「 幽霊 」 一覧
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古い宿
昭和50年頃、アタシは旅役者で全国をドサ周りしてたの。
んで、某県に行った時のことさ。
いつも木賃宿(って分かる?)的な安宿に泊まるんだけど、この時の宿は気持ち悪かった。
戦災から焼け残ったボロボロの木造平屋で、廊下の両側に畳二畳の小部屋がズラーッと並んでる。
聞いたところでは、昭和34年の売春禁止法施行前まで売春宿(いわゆる赤線)として使われていたらしい。
ここで一人一部屋ずつ入れられて寝たんだけど……
廊下の片側の部屋に泊まった人間全員(マジ全員!)が金縛りに遭って、16,7の田舎臭い女の子が血まみれの大きな舌を首もとまで垂らしてる夢に一晩中うなされた。
しかも、その子はケーロケロと蛙みたいな声を出し続けてるんだって。
アタシは被害に遭わなかったから、翌朝その話を聞いて不覚にも笑っちゃった。
でも、被害者の中で一人だけ、蛙語を聞き分けた東北出身の女性がいた。
彼女いわく、
「あれは蛙の鳴きマネじゃない。ケェシテケロ(=帰してくれ)って言ってたんだよ」
朝、窓を開けたら裏庭に大きな柿の木があったから
「あの柿の木で首を吊ったんだと思う」
と言っていた。
彼女の話がホントなら、柿の木側の部屋に泊まった人間だけがやられたんだろうね。
戦後は東北から売られてくる娘がまだいたんだねーと、みんなで何となくしんみりしちゃったことを覚えてる。
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苦しそうな女性
私は大阪難波のとあるビルで働いていました。
3年ほど前のある日、まだ私がそこに勤めていた時のことです。
深夜まで続いた売り場の模様替え作業がようやく終わり、地下のトイレに行くと手洗い場の所に女の人がいました。
女の人は見たことのない制服で、深夜なので不審に思いましたが、私と同じように深夜残業なのだろうと考えることにしました。
その人は気分が悪そうにうつむき、かがんでいたので、
「どうかなさいましたか?」
と声をかけると、
「痛い・・・痛い・・・」
と言っています。
とりあえず事務所まで案内しようと、
「それは大変ですね。事務所の方でおやすみになっては。お連れします」
と声をかけ、手を差し出しました。
女の人は顔をうつむけたまま手を握ってきました。
「っ!」
女の人の手は驚くほど冷たかったのです。
その瞬間に私は、その女の人がこの世のものではないと感じました。
咄嗟に私は手を離しました。
女の人はうつむけていた顔をこちらに向けました。
見てはいけないと思いながらも、私の目は言うことを聞いてくれませんでした。
その女性の顔は真っ青で、生気が全く感じられませんでした。
女性は立ち上がり、
「助けて・・・助けて・・・・」
と、私に迫ってきました。
私は声にならない悲鳴を上げていたと思います。
後ずさりしながら、何とかトイレから出ようと思いました。
よく見ると、女性は胸の辺りを押さえています。
「助けて・・・」
と、もう一度その女性は言うと、すぅっと私の前から姿を消しました。
私は動揺しながらも、事務所に駆け込みました。
事務所の先輩に一部始終を話すと、先輩は落ち着いた口調で、
「あなたも見たんやね。よく出るんよ。あれはね・・・」
と話し始めました。
実は20年ほど前にそのトイレで、洋品店に勤めている女性が17歳の少女に刺殺される事件があったそうです。(相当有名な事件らしいです)
この世に未練を残したまま亡くなった彼女は、今頃またトイレに現れ、苦しんでいるのかもしれません。
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連れて行く
知り合いから聞いた話です。
彼女の弟は霊感が強いらしく、小さい頃からよく
「そこで男の人が見てる」
と泣き出すようなことがあったそうです。
そんな話を聞いた叔父さんが、
「そんな奴、叔父さんがみーんな連れていっちゃうから安心しろ!」
と笑いながら言いました。
叔父さんが帰るとき、弟は窓から帰っていく叔父さんをずっと見ていたそうです。
そして後から
「何か見えてたの?」
と聞くと、
「叔父さんが歩いてる先に髪の長い女が立っていて、髪をクシでとかしながらずっと叔父さんを笑いながら見てた。叔父さんがその女の横を通り過ぎても、女は叔父さんの後姿をずっと見てたよ。それと…」
そこで言葉を切って
「叔父さんの後ろにはズラーって行列ができてて、本当にみんな叔父さんの後ろについていってた。」
その叔父さんは、それからすぐに身体を壊し入院したそうです。
その知らせの電話がかかってきた時、弟はうつむいてすぐ部屋に行ってしまい、それから弟はもう自分が見えることを家族にも話さなくなったと言っていました。
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幽霊に気に入られる
俺の親父が今の会社に勤めて間も無い頃。
その事務所で働いていた女が海で入水自殺した。
漁師をしていた母の友人の知り合い(Aさんとする)が、漁師仲間に服を脱がされていたその女の死体を見て不憫に思い、自分の上着をかけてやったら、それに心打たれた女の幽霊が、Aを道連れにしようと13年間付きまとったって話がある。
漁師仲間は木の棒でスカートをまくり上げたり、下着を脱がしていたそうです。
何十回と霊媒氏に見てもらっても、出てくるのは先祖の霊ばかりで、本体が出てきたのは霊障が始まって13年経ってからだったそうです。
漁をしていると、何度も海に引きずり込まれそうになったり、昼夜を問わず視界の端々に姿を現し、霊媒氏の所へ行こうとすると鏡が倒れてきたりと、家の中はめちゃくちゃだったそうです。
Aさん自身は悪いことをしたと思っていなかったそうで、全然心当たりがなかったそうです。
優しくするのも怖いもんだと、その話を聞いて思いました。
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ベランダの人
ベランダに干してあった私の下着を盗んだヤツが捕まった。
おまわりさんの話では、その下着泥は高校生で
「ベランダに立っていた髪の長い女の人に憧れていたので、つい盗んでしまった」
と、話したとのこと。
しかし、うちに住んでいるのはショートヘアの私と夫だけ。
高校生が見間違えたのだろうと思っていたが、後日きたセールスマンがチャイムに応えてドアを開けた私を見て
「あれ、いまベランダにいた髪の長い人が奥さんかと思った」
と言ったのでほんのり怖くなったよ。
おまけに上の階に引っ越してきた人と道端で話してたら、その人の子供がうちのベランダを指差して
「お姉さん、泣いてるよ?」
と言った。
見てみたが誰もいなかった。
いったいなにがいるんだ、うちのベランダ!