「 山 」 一覧
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自殺名所のつり橋
俺の住んでる県は、オカルト的な場所が少ないんだけど、俺はそう言うの大好きだから県内のオカルトポイントは、ほぼ制覇してる。
これはそのうちの一つ、自殺の名所のつり橋での話。
昼間でも見える人は見えるってほど有名なポイントなんだけど、昼間はそのつり橋の真下で芋煮会(知ってる?)とか、バーベキューやってるような場所なので夜に行って来た。
そのときの同行者は、彼女(現妻・見える人)と俺(全く見えない人)、友達カップル×2(見えるかは不明)の6人。
つり橋の上を車で通って何も見えなかったから、そのまま車を路肩に止めて川原に降りる事になった。
流石に川原に降りると、9月でも少し肌寒い。
彼女があまり拒否反応を示さないから、ヤバイ霊は居ないんだろうと安心して周囲を探検しまくってたんだけど、急に喫煙室のエアカーテンをくぐったような、飛行機のドアが開いたときのような、そんな空気の層を突っ切ったような感覚があって、ちょっとふらついた。
隣を見ると、彼女が腕にしがみついて硬直してる。
ちょっと離れた所に居る友達も、みんな動きを止めてキョトンとしてた。
もう川原に降りてから20分~30分くらい経ってるし、ちょっとヤバイかも知れないと思い、
「そろそろ帰るべ」
と促して車に戻って、またつり橋を渡って帰って来たんだけど、つり橋の上でまた空気の層を突っ切った感じがした。
山を降りたファミレスで青い顔をしている彼女に、
「大丈夫か?」
と聞くと黙ってうなづいていたが、怖い話に飢えてる皆で根掘り葉掘り聞くと、さっきのつり橋で何があったかを話してくれた。
曰く、しばらくは周りに数人の霊がジッとしているだけで何とも無かったんだけど、友達の一人がその霊にすっかり重なってしまった途端、周り中の霊が一気に俺らの周りに密集してきたそうだ。
通勤電車並の密着度で、数十の霊が俺らを取り囲んだ状態。
彼女はもう動けずに居たんだけど、霊に鈍感な俺らが「帰るべ」とか、のんきな事言って逃げ出してくれたので助かったと。
橋の上まで車の周囲を囲んでくっついてきた霊も、橋の真ん中を越えたあたりで、排水溝に吸い込まれる水みたいに橋の下へ消えて行ったそうだ。
わりと大勢で楽しく話をしながら、死にたくなるようなネガった気持ちも持たずに居たから何も無かったけど、これが1人で居たらやばかったかもって言ってた。
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骨と鎖
数年ほど前に遡ります。
私は父が経営する土建屋で事務をしています。
今は兄が実質の社長ですが、やはり父の威光にはかないません。
そんな父の趣味が発端と思われる出来事です…。
父は、自ら所有する山にどうやら『ログハウス』を建てたいらしく、元々、日曜大工が趣味であった父ですから、中古の重機を購入しダンプを友人の土建屋さんから借り入れ、本格的に基礎工事まで着手するようでした。
週に一度の休みを利用して、父はまめに通っていました。
着手してから、数ヵ月後。
父「○○(母の名前)~、警察よんでけれ」
母「え、え、え?なしたの?」
父「骨出てきたから、警察に電話してけれじゃ」
母「ぇえぇ、殺人事件?」
父「いいがら、はやぐ」
(父は、未だに携帯を持とうともしないので、わざわざ山から40分かけて自宅に。母は用心の為と携帯を持たせているのですが意味なしですよね。)
警官が三名やって来まして、父はその現場を案内する為、先導することに。
私も休みでしたから、興味本位で同行する事にしました。
現場に到着しますと、散乱している白骨が飴色に変色した骨が剥き出しになっていまして、足枷があり、それに鎖が繋がっているのも見えました。
素人目にも古い骨だということはすぐわかりました。
事件性の有無などの確認の為なのか、父は細かい質問を随分受けていました。
検死官もその後、到着しまして、とても古い骨であると言う事。
事件にしても、とっくに時効を迎えているであろう事から、意外なことに…。
警察官「申し訳ないですが、そちらで処分ねがいます」
私も一瞬呆気にとられましたが、父は元々豪胆で、
父「したら、こっちで坊さん呼んで供養してもらうわ」
と、果物用の木箱に骨を入れ始め、検死官と警察官も手伝ってくれました。
その日は、その骨を檀家の住職さんの所へ持ち込み、無縁仏として供養して頂くことにして貰いました。
(その枷と鎖は、まだ寺にあるはずです。)
豪胆な父は、その後また現場へ戻り作業の続きをしようとしたので心配になり、父が帰宅するまで一緒にいました。
帰宅する時に、体が異常にだるかった事を覚えています。
父母と三人で、昼間の奇妙な事件について食卓を囲みながら話し、私は体がだるかった事もあり、入浴の後、父母よりも先に寝ました。
夢を見ました…。
***夢の内容***
なぜか私は、木製のリュックというか箱を背負い石を運ばされています。
朝早くから日が沈むまでそれは続き、やっと開放されたと思えば、小さな掘立小屋のような所に押し込められ、寒さと飢えを感じながら床に着く。
そして夜中に、口を押さえ付けられ代わる代わる犯される…。
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朝起きると、汗びっしょりで変な経験したから、あんな夢みたのかなぁくらいに考えていました。
それからも、三日おきくらいに『同じ夢』を見ました。
一月ぐらいの間ですが。
それから三ヶ月後、生理が二回も来ないので婦人科に行くことにしました。
医師「○○さん、妊娠の可能性があります。」
私「え?どういう意味ですか?」
医師「詳しいことは、これからの検査が必要ですが。」
私は当時、彼氏も居ませんでしたし『妊娠』なんてありえませんでした。
その事を医師に伝えますと、
医師「皮様嚢胞かも知れないので、後日またいらして下さい」
夢の事が何より怖かったですし、聞いたことも無い病名でしたので不安で不安で、その日は会社でも仕事が手に付きませんでした。
その日の夜、急に子宮の辺りに激痛が走り、動くこともままならなかったので、母に救急車を呼んでもらい、昼間受診した病院へ向かいました。
ストレッチャーの乗せられ、車内で唸りながら病院に着くのを待ち、意識が遠くなりそうになった時…
こう、子宮が蠢くような感覚と共に、何が出るような気がします。
また痙攣のような感じと一緒に、私の入り口から『赤みがかった半透明なゆでたまご』のようなものが5~6個ぼろぼろと出てきました。
病院に着く頃には痛みも和らいで来ましたが、まだ意識は朦朧としていました。
その水風船のようなものは救命士の方が医師に手渡してくれたようです。
翌日のお昼近くになってから、私は意識を取り戻し、医師にあれはなんだったのかという質問をしますと、
医師「皮様嚢胞というより、胎児が分裂に失敗してあのような形になる事があります」
私「でも、本当に心当たりがありません」
医師「そう気に病まずに、嚢胞の一種かも知れませんし、後で悪性でないかどうかお知らせします」
結局、悪性ではないことがわかりましたが、どうしてこうなったか、医師に尋ねても『よくわからない』といった返答しかありませんでした。
そして、その一週間後。
またあのリアルな夢を見ます。
立て続けに三日間も。
本当に怖くて、父母に相談した後、心療内科にもいってみましたが、
「特殊な体験の後の、珍しい疾患を患った訳ですから、悪夢を見てもしょうがない」
とだけ言われ、薬の処方を薦められましたが、どうしてもそういう薬には抵抗がある為、なるべく考えないように生活を送ることにしました。
そして三ヵ月後…。
また生理が止まり、婦人科にいきますと…。
医師「前回と同じ症状ですね」
私「…。」
とにかく私は、怖くて怖くて、すぐに摘出してもらうよう頼むことにしました。
でも、前回は上手く出てきたからいいものの、普通なら手術が必要ですし、『掻爬』もリスクが大きいので薦められないとの事。
その一週間後、また前回のように痛み出し意識が朦朧とする中、『ソレ』を排出…。
気が狂いそうになりましたし、理由もわからず、なぜこんな病気に罹ったのか、今でも私はこの病気に苦しめられています。
枷と鎖があった白骨は、お寺で供養したはずなのに…。
病気の発症と、妙な出来事が重なっただけかも知れませんが、今も時折、あの『夢』を見ます。
そして、生理が今月も来ません…。
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山の女
変な話かもしれないが、不思議な体験をしたので一応。
と言っても10年くらい前ですが・・・・
C学生の頃はラブホに行く金もなく、山で女の子と盛るのが日課になってました。
その山は、住宅街にぽつんとある比較的小さい山で、ドラえもんの裏山を思い浮かべてくれれば分かりやすいと思う。
まぁ今思えば近所の人が散歩代わりに使うこの山で、よくアンアンしてたとw
で、本題。
セ○クスの後、相手を家に帰してから、山頂のベンチで一人タバコを吸うのが楽しみでした。
この日も薄暮の中、タバコの煙を見つめていました。
自分が座ってるベンチの後ろは林になっているのですが、突然その林からガサ…ガサ…となにやら物音。
『やべぇ熊か!』と思って先輩譲りの警棒をスタンバイしてたのですが、姿を現したのは女の子。
年は高校生くらい、痩せ型、目が細い。
今までC学生の女しか知らなかった自分にとっては『大人の女』。
でもその時は予想外の出来事と、薄暮の不気味さで少しビビッてましたw
街灯の光、6月の生ぬるい風、ジーと言う虫の声、そして真っ暗な林から出てきた女。
逃げたくて、でも何故か逃げられなくて、沈黙のまま女と向かい合っていたら
「ねぇ・・・いつもここに来てるよね。女の子と。」
と、先に声をかけられました。
あぁ見られてたのか、と恐怖より恥ずかしさが先にたち、
「そ、、そうだよ」
としか返せませんでした。
その後も少し会話をして分かったこと。
・その子は同じC学の1つ上の学年らしい(見たことはないが)
・俺と女の行為を見ていた
・自分の家が近いので、よくこの山には遊びに来る
そして打ち解けて話せるようになったときに、
「ねぇ・・・うち親、夜遅くまでいないんだけど、来る?」
今なら美人局かなんかと警戒して断るのですが、
当時は『ヤレル!!』しか頭になく二つ返事でOKを出しました。
馬鹿ですこいつ。
階段ではなく、山の傾斜を降りていった方が早いらしく、外灯も何もない真っ暗な林の傾斜の中を二人で降りていきました。
真っ暗な斜面を木の感覚を頼りに小刻みに降りて行くと、そこには小さな村?がありました。
トリックに出てくるような、あんな感じの村。
あれ?こんな所あったっけ?
昔からこの山で遊んでるのに、こんな所初めてだ。
そう考えたのも一瞬、頭の中は女の喘ぎ顔の事でいっぱいでした。
「ここがうち」
と、指をさしたのは明らかに小さい小屋。
不自然なほどタテに細長い。
中に入ると、4畳半くらいでやけに天井が高い真っ白な部屋が一室。
その家(小屋?)の中で床に座りながら女と少し話してたんですが、なぜか圧迫感に似た違和感が強く、もうここにいたくない!
すぐヤってすぐ帰るだな・・・と思い、女の方を向いたら女の目の黒目が異様にでかく、しかも黒目が左右違う方向を向いていることに気がつき、あまりの不自然さと驚きで、
「ひぁ!!」
と、声を出してしまいました。
普通は、二つの黒目は同じ方向を向いてるじゃないですか。
でもこの子の目は、右目の黒目は右の目尻に、左の黒目は左の目尻にそれぞれくっついていて、しかもそれが目の半分を占めていました。
女の細い目の半分が黒目になっていたんでびっくりしました。
そしてその目に驚いて、
「ひぁっ」
と声を出した瞬間、女の細い目がガン!と見開き、
「フヒー!!フヒー!!」
と、甲高い声で叫び(鳴き)はじめました。
その瞬間、部屋の四方をドンドンドンドン!!と何人もが叩く音と、外から数人の男の声で『♪ドンドンドンドンドンドンドンドンドン』と歌う声が聞こえました。
中で目玉ひん剥いて、奇声を発しながら自分のまわりをぴょんぴょん跳ねる女と四方の壁を叩く音、そして変なリズムで歌われる『♪ドンドンドン』と言う歌。
もう怖くて怖くて泣きながら叫んでしまいました。
ドアを開けたら奴ら(歌い手)が襲ってくる、窓を突き破って奇襲を・・・とまわりを見渡すも、窓がない!!!
と、うろたえてたら、
「アベ?アベアベ?」
と、叫びながら女が首にまとわりついてきました。
もう必死で女を振り払い、外にダッシュ!
そして家の方を見ると、数十人の小さな男が家を囲んで叩いてました。
そして家から出る自分を見つけるや否や、男達は、
「ア゙~」
と叫び、両手を前に出してこっちに向かって手を振りはじめたのを見て更に怖くなり、真っ暗な闇の中を駆け抜け傾斜を上り、気がつくといつもの山頂に。
まぁそこからは普通に帰れましたが、帰って鏡を見た後の自分の泥々の顔に笑った思い出があります。
この話をしても『嘘だろ』としか言われずに、悔しい思いをしたので誰にも話してませんがw
てか、自分でも夢だと思っている。
思いたい。
後日、ツレ5人くらいでその辺を散策したのだが、何も変わった村もなく。
あれはなんだったのでしょう。
ちなみにその件から、その山をラブホ代わりにするのはやめました。
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オオカミ様
俺が宮大工見習いをしてた時の話。
だいぶ仕事を覚えてきた時分、普段は誰も居ない山奥の古神社の修繕をする仕事が入った。
だが、親方や兄弟子は同時期に入ってきた地元の大神社の修繕で手が回らない。
「おめぇ、一人でやってみろや」
親方に言われ、俺は勇んで古神社に出掛けた。
そこは神社とはいえ、小屋提程度のお堂しかなく、年に数回ほど管理している麓の神社の神主さんが来て掃除するくらい。
未舗装路を20km程も入り込んで、更に結構長い階段を上って行かねばならない。
俺は兄弟子に手伝ってもらい、道具と材料を運ぶのに数回往復する羽目になった。
そのお堂は、酷く雨漏りしており、また床も腐りかけで酷い状態だった。
予算と照らし合わせても中々難しい仕事である。
しかし俺は初めて任せられた仕事に気合入りまくりで、まずは決められた挨拶の儀式をし、親方から預かった図面を元に作業に掛かった。
この神社はオオカミ様の神社で、鳥居の前には狛犬ではなくオオカミ様の燈篭が置いてある。
俺は鳥居を潜る度に両脇のオオカミ様に一礼する様にしていた。
約一ヶ月経過し、お堂がほぼカタチになってきた。
我ながらかなり良い出来栄えで、様子を見に来た親方にも
「なかなかの仕事が出来ているな」
と褒めてもらった。
それで更に気合が入り、俺は早朝から暗くなるまで必死で頑張った。
ある日、内部の施工に夢中になりハッと気付くと夜の10時を過ぎていて帰るのも面倒になってしまった。
腹が減ってはいるが、まあいいかと思い、
「オオカミ様、一晩ご厄介になります。」
と、お辞儀をしてお堂の隅に緩衝材で包まって寝てしまった。
どれくらい眠っただろうか。
妙に明るい光に、
「ん…もう朝か?」
と思って目を開けると目の前に誰か座っている。
あれ?と思い、身体を起こすと日の光でも投降機の光でもなく、大きな松明がお堂の中にあり、その炎の明るさだった。
そして、明るさに目が慣れた頃に、目の前に座っていたのは艶やかな長い髪の巫女さんだった。
「○○様、日々のご普請ご苦労様です」
鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえると共に、彼女は深々とお辞儀をした。
「ホウエ?」
俺は状況が飲み込めず間抜けな声を返しながら、お辞儀でさらっと流れた黒髪に見惚れてしまった。
「我が主から、○○様がお堂にお泊りなのでお世話をする様にと申し付けられ、ささやかでは有りますが酒肴をご用意して参りました」
彼女が料理と酒の載った盆を俺の前に置く。
盆の上には大盛りの飯、山菜の味噌汁、大根や芋の煮物、渓流魚の焼き物、たっぷりの漬物。
そして徳利と杯が置いてある。
「さ、どうぞ」
彼女が徳利をもち、俺に差し出す。
俺は良く解らないまま、杯を持ちお酌をしてもらった。
くっと空けると、人肌ほどの丁度良い燗酒で、甘くて濃厚な米の味がした。
「・・・旨い!」
俺が呟くと、巫女さんは、
「それはようございました」
と涼やかな微笑みで俺を見つめた。
途端に腹がぐうと鳴り、俺は夢中で食事をした。
巫女さんは微笑みながらタイミング良くお酌をしてくれる。
食べ終わり、巫女さんがいつの間にか用意してくれたお茶を飲みつつ
「ご馳走様でした。ところで貴女はココの神主さんの身内の方か何かですか?」
と聞いてみた。
「ふふ、そのような物です。お気になさらず。」
巫女さんは膳を片付けながら答えてくれた。
突然俺は猛烈に眠くなってきて、もう目を開けているのも苦痛なくらいになった。
「お疲れのようですね。どうぞ横におなり下さいませ」
巫女さんはふらつく俺の頭を両手でそっと抱え、彼女の膝の上に乗せてくれた。
彼女の長い黒髪が俺の顔にさらっと掛かる。
彼女の黒髪に似合う髪飾りってどんなのだろう、と柄でもない事を考え、暖かく柔らかな感触を頭に感じつつ俺は深い眠りに落ちていった。
「おい、○○。起きろや」
親方の声で目を覚ました俺はバッと飛び起き時計を見る。
朝の7時。
目の前にはニコニコした親方と神主さんが居る。
「あ、すみません親方。昨夜遅くなったんで泊まっちまいました」
俺は親方にどやしつけられるかとビクビクしながら謝った。
「ふ。お堂の中で一晩過ごすなんざ、おめぇもそろそろ一人前かぁ?」
なぜか嬉しそうな親方。
なんとか怒られずに済んだようだ。
「あ、神主さん、昨夜はありがとうございました。食事届けていただいて。」
「はぁ?なんですかそれは?私は存じませんが?」
「え?だって神主さんのお身内だっていう巫女さんが酒と食事を持ってきてくれて…」
「いやあ、あなたがお堂に泊まってるのに気付いたのは今朝ですよ。朝、様子を見に来たらあなたの軽トラが階段の下に止まっていたので何か有ったのかと思って親方に連絡して、一緒にお堂に来たのですが…」
「え?そんなはずは…?」
戸惑う俺を見て、親方が大笑いしながら言った。
「大方、腹減らしながら寝ちまったからそんな夢を見たんだろうよ。それか、オオカミ様がおめぇの働き振りを気に入ってご馳走してくださったかだ。まあ後でお礼の酒でも納めれば良いんじゃねえか。」
一週間後、無事に竣工した神社を奉納する儀式も終わった。
俺は休日に一人で神社に行き、酒と銀細工の髪飾りを納めた。
帰りに鳥居を潜ろうとしたとき、お堂の前に間違いなく誰かが居る様な濃厚な気配を感じて振り向きそうになったが、そのまま一礼して階段を降り始めた。
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トンネルの女の子
ちょっと書かせてもらう。
怖かったんだ。
ほんとに怖かったんだ。
20数年生きてて、心霊現象なんてついぞお目にかかったことがなくてさ。
怖い話は好きだけど、そんなの実際にはありえないって否定派だった。
今は、肯定する気もないけど否定もできない。
もうわかんね。
親戚んち行く時に通る山道にトンネルがあるんだ。
いつもは車で行くし、その日も車で行った。
でさ、そのトンネル、いろんな噂があるんだよ。
色んなつってもまぁ、首なしライダーとかパタパタさんとか都市伝説系。
口裂け女が流行ったのと同時期に、誰かが流したウワサなんだろうね。
そんなくだらない噂でも、やっぱり聞いた後で丑三つ時に通るのは怖いけど。
それでも、その日は夜じゃなかったから、怖い思いもせず平気でトンネルを通過しようとしたんだ。
そしたらさ、トンネルの入り口に猫がいるの。
普通のノラ猫。
あのさ、猫、大好きなの俺。
写メ取らなきゃ!って端っこに車停車させて降りた。
やめときゃよかった……。
携帯カメラを猫に向けて写メろうとするんだけど、近づくと逃げてく。
当然トンネルの中へ。
ダーッって走ってじゃなく、トットットって。
そんで、こっち振り向いてまた停止。
まぁ、微妙な距離の取り方も猫ならよくあることだ。
その様が可愛いから、カメラ向けながら俺もまた追うわけよ。
タッタッタって。
トットット。
タッタッタ。
トトトトト。
タタタタタ。
タッタッタ。あれ…?足音、ひとつ多くないか…?
って思ったのと、携帯の液晶に不審なものが映ったのは同時だった。
映ったっても目の前の光景じゃなく、トンネル内暗いからさ。
液晶に反射して俺の背後が映り込んだわけ。
居たんだよ。
女の子っぽいのが。
心拍数跳ね上がったけど気付かないふりして、
「にゃんこたんにゃんこたん待てよーwにゃんにゃんにゃん」
とか言いながら猫を追った。
女の子っぽいものも、ずっと猫と俺を追ってきてた、と思う。
あのとき程、トンネルがこんなに長いなんて思ったことはないなぁ。
そんで、たどりついた出口。
良かった、何事も無かった。
さて、車はトンネルの向こう側なわけだがどうしよう。
もうトンネルなんか通りたくない。
こっからは歩けない距離でもないし、ひとまず歩いて親戚んち行こう。
そんで奴の車で一緒に俺の車取りに来よう、なんてもうすっかり安心してた。
なんでトンネルを出ただけで安心しちゃったんだろ。
歩きだした俺は、十数メートル先を見てまた心拍数上がった。
いたよ……。
道の端っこ。
行動範囲トンネルだけじゃないのかよ……。
今度は姿形も視認できる。
多少ボヤけてたけど小学校高学年くらいの女の子だった。
躊躇したけど、行くも地獄戻るも地獄なら、行くしかなかろ?
腹決めて歩き出した。
まぁ、ひらけた道路よりトンネルで遭遇した方が怖いから、なるべく心臓にやさしい方選んだだけなんだけど。
っつうか、あの時は怖すぎるから考えないようにしてたけど、どう見ても俺を追ってきてるよね。
反対車線側を歩きつつも、少しずつ距離が縮まってって、とうとうそれを横切るぞって時。
好奇心に負けてチラ見しちゃったんだ。
そしたら女の子さ、頭怪我してた。
顔半分とコメカミ付近。
少なくとも見た目だけは酷い傷ではなかったから、なんとか心臓は持った。
交通事故かな、かわいそうだな。
なんて思ってさ。
その子がすごく可哀そうで、泣きたくなって……
俺はバカだった。
にわかに父性なんか出しちゃって、その子に近づいてったんだ。
そんで、その子の前でしゃがんで可哀そうにって泣いた。
聖人気取ってた。
ほんとバカだった。
その子、なんかよくわかんない形相になって、俺の顔に自分の顔近付けて、
「う゛ぉぁあ゛あぁあーーー」
そんとき、直感的に気付いた。
あ、ダメだ。
理屈通じない。
やばい、って。
感情とか読み取れないんだ。
っつうか、無いんだ多分。
最初から、近付いちゃいけないもんだったんだ。
後はもう振り向かずに親戚んちまで必死に走って逃げた。
もうトンネルには怖くて二度と近づきたくないから、帰りは遠回りで別の道を送ってもらった。
車は父ちゃんに取りに行ってもらった。
けど、今でもトンネルの側に放置してた車に乗るのが少し怖い。