「 不思議体験 」 一覧
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部屋の隅の少女
大学時代の友人に、やたら金運のいいやつが居た。
元々、地方の資産家の家の出身だったのだが、お金に好かれる人間というのは、こういう人のことを言うのかと思った。
宝くじやギャンブルは大抵当たるし、学生ながらに株をやっていてかなり儲けていて、とにかく使うそばからお金が入ってくるという感じだった。
とはいえ本人はいたって真面目な人間で、そういったお金の稼ぎ方に頼らずに、地道にアルバイトも頑張るやつだった。
その友人から先日、婚約者がまた亡くなったと連絡があった。
『また』という言葉どおり、彼の婚約者が亡くなるのはこれで三度目だった。
大学卒業後、地元に帰り家業を継いだ彼は、事業面ではめざましい活躍を見せていたが、女性との縁には恵まれていなかった。
名家と言える彼の家には縁談はそれなりにくるのだが、話がまとまると、こうして相手が死んでしまうのだ。
「三度目となると、うちに入ろうと言ってくれる女性はもういなくなってしまうだろうな」
電話の向こうで彼は、声に悲しみの色を滲ませてはいたが、それほど落ち込んではいないようだった。
私は学生時代、酒を飲みながら聞いた彼の話を思い出していた。
その話は彼の子供の頃の話だった。
小学校に上がる前の年、家の中で一人遊んでいた彼は、部屋の隅に見知らぬ少女が立っているのに気がついたのだという。
お客様の子かなと幼心に彼は思い、一緒に遊ぼうと誘ってみたところ、少女はこくりと頷いてくれた。
その日一日、彼はその女の子と楽しく遊んで過ごしたが、日が沈むと少女が、
「あたしをあんたのお嫁さんにしてくれる?」
と、問いかけてきた。
「お嫁さん?」
「うん。あたしのこと嫌い? あたしはあんたのこと好き」
「僕も好きだよ」
「じゃあお嫁さんにして。そうしたら、あたしあんたに一生苦労させないから」
そんな会話だったらしい。
彼自身うろ覚えだと言っていた。
少女は嬉しそうに笑って、部屋の外に走り出て行ってしまった。
その夜、家族にその話をすると、誰もお客など来ていないということだった。
そして次の日から、彼の家の事業は業績がうなぎ登りとなり、彼自身にも金運がつくようになったのだという。
「俺の嫁さんは、あの時から決まっていたんだよな。別の人と結婚しようとしたら怒るのは当たり前ってことか…」
嫉妬深い座敷わらしみたいなものなのかなと言うと、どうやら彼のお嫁さんは風俗に行くくらいなら許してくれるようで、そこは救いだと笑っていた。
家の跡継ぎについては、妹夫婦に期待するということである。
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踊場
私の卒業した小学校付近は戦争当時、空襲がひどかったらしく、今でも防空壕の跡地や数年前も不発弾などが見つかったり、慰霊碑などが多く建てられている。
小学生の頃、部活が終わり、さぁ帰ろうとしている時に仲良しのAが、
『あ!給食着がない…もしかしたら教室かも…』と言った。
あいにく明日は休み。
週末は給食着を持ち帰り、洗濯をして次の当番へ回さないといけない為、どうしても取りに行かないと、との事でAと仲良しのBと私の三人で恐る恐る教室へ探しに行くことにした。
教室へ行くには階段を登り、二階の踊場を通り過ぎなければならない。
その踊場の鏡は、この学校の七不思議の一つであり、夕方この鏡を見ると、この世のものではないものが映ると言われていた。
ただの迷信と言い聞かせていたが、やはり夕闇に照らされてるこの踊場は不気味というしかなかった。
目をつむりながら踊場を通り過ぎ、急いで階段を登り、やっとの思いで教室へ辿り着いた。
『あ!あった!』
と給食着を持ち、Aの安堵する表情とは裏腹に、またあの踊場を通り過ぎなければいけないのかと苦痛に思った。
すると、突然Bが、
『ねぇ、あの踊場の鏡ってさ…本当に何かが映るのかな?』
と言い出した。
…おいおい、やめてくれ。
とは思ったが、どっちにしろ帰るには、あの踊場を通り過ぎなければならない。
辺りは一層暗くなるばかり。
それならば早く進むしかないと、意を決して教室を出て階段を降り始めた。
一段、二段と降り続け、とうとう踊場へ。
早く通り過ぎようとするAと私とは違い、Bは興味深くまじまじと鏡を見つめていた。
すると…
『あ…』
とBが呟き、私とAも不意に鏡を見つめてしまった。
そこには、いつもと何ら変わらない情景。
そして私達の強張った表情。
そしてその横に防空頭巾を被ったモンペ姿の女の子…。
私達は、その場から動けなくなってしまった。
その女の子は泣きそうな表情を浮かべながら、私達の方へ必死に手を伸ばし、
『…もう戦争は終わったの?』
とつぶやいた。
私達は、恐る恐る頷いた。
すると、見る見るうちに女の子は笑顔になり、
『…よかった。』
と一言呟き、そのまま消えていった。
私達は歩き出し、気がつくと通学路を歩いていた。
誰も一言も話さなかった。
恐怖というより、切ない虚しさがこみあげていた。
戦争でたくさんの方が亡くなった。
あの女の子も恐らく犠牲者で、恐怖で何十年も隠れていたのだろう。
…鏡の中に。
ふと、見上げると慰霊碑があった。
いつもは何とも思わず通り過ぎていて気づかなかった、ただの慰霊碑。
私達は誰からとも言わず、手を合わせてた。
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トンネルの先の町
私が小学校低学年の頃だから、もう十数年前の話です。
私の実家はド田舎にあるのですが、家の裏手に山があります。
あまり人の手も入っておらず、私はよく犬の散歩で山の麓や少し入った山道を歩いていました。
梅雨が明けて暑くなりだした頃だから、7月頃だったと思います。
いつものように山道に入っていくと、犬が急に走りだそうとするんです。
よし、じゃあ走ってみようか!って、一緒になって走って気が付いたらいつもより険しい山道に入ってしまったようでした。
15時くらいに家を出たので、まだ明るい時間帯のはずなのに山の中は薄暗く不気味に感じました。
元来た道を戻ろうと引き返し始めると、途中で道が途切れてしまいました。
かなり出鱈目に走り回ったから、場所も方角もわからなくなってしまったわけです。
少し涙目になりながら、それでも下に下に降りていけば山からは出られると思い、草だらけの道無き道を犬と一緒に降りていきました。
しばらく山を下りていくと、段々と周囲が明るくなり、夕焼けの色の空が木々の合間から覗きます。
こんなに時間が経っていたのか、早く帰らないとお母さんに怒られる、そんな事を思いながらさらに山の麓を目指しているとトンネルの脇に出ました。
トンネルの向こうからは夕焼け色の光が見えます。
人工物を見つける事が出来て安心した私は、そのトンネルを抜ければどこか知っている道に出られると思い、トンネルの中を犬と一緒に走りました。
トンネルを抜けると、そこには緩やかな盆地に作られた町のよう。
家が沢山あり、夕焼けが屋根を照らしています。
こんな町があったんだなぁ、と少し興奮しながら山の麓に下りる道を聞こうと、私は町へ向かいました。
トンネルから町に入る道の右に民家があって、少し離れた場所から道の左右にズラッと家が並んでいるのがわかります。
町に近付きながら誰かいないかな、と思っていると、トンネルから一番近い民家からおじさんが一人出てきました。
犬を連れた私が近づいてくるのを見て笑顔で挨拶してくれます。
私も挨拶を返した後、麓に下りる道を尋ねました。
おじさんは不思議そうな顔で、
「君が今来たトンネルを抜けて、そこから山道を下れば麓に出られる」
と教えてくれました。
この町を抜ける道を聞きたかったのですが、まぁいいかと思い、礼を言って引き返そうとするとおじさんが私の名前を尋ねてきました。
私は山の近くに住んでいます○○です、と答えるとおじさんは納得したような顔で頷きながら、
「ここら辺は夜になると野良犬がうろつくから早く帰った方がいいよ」
とトンネルを指差します。
私は再度礼を言ってトンネルに引き返しました。
途中で振り返ると、おじさんが私を見ながら手を振ってくれたので、私もお辞儀してから手を振り返しました。
トンネルに入る前に、もう一度振り返るとおじさんはまだ家の前にいたので、また手を振りながらトンネルに入りました。
そこからトンネルを抜けて山道を下っていくと、周囲がさらに明るく開けて山の麓の知っている道に出ました。
今日は歩き回ったね~なんて犬に声を掛けながら家に帰る途中で、まだ夕日が照っていない事に気付きました。
あれ?とか思いつつ家に帰り着いたのは16時半くらいでした。
家に帰ってから母にその日の冒険の事を話すと
「そんな町あったんだねぇ」
と不思議がっていました。
夜になって父親にもその話をしましたが
「山の中にそんな町あるわけない」
の一点張りで、さらにあまり山の中でウロチョロするなと軽く叱られました。
私はもう一度その町に行こうと思ったのですが、トンネルもそのトンネルから麓に下りた道も見つける事が出来ませんでした。
その年のお盆、家族や祖父母と一緒に墓参りに行きました。
それまでに数回訪れたことのあるはずの墓地を見た瞬間、妙な既視感を感じました。
なだらかな丘に道がありその左右に墓が並んでおり、そして墓地の入り口から一番近い墓が私の実家の墓です。
当時の私は、それを理解してから本気で泣きました。
理由を聞いて祖母が、
「そのおじさんにしっかりお礼言わなきゃね」
とお墓を磨かせてくれました。
あの時のおじさんの顔は、ぼんやりとしか覚えていません。
しかし最近歳をとった父親の顔を見ると、こんな感じの顔だったなぁなんて思います。
ただ、もしそのおじさんに出会わなかったらと想像すると、今だに私は怖いです。
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霊能者のおばさん
俺、今年入ってから離婚だの交通事故だのでツイてなかったから、親が心配して親戚の自称霊能者のとこ行って話聞いてきなって言うのよ。
渋々行ったよ。
出てきたのは、くたびれた60過ぎたおばさん。
母親の姉。
俺を見るなり
「あらーM(俺)、あんたのお母さんから話は聞いてるから、あたしがご先祖様にアドバイス聞いてくるね」
っつって仏壇に向かって拝み始めたんだ。
なにやらゴニョゴニョ唱えているおばさん。
俺は正直、退屈でしょうがなかったから辺りを見回してみた。
仏壇を正面に見ると、右側の壁の上部に遺影が五枚掛かってる。
知らない顔だが、多分先祖だろうと思ってまじまじと見て驚いた。
全ての遺影の目が怒ってるのよ。
それも視線は皆おばさんに向けられてる。
本気で驚いたら動けなくなるってのはホントなんだな。
怖いけど俺の目は遺影からそらせないの。
そんな俺を尻目におばさんは、
『あ~そう、うんうん』
みたいに拝みながらつぶやいている。
お前は誰と会話してるんだよ。
しばらく経っておばさんが、こっちに向き直って俺にあれこれアドバイスしてくれたけど、正直何も覚えてない。
だって遺影の視線はまだおばさんに向いてたし、五枚のうち二枚は表情まで変わってたから。
まさに『烈火のごとく怒る』っていう言葉が当てはまる顔。
お礼もそこそこに逃げ帰ったよ。
今は幸い何事もないが、おばさんを慕う人も多くて親にも言えずにここに吐いてみた。
幽霊も出ないつまらん話、かつ長文すまんかった。
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机の引き出し
自分が実際に見たわけではないけど、ぞっとした話。
今年の3月、会社で人事の入替があったんだけど、ベテランのSさんが地方に移動になり、私のフロアには新人のT子が入ってきた。
ところが、そのT子があんまり要領のよくない子で、机の上をものすごい散らかしては、書類が無いと言って騒いでいた。
見かねて、処理済の物からファイリングして、引き出しに仕舞うように言ったんだけど、
「引き出しを開けると、顔が見えるので開けたくないんです」
って言う。
T子のデスクは、もともとSさんが使っていた場所。
年度末の忙しさもあって、くだらねえとあんまり話も聞かなかった。
直接の指導役ではなかったし、その後絡むことも無かった。
2週間くらい過ぎてから、T子に話しかけた。
机の上にはファイルが山積み、相変わらず引き出しは使っていないようだ。
冗談で、見られちゃヤバイものでも入ってるんじゃないのー?と引き出しを開けてみると、隣でものすごい叫び声がした。
T子はマジで怖がってて、震えてた。
「腐ってきてる…」
T子はそう言って、慌てて引き出しを閉め、ガムテープで目張りまでしだした。
でも何にも入ってないし、匂いもしないのに。
精神状態が悪いんじゃなかろうかと心配になった。
結局T子はすぐに辞めてしまった。
その後、Sさんが亡くなっていたと連絡が入った。
移動の後、程なく体調を崩し、会社を休んでいたらしい。
数日は連絡が来てたんだけど、そのうち休むTELも来なくなって、同僚が心配して何度か家に行ったらしいけど反応無し。
上司が大家に言って、中に入って発見したのが4月の頭頃。
その時には、死後2週間前後経っていたそうで、中はひどい匂いだったそうだ。
Sさんは湯船の中で亡くなっていて、発見した上司がしばらく鬱っぽくなる程、凄まじい状態だったみたい。
T子が見たのは、Sさんだったのだろうか?
T子はもういないし、確かめようが無いのが残念。
偶然にしては時期とか当り過ぎてて、ぞっとした。
結局、増員の予定は無くなっちゃって、机は倉庫に運ばれた。