怖っ!怖っ?怖い話

いろんな怖い話を集めています。

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「 伝承 」 一覧

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泣いてる男女

母方の人間が皆見る夢があります。

何時代だか判然とはしないのだが、貴族が着るような服(戦国無双の今川が着ているような服)を身に纏った男女が小さい橋の上で抱き合い泣いている夢。

悲痛な嗚咽を漏らしていて抱き合ってるだけ。

母の弟三人がこの夢を見ています。

近所に住む叔父が酒の席で漏らしたんだが、その女性が枕元に立っていたそうです。

それは叔父がまだ元気で、働き盛りの二十代前半の話し。

夏が終わりかけている時期、暑いのか涼しいのか中途半端な時期の夜に、その女は現れたらしいです。

夜中にふと目が覚めた叔父は、異様な空気に驚き、起きようと思ったが体が動かない。

虫の声も聞こえず、全くの無音。

生暖かく、ねっとりとしてずうんと重い空気。

目だけは動かせたので、嫌な汗をかきながらも、冷静に状況を把握しようと辺りを見渡した。

右 何も無い。

左 何も無い。

下 何も無い。

上 足があった。

この着物、見覚えが有るな…。

あぁ、夢で見た泣いてる男女の女の方が着ていた服だ…貴族?

ズル ズル ズルっと音を立て、着物の裾を引きずりながら、その女がゆっくりとした動作で動き出し、叔父を通り過ぎると同時に闇に消えて行き、叔父は金縛りから解放された。

女に遭遇した叔父は翌年ベーチェット病(だったかな?)にかかり、仕事も恋人も無くし、国から金を貰って生活をするようになってしまいました。

叔父の下、次男は事故を起こし逃亡中。

三男は最近腎臓だか膵臓だかに奇形が見付かり、痛みのため働けなくなりました。

で、うちのオカン。

やはり病弱で、月の半分は寝込んでます。

オカンのオカン、俺の祖母は真冬の新潟でパートの帰りに豪雪の中倒れ、死にました。

この泣いてる男女は何なんですか?

何か関係あるんですか?

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祭祀

近所に、家族ぐるみで懇意にしてもらってる神職の一家がある。

その一家は、ある神社の神職一家の分家にあたり、本家とは別の神社を代々受け継いでいる。

ウチも住んでいる辺りでは、かなりの歴史がある旧家の分家で、そこの神職一家が非常に気さくで人当たりの良い人達ばかりということもあって、その神職一家と非常に仲良くさせてもらってる。

最近、そこの次男Aさん(と言っても30半ばのオサーン)に聞いた話。

なお、よくわかんなかった言葉とかは後でググったりして補足してる。

最近、新車を買って、そこの神社で交通安全祈願をしてもらった時のこと。

その後に社務所で事務仕事してたAさんに声をかけて世間話をしていた。

俺「Aさんって、今は事務方メインの仕事されてますけど、昔は祭事とかお祓いとかされてたんでしょ?もの凄い悪霊を祓ったことがあるみたいな感じの怖い話とかってないですか?」

A「確かにお祓いもしてたけど、まず何かに憑かれてる人が来ること自体がないからね。」

俺「どういうことです?」

A「普通は、今日の君みたいに悪いことが起きませんようにってことで厄除けに来るんだよ。何かに憑かれてるようだから祓って欲しいと言って来る人自体がすごく稀だし、しかもそう言ってる人も大体が思い込みの場合が多いからね。知ってる限りではそういう人が来たことは一度も無いよ。本家には極稀に来るらしいけど。」

俺「思い込みですか・・・じゃあ、怖い話ってそうそうあるわけじゃないんですね。」

A「お祓いじゃないけど、ホントに怖い体験をしたのは1回だけだね。」

俺「え? あるんですか。どんな幽霊だったんです?」

A「いやいや、所謂幽霊なんぞだったら大して怖くないよ。天神様や大魔縁とも呼ばれた崇徳天皇。首塚で有名な将門公みたいに神格化までされてるような例外はあるけど。」

俺「それじゃあ、一体何が相手だったんですか?」

A「ここではちょっとあれだから、場所を変えようか。」

そう言って、Aさんは神社の境内から少し外れた山際のベンチまで俺を連れてきた。

A「これは社務所でペラペラ話すのにはちょっと抵抗がある話でね。」

そう言ってAさんは、その時の事を話してくれた。

10年以上前の、Aさんが20代でまだ神職の資格を取ったばかりの頃の話。

その頃のAさんは今みたいに穏やかでなく、本家の人達をあまりよく思っていなかったらしい。

俺の住んでる辺りは田舎だから、本家と分家の間に封建時代の主従のような絶対的な力関係があるのかと思いきやそうではなく、本家と分家の当主同士が気軽に飲みに行くなんていう、普通に仲の良い親戚関係だそうだ。

(旧家にありがちな政治権力とも距離を置いている一族なので、金や権力についての揉め事が無いのも一因だろうとはAさんの談)

本家の持つ特権は、あくまでも本家が祀る神社の祭祀に限られているとの事。

じゃあなんでその頃のAさんは、本家の人達をよく思っていなかったのか?

分家と言うだけで、根拠の無い劣等感があり、若さゆえに反発せずにはいられなかったこともあるが、Aさん達分家の人達と、その本家の人達の間にある差が原因にあったという。

Aさん達分家も本家も、長い歴史を持つ神職の一族。

(本家に至っては、記録にある部分だけでも1300年以上続いてる家系。某国風土記の平安期写本にも本家に関連する記載があるらしい)

で、余所から嫁または婿に来た人以外は全員、昔からの巫覡の体質を受け継いでおり、成り行きこの世のものならざるものが視えるそうだ。

そこで分家と本家の差の話が出てくるんだが、本家の人達は本家が祀る神社の神様からの加護を受けており、当主と次期当主に至っては、特に強力に護られているらしく、身の回りに霊とか、その他のよくないモノが全く近づけないため、まったく目にしなくなる程だそうだ。

それ故、子供の頃からそういうものを時々に目にしており、苦労して対処を身につけたAさんからすれば、生まれた家が本家と言うだけで無条件に守られていることに納得がいかなかったらしい。

本家の本家たる所以は、本家が祀る神様との関係にある。

本家はある神社(X神社とする)を管理しており、分家も神社(Y神社とする)を管理する立場にあるが、X神社とY神社とは別にもう一つ神社(Z神社とする)が存在する。

Z神社は過去に一度失われ、大正期に再建されたという歴史があり、そのZ神社こそが本家が代々祀ってきた神社で、その祭祀を取り仕切る事こそが本家の役割。

そんな時、本家の当主と次代当主だけで代々行ってきた当主継承に関わる祭祀を、10歳になる長女が失敗するという事件が起こった。

(本家は血統を存続させることに重きを置いているので、昔から男女の区別なく長子が家を継いでおり、女性神職が許されなかった時代は、婿を取ってX神社の建前上の神職として据え、本家が代々祀るZ神社の祭祀は女性当主が行っていたらしい。)

長い本家の歴史上、次代当主候補が神様にそっぽを向かれたことはほとんど起こったことはなく、急遽、本家と分家の神職を一同に集めて追加で祭祀が行われることになったそうだ。

その時Aさんはチャンスだと思った。

長女が失敗すれば、次は長男の順となるが、次代当主確定の祭祀は、当主の子息が10歳になった時に行われるので、長男が10歳となる来年までは次期当主候補は不在となる。

この隙に、自分を神様に認めさせることがが出来るのではないかと厨二病全開なことを考えた。

Z神社で祭祀を行う際に読み上げられる祝詞には、本家と分家に伝わるZ神社の主祭神のみに奉上するための独自の定型化された長い祝詞がある。

祝詞の内容自体は分家の人間も知らされてはいるが、本家の当主と次期当主以外は、当主が許可した時以外、その祝詞を読み上げることは禁じられている。

ここに、本家が特別に神様に守られている秘密があるのではないかと考えたAさんは、それを追加の祭祀の際に、読み上げて神様の気を惹こうと考えた。

しかし当時のAさんは冷静さを失っており、『祝詞自体は知っておく必要があるが、当主の許可なしに読み上げてはならない』という習わしの意味することを良く考えていなかった。

そして追加祭祀の当日、一般的な祝詞の奉上が終わり、例の祝詞を当主が読み上げ始めたのにあわせて、こっそりと小さな声で祝詞を読み上げ始めた。

それから暫くした頃、突然視界が一瞬グニャリと歪んで、意識が遠のくのを感じ、薄暗い拝殿の鏡の上に幻のように黒い直径1M程の球体上のものが浮かんでいるのが見えた。

その球体には、人口衛星の周回軌道のように幾重もの注連縄が巻かれている。

物凄い怖気を全身に感じながらも、

「ほう、これが本家の祀ってる神様の御姿か」

などとAさんが思っていると、球体の注連縄の隙間から黒い液体のようなものが漏れ出し、それが影のように延びてきて、取りすがろうと当主に近づき始めた。

その影は当主から一定の距離のところでまで近づいたところで、まるでそこに見えない壁があるかのように全く近づけないようになった。

その時Aさんは気付いてしまった。

あれが何故当主に近づくことが出来ないのか?

当主には邪なものは近づけない・・・

つまり、あれは神様などではない。

そのことに気付いた時、我が身に感じていた怖気が急に強くなった気がした。

全身の毛が逆立つかのような悪寒が体を駆け抜ける。

「見つかった!」

Aさんが確信したと同時に、影のようなモノがゆるゆるとこちらに向かって動き始めた。

それはゆっくりとだが、確実にこちらに近づいて来る。

しばらくして、その影が膝先にまでに到達した瞬間、目の前が真っ暗になった。

それと同時に両目、両耳、鼻に激痛が走った。

赤熱するまで熱した鉄の棒を両目、両耳、鼻の穴に突き刺したらかくやというほどの痛みだった。

多分あまりの激痛に絶叫していた。

その激痛のさなか、他の感覚など消し飛んでいるはずが、触覚などないはずの脳を直接手でまさぐられるかのような感覚があり、それと呼応するかのように、引付けでも起こしたように体が痙攣しているのを感じたという。

激痛に苛まれ、徐々に薄らぐ意識の中で、声が聞こえた。

「イッポン・・・ツナガッタ」

次にAさんが気付いた時には、夜は明けており、右腕にギプスをされ病院のベッドにいた。

医者からは、石段から足を踏み外して転んで右腕を骨折し、その拍子に頭も打ったらしいので一応CTを撮ったが、問題ないようなので退院しても大丈夫だと言われたので、Aさんは仕事が終る時間を見計らって、本家の当主の下に顛末を聞きにいった。

その時に聞いた話を、かいつまんで書くと以下のようなものだった。

・第三者から見たとき自分の身に何が起こっていたのか?

Aが突然絶叫して、正座した姿勢のまま痙攣を始め、暫くして右腕を上げたかと思ったら、右腕だけを無茶苦茶に振り回し始めた。

その後、右腕の動きがピタリと止んだと思ったら、関節の可動する反対方向に腕が捻じ曲がって嫌な音を立ててへし折れ、また全身痙攣を始めた。

その間、当主は祝詞を読みあげ続けており、祝詞を読み終わると同時にAの痙攣は止まった。

その後、Aさんの父に抱えられるように病院に運ばれた。

・黒い球体のようなものは何だったのか?

本家が代々封じ続けているもの。

正体はわからないが、それは非常に力を持っており、その力の一端に触れた者は、治癒不可能な心身喪失状態に陥る。

それは祟り神などと違って対象は無差別で、ただそこに存在するというだけで人を狂わせる。

影響範囲は広範で、少なくともZ神社がある町を中心にその周囲の町にも及ぶ。

・いつからそれを封じているのか?

少なくとも1500年以上前から封じている。

元々、人の住めない呪われた土地とされていたが、良質の鉱山があることがわかり、時の朝廷は土地開発を進めようとしたが例の被害が多発した。

そこで中央から力を持った一柱の神と巫覡の一族を遣わし、それを封じることにした。

(そんな土地さっさと放棄して別の鉱山を探せば良いのにと思うかもしれないが、その当時製銅、製鉄というものは、国力を左右するほど重要で、しかもその土地はとある理由で好立地だったため、放棄するにはあまりに惜しかったからだと聞いている)

封を担った巫覡の一族はその土地に腰を落ち着け、代々その封を司るようになった。

時は流れてZ神社は戦乱で消失し、その後長きに渡って本家が封じるための儀式だけは行っていたが、長らく神社が無かったことの影響か、大正期に被害が出るようになった。

そこZ神社を再建して封を強化して今に至っている。

・それは完全に封印は出来るか?

わからないが、儀式をした際に黒い球状のものに巻かれた注連縄が増えることがある。

その注連縄が完全に球を覆い隠した時に、封印は完全なものになるかも知れない。

・ここ以外にもそういう土地はあるのか?

極少数だろうが存在すると思われる。

次代が國學院に通ってた頃、自分と似たように強力に加護を受けていると思しき生徒がいたそうだ。

多分、その生徒の一族も何か厄介なものを封じるために、そのような加護を受けているのではないか?

・何故自分は心身喪失状態にならずに済んだのか?

分家とは言え一族の血を引いていることによるものか、それとも100年以上ぶりに触れた人間ということで、人について何かを探ろうとして壊れないように細心の注意を払って扱ってくれただけなのかわからない。

運が良かったとしか言えない。

Aさんは、一通り話し終えてから、

「とまぁこんな眉唾な話だから信じる必要はないけど、ただそれのせいで知っての通り私の右腕は今も動かないままなんだ。」

「骨折自体はとうの昔に完治して未だにリハビリを続けてるが、全く動く気配がない。思うにアレが『イッポン・・・ツナガッタ』って言ったのは、腕一本繋がったって言う意味だったんだろうと思う。だからこの右腕を動かすことができるのはアレだけで、もし、仮に封が弱まることがあれば私の意志とは無関係に動きだすんじゃないかと思ってる。」

「本家の人たちが封を強化してるから、私が生きてる間には間違ってもそんなことは起きないと思うけどね。」

と笑いながら話していた。

この話を聞いて、自分には完全に眉唾とも思えない心当たりがあったりする。

例の本家の人間なんだが、一族皆、人格者ばかりだからというのもあるんだろうが、地元では物凄く信頼されており、何があっても失礼をしてはいけないと婆さんから良く聞かされていた。

小学校の時、それぞれ別の友人グループだったんで接点はなかったが、本家の長男(Bとする)と同級生だった。

6年生の時、余所から転校してきたヤツ(Cとする)がいたんだが、そいつがことあるごとにBに突っかかるようになったらしい。

Bは性格が良くて周りからの人気があったから(顔がイケメンの部類だったのもあるかも知れないが)それが気に食わなかったのかも知れない。

ある時、Cの家に雷が落ちて全焼し、両親は無事だったが、Cが亡くなったと全校集会で校長から聞かされた。

後で知ったんだが、その前日、CはBを痛めつけようとして階段から突き落としたらしいんだな。

武道の心得もあってか、幸いBは軽い捻挫程度で済んだらしい。

そのCが住んでいた借家の場所はウチからチャリで3分程度の近所なんだが、そこの地主の爺さんが雷の話を聞いてビビったらしく、駐車場とかにもせず、今も更地のままなんだ。

このBの話を思い出した時、心底寒気がした。

雷は偶然だと思いたいが・・・

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貸し別荘

数年前の話を。

この話は一応口止めされている内容の為、具体的な場所などは書けません。

具体的な部分は殆ど省くかボカしているので、それでもいいという方だけお読みください。

高校3年の夏休みの事。

俺と友人5人は、受験勉強でかなり疲れが溜まっていた事や、高校最後の夏休みということもあって、どこかへ旅行に行こうと計画を立てた。

ただし、もう夏休みに突入していたため、観光地はどこもキャンセル待ちの様な状態で、宿泊地を探すのにかなり苦労した。

そして、やっとの事で近畿地方の高原?のような観光地のペンションにまだ空きがあるという情報をネットでみつけ、まあ騒いでも苦情が無いならどこでもいいかと即決でそこに決めた。

旅行当日、早朝に出発し、昼前に現地に到着したのだが、そこで少し問題が起きてしまった。

どうやら旅行代理店とペンションの管理組合?との間で伝達ミスがあったらしく、俺達は今日から2泊3日で予約していたにも関わらず、ペンションの方には宿泊予定が今日から3日後と伝わっていて、今は満室で1つも空いていないと言い出した。

俺達は、ここまで来てそれはないだろうと文句をいうと、最初はふもとの町にあるホテルなどを紹介されたが、俺達は、ただ観光に来たわけでは無く、夜中に騒いでも苦情が来ないような場所が条件だったため、かなり食い下がった。

するとペンションの人が、

「じゃあ、ちょっと待っていて欲しい」

と、携帯でどこかへ電話をし始めた。

電話の内容は良く解らなかったが、かなりモメていたようで、そのまま15分ほど電話していたが、どうやら話が纏まったようで、

「近場に貸し別荘があるので、そこでどうだろうか?料金はこちらの不手際なのでペンションの代金の3割引で良い」

と言って来た。

俺達は、まぁそれならと納得したが、そこから少し雲行きが怪しくなった。

どうも、その貸し別荘は長い事使われていなかったらしく、準備や掃除に少し時間がかかるらしい。

その間、俺達には交通費と水族館の割引券を渡すので、そこで時間を潰して夕方にまた来て欲しいとの事だった。

その水族館はペンションのある場所からかなり離れていた。

というか県外の某大都市にある水族館で、俺達が見終わって戻ってくる頃には午後6時近くになっていた。

俺達は、

「こんなに準備に時間かかるって、どれだけ放置されていたんだよ」

「廃墟とかじゃねーよな?」

「なんか怪しいんだけど」

などと不安を口にしながら管理事務所に向かった。

ペンションに戻ってくると、先程とは違うおじさんが待っており、準備が出来たので案内すると、歩いて15分ほど離れた森の中にある別荘へ案内された。

そこは完全に森の中で周囲には何も無く、余程大声で騒いでも、まず苦情が来ないような場所だった。

そのおじさんが言うには、暫らく使われていなかったので手間取ったが、電気も水道もガスもちゃんと通っているし、携帯は通じないが管理小屋への直通の電話もある。

何の問題も無いとしきりに説明をし始めた。

俺達は、何かおじさんに必死さが感じられてかなり不安になってきたが、今更どうしようもないので別荘の中に入った。

別荘は外観もそうだったが、洋風のかなり古い造りで、築30年か40年くらい経っていそうな建物で、インテリアもそれに見合ってかなり古臭い。

ただし、使われていなかったという割りにかなり小奇麗だった。

今から思うと、小奇麗と言うより『人が使った痕跡が殆ど無い』といった方が良い感じだったが。

一通り別荘内の説明を聞き、建物も2階建てで広いし、まんざらでもないなと荷物を降ろし、夕飯のバーベキューの準備をしようとしていると、おじさんが去り際におかしな事を言い出した。

ここは夜中に熊が出る可能性があるので、深夜の外出は控えて欲しいと言う。

俺達は何故か、かなり念入りに深夜の外出をしない事を約束させられた。

ペンションの密集地から15分しか離れていないこんな場所に??と皆疑問に思ったが、まぁ恐らくガキが夜中に出歩いて問題をおこしたり、事故に合うと面倒なので怖がらせるような事を言って脅かしているのだろうと納得した。

一日目はそんな感じで過ぎ、晩飯を食った後で夜中の森の中を適当に散策し、花火をしたりゲームをしたりと遊んで深夜2時頃に寝た。

その日は特におかしな事は無かったのだが、次の日、友達の1人が変な事を言っていた。

そいつは夜中に小便がしたくなり、トイレに行くと、外から太鼓の音が聞こえてきたらしい。

俺達は何かの聞き間違いだろうと言ってそのまま流し、本人も気のせいだろうと納得したが、その日の夜に事件が起きた。

その日、晩飯の焼肉を食い、腹もいっぱいになったし、する事が無かった俺達は、昼間見つけた林道へ肝試しに行く事にした。

肝試し中は何事も無く、俺達はつまんねーなと別荘に戻ると、入り口に20代後半くらい?の男が立っていて、ドアノブを握っている。

時間は夜10時頃。

こんな時間に管理人の人が来るとも思えず、『空き巣か?』と俺達が近付いていったのだが、その男はドアノブを握ったまま、こちらを振り向こうともしない。

足音も声も聞こえるのだから、泥棒や不審者の類なら逃げそうな物だが、そいつは10mくらいまで近付いても微動だにしない。

何か気持ち悪かったが、メンバーでリーダー格の友達と俺が、

「おっさん何してんだよ」

と、言いながら近付いていき、男の目の前まで来たのだが、それでも動く気配が無い。

埒があかないので友達が、

「聞こえてないのかよ!」

と、そいつの腕を引っ張った。

その瞬間、俺と友達は、

「うわあああああああああ」

と、大声を上げて後ろへ飛びのいた。

何故飛びのいたかというと、そいつの腕を友達がつかんで引っ張った時、その腕の手首から10cmくらいの場所が、まるでゴムのようにグニャッと関節ではない所から曲がったためだった。

何事かと他の友達が近付いてきたのだが、その時になって男はこちらへ振り向いた。

見た目は普通なのだが、目はどこを見ているのか良く解らない風で焦点が定まっておらず、口をだらんと開けて涎をたらし、その時になって気付いたのだが服装もかなりボロボロで、どう見ても普通の人には見えない。

俺達が呆然と男を見ていると、男は俺達がまるで見えていないかのように、そのままフラフラと森の中へ去って行ってしまった。

俺達はあまりの出来事に動揺し、暫らくその場から動けなかった。

しかし、そのままそこにいるわけにもいかず、俺達はふと我に帰り、大急ぎで別荘内に入りドアの鍵を閉めると、全員で室内の全てのドアの鍵をチェックし、それが終るとリビングに集まった。

そして皆、

「なんだよあれ…」

「幽霊か?」

「でも触れたぞ」

「あの腕の曲がり方ありえないだろ…」

などとパニックになって興奮気味に話していると、今度は外から、

…ドン …ドン …ドン

と微かに太鼓の音?が聞こえて来た。

その音はゆっくりとだがこちらへ近付いてきているようで、俺達はみな押し黙り、聞き耳を立てて音のする方に集中していた。

音が庭辺りにまで近付いた頃、不安が最高潮に達した俺は我慢できなくなり、リビングのカーテンを開けて外を見た。

すると…

暗がりで良く見えないが、何か大きな球状のものが転がりながらこちらへ近付いてくるのが見えた。

太鼓のような音はその球状の物体からしているらしく、…ドンと音がすると転がり、また…ドンと音がすると止まる。

それを繰り返しながら、大通りから別荘へ向かう道をゆっくりとこちらへ向かってきている。

大きさは5~6mくらいあったと思う。

他の友達も、窓を見たまま動かない俺が気になったらしく、全員窓の側へやってきて『それ』を見ていた。

暫らく皆黙ってその様子を見ていたのだが、暗がりで良く解らないので正体がつかめず、誰も一言も話さず、ずっと『それ』を凝視していた。

するとかなり近付いた頃、『それ』は玄関近くまでやってきたため、玄関に付いている防犯用のライトが点灯した。

その瞬間俺は、

「なんだよあれ!洒落になんねーよ!」

と、慌ててカーテンを閉めた。

カーテンを閉める前、一瞬ライトに照らされた『それ』は、なんと表現したら良いのか…

『無数の人の塊』とでも言うような物体だった。

老若男女様々な人が、さっきの男と同じように口を開け涎をたらし、どこも見ていないような焦点の合っていない目の状態で、関節などとは関係なく体と体が絡みつき、何十人もの人が一つの『塊』となって転がっていたのだった。

俺以外も全員、その『人の塊』を見たため、あまりの恐怖に何も言えず、俺達はリビングの端の方に一塊になり、ガタガタと震えながら、

「どうなってんだよ…」

「なんだよこれ…」

などと不安を口にしていた。

暫らくすると、太鼓の音のようなドンという音が聞こえなくなった。

『それ』が、いなくなったのかどうか分からない俺達は、そのままリビングの端でじっとしていると今度は玄関の方から、

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

と、激しくドアを叩く音が聞こえてきた。

俺は恐怖と不安でパニック状態で耳を塞ぎ、他の奴も皆耳を塞ぎ、必死で今の事態に耐えていたのだが、暫らくすると今度は建物中のあちこちから、

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

と、窓と言わず壁と言わず、あちこちを大勢の人が滅茶苦茶に叩く音が聞こえてきた。

耐えられなくなった友達が、

「電話しよう、管理事務所直通の電話あっただろ、あれで助けを呼ぼう」

と言った。

俺達はハッとその事に気付き、急いで玄関側にある電話に急いだ。

俺が電話を取り『直通』と書かれたボタンを押すと、2、3コールの後、別荘まで案内してくれたおじさんが電話に出た。

おじさんに必死で事情を話すと、おじさんが独り言のように、

「…まさか、まだ出るなんて…」

と呟いた後、

「説明は後回しで、リビングに神棚があるね?そこにお札とセロテープが入っているから、そのお札をドアに貼って待っていなさい」

と言った。

俺達は意味が解らなかったが他に解決策も無く、とにかくリビングへ戻り、神棚を探す事にした。

神棚は部屋の端の方の天井近くにあった。

椅子を使って中を覗き込むと、確かにお札とセロテープが入っている。

俺達は急いでそれを出すと、玄関とリビングの入り口のドアと窓にお札を貼った。

窓にお札を貼る時、なるべく外を見ないようにしていたのが、一瞬だけ外を見てしまった。

すると、青白い腕が数本、窓をガンガン叩くのが見え、更に腕の向こうに、どう考えても腕の位置とは不自然な形で人の顔が見えた。

その顔は、やはり他と同じように焦点が合っていない目でだらんと口を開けていた。

俺は外で『それ』がどんな状態になっているのか、恐ろしくて考える事も出来なかった。

何時間くらい経ってからだろうか、外が明るくなり始めた頃、壁やドアや窓を叩く音は聞こえなくなった。

それでもまだ『それ』がいるかもしれないと思うと動けず、そのままじっとしていると、遠くから車がこっちへ向かってくる音がし始めた。

車が庭に止まると、数人の足音が聞こえてきて、ドアのチャイムを押す音と、

「おーい、大丈夫か?」

と、声が聞こえてきた。

俺達は、

「助かった…」

と、大急ぎで外に出ると、最初にここの手配をした人と案内した人、その他に3人のおじさんが来ていた。

手配をした人と案内をしてくれた人がすまなそうに、

「本当にすまない、もう大丈夫だと思っていた。事情を説明するからとにかく荷物をまとめてきてくれ、ゴミとかはそのままでいいから」

と言い、俺達はその通りにして別荘を出た。

車に乗せられ、俺達は神社へ案内された。

一緒に来ていた3人の人は、その神社の関係者らしい。

俺達はホッとして緊張感が解けたのと、助かったと言う気持ちもあったが、それ以上に怒りが湧いてきて、

「何であんな場所へ泊めたんだよ!」

と怒った。

すると神社の神主さんらしき人が、こんな話をし始めた。

あそこは昭和40年代までただの森だったのだが、観光地開発をするということで40年代の終わり頃に人の手が入った。

それで順調に開発が進んでいたのだが、あの別荘を建てた昭和50年代前半頃からおかしな事が起こり始めたとか。

別荘が原因なのか、開発そのものが原因なのかは今でも解らないらしいが、とにかくあの太鼓の音や人の塊がその頃から出没し始め、最初の別荘の持ち主と、その次の持ち主はあそこに宿泊中に失踪してしまったらしい。

それで売りに出され、今の管理組合が所有する貸し別荘となったのだが、それからも何度もあの人の塊は現れ、被害者は出なかったが、目撃者から散々苦情を言われたので、神主さんが10年ほど前に御払いをしたとか。

それ以後、貸し出されてはいなかったが、掃除や整備に来た人達は、誰も『それ』を見かけていなかったため、もう大丈夫だろうということで俺達に貸したらしい。

その結果が昨晩の事件。

俺達は完全に巻き込まれた被害者なので、散々文句を言うと、管理人の人がここまでの交通費と食費はこちらが持つ事、別荘のレンタル費用もいらないし、次に旅行をする時は大幅に割引するように代理店に口利きもする、だから本当に申し訳ないけど、この事は黙っていて欲しいと頭を下げてお願いしてきた。

俺達は何か言いくるめられた気もするが、警察にこんな話をしてもどうせ信じてもらえないだろうからと、渋々その話を飲むことにした。

上に書いたように、そういう事情なので詳しい地名などは書けません。

ちなみに、去年割引してくれるというので旅行代理店に電話した時に聞いたのだが、あの別荘は取り壊され、今は更地になっているらしい。

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爺ちゃんとの秘密

俺は物心ついた時から霊感が強かったらしく、話せる様になってからは、いつも他の人には見えない者と遊んだりしていた。

正直、生きてる者と、この世の者ではないものとの区別が全くつかなかった。

知らないおじさんが玄関から入ってきても、誰も気付かず、

「おじさんがそこに立っとーよ」

と言っては、

「そげん人はおらん!」

と怒られ、叩かれたりもした。

だから俺は、怒られるのが嫌で、少しずつ無口になっていった。

ただ1人、俺の味方だったのが爺ちゃん。

一緒に歩いてる時、向こうから歩いてくる男がいた。

全体的に灰色がかっていて、顔が土気色。

そして背中にピッタリと張り付いている黒いもの。

爺ちゃんに、

「あの人、どげんかしたと?何で黒いのしょってるん?」

と聞いたら、

「ああいうんは、よくよく見とったらいけんよ、ちゃんと区別をつけるようにしんしゃい。人には影が出来るが、あのもんに影はなかろうが。まだ生きとるけどな…」と。

見れば確かに、その男には影がなかった。

そして追い風にも関わらず、線香と、何か腐った様な強烈な臭いがしてくる。

すれ違う時には、その臭いで何度か吐いてしまったのを覚えてる。

そういうものを何度も目にしたりして、爺ちゃんに色々教わっていく度に、

「ここには近寄ったらだめ」

「あの人には近寄ったらだめ」

と、段々分かる様になっていった。

そして爺ちゃん以外の人には、話してはいけない事も。

そんなある日(小学校2、3年位)夏休みで母の妹家族のとこへ遊びに行った。

(その頃、爺ちゃんは妹家族と同居してた)

丁度、同い年位の子が二人いたから楽しくて、毎日遊んでたら、ある日の昼に暑さで鼻血を出してしまった。

叔母さんの家に行くと、少し横になってなさいとの事で、ある一室に連れて行かれそうになったんだけど、そこは自分なりに気付いてた『近寄ったらだめ』な場所だった。

断ったけど、ガキの言う事なんて勿論聞いてはくれず、でも1人は絶対に嫌だったから、庭にいた爺ちゃんを呼んで一緒に寝てもらう事に。

「何かあってもジィがおるけん、大丈夫」

の言葉に安心して、気がついたら寝てた。

どれ位寝たのか、ふと目を醒ますと異様な寒さと線香の臭い。

ヤバい、怖いと初めて思い、爺ちゃんを見るとグッスリ寝てる。

起こそうと思った時に、初めて自分の体が動かない事に気付いた。

掠れ声ぐらいしか出ない。

それでも爺ちゃんを呼び続けた。

その時、ゆっくりと襖が開いて出てきたもの。

首と右腕、左膝から下が無く、戦時中に着ていたと思われるボロボロの服を着て、焼け爛れたものが這いずりながら俺の足元まで来た。

そいつは、俺が掛けていたタオルケットをゆっくり引っ張る。

何度爺ちゃんを呼んだか、

「爺ちゃん起きて!」

と、掠れ声で叫んだ瞬間

「なんや?」

と、こっちを向いた爺ちゃんの顔は焼け爛れ、皮膚が剥け、片目と鼻の無い、今俺のタオルケットを引っ張っているそいつの顔だった。

多分、一瞬気絶したと思う。

でも、

「まだ終わらんぞ…」

って低い声と変な笑い声で気が付いた時、そいつの体はもう半分位、俺の体の上に乗っていた。

そいつの血と自分の汗が混ざって、ヌルヌルする様な気持ち悪い感触。

その時突然、すげー勢いでお経を唱える声がした。

泣きながら横目で爺ちゃんを見ると、怖い顔で聞いた事のないお経を正座してこっちを向いてあげ続けてた。

そしたら、そいつが舌打ちしながら、

「クソガキが…」

みたいな事をモゴモゴ言いながら、煙の渦に吸い込まれてった。

その後はもう、爺ちゃんにしがみついて大泣き。

泣き声を聞き付けてきた叔母さんに、爺ちゃんは、

「怖い夢を見ただけだ」

と言い、ごまかしてくれた。

落ち着いてから、爺ちゃんにあのお経はなに?って聞いたら、

「ジィにもわからん、勝手に口をついて出たけん、多分ご先祖様が助けてくれたんやろ」

と。

その後、二人でアイスを食べながら庭の雑草を取ってたんだけど、何となく俺が掘り返した所から木の札が顔を出した。

爺ちゃんを呼ぶと、血相を変えてこっちにやってきて全部掘り返すと、その何枚かの札には何か書いてあり、大量の釘が打ってあった。

「お前は見んでよか、触るな」

と言い、裏の焼却炉の方へ持っていってしまった。

後で何が書いてあったのか聞くと、子供への怨み事が沢山書かれていたらしい。

小6の三学期、爺ちゃんが胃癌末期と知らされ、最期まで爺ちゃんにバレない様にしろと家族に言われたが

(今思えば小学生に対して無茶ぶりだ)

1人で毎日見舞いに行く度に、俺が我慢出来ずに泣くもんだから、完全にバレてしまってた。

というか、爺ちゃんは最初から自分が長くない事を分かってた気がする。

「ジィがあっちに行く時は、お前のいらん力を持ってくけん、ジィがおらんようなっても、なーんも心配いらん」

と、いつも優しく頭を撫でながら安心させる様に言ってくれていた。

そして爺ちゃんが亡くなってから十数年、怪しい場所や人から線香や腐敗臭、頭痛はしても、それ以上のものは一切見えなくなった。

ただ、結婚して子供もいる今、長男が幼かった頃の俺とソックリな行動をたまにしているのを見ると、先の事を考えて背筋が少し寒くなる。

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浮かぶ2つの鳥居

ちょっと前の仕事が休みだった日、原付で家の裏山を走ってたんだよ。

そしたら空にぽっかりと、赤い鳥居が2つ並んだ状態で浮いてるんだよ。

赤い鳥居が浮いてるっていうより、宙にぼやけてるって感じかな。

道なりにその鳥居があったから、走り抜けたんだよね。

だからちょうど、くぐった感じ。

2つとも。

家に帰って、その日は普通に過ごした。

問題は次の日からで、高熱が出て、薬を飲んでも病院に行っても熱が下がらないんだよ。

母親に、

「何か最近変わったことはなかったか」

と聞かれて、息も絶え絶えで鳥居の事を話したんだよ。

そしたら母親が血相を変えて、

「Aさんに連絡しないと!!!!」

って電話してた。

Aさんってのはユタ(うちの地方じゃ呪い師みたいなもの)だ。

ほどなくしてAさんがやってきて、

俺を見るなり、

「あぁ、これは相当やられてるね・・・」

って、言ってきたんだよ。

何にやられてるのか、何をやられてるのか、全く聞けなかった。

身体が動かなくて、声も出なかったんだよ。

それなのに家の仏壇の前に寝かされて、Aさんがもってきた酒やら米やらを仏壇に並べ始めた。

「鳥居を2つくぐったんだね?」

と聞いてきたから、かすかに頷いた。

「あんたの先祖に守ってもらうように今から頼むけど、それが出来なかったら、あんたは悪いけど、ここで命が切れてしまうよ」

と、物騒な事を言うんだよ。

Aさんは何やら呪文みたいな言葉を唱え始めた。

俺が聞き取れたのは、

『マジムン』『グソー』『ニライ』

の3つだけで、呪文みたいなものが書かれた紙で体を叩かれておしまい。

Aさんが、

「どうにか切り抜けた。あんたよかったね、毎年墓参りにちゃんと行ってて」

て言ってきた。

俺、何となくなんだけど、墓参りだけは親と一緒に行くのを欠かさなかったんだよ。

それが幸いしてたらしい。

で、Aさんが、

「次に鳥居を見たらすぐに離れること。絶対くぐってはいけないこと」

と、言い残して去って行った。

次の日、嘘みたいに熱が下がっていた。

母親にどういう事か聞いてみたら、

「世の中知らない方がいい事もある」

と、最初取り合ってくれなかったが、しつこく聞いてみたら、

・俺の家系に関係している。

・鳥居をくぐったら8割の確率で死ぬ。

・鳥居の数はその人が生きた年数に応じて違う。

・雨の日は鳥居は出ない。

としか教えてくれなかった。

これが今まで平和に暮らしてきた、俺の唯一の洒落にならなかった話。