「 謎 」 一覧
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夜間工事
夜中にテスト勉強してたんだが、表の道でやってる工事の音がうるさい。
夜通しやんのかよ!と思ってたら、急に工事の人達が騒いでるみたいな声が聞こえてきた。
なんか事故でもあったかと思ってカーテン開けて外見たら、窓の正面から見える山の中腹あたりに白っぽく人の顔が七つ浮かんでるんだよ。
子供や若い女や老人、おっさんと老若男女バラバラに七人。
あまりの恐怖に一瞬固まってたが、我に帰ってカーテン閉めて布団に潜り込んで震えてた。
次の朝、親や学校の友人らに話したが、当然信じる奴など一人もいない。
あまりにホラ吹き扱いされるので、俺はついに切れた。
「工事の人達も見ていた筈だ。今から電話して昨日いた人を出してもらう!」
と家に帰り、電話帳で会社の番号調べてかけてみた。
友人らも親もその場に一緒にいた。
そしたら工事会社の人が
「うちはそんな夜中には工事はしませんよ」と。
ちなみに親も夜中までうるさい道路工事の音を確かに聞いていた。
その場にいた全員の背筋が凍った。
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くだん
もう20年くらい前になるかな。
ある日、実家の父から電話があった。
先日、祖父の法要で田舎(父の実家)に帰ったとき、仏間で面白いものを見つけたから見に来いという。
実家まで車で30分ばかりだし、俺はさっそく行ってみた。
父は、他の家族の目をはばかるように俺を手招きすると奥へ向かった。
そして卓の前に座ると古そうな木の箱をとりだした。
そして顎をしゃくって開けて見ろという動作をした。
俺はよく要領を得ないまま蓋をとった。
正直、それを見た第一印象はウェッなんだこれといった感じだった。
綿の敷かれた箱の中に入っていたのは、体長20㎝程の猿の赤ん坊?のミイラだった。
既に目玉も鼻もなく、ぽっかりと穴が開いてるだけ。
剥き出した口には、ギザギザと小粒な歯が生えているので辛うじて人間とは違うなと思う。
ただ猿とも少し違うような。
何コレ?俺は父に尋ねた。
父はニヤニヤしながらワカランと首を振った。
祖父の部屋には、昔からオカしなものけっこうあったそうで、なんぞ面白いものでも無いかと漁っている内に天袋の中から見つけたそうである。
それを黙って持ち出してきたらしい。
俺も父もこういった珍品は大好きだったが、それにしてもこれは余りに薄気味悪く禍々しかった。
箱の面には何か札のようなものが貼ってあったが、文字はもう掠れていて読めなかった。
その日はそこそこ居て帰ったが、翌日から俺は体調を崩した。
熱があると言うわけでもないのに体が重く、体が火照った。
何をするのも億劫だった。
仕事も休んで部屋でゴロゴロしていた。
翌日も休む。
そこへ実家の父から電話が掛かってきた。
お前体に異変はないか、と尋ねてくる。
ヒドくダルそうな声だった。
俺が状況を説明をすると父も同じ状態らしい。
俺の頭にあのミイラの姿がよぎる。
そんな状態がダラダラと幾日か続いた後、再び父から電話がある。
父の所に叔父(父兄弟の長兄)から電話があったそうだ。
あのミイラを持ち出したことかバレた。
電話口で、鼓膜が破れる程怒鳴られたそうである。
直ぐにあれを持って戻ってこいと言う。
あれを見た俺も一緒に。
俺と父は重い体を引きずって、姉の運転する車で父の郷里にむかった。
到着すると、俺達は再び叔父に散々小言を言われた後、今度は叔父の運転する車で檀家になっている菩提寺へむかった。
叔父はあの箱を脇に抱えていた。
車中、父はあのミイラの事を尋ねた。
アレはいったい何なのですかと。
叔父はぶっきらぼうに、あれは、くだん、だと答えた。
くだんって、あの生まれてすぐ予言をして死んでいく牛の妖怪か?
何でも、数代も前のこの家の当主の嫁が産んだと伝えられているらしい。
病死なのか、もしくは余りに醜いので間引いたのかはわからないと言った。
また、嫁もその子を産んだときに死んだとも伝えられている。
ずいぶんと昔の話らしいが、これから行く寺の記録に数行だか残っているらしい。
その後、箱と俺と父は寺で経を上げてもらった。
つまりあれは人間ということになる。
件としたのは、人と明言するのを避けたかったからではないのか。
そしてアレは絶対に持ち出してはならないもので、毎年決まった日に菩提寺で経を上げてもらうそうだ。
丁度、数日前がその日だったが見つからない。
もしやと思って父に電話したそうだ。
叔父が言うには、オマエ等のお陰で経をあげてもらえず件が祟ったのだと言う。
あのまま放っておけは二人とも死んでいたぞ、とも。
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七五三
昔のことなので曖昧なとこも多いけど、七五三のときの話。
こんなことを自分で言うのは何なのだが、私は小さい頃けっこう可愛かった。
今はどうかってのは喪女だということでお察しください。
でも、小さい時の写真を見れば、髪も肩でまっすぐに切りそろえてたから、着物着たらマジ市松人形。
が、そのせいで怖い目にあったことがある。
先に言っとくと、変なオッサンに追いかけられたとかじゃない。
時期は七歳のとき、場所は祖父母の家。
七五三に行く少し前で、七五三のお参りに着ていく着物を祖母に着せてもらう練習かなんかだったと思う。
ともかく本番前に一度着物を着せてもらったんだ。
私はきれいな着物を着せてもらって嬉しくてしょうがなかった。
それを見た母は、絶対に汚さないという約束で、家に帰るギリギリまで着物を着てていいよと言ってくれて、私は着物姿のままで、祖父母の家をぱたぱた歩き回っていた。
祖父母の家は、いわゆる旧家というやつで、家の奥には今はもう物置になっているような部屋がいくつかあった。
私はそこに入り込んで、薄暗い中、古い道具の入った箱の中を見るのが大好きだった。
それでいつものように奥の部屋に入り込んで、古い道具や何かを見ていると不意にすぐ後ろに誰かが来て、
「楽しいか」
と声をかけてきた。
若い男性の声だったから上の従兄かなと思って、
「うん」
と、振り向きもせず遊びながら返事。
すると、
「かわいいね。お人形がおベベ着て遊んでいる」
もっと古風な言い回しだったような気がするけど、そんなことを言った。
振り向こうとすると
「だめだ」
と言う。
目の端に青っぽい模様の入った袴が見えたので、
「お兄ちゃんも着物着たの?」
と訊くと、
「いつも着物だよ」
「わたしね、今日はお正月じゃないのに着物着せてもらったんだよ」
と、しばらくの間、その後ろの人を相手に着物がいかにうれしいかを話していた。
なぜだか後ろは向けなかった。
すると、じっとそれを後ろで聞いていたその人は
「着物がそんなに嬉しいの?じゃあ、ずっと着物でいられるようにしてあげようか。この部屋で、ずっと着物で遊んでおいでよ。お兄さんも一緒だよ」
「ほんと!遊んでくれるの?やった!」
と嬉しそうな私に、後ろの人は続けて言った。
「じゃあ、ずっとここで一緒に遊ぼうね。約束だよ」
「でも、わたし、お外でも遊びたいよ。木のぼりとか虫取りもしたいよ」
「だめだよ。お人形がそんなことをしてはいけない」
「やだよ、お外で遊ぶもん。友達とも遊ぶもん」
「だめだよ。外に出てはいけないよ」
こんな感じの問答をずっと繰り返していると、後ろの人はすっと私の後ろにしゃがみ込んだ。
そして私の髪にさわって、静かな口調で言った。
「かわいいねえ、かわいい。いい子だから言うことを聞きなさい」
ここでやっとおバカな私は、この着物のお兄さんが従兄ではないことに気が付いた。
手元の古い道具ばかり見ていて気付かなかったけども、いつの間にか部屋は暗くなっていて、うっすら白いもやまで立ち込めていた。
「かわいいお人形だ、かわいい、かわいい……」
やさしい手つきで髪をさわっているけれど、背中が総毛立った。
「かわいい、かわいい、いちまかな、カブロかな、かわいい、かわいい、かわいい……」
少し怖くなった私は頑張って言った。
「わたし、人形じゃないよ」
「かわいい、かわいい、かわいい…」
「この着物は七五三で着せてもらったんだよ」
手がぴたりと止まった。
「七五三?」
「うん、着せてもらったの」
「もう七つ?」
ここで私は、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
実際にはまだ六つで、七五三には次の週かなんかに行く予定だったんだけども、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
だから答えた。
「七つだよ」
すると後ろの人は、すっと立ち上がり、今度は頭をなでて
「かわいいね。でも、もうお帰り」
そのとたん、部屋がふっと明るくなった。
慌てて後ろを振り向いたが誰もいない。
変なの、と思ったが、その後は特に気にせずそのまま遊んでいた。
でも夕方だったのですぐに母親に呼ばれて、部屋からは出た。
それでその時は洋服に着替えさせられて家に帰った。
親には一応話したけど、遊んでるんだろうと思って本気にはされなかった。
それで、次の週かその次の次だったかもしれんが、七五三に行った。
神社の帰りに祖母の家に寄ったけども、奥に行く気にはならなかった。
もしあの時『ここにいる』『六つだ』と答えていたら、一体どうなってたんだろう。
可愛いからというより、気に入られたのかもしれないけど、それ以来『かわいい』という言葉には自然と身構えるようになってしまった。
後ろに立ってた人については、いまだに何もわからない。
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違和感
工房2年の10月頃、夕方に友達の家から帰る途中だったんだ。
もう、その時はあたりが薄暗くて足下が見えないくらいだった。
通り慣れた道を自転車で走ってると、大きな声で呼び止められた。
「おい、ちょっと動けなくなってしまったから助けてくれ」
薄暗い中、目をこらして声のする方を見たら、30くらいの兄ちゃんが塀に寄りかかった状態でこっちを見ていた。
その時、違和感を感じたんだよな。
胴体から頭にかけて壁にめり込んでいるというか…
でも、その格好がアホみたいだったので笑いながら
「どうしたんですか」
って聞くと、どうやら何かに挟まって身動きがとれないらしい。
「すまん、ちょっと俺の手を引っぱってくれんか。そしたら抜けるかも」
「どうして、こんな事に?w」
「事故かな…。そこに俺のバイクあるでしょ。」
男の目線の先見たら原付が転がっていた。
「大変でしたね。怪我があるんだったら救急車呼びますけど」
俺がそう言いながら、その人の腕を強く引っぱったら、メリメリって音立てて壁から離れた。
んで、『ありがとう』とか言ってくれるのかと思ったら、そのまま倒れた。
よーく、その人の体見たら、顔の半分潰れてるし胴体の半分も異様な形に凹んでた。
しかも潰れてない方の目開いて死んでる。
もうね、その後は警察やら何やらで…
ショックだった。
さっきまで話してただろ…
俺が見たのは人が死ぬ直前だったのか、それとも既に死んでいたのか…
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ボロアパートのシミ
うちのオカンがまだ20代、当時の彼氏と同棲するためにアパートを探していた時の話。
いわゆる『神田川』の時代で、貧乏だった2人は漸くボロい安アパートの一部屋を見つけた。
それでもやっと見つけた2人の愛の巣。
オカンと彼氏はその部屋を借りる事に決めた。
部屋は予想通り汚く、居間と台所の間にはデカいシミまでこびりついている始末。
大家のババアは
「雨漏りがねえ…」
と呟きながら部屋の点検。
浮かれるオカンと彼氏。
夢の同棲生活が始まって数日。
彼氏の仕事も決まりその初日。
体調のすぐれなかったオカンは、布団の中から彼氏の出勤を見送る。
ウトウトしだしてどれぐらい経っただろうか。
突然、オカンの体が強張る。
「…あ、来た」
金縛りだ。
部屋探しの疲れも溜まっていたのだろうが、何にしろ気分の良いモノではない。
暫く大人しくして過ぎ去るのを待っていたが、一向に金縛りが解ける気配が無い。
さすがに焦り始めたオカン。
そして、そのオカンの耳に聞こえてきた声…。
赤ん坊の泣き声だった。
尋常じゃない体験にオカンは金縛り状態のまま気絶。
次に目が覚めたのは、とっぷりと日の暮れた夜中だった。
その金縛り事件の翌日。
オカンは意識不明直前の高熱に襲われた。
風邪をひいた様子もなかったし、取り敢えず慌てて彼氏と病院へ直行。
高熱の原因は不明だったが、ただ一つ、オカンのお腹に宿っていた赤ん坊が流産していた。
医者は高熱の理由をこの流産だとし、数日入院した後、体力の戻り切らぬ体を引きずる様にしてアパートに帰宅した。
やがて体力も回復し、心身ともに回復したオカンは部屋の掃除を始めた。
あの床のシミは拭いても拭いてもなかなか取れなかったが、ふとおかしい事に気付いた。
大家のババアは『雨漏りがねえ』と言っていた。
しかし、この部屋は2階建ての1階だ。
雨漏りなんかする訳がない。
まぁこれだけ古いアパートだ、そう言う事もあるだろうと、部屋の隅にある小さな窓を拭こうとした時、オカンは見つけてしまった。
長い間借り手も付かなかったのだろう。
窓ガラスには埃が積もり、そこに指文字で
『生きたい』
『生きたい』
『生きたい』
翌日、大家のババアを問い質すとババアは漸く白状した。
以前、この部屋には気弱そうな若者が住んでいたと。
ある蒸し暑い夏の日。
その若者は居間と台所の間、その上にある鴨居にロープをかけ、自らの命を断ったと。
結局、流産とその話との関係は解らなかったが、後に聞いた話では、その若者の遺書の中にはその時付き合っていた女性に裏切られた事への恨み言が書かれていたとかいないとか…