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峠のマネキン
以前、深夜ある峠を越えて車で帰宅した時の話だ。
まー誰もいやしねーと、タカくくってちょい飛ばしてたんだわ。
したら、カーブの先にいきなり赤い服着た女が突っ立ってた。
咄嗟の事だったがギリでかわした。
もうスピン寸前って感じ。
で、慌てて後ろ振り返ったらその女ぶっ倒れてるんだ。
真っ青になったね。
急いで車降りて駆け寄ってみたんだが…。
マネキンだった。
昔の洋品店とかにありそうな、割とリアル系。
人騒がせだなー!って、頭来て道の脇に蹴り飛ばしてやったw
で、再び車走らせたんだが…もう心臓バックバクよ。
ガチの事故じゃなくて良かったと。
マジ人ひいてたら…ってね。
が…冷静になって考えると、何故あんな場所にマネキンがある?
どうにも気になったから引き返してみたんだわ。
やっぱ道脇に寝転がってる。
赤い服着たまんまで。
なんだこれ?と思って服引っ張ってみたらズルっと脱げた。
したら…背中に何か書いてあるのが見えたんだ。
・○川△美 2*歳 OL
・平成*年*月*日、この場所で男に車内暴行され翌日自殺
・俺は犯人を絶対許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…マジックの走り書きでビッシリ。
最後の方は字がかすれてる。
もうゾゾッときて思いっきり逃げたね。
さっぱ意味わかんねーし。
で、そん時気付いたんだが、反対側の藪に軽トラが停まってたんだ。
誰か乗ってたのかどうかはわからんし、単なる放置車かもしれん。
だが、もしかすると何らかの目的を持った人物が、ずっとそこに潜んで何かを待ち構えていた…なんてな。
その峠はどうも気味悪くて、それから半年くらい避けてたんだが、再び通ったらアホくせーほど何もなかった。
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沖の人型
もう十年以上も前、俺が高校生の時の話。
2年の夏に、男5人で泊りがけで海水浴に行くことになった。
ナンパするほど根性のある奴がいるわけでなし、むしろちょっとオタク臭いメンバーの俺達は、純粋に海水浴を楽しむ計画を立てた。
場所がバレかねんが、透き通ってて綺麗な海だったよ。
地元千葉のそれとは大違いだった。
今考えると、その水の綺麗さが仇になったんだな。
初日、予約していた民宿に荷物を置き、すぐさま海へ。
ゴムボートを借りた俺達は、砂浜で遊ぶ友達二人を残して三人で少し沖の方まで出ていた。
(沖って言っても、注意を受けたりはしなかった。昔のことだから、今より規制もいくらかゆるかったのかも)
俺はボートに乗ってゆらゆら揺れを楽しみ、友達のAとBはゴーグルつけてプカプカ泳いでいた。
深さは2メートルいかないくらい。
深く潜って海底に手を付けるかどうかとか、くだらない遊びをしていた。
暫くそんな風にしていると、Aが急に慌てた様子でボートへと上がってきた。
続いて、Bが怪訝な顔で海面へと上がってくる。
「どうしたの?」
とB。
「女の死体!中!」
Aは必死の形相で答えた。
水を飲んだのか咳き込んでいる。
俺もBもポカンとした。
「お前、何言ってんだよ」
「そういうのいいから」
「いいから、見てみろよ!」
言われるまま、Bはもう一度潜っていった。
すぐに海面に上がってくるB。
「まじまじ!うわーなんだよあれ!」
「だから言ったろ!」
とA。
「え、ホントなの?」
と俺。
正直、このとき俺はAとBが俺をハメようとしてるんじゃないかと思っていた。
だって、波は穏やかだったしね。
まさか、水死体なんて。
「なに、ダッチワイフとかじゃねーの?」
と笑いながら言うと、
「そんなんじゃねーよ!」
と少しキレ気味に言われた。
そんなに言うならと、俺はBにゴーグルを借りて海の中に入った。
潜って辺りを見回す。
あった。
俺らよりさらに10メートルほど沖に、確かに人型の物体が此方に頭を向けながら、丁度海面と海底の真ん中辺りに浮いている。
正直、かなりビビったがボートに手をかけて逃げる準備をし、目を凝らした。
すると、仰向けのその物体の首が急にダランと下がり、こっちを向いた。
同い年くらいの、青いビキニを着た黒髪の童顔女。
笑ってる!
そう思った瞬間に、その女は体を前方にグルンと回転させ、此方に足を向けた。
あっと思うと同時に違和感。
その体は、何時の間にかその顔と分離し、顔をその場に置き去りにしていた。
身体から切り離された逆さまの首は、笑い顏のままプカプカと浮かんでいる。
首無しの体は、分離した首をそのままに沖の方へと泳いで行った。
ここまで、僅か数秒の出来事。
パニック状態で海面へと上がり、二人乗りのゴムボートを俺がバタ足で押して砂浜へと逃げ帰った。
ABは、俺の必死の説明を聞いて震え上がり、砂浜にいたCとDには馬鹿にされた。
警察だかレスキュー隊だかに電話しようと言う話も出たが、これ以上関わりになりたくなかったので悩んだ末にやめた。
大事になるだろうし、そもそもアレは明らかに人間ではないとの俺の主張によるものでもあった。
残りの時間、C、Dを除く俺ら三人が沖へと行かなかったのは言うまでもない。
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死の瞬間
キューブラー・ロスという有名な死の研究者は知ってますか?
『死の瞬間』などの執筆で知られる彼女は、死後の生や輪廻転生に肯定的でした。
彼女の著書や講演に勇気付けられ、自らの死を克服した人は数多くいます。
しかし、今や亡き者となってしまった彼女が、死の数ヶ月前に辿りついた結論は、世に余り知られていません。
それが余りに恐ろしいものであったため、親族が口を噤んでしまったからです。
彼女が辿りついた結論とは、『死後の生はなく、死後の無もない』というものでした。
つまり、人間は『死ぬ瞬間の光景、感情、痛みを感じながら、そこで時間が停止する』状態になるのだそうです。
時間が停止するので、意識を失うことはありません。
無にはなれません。
大抵の人が死の瞬間は苦しみます。
死ぬ瞬間のその苦しみを永久に感じ続けるのです。
生前自分の死を受け入れていた彼女も、この結論に辿りついて以来、気が狂ったように叫び、その瞬間が来るのを恐れ続けたといいます。
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掘り起こされたもの
昔、宅地整理や道路拡張のために 墓地でさえ平気に掘り起こしていた時期があった。
俺の親父は左官だったが、バブルの時代はどんな仕事もやっていたらしく、墓を掘り起こして更地に変えていたそうだ。
ある日、いつものように墓石を撤去して地面を重機で均していたときだった。
掘り出した土から黒い紐のような物が出てきたらしい。
それは人間の髪の毛。
しかし、そんなことは日常茶飯事だった為に、その時は誰も驚きはしなかったそうだ。
ただ、その髪が付いているはずの頭が問題だった。
頭蓋骨ではなく、生首。
もちろん墓場だからといって、生首がそのまま残っているわけがない。
そのまま警察沙汰となったが、首以外の部分はそこでは発見できなかったそうだ。
身元は近所の寺の住職の娘で、墓を暴くことに反対していたらしい。
その事件は意外なところで終結を迎えた。
死んだ娘の彼氏の証言だ。
「あの日は喧嘩をしてしまい、ついエキサイトして彼女を墓の中に入れてしまった」
この事件は事故として処理されたそうだ。
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土中の顔
警察標識なんぞ立ててる現場の監督。
容赦なく町中でも地面掘り返さにゃならんので、時々とんでもないモンに行き当たる。
撤去されてないけど、ガスたっぷり残ったガス管とか。
自動車とか。
異様に執念深く丹念に破壊された腕時計の山とか。
骨とか。
一番びびったのは『顔』。
ほとんど岩盤と化した土盤掘り進んでた土方が、
「……カントクー」
と言ったので、ひょいとそっちを見たら土中に顔。
電動掘削機使ってて傷一つつかないってことは、
「マネキンだろ、人形」
と、言いくるめようとしたら(我ながら謎な言いくるめだったわ) 目が開いた。
全力で埋め戻して、上には、
「土中に岩盤層があったので掘削不可でしたっっ」
と報告して位置ずらした。
ワケ分からんが微妙に怖い。
人柱か何かか?