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詐欺の結末
20数年前、バブル真っ最中で銀行はどんどん回収見込みの無い所にまで貸し付けをやっていた。
銀行を真似て、マリンバンクや農協も組合員に簡単に貸していたんだ。
ある漁業系の貸し付けはめちゃくちゃ酷かった。
1000万円の評価額の土地を担保に、2年間で計3000万円を貸りたAという人がいた。
なぜ、そんな貸し付けが出来たのかと言うと、組合の会長が入院中で代理のBが決済を下してたらしい。
詳しくは知らないが、Aのように、どう考えても絶対に貸りられるはずの無い大金が数人の組合員に貸し付けられた。
で、数年後。
金を借りた人の親戚の元に督促状が何通も届くようになった。
そのほとんどが高校はおろか、中学もろくに行っていなかったような老人なんだ。
督促状には大金を借りた組合員の保証人と書いてあった。
ローンも組めない年金暮らしのお年寄りを狙って、組合員と会長代理のBらが仕掛けた詐欺だった。
田舎じゃ、玄関のカギなんか掛けないから勝手に家に入って老人の実印と印鑑証明を持ち出したんだ。
その上、土地の権利書も持ち出し、勝手に抵当に入れてたから親戚中が大騒動。
そんなのが何件も出て来たんだけど、マリンバンクは『借金は借金だからなんとかして払え』
借金をした本人は『困った親戚を助けるのは当たり前』と開き直る。
被害者は子供や孫に叱られ、ショックで死んだり、首をくくったり…。
家を取られ、住む所を無くし出ていった老人もいた。
それからすぐに、会長代理のBが突然の原因不明の病気で病死。
組合理事Cの妻が病死し、息子夫婦が破産し離婚。
組合理事Dは多額の借金を残し妻子を捨てて夜逃げ。
Aは心臓病で倒れた。
これが一月以内に立て続けに起こったんだ。
Aが倒れる前に、Aの妻が何人もの老人がAの家の周りをグルグル回っているのを目撃していた。
「こいつは…どうする?」
「こいつも騙されたクチやでなぁ」
「取らんでもいいが?」
「そやけど、こらしめんとなぁ」
「そうや、こらしめんとあかん」
後になってわかったが、Aは借入金額3000万のうち、500万をB,C,Dにピンハネされていたそうだ。
今、Aは生きてはいる。
生きてはいるが、いつも耳元で、
「年寄りから騙し取った金で飯食うとるんかぁ?」
「夜中、沖で船が止まったら、そら怖いでぇー仲間が来るでなぁー」
そんな声がしょっちゅう聞こえて夜も眠れないそうだ。
なぜ、自分がこれを知っているかと言うと、Aは自分の親戚で亡くなった老人も身内なんだ。
権利書、実印、印鑑証明などを取られたのだから訴えれば良かったと思うのだが、親が言うには身内から逮捕者を出したくないと思ったんだろうとの事だった。
霊感の強い母曰く、Aの肩には嫌な笑顔の3人の老人と、もがき苦しむBがしがみ付いているのだそうだ。
Aはニトログリセリンを首からぶら下げているのだが、その瓶を3人の老人が指で弾いて遊んでいるという。
多分、今度発作が起きたらニトロを口にすること無く苦しみながら逝くのであろう。
「Kちゃん(母の名前)、因果応報なんよ、仕方ない事よなぁ」
老人の1人が母にそう語ったそうだ。
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お母さんですよ
携帯買ったばっかりの頃、非通知着信がやたらと多かった。
ある日の朝方、また非通知から電話が掛かってきたらしく今度は留守録が残ってた。
再生したらおばさんっぽい声で、
「あなたのお母さんですよ。あなたのお母さんですよ。あなたのお母さんですよ。あなたのお母さんですよ。」
って、時間一杯に入ってた。
もちろん、かーちゃんに聞いてもそんな事やってないと言われる。
留守録は、その日のうちにまた入れられてた。
今度は、
「宮城のお母さんですよ。玄関が開いていませんよ。宮城のお母さんですよ。玄関が開いていませんよ。」
延々これ。
そんでその日、学校が終わって家に帰ったら玄関脇に停めてあった兄貴の自転車のカゴに、
「来ました」
とだけ、書かれたメモが入れられてた。
今でも何だったか謎。
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母親
俺、物心つく前に親父が死んじゃってて、お袋が女手一つで俺とアネキの事、育ててくれてたのよ。
実際すげー優しかったし、本当に愛情込めて育ててくれたと思う。
そんなお袋も10年前、俺が二十歳の時に死んじまったんだなこれが。
そりゃーショックだったよ。
アネキも俺も放心状態。
でも親類関係って一切かかわった事ないし、連絡先も知らないから自分たちで全てやるしかなかったのね。
まぁ近所のおばさんなんかが手伝ってくれたし、アドバイスくれたりで淡々と葬式の準備は進んでったわけよ。
その時、アネキが近所のおばさんと区役所に死亡届を出しに行ってたんだけど、2人して真っ青な顔して帰ってくるのよ。
もうね、本当の青って感じw
アネキなんか、今更おお泣きするしw
んで、そのおばさんに何があったのか聞いてみたら、お袋18年前に死んでますってwwwwwww
確かに、保険証にお袋の名前無かったのはおかしいと思ってたんだけど・・・
俺の事、20年間育ててくれたのはいったい誰だったんだ?
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オオカミ様
俺が宮大工見習いをしてた時の話。
だいぶ仕事を覚えてきた時分、普段は誰も居ない山奥の古神社の修繕をする仕事が入った。
だが、親方や兄弟子は同時期に入ってきた地元の大神社の修繕で手が回らない。
「おめぇ、一人でやってみろや」
親方に言われ、俺は勇んで古神社に出掛けた。
そこは神社とはいえ、小屋提程度のお堂しかなく、年に数回ほど管理している麓の神社の神主さんが来て掃除するくらい。
未舗装路を20km程も入り込んで、更に結構長い階段を上って行かねばならない。
俺は兄弟子に手伝ってもらい、道具と材料を運ぶのに数回往復する羽目になった。
そのお堂は、酷く雨漏りしており、また床も腐りかけで酷い状態だった。
予算と照らし合わせても中々難しい仕事である。
しかし俺は初めて任せられた仕事に気合入りまくりで、まずは決められた挨拶の儀式をし、親方から預かった図面を元に作業に掛かった。
この神社はオオカミ様の神社で、鳥居の前には狛犬ではなくオオカミ様の燈篭が置いてある。
俺は鳥居を潜る度に両脇のオオカミ様に一礼する様にしていた。
約一ヶ月経過し、お堂がほぼカタチになってきた。
我ながらかなり良い出来栄えで、様子を見に来た親方にも
「なかなかの仕事が出来ているな」
と褒めてもらった。
それで更に気合が入り、俺は早朝から暗くなるまで必死で頑張った。
ある日、内部の施工に夢中になりハッと気付くと夜の10時を過ぎていて帰るのも面倒になってしまった。
腹が減ってはいるが、まあいいかと思い、
「オオカミ様、一晩ご厄介になります。」
と、お辞儀をしてお堂の隅に緩衝材で包まって寝てしまった。
どれくらい眠っただろうか。
妙に明るい光に、
「ん…もう朝か?」
と思って目を開けると目の前に誰か座っている。
あれ?と思い、身体を起こすと日の光でも投降機の光でもなく、大きな松明がお堂の中にあり、その炎の明るさだった。
そして、明るさに目が慣れた頃に、目の前に座っていたのは艶やかな長い髪の巫女さんだった。
「○○様、日々のご普請ご苦労様です」
鈴の鳴るような澄んだ声が聞こえると共に、彼女は深々とお辞儀をした。
「ホウエ?」
俺は状況が飲み込めず間抜けな声を返しながら、お辞儀でさらっと流れた黒髪に見惚れてしまった。
「我が主から、○○様がお堂にお泊りなのでお世話をする様にと申し付けられ、ささやかでは有りますが酒肴をご用意して参りました」
彼女が料理と酒の載った盆を俺の前に置く。
盆の上には大盛りの飯、山菜の味噌汁、大根や芋の煮物、渓流魚の焼き物、たっぷりの漬物。
そして徳利と杯が置いてある。
「さ、どうぞ」
彼女が徳利をもち、俺に差し出す。
俺は良く解らないまま、杯を持ちお酌をしてもらった。
くっと空けると、人肌ほどの丁度良い燗酒で、甘くて濃厚な米の味がした。
「・・・旨い!」
俺が呟くと、巫女さんは、
「それはようございました」
と涼やかな微笑みで俺を見つめた。
途端に腹がぐうと鳴り、俺は夢中で食事をした。
巫女さんは微笑みながらタイミング良くお酌をしてくれる。
食べ終わり、巫女さんがいつの間にか用意してくれたお茶を飲みつつ
「ご馳走様でした。ところで貴女はココの神主さんの身内の方か何かですか?」
と聞いてみた。
「ふふ、そのような物です。お気になさらず。」
巫女さんは膳を片付けながら答えてくれた。
突然俺は猛烈に眠くなってきて、もう目を開けているのも苦痛なくらいになった。
「お疲れのようですね。どうぞ横におなり下さいませ」
巫女さんはふらつく俺の頭を両手でそっと抱え、彼女の膝の上に乗せてくれた。
彼女の長い黒髪が俺の顔にさらっと掛かる。
彼女の黒髪に似合う髪飾りってどんなのだろう、と柄でもない事を考え、暖かく柔らかな感触を頭に感じつつ俺は深い眠りに落ちていった。
「おい、○○。起きろや」
親方の声で目を覚ました俺はバッと飛び起き時計を見る。
朝の7時。
目の前にはニコニコした親方と神主さんが居る。
「あ、すみません親方。昨夜遅くなったんで泊まっちまいました」
俺は親方にどやしつけられるかとビクビクしながら謝った。
「ふ。お堂の中で一晩過ごすなんざ、おめぇもそろそろ一人前かぁ?」
なぜか嬉しそうな親方。
なんとか怒られずに済んだようだ。
「あ、神主さん、昨夜はありがとうございました。食事届けていただいて。」
「はぁ?なんですかそれは?私は存じませんが?」
「え?だって神主さんのお身内だっていう巫女さんが酒と食事を持ってきてくれて…」
「いやあ、あなたがお堂に泊まってるのに気付いたのは今朝ですよ。朝、様子を見に来たらあなたの軽トラが階段の下に止まっていたので何か有ったのかと思って親方に連絡して、一緒にお堂に来たのですが…」
「え?そんなはずは…?」
戸惑う俺を見て、親方が大笑いしながら言った。
「大方、腹減らしながら寝ちまったからそんな夢を見たんだろうよ。それか、オオカミ様がおめぇの働き振りを気に入ってご馳走してくださったかだ。まあ後でお礼の酒でも納めれば良いんじゃねえか。」
一週間後、無事に竣工した神社を奉納する儀式も終わった。
俺は休日に一人で神社に行き、酒と銀細工の髪飾りを納めた。
帰りに鳥居を潜ろうとしたとき、お堂の前に間違いなく誰かが居る様な濃厚な気配を感じて振り向きそうになったが、そのまま一礼して階段を降り始めた。
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子供達の声
その日は残業で、終電で最寄り駅に着いた。
駅からの帰り道には地元で一番古い小学校がある。
そこで異変が起きた。
その小学校の脇を通った時に、校庭で子供達がはしゃいでる声?が聞こえてきた。
何を言ってるのかは聞き取れなかったけど、数十人くらいの子供がワーワー騒いでるようだった。
空耳かな?
と思ったけど、妙にハッキリ聞こえたので自転車を止めて様子を伺った。
それでも子供達の騒ぐ声が10秒くらい続いたので空耳とは思えない。
なんで深夜1時に子供達が集団で騒いでるんだろう?
疑問になって、その小学校の裏口から校庭を覗いた。
校庭は真っ暗で、この暗闇の中で子供達が騒いでるのは不自然というかありえない。
校庭じゃなくて校舎か体育館に居るのか?
と思い、薄っすらと街灯で照らされた校舎と体育館を見たが真っ暗で人が居る気配は無い。
その時は恐怖心は全く無く、何故かこの声の方へ行きたくなり裏口の門をよじ登って校庭内に入った。
(今にして思えば、何故校庭内に入ったのか不思議でならない)
校庭内に入り、さらに声の方へ近づくと、その声はさらに大きく鮮明になっていった。
さらに歩いていくと声は前後左右から聞こえてきた。
子供達の集団の真ん中くらいに居るのだろうか?
その時それが、子供達がはしゃいでいる声ではない事に気付いた。
「助けてえぇ、苦しい・・・」
それは、もがき苦しんでいる人達(女性と子供のようだった)の絶叫と悲鳴だった。
その途端、体中が火傷しそうなくらい熱くなり、焦げるような異臭とともに煙で目に激痛が走り、呼吸困難になる。
同時に何人もの人達?が、俺の体にしがみ付いてきたが人の姿は見えない。
(正確には真っ暗闇なので見えなかった)
俺は必死でその人達?を振り払いながら、外の街灯を頼りに裏口を目指した。
なんとか裏口までたどり着くと必死で門をよじ登り、外へ脱出したがその途端悲鳴が止み、熱と煙も消えていた。
翌日、爺ちゃんにこの話をしたら、爺ちゃんからその小学校は戦時中には防空壕があったのだけど、大空襲でその防空壕が爆破されて中に居た数百人がほぼ全員犠牲になった事を教えられた。
俺はタイムスリップしたのだろうか・・・
もしあの時、しがみ付いてきた手を振り払う事が出来なくて校庭から出られなかったらどうなっていたんだろう?