノアさんにお参りにいった。
20歳の時まで悪いモンにつかれなかった時は、今度は白い石を持っていき、それをお礼としてお供えして、黒い石は池に放り投げて、サノアさんに清めてもらう。
母もお参りをしたが、母のすぐ下の妹は13歳の時に何かの事情があって(母は詳細を言うのを嫌がった)お参りをしなかった。
その人は精神を病んで、現在は精神病院へ入院している。
そしてさらに一番下の妹も、体が弱く入院していて、お参りを一度しなかった。
その人は19歳の時、ある駅のトイレで自殺をした。
母と三番目の妹は、二度ちゃんとお参りをしたから大丈夫だった、と母は言う。
本当かどうかわからないけど、ちょっと怖いので、もし自分に女の子が生まれたら、念のためお参りに連れて行こうと思う。
ちなみにちょっとズレるけど、母は末の妹が自殺する前の日。
偶然かもしれないけど、家の中で大量の蛇をみかけた。
その蛇たちはタンスの裏側にするすると入っていき、いそいでタンスの裏を覗いたが何もいなくなっていた。
自殺と関係あるかどうかはわからないけど、もしかしたら蛇が関連する神様なのかも、と思ったりします。