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覚醒
三年の夏までは俺よりも頭悪いくらいだったのに、秋くらいに何故か覚醒。
気持ち悪いくらい頭良くなった奴がいた。
同じバスケ部だったんだけど、勉強だけじゃなくて、ある日を境に何かが乗り移ったみたいに上達していた。
引退してたから意味は無いんだけど、本人も本気で気持ち悪がってて、
「宇宙人に改造されたんじゃないか」
と自分で言ってた。
それで、何を思ったのか三年の秋に、俺と一緒に行く予定だった県外の私立大学から地元の国立へ進路変更した。
そこは結構な難関なのに一発合格。
しかも特別待遇。
そいつは、
「何か怖いなww」
って言ってた。
で、俺は予定通り県外へ出て、ここ一年ぐらいそいつとは連絡していなかった。
それで先週、そいつの訃報が入った。
一年前までは病気なんて全然しないような奴だったのに、死因は心不全。
殆ど原因不明らしい。
大学へ入ってからも、そいつの覚醒っぷりは凄かったらしくて、何か色んな賞とか取ってたらしい。
その賞金や、貯めてたらしいバイト代とかが全部遺されて、二十歳そこそこの癖に遺産相続やらまで行われた。
何か知らんけど、俺はバットとアンプをいただいた。
そういうのが全部遺書みたいに纏められてて、何だか不気味だった。
自殺じゃないのかって疑われてたようだけど、調べてもやっぱり自然死としか言いようがないみたいなことを言われたらしい。
俺の貯金は妹の学費にとか、二十歳の大学生が書いて遺しておくか?
自然死なのに?
何か凄い怖い。
あいつなんで死んだんだろう。
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別れた女
学生時代の後輩が、4つ上のOLと同棲してたんだけど、強引に別れて他の女と結婚したんだ。
後輩にとっては金づるだったみたいだけど、その後、その女が自殺した。
後輩は自殺したと聞いても、俺には関係ないですよとか言って笑ってたな。
ところが生まれた子供2人とも奇形で、それが原因でカミさんはノイローゼ?になって精神病院に入院。
後輩は、夜毎に自殺した女が俺の部屋に来るとか言い始めて、結局仕事止めてニート状態。
今は、親が後輩と子供の面倒見てるらしい。
まぁ、これが自殺した女の祟りなのかどうかは判らないけどな。
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忘れられない電話
僕は京都の○○大学・文学部・仏教学科の学生です。
この話は、僕が所属するゼミの教授から聞いた話です。
もう一昔前ですが、当時助教授だった教授の元に、一本の電話が掛かってきました。
関東に住む弁護士さんからでした。
『ぜひ仏教の知識に秀でる○○助教授に教えて頂きたいことがあります。』という内容でした。
最近、中年女性が弁護士さんに相談に来て、息子を助けて欲しいと。
内容は、自分の息子が、ある新興宗教に入信してしまい、帰ってこないどころか連絡も一切とれずに困っているとの事でした。
それどころか、息子は家のお金を数百万も盗み、その宗教団体に寄付しているんです。
と、母親の女性は涙ながらに語っていました。
母親は、
「出家とはそういうものなのですか?」
「いくらなんでもおかしいんじゃないですか?」
弁護士は悩みました。
いくら弁護士でも、宗教については分からなかったからです。
そこで、世界の宗教について研究して本も出版していた、当時の○○助教授に連絡が至ったわけです。
「○○教授にお尋ねしたい。宗教において出家とは、二度と親には会ってはいけない、また多量のお金を寄付しなければいけない、とか決まりがあるのでしょうか?」
助教授は答えました。
「いえ、そんな事はありません。日本宗教においては、出家しても会いたくなれば親に会ってもいいですし、そんな決まりは昔から存在しません。」
「まして、元の自分の家から多額の金を寄付するなど、ありえません。あきらかにおかしいことです。」
弁護士は、
「やはりそうですか。実はですね。こういった相談が最近私の元に沢山くるんです。」
「このお母さんだけではないのですよ。しかも全部の相談がある一つの宗教団体なんです。」
教授は「何ていう宗教団体ですか?」と尋ねました。
「はい、何やらオウム真理教という新興宗教の団体なのですが・・・」
教授は「オウム?聞いたことないですね。」
「いやあ、何やらこの団体の噂が多々ありましてね、施設の近所に住む方々からも苦情があるんです。真夜中に凄い叫び声や奇声がするやらなんやらで・・・。」
「とにかく、もう少しこの団体について調べてみます。○○教授ありがとうございました。また何か分かれば連絡致します。」
そう言って○○弁護士と電話で話したのが、最初で最後になったそうです。
そう・・・この弁護士は坂本弁護士からの電話だったらしいのです。
後にオウムによって一家惨殺されました。
教授は今でも、あの電話を忘れることができないそうです。
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木琴
私が中学生の頃、合唱コンクールっつーのがあった。
なんか、うちの学校では妙に力の入ったイベントらしくて、放課後でも皆残って練習したりしてた。
で、まずは曲を何にするか?っつーのも、教師が勝手に決めるのではなく、生徒達で決めたりもした。
最終的には担任が決定するけど。
で、ある日私たちは音楽室で何を歌うか選んでいた。
たぶん英語担当の教師(以下K先生)が一緒だったと思う。
生徒も私以外に10人くらいいたと思う。
随分昔の話なんで、当時はテープだった。
で、候補曲をテープレコーダーで聞きながら決めるわけだ。
数ある合唱曲の入ったテープを見ていたら、K先生が、
「面白いのがあるぞ」
(っぽいことを言ったと思う)
とか言って、1本のテープを出した。
その合唱曲は『木琴』だった。
で、K先生がレコーダーに入れて再生開始。
最初は普通に曲が始まった。
K先生が、
「ここからがな・・・」
とか言って皆が妙に緊張した。
間奏だったと思う。
急に戦火(WW2だと思う)の悲鳴やら轟音がしだした。
で、間奏が終わり、歌が始まったらそれは止んだ。
その時は、その『木琴』という曲が中学生には難しいだろうという事でコンクールには歌わないことになった。
しかし、なぜか当時の私はそのテープを持ち帰らせて貰った。
ただの好奇心だった。
コンクールが終わった頃、友人たちとテープを聴きなおした。
戦火の部分が、聞いたときよりも長くなって鮮明になっていた。
悲鳴やら『おかあさん』と呼ぶ声や、多分戦闘機の音だと思うけど『ゴォー』という音や火災?のような音もあった。
妙に生々しかった。
好奇心はあったものの怖かったので、そのテープはそのまま返しそびれ、自宅に残したままだった。
今、私は社会人になって実家を出ている。
たぶん、そのテープはまだ実家にあると思う。
怖いので、あれから聞きなおしはしていない。
後になってウィキとかで『木琴』について調べたら怖かった。
『木琴』金井直
妹よ
今夜は雨が降っていて
おまえの木琴が聞けない
おまえはいつも
大事に木琴を抱えて 学校へ通っていたね
暗い家の中でも おまえは木琴と一緒に歌っていたね
そしてよくこう言ったね
早く町に 赤や青や黄色の電灯がつくといいな
あんなにいやがっていた戦争が
おまえと木琴を 焼いてしまった
妹よ
おまえが地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてから まもなく
町は明るくなったのだよ
私のほかに 誰も知らないけれど
妹よ
今夜は雨が降っていて
おまえの木琴が聞けない
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手
俺の嫁は俗に言う『みえる人』で、俺は『0感』。
嫁がまだ恋人の頃、見える人である事を俺に明かし、その後しばらくの間『あそこに女の人が居る』だの『今、足だけが階段を昇っていった』だの言い出し、俺が本気で遺憾の意を表明した時から、一切それ系の実況をしなくなった。
山菜採りが好きな俺と嫁は、いつもの如く山道を車で通行していた。
しがない自営業の俺等は、昨今の不況の折に開き直って、平日の昼間に日がな半日程度、山菜採りに精を出していた。
比較的心地よい疲れに伴い、今日の夕飯は何かな、天婦羅はもう暫く要らないなとか思いながらボケっと運転していた夕刻。
自分の車の前を走る、シルバーの軽。
暑い日だったので、前を走る軽の助手席の窓から手が生えて見える。
運転者は老齢であろう。
決して生き急いでないのが見て取れる様に40k巡航である。
ここまではよくある光景で、次のストレートで追い越しかけるかと思っていた。
その矢先、嫌な事に気付いて、しまったと思った。
その軽の助手席の窓から『手』が生えて見える。
『腕』じゃなく『手』。
指まではっきりと認識できる。
巨大な手が、前を走る軽の窓枠をがっちりと掴んでいる。
嫁はともかく、今までそんなものが見えた事のない俺は総毛だった。
すぐさま嫁に視線を移すと、以前はこういう不可思議な現象に対してもヘラヘラ笑いながら俺に実況していた嫁が、目を見開いて硬直している。
常時見えている人間にとっても只事では無い事例であろう事が、0感の俺にも容易に推測できた。
そして、その『手』はこちらの熱視線に気付く風でもなく、新たな行動をし始めたのだ。
その『手』は、掴んでいた窓枠を離し、にゅーっと虚空に伸び始めた。
その手首には、タイの踊り子の様な金色の腕輪が付いている。
肘が車外に出ても伸び続け、肩の手前位まで車外に出した。
とんでもないでかさ。
そして、やにわに自分が乗っている軽の天井を叩き始めたのだ。
「ぼん、ぼん、ばん、ばーん、ばん、ばーん」
という音が、すぐ後ろを走る俺等にも聞こえてくる。
そのときの俺はというと、目の前で起こっている映像に脳の認識がついていかず、ただそのままぼーっと軽を追従していた。
「停めて!!!」
嫁の悲鳴交じりの声が、俺に急ブレーキをかけさせた。
前輪が悲鳴を上げ、前のめりのGを受けながら俺の車は急停止した。
今まで眼前にあった、自分の車の天井を叩き続ける巨大な手を生やした軽はゆっくりと遠ざかって行き、その先のカーブから見えなくなった。
夕暮れに立ち尽くす俺の車。
嫁は頭を抱え、小刻みに震えている様にも見える。
俺も小便がちびりそうだったが、努めてなるべく明るく嫁にまくしたてた。
「なんだよ?お前いっつも笑って解説してたじゃん。あんなのいつも見てたんだろ?今回、俺も見えたけど、すげえなあれは。」
暫くの静寂の後、嫁が口を開いた。
「・・・・・あんなの、初めてだよ。・・・・アンタは、気付かなかったろうけど。」
「なにがよ?」
「あの腕。邪悪な感じがしない。かなり上位の存在だよ。」
「・・・じゃあ良い霊とか、神様じゃね?運転手が悪い奴で、なんかそんなんじゃないの?」
「そんな訳無い、絶対におかしい。あんな上位の存在が、あんな行動するわけがない。やっている事は悪霊そのもの。だけどあの腕は光に包まれてた。分からない。自分の無知が怖い。・・・怖い。頭がおかしくなりそう・・・」
嫁の話を聞いていると、俺も頭がおかしくなりそうだったので、わざわざUターンしてその現場から離れ、実家には帰らずに居酒屋に直行、二人で浴びるほど酒を呑んで近くのビジホで一泊した。
あの手は一体何だったのか、俺は未だに全く理解できない。
ただ、あんな体験はこれっきりにしたいもんだと、心底思った。