「 不気味 」 一覧
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黒い影
営業で住宅地を回る事が多いんだが、昼休みは適当な店に入って食事を取る。
その日は大きめな交差点の見える喫茶店でのんびりしていた。
ふっと交差点を見ると、黒い影が交差点を歩いていた。
それに対になる人はいない。
人影だけなんだけど、形は非常口の人影にそっくり。
何だろ……と見守っていたら、人影はくるっと方向を変えて猛スピードで居なくなった。
霊……にしちゃ変だなぁと思って暫くすると、消防車が大量に人影の向かった方に走って行った。
それから四回、人影に遭遇する度に消防車や救急車が人影と同じ方角へ向かった。
ある時、電車に乗っていたが、窓の外を人影が並走していたのを同僚が気づいて教えてくれた。
あ、と思った次の瞬間、人影は電車を追い抜いて行った。
驚いたのはその後だった。
線路の側で燃え始めている家が見えた。
その家の屋根の上で、人影が踊っていた。
黒かった姿は、炎を纏っているようで燃えているような、喜んでるような感じ。
ずっと火事を追い掛けてたのか……と怖くなった。
それから、三回人影を見かけるけど、また火事。
普通の火事もあるけど放火魔もいる地域で、こいつが原因じゃないといいなと本気で思ってる。
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ぐにゃぐにゃおばさん
大無間から光へ。
これが一発でわかる奴は山が好き。
けど、行った事のある奴は少し変態かな。
このルートはそんな所だ。
これは2001年夏。
その山行の終盤、加々森から光へ抜ける時の話。
加々森は陰欝なピークだ。
見晴らしがきかず、暗く寂しいから、留まるような場所じゃない。
友人と二人で来てみたものの、鹿の骨が散乱する暗い深南部の森もいい加減厭きてきてたし、会社に休みを延長してもらって、明るい聖まで足を延ばそうかなぁなんて思いながら、ほとんど加々森には立ち止まらず、先へ進んだ。
起伏が連なり、ほとんど消えかけた道をしばらく進んでいると、やがて急な下りに。
先行した友人が舌打ちをして止まる。
「うわ、わりぃ。ルート間違えた。」
地図を見ると、確かにこんなに下っていない。
光岩へ右に行く所を直進してしまい、尾根をかなり下ってしまったようだった。
溜息をついて戻ろうとしたが、ぬかるんだ急斜面。
ずるずるに滑って、上るのは結構骨が折れそうだった。
「まぁ、場所はだいたいこの辺だから、少しトラバースして、上りやすいとこから、行こうや。」
なんとなく萎えた気持ちのまま、しばらくトラバースすると急に開けた場所に出た。
紫の原っぱ。
窪地いっぱいに広がるミヤマトリカブト。
素晴らしくきれいだった。
こんな場所があったのかぁ。
見回せば、この窪地から上へ小さい道が続いている。
誰か知ってて来る人もいんのかなぁ?とりあえずルートに戻れそうだ。
俺は少しほっとした。
その時、トリカブトの群落から派手な合羽のおばさんがすうっと出てきた。
「助かるわぁ。道に迷ったんです。お兄ちゃん光まで連れてって。」
友人が震えているのが不思議だった。
「まぁ、ルートはこの上だと思うんです。この道悪いかもしれんけど。」
俺たちも迷ってしまった事は棚にあげて、俺は自信満々だった。
まぁ、現在地もだいたい把握できてたからだと思う。
じゃあ行きますか?
ところが、俺が先に行こうとした途端に、友人が俺の腕をひっつかんで、絞りだすような声で呻いた。
「俺たちは後から行くから、先に歩け。」
おばさんは少しお辞儀をして、先に上る道を上がっていった。
が、遅い。
たいした坂でもないのに這いずるような格好で辛そうに歩く。
あまりに遅いペースにいらだち、先に行ってルート見てくるから、おばさん後からゆっくり来なよって言おうとした瞬間、友人が俺につぶやいた。
「こいつに後からついてこられるのは嫌だからな。絶対見える所がいい。」
なんとなく気持ち悪くなってきた。
このおばさんはどこに行くつもりだったんだ?
光より南から、こんな装備で来たはずない。
光から来たなら、こんなとこには来ない。
おばさんはなんだかぐにゃぐにゃと上っている。
「ねぇ。どっから来たんですか?」
俺の問いには一切答えずおばさんは言った。
「前。代わらない?」
「代わらない!行けよ!」
友人が怒鳴る。
「前。代わらない?」
ぐにゃぐにゃのろのろ歩くおばさんの後をしばらく上った。
四、五回同じ問答をしたと思う。
俺はいつの間にかすっかり、怯えていた。
だが、ぐいっと急斜面を上ると突然本道にでた。
「あぁ、良かった。戻ったぁ。」
と思った瞬間。
バキン!!
と音をたててオバサンの首が直角に曲がったんだ。
そんで、すぅっとさっきの道を下りていった。
俺は怖いというより、驚いて硬直したまましばらく動けなかった。
その後は、光小屋までものすごいスピードでいったよ。
友人はその晩言った。
「おまえ合羽のフードの中の顔見た?目も鼻も口の中も全部土がいっぱいに詰まってたぞ」って。
あんなのにぴったり後ろついて歩かれるのは、俺は絶対に嫌だねって。
まぁ、そんだけ。
下手な文ですまない。
俺は山は好きだけど、あれから光より南は行ってないなぁ。
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昔住んでた市営団地
3才から20才くらいまで住んでた市営団地の話。
4階建て団地の最上階に住んでたんやけど、各階左右に部屋があって、自宅は左側。
右側の部屋はずっと空いてた。
小6くらいの時に、最上階だけ左右の部屋を繋げて間取りを広くする工事があった。
間取りが2倍になるんで『自分の部屋が手に入る!』と、妹とはしゃいでた。
で、リビングと台所と自分の部屋は左側(元々住んでた方) 両親の部屋、妹の部屋、トイレとお風呂は右側(増築分) って感じで部屋割りが決まったんやけど、どうも増築した側がおかしかった。
明らかに寒い…というか空気が違う感じ。
まぁ増築側の部屋は畳やし、水場もあるし気のせいやろと思ってたんやけど、変な現象が次々と…
妹がベットで寝てたらベットがガタガタと揺れたり、誰も住んでないはずの隣の部屋から話し声が聞こえたり(妹の部屋)
この時は妹がほぼ不登校な感じだったので、精神的な問題かなぁと思ってたんやけども…
そのうち自分も金縛りにあったり、ベランダ(増築側)のガラスに謎の顔(仏像的な)をみたり…
特に害は無いんやけども、一番嫌やったのは謎のハイヒール。
夜中の2時とか3時に、階段を上がってくるハイヒールの音が聞こえるんやけど、4階まで上がってきて音が途切れる…
降りる音は聞こえない…
これがほぼ毎日。
これは気持ち悪かった…
おかんが水商売やってたし、おとんはよく飲みにいってたし、そういう関係の幽霊を連れてきてたんかな?
まぁ一番洒落にならんのは、なんやかんやで両親離婚&家出。
妹は家出して妻子持ちと不倫、結婚。
一人取り残された俺は、バイトクビからの電気ガス水道停止、食料無し…
まぁ、今では皆幸せに暮らしてますけどね。
たまに団地の前を通るのですが、10年近くたった今でも誰も入居してません。
…やっぱり何かあるんですかね?
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ダメな土地
うちの祖母は、いわゆる視える人なんだが、近所の大きな駐車場が宅地造成されて分譲されるって聞いたら
「あの土地はダメだ!悪い事が起こる!」
ってスッゲー激怒。
何でダメなのか聞いても
「あの土地はダメなんだ」の一点張り。
確かに、その駐車場に隣接している家にはマジ基地が何人もいる。
駐車場敷地内の大木が切り倒された頃、うちの祖母が入院した。
見舞いに行っても意識が無い状態が続き、駐車場の事を話さないまま他界してしまった。
その後、周辺では祖母が言った通り事故事件が多発している。
駅で人身事故。
殺人。
乳児遺棄夫婦の逮捕。
そして女子中学生誘拐…
マジ怖いんだけど(´;ω;`)
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常連客
某チェーン店の居酒屋でバイトしてた頃の話。
Mさんという40代の常連がいた。
常連といっても、俺がバイトを始めた頃から店に一人でやってくるようになったのだが、ほぼ一月ほどは毎晩のように通ってきた。
何でも、居酒屋近くのビジネスホテルに滞在しているらしく、だいたい閉店間際にふらりとやって来て、本人定番のつまみを注文する。
それでお互い顔を覚えて、いつしか気安く対応する間柄になっていた。
何せ小さな店舗で、オヤジ系居酒屋だったこともあって、カウンター内で洗い物をしているとよく話し掛けてきた。
いつものようにモツの煮込みを出すと、Mさんは気味の悪い話を始めた。
若い頃にヘマをしでかし、その筋の方に拉致されて、ダムの工事現場に連れて行かれた時の話だそうだ。
Mさんは普通の労働者とは違って、飯場のような所に軟禁させていたらしい。
そこには似たような境遇の人たちが十人ほどいたという。
場所は人里離れた山の中。
食事の支度は飯炊き女(50代)がまかなっていたそうだが、当然食材は近くの村から配達してもらったという。
ある夜、工事現場に繋がる唯一の道路が、大雨で不通になってしまった。
復旧の目処がたたないうちに、三日が過ぎたそうだ。
蓄えていた食料も底を尽き、全員パニックに陥ったらしい。
その時みんなが目をつけたのは、飯炊き女が残飯を食べさせていた雑種犬。
Mさんは詳しく話さなかったが、とにかくその犬を食べて飢えをしのいだという。
「それからなんだよ。動物って分かってんのかね?俺を見たらどんな犬も吠えやがるんだ。睨みつけてよ」
俺もMさんが裏稼業の人間であることは薄々分かっていた。
相手は店の客だし、深い付き合いにはならないつもりでもいた。
でもMさんは俺のことを気に入ったらしく、仕事が終わったら飲みに行こうと誘ってくるようになった。
最初は断っていたが、ある夜、すすめられたビールで少し酔った俺は、誘いに応じてしまった。
「顔の利く店があるから」
Mさんは、東南アジアからタレントを連れてくるプロモーターだと自称していたが、実はブローカーだった。
連れて行かれた店もフィリピンパブ。
かなりきわどい店だったが、貧乏学生だった俺は結構楽しんでしまった。
Mさんは女の子と延々カラオケを歌っていたが、俺はカタコトの英語で片っ端から女の子を口説いていた。
一人すごくかわいい女の子がいて、その子にも話し掛けようとした時、Mさんは突然マイクを置いて、テーブルに戻ってきた。
「その子はだめだぞ。俺のお気にだからな」
Mさんの目は笑っていなかった。
ぞっとするくらい凄みがあった。
回りも雰囲気を察して、場はしらけたようになった。
俺も萎縮して、すっかり酔いが覚めてしまった。
Mさんは何も無かったように、再びカラオケで歌いだした。
その姿を黙って見ていた俺に、さっきのお気にの女の子がつたない日本語で耳打ちしてきた。
「店ノ女ノ子、全部アイツ嫌イ」
「何で?」
と俺が訊ねると、
「ワカラナイ。デモ、ナンカ見エル時アルヨ」
「何が?」
「死ンダ女ノ子ネ。イッパイ見エルヨ」
俺は思った。
分かるのは犬だけじゃないみたいだぞ。