「 不思議体験 」 一覧
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木琴
私が中学生の頃、合唱コンクールっつーのがあった。
なんか、うちの学校では妙に力の入ったイベントらしくて、放課後でも皆残って練習したりしてた。
で、まずは曲を何にするか?っつーのも、教師が勝手に決めるのではなく、生徒達で決めたりもした。
最終的には担任が決定するけど。
で、ある日私たちは音楽室で何を歌うか選んでいた。
たぶん英語担当の教師(以下K先生)が一緒だったと思う。
生徒も私以外に10人くらいいたと思う。
随分昔の話なんで、当時はテープだった。
で、候補曲をテープレコーダーで聞きながら決めるわけだ。
数ある合唱曲の入ったテープを見ていたら、K先生が、
「面白いのがあるぞ」
(っぽいことを言ったと思う)
とか言って、1本のテープを出した。
その合唱曲は『木琴』だった。
で、K先生がレコーダーに入れて再生開始。
最初は普通に曲が始まった。
K先生が、
「ここからがな・・・」
とか言って皆が妙に緊張した。
間奏だったと思う。
急に戦火(WW2だと思う)の悲鳴やら轟音がしだした。
で、間奏が終わり、歌が始まったらそれは止んだ。
その時は、その『木琴』という曲が中学生には難しいだろうという事でコンクールには歌わないことになった。
しかし、なぜか当時の私はそのテープを持ち帰らせて貰った。
ただの好奇心だった。
コンクールが終わった頃、友人たちとテープを聴きなおした。
戦火の部分が、聞いたときよりも長くなって鮮明になっていた。
悲鳴やら『おかあさん』と呼ぶ声や、多分戦闘機の音だと思うけど『ゴォー』という音や火災?のような音もあった。
妙に生々しかった。
好奇心はあったものの怖かったので、そのテープはそのまま返しそびれ、自宅に残したままだった。
今、私は社会人になって実家を出ている。
たぶん、そのテープはまだ実家にあると思う。
怖いので、あれから聞きなおしはしていない。
後になってウィキとかで『木琴』について調べたら怖かった。
『木琴』金井直
妹よ
今夜は雨が降っていて
おまえの木琴が聞けない
おまえはいつも
大事に木琴を抱えて 学校へ通っていたね
暗い家の中でも おまえは木琴と一緒に歌っていたね
そしてよくこう言ったね
早く町に 赤や青や黄色の電灯がつくといいな
あんなにいやがっていた戦争が
おまえと木琴を 焼いてしまった
妹よ
おまえが地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてから まもなく
町は明るくなったのだよ
私のほかに 誰も知らないけれど
妹よ
今夜は雨が降っていて
おまえの木琴が聞けない
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手
俺の嫁は俗に言う『みえる人』で、俺は『0感』。
嫁がまだ恋人の頃、見える人である事を俺に明かし、その後しばらくの間『あそこに女の人が居る』だの『今、足だけが階段を昇っていった』だの言い出し、俺が本気で遺憾の意を表明した時から、一切それ系の実況をしなくなった。
山菜採りが好きな俺と嫁は、いつもの如く山道を車で通行していた。
しがない自営業の俺等は、昨今の不況の折に開き直って、平日の昼間に日がな半日程度、山菜採りに精を出していた。
比較的心地よい疲れに伴い、今日の夕飯は何かな、天婦羅はもう暫く要らないなとか思いながらボケっと運転していた夕刻。
自分の車の前を走る、シルバーの軽。
暑い日だったので、前を走る軽の助手席の窓から手が生えて見える。
運転者は老齢であろう。
決して生き急いでないのが見て取れる様に40k巡航である。
ここまではよくある光景で、次のストレートで追い越しかけるかと思っていた。
その矢先、嫌な事に気付いて、しまったと思った。
その軽の助手席の窓から『手』が生えて見える。
『腕』じゃなく『手』。
指まではっきりと認識できる。
巨大な手が、前を走る軽の窓枠をがっちりと掴んでいる。
嫁はともかく、今までそんなものが見えた事のない俺は総毛だった。
すぐさま嫁に視線を移すと、以前はこういう不可思議な現象に対してもヘラヘラ笑いながら俺に実況していた嫁が、目を見開いて硬直している。
常時見えている人間にとっても只事では無い事例であろう事が、0感の俺にも容易に推測できた。
そして、その『手』はこちらの熱視線に気付く風でもなく、新たな行動をし始めたのだ。
その『手』は、掴んでいた窓枠を離し、にゅーっと虚空に伸び始めた。
その手首には、タイの踊り子の様な金色の腕輪が付いている。
肘が車外に出ても伸び続け、肩の手前位まで車外に出した。
とんでもないでかさ。
そして、やにわに自分が乗っている軽の天井を叩き始めたのだ。
「ぼん、ぼん、ばん、ばーん、ばん、ばーん」
という音が、すぐ後ろを走る俺等にも聞こえてくる。
そのときの俺はというと、目の前で起こっている映像に脳の認識がついていかず、ただそのままぼーっと軽を追従していた。
「停めて!!!」
嫁の悲鳴交じりの声が、俺に急ブレーキをかけさせた。
前輪が悲鳴を上げ、前のめりのGを受けながら俺の車は急停止した。
今まで眼前にあった、自分の車の天井を叩き続ける巨大な手を生やした軽はゆっくりと遠ざかって行き、その先のカーブから見えなくなった。
夕暮れに立ち尽くす俺の車。
嫁は頭を抱え、小刻みに震えている様にも見える。
俺も小便がちびりそうだったが、努めてなるべく明るく嫁にまくしたてた。
「なんだよ?お前いっつも笑って解説してたじゃん。あんなのいつも見てたんだろ?今回、俺も見えたけど、すげえなあれは。」
暫くの静寂の後、嫁が口を開いた。
「・・・・・あんなの、初めてだよ。・・・・アンタは、気付かなかったろうけど。」
「なにがよ?」
「あの腕。邪悪な感じがしない。かなり上位の存在だよ。」
「・・・じゃあ良い霊とか、神様じゃね?運転手が悪い奴で、なんかそんなんじゃないの?」
「そんな訳無い、絶対におかしい。あんな上位の存在が、あんな行動するわけがない。やっている事は悪霊そのもの。だけどあの腕は光に包まれてた。分からない。自分の無知が怖い。・・・怖い。頭がおかしくなりそう・・・」
嫁の話を聞いていると、俺も頭がおかしくなりそうだったので、わざわざUターンしてその現場から離れ、実家には帰らずに居酒屋に直行、二人で浴びるほど酒を呑んで近くのビジホで一泊した。
あの手は一体何だったのか、俺は未だに全く理解できない。
ただ、あんな体験はこれっきりにしたいもんだと、心底思った。
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川の事故
夏になると一生を通して思い出す話。
この時期になると全国では川で亡くなった方々のニュースが流れる。
しかしながら、全員が全員川の流れに飲まれていったのだろうか。
もちろん川の流れの速さというのは、舐めてかかるととんでもない事になる。
だが、一日に7人以上が行方不明や重体、死亡にまで至るのは本当に事故だけが原因なのか。
事故に遭われた方や、その家族には申し訳ないが、俺はおかしいと思う。
理由は、姉が川で亡くなった出来事。
それも目の前で。
小学生だった姉と俺と友人達はBBQをする為に川原に来てた。
大人達は料理をしたり、組み立て式の椅子やテーブルを出したりと、急がしく動き回っていた。
その真横で姉が流されていき、そのまま帰らぬ人となった。
俺達の目の前で姉は連れていかれた。
『連れて逝かれた』のだ。
大人達がBBQをする為に選らんだ場所は、キャンプ地などでは無く、車乗り入れ禁止の場所だった。
立ち入り禁止区域でもあった。
この事は、今でも両親の心に悔いを残し続けてる。
毎年の夏の命日には花束を持ち、家族で川原の近くまで向かう。
決まって姉の好きだった片白草(半夏生・ハンゲショウ)とオレンジジュースとチョコレートを、その川原の近くにある祠にお供えする為に向かうのだ。
その場所には今でも看板が建ってある。
『事故多数』の文字には姉の事故も含まれている事になるので、ここに来る度に一生涯悔いは残り続ける。
庭に咲く半夏生を好きだった姉が、夏に生涯を閉じるという皮肉にも似た文字の類似が俺は嫌いだ。
周りの葉の白くなっている様が、どことなく死んだ姉の白さを思い起こす。
あの忌々しい場所に近づきたく無いのもあり、俺はあまり行く事に気が進まない。
しかし、命日には必ず家族揃ってそこへ向かうことになっている。
長々と書いたが本題に移ります。
小学生の夏。
姉は『何者』かに連れて逝かれた。
それは子供心に残った姉との死別から生まれた混乱や、トラウマだとずっと思っていたのだが、決まって夢に出てくる最後の姉の姿には何者かが覆いかぶさり、連れて行くのだ。
それは肌が灰色の人だった。
俺や友人達と幾分も変わらぬ場所で遊んでいた、姉だけが流されるという不可思議な出来事の中に急に現れる。
手が届く範囲にいた姉が、一瞬で目の前から消えた。
一言も言葉を発する事も無く。
一瞬の場面が、夢では引き伸ばされたかのように長い。
俺が一瞬、目を親達に向け、直ぐに姉を見た瞬間、姉の真後ろで口をあけた灰色の人が姉の顔を鷲掴みにし、驚きの声を発する事を防ぐかのように姉の口に髪を押入れて、一気に連れて逝くのだ。
その灰色の人は、何故か口の中だけ真っ赤に染色されたかの様に夢の中では映った。
この夢は親には勿論、喋った事は無い。
言えるものでもない。
そして、昨年。
命日の日に、半夏生とオレンジジュースとチョコレートを持って川原に向かった。
何時の頃からかある祠には、俺達家族以外にも同じ様な遺族が居るのか、ビールだったりジュースだったり人形だったり花だったりが置かれていた。
お供えを置き参拝をした後、両親は一年間に何があったかを、そこに姉が居るかのように話かける。
そして何度も謝る。
俺はその日も、いままでと同じ様に、父と母の後ろで川原を見つめて待っていた。
ただその日は違った。
「いやああ、いやああああだあああ。」
と泣き叫ぶ声が聞こえたかと思うと、川の真ん中に灰色の人が立っていた。
横を向いたソレは、
「いやあああ、いやああああ。」
と口を開けて叫びながら、川下をずっと見ながら何者かに下から引っ張られ消えていった。
何がおきているのか理解出来ない俺の目の前に、更に別の灰色の人が川の底から這い出てくる。
そして同じ方向を向き、口を開けて叫び、引き摺られていった。
それは何人も出て来ては叫び、引き摺り込まれた。
何人目かの叫び声の後に川から出てきたソレは他のとは違い、こちらを向いたまま這い上がってきた。
「いやああああああ、いやああああああああ。」
と、必死で叫びながら口を開けてこちらをずっと見てる。
そして両親を見てさらに大きな声で、
「いやああああああ、いやあああああ。」
と叫ぶ。
姉だ!と思った俺は、助けなきゃと泣きじゃくりながら走ってた。
何故姉と思ったのか、助けなきゃと思ったのかは今でもわからない。
泣きながら姉の元に近づく俺の前で、新しい灰色の人が浮かび上がってきて姉を下へ引き摺りこもうとしていた。
姉は、
「いやあああああ、いやああああああ。」
と必死に抗おうと体を振り回す。
もう少しで手が届くと思った瞬間に、俺は両親から川原に引き摺り戻された。
「だずげてーよー。しぬのいやあああああ」
と聞こえた俺は、必死で抗った。
「何をしているの!!」
という母の泣き声に掻き消される様に、目の前の灰色の人や姉は消えていた。
母や父には見えてなかったらしく、散々説教をされた。
そして姉を救えなかったのは、俺のせいでは無いと諭された。
俺は泣きながら目の前で起きた光景を親に言いかけて、止めた。
俺の両親は、姉が死んでからずっと後悔の日々を送ってる。
そんな両親に何と説明すればいいのか。
姉が苦しんでるとでも言うのか。
そんな事言えない。
その場はただただ、ごめんとだけしか言えなかった。
何があったの?と両親が聞いてこなかったのは、俺がトラウマをもっていると思ったからだろう。
数日後、俺は一人でその場所に向かった。
ただ幾ら待ってもそこには何も現れなかった。
俺は灰色の姉が現れた場所に、近くの神社で買ってきた護符や寺で買ってきた護摩を投げ入れた。
どうか姉が苦しんでいませんようにと。
それ以外に方法が分からなかった。
ただ、その日に姉が笑っている夢を見た。
夜中に飛び起きて泣きじゃくった。
どうしても川の事故は本人の不注意だけの問題じゃないと思う。
事故の遺族であり、目の前で起きた事に対するトラウマからこの様な事を思うのかも知れない。
だけど、昔から日本には川や沼に住む河童だったり、幽霊だったりとかが怪談として語られるように、何か得体の知れない事やモノがいると思う。
来週が命日だから、雨が降ってなければ川原に参拝しに行く事になる。
ここに居る皆も、川などに行くときには気をつけてほしい。
自然に含まれるのは、川の流れや風だけでは無くて別のモノも居るように気がする。
気の付けようが無いものかも知れないが、立ち入りを禁止してるような場所というのは、何か曰くがあるのではないかと思う。
長くなって申し訳ない。
とりあえず、夏が近づいてはしゃぐのはわかるけども、事故が起き易い場所にはあまり行くなよ。
親は一生苦しむぞ。
兄弟姉妹も然り。
それと川に住む妖怪で調べたところ、川男という妖怪が色や姿形が俺の見たものと類似していた。
ただ、その妖怪は悪さをするような奴じゃないらしい。
それに俺の見た姉も灰色の人になっていたから違うと思う。
個人的な見解としては、親や俺の思念の具現化の様な気がしてる。
俺や両親が、その場に張り付けていたのでは無いかと何となく思った。
今は成仏してると思うようにしてる。
もう苦しんでないことを本当に願うよ。
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お祓いのバイト
えーと、自己紹介から始めると、30代前半の未来に絶望している派遣社員です。
東京にずっと住んでます。
独身で、両親は死んで大分経ちます。。
妹と弟がいますが、もう既に離れて暮らしてます。
奇妙なのか分からないですが、僕の知り合いにお祓いの仕事をしている人がいる。
知り合いというか、最寄り駅の近くの立ち飲みで出会ったおばさん。
それが今から数えて7年前ぐらいかなと思う。
引越したての頃で、仕事帰りに一緒に飲む友達がいなくて、気軽に入れそうな立ち飲み屋で飲むようになったのがきっかけ。
で、そのおばさん、俺を見るなり、
「ギャーッ」
って叫び始めた。
実を言うと、結構慣れっこで、よく知らない人から叫ばれます。
叫ぶならいいんだけど、
「あの人、怖いんです。捕まえてください。」
って通報されたこともあった。
なんで、『またかよ…』みたいな気持ちで無視してた。
けど、そのおばさんは今までの人と違って話しかけてきた。
「どこからきた?」
「仕事はなにしてる?」
「両親はなにしている?」
なんて、まるで尋問のように矢継ぎ早に質問された。
まぁ、こんなおばさんの友達も良いかと思って質問に答えていた。
それからしばらくして、そのおばさんが、
「今度、あたしの店に来い!」
って言いながら、お店のカード?みたいなものを渡された。
まぁ、興味ないし、凄い上から目線で話されてムカツイていたから、直ぐ様、そのカードは捨てた。
ところが後日。
その立ち飲み屋でまた会ってしまい、その時は無理やり店に連れてかれた。
というのも、おばさん以外に痩せたおじさんと若い女がいて、ちょっと逃げれなかった。
ちなみにおばさんは『トキコさん』、若い女は『ケイちゃん』、おじさんは『ヤスオさん』て言う。
『絶対、宗教の勧誘だよなぁ…』そう思いながら、その3人の後ろに付いていった。
店に行くまで誰も喋らないもんだから、ケイちゃんに話しかけてみたら、
「ヒィぃいー。」
とか言って、会話ができなかった。
それからヤスオさんに、
「ごめんな、君が怖いんだ。」
なんて言われたから、なんか凄い悲しかったの覚えている。
で、店に着いた訳だが、だたの占いの館だった。
宗教の勧誘じゃなさそうだなと思い、占いでもしてくれんのかなと期待していた。
で、店に着くなりトキコさんが、
「あんた、私たちと仕事しないか?」
って言われた。
「はぁ?」
と言いながら聞いていたら、なんでもその3人はお祓いを仕事にしているらしく、僕に、ついてきて欲しいと言われた。
その当時は一応、ある会社の社員だったので、
「仕事あるんで、無理ですよ。」
と断った。
でも、そのおばさんは引き下がらず、
「土日のバイトだと思ってやってくれないか?」
と頼まれた。
まぁ幽霊とか神様とかまるで信じないので、まぁいいかなぐらいでOKした。
早速、次の週末にお呼びがかかり、○○区のある一軒家に連れてかれた。
家からそう遠くは無いので、自転車で待ち合わせ場所に行ったら、
「徒歩で来い、アホ」
と怒られた。
渋々、近くに自転車を止めて、その一軒家に入っていった。
入った途端、トキコさんと連れのケイちゃん(おじさんは都合が悪くて来なかった。)が、
「あぁ、いますね、いますね。」
とか言い始めて、しかめっ面になった。
ただ、僕には何がいるかも分からなかった。
普通の一軒家だと思った。
居間には中年夫婦がいて、僕らにお茶やらお菓子を出してくれた。
笑ってたけど、かなり引き攣ってたの覚えている。
しばらくすると、トキコさんが、
「早速、始めましょう。その部屋に案内してください。」
と言って立ち上がった。
何が始まるのか、よく分からないまま、二階に案内された。
階段上がると左右に二部屋あって、その右側の部屋の扉の前で止まった。
扉にはアルファベットで『TAKAO』って書いてあった。
「ここです。」
そう中年夫婦に言われた。
トキコさんとケイちゃんは、背負っていたリュックサックの中から塩を出して、ペットボトルの水を振りかけ、両手にまぶした。
何が始まるんだろう?とか思いながら、俺も両手に塩まぶした方が良いのか聞いてみると、
「お前には必要ない。ただ言われた通りにしろ。」
と言われた。
中年夫婦には何があっても、絶対に取り乱すなと注意をしたトキコさんは、扉を開け中に入った。
僕も後ろに続こうとした時、中から黒い影がトキコさんに覆いかぶさってきた。
TAKAOという中学生ぐらいの少年だったが、異様に眼がギラギラして歯をむき出しにして、
「ガジャガジャ、ガジャー!」
みたいな事、叫んでた。
トキコさんの首に噛み付こうとしていたので、流石に僕もこりゃイカンと思い、少年を引き剥がそうと彼に近寄った。
TAKAOくんは僕の顔を見るなり震え始め、ベッドの隅っこに逃げて身を丸めた。
「体のどこでもいいから、引っ叩け!」
トキコさんにそう怒鳴られた。
なので、悪いなぁとは思いながら、丸まってる背中を引っ叩いた。
そんなに強く叩いた覚えは無かったが、
「うぎゃー!」
とか言って、TAKAOくんは泡吹いて倒れた。
倒れているTAKAOくんを介抱しようと両親が近寄る。
『そんな強く叩いてないよな』とか思いながら横目で、トキコさんを見ていると、
「これでお祓いは終りました、もう大丈夫。」
そう言った。
たしかそう言ったと思う。
それから、TAKAO君をベッドに寝かして、中年夫婦にお礼を言われながら帰った。
なんでもTAKAO君が大人しく寝たのは、半年振りだったそうだ。
ちなみにTAKAOくんの部屋は物凄い事になっていた。
物は多分危ないから片付けたのだと思うけど、壁という壁に切り傷や穴があった。
帰り道、あまりに意味がわからなかったので、トキコさんに、
「意味がわかりません。」
と素直に言って、色々聞いてみた。
可哀想に、一緒に来ていたケイちゃんは帰り道の途中でゲロを吐いていた。
「あんたは相当なモノをもってるね。」
トキコさんにそう言われた。
初めはちんちんの事かと思ったが、そうではないらしい。
どうやら、言い方は宗教やお祓いの流派によって変わるらしいが、『守護霊』や『気』なんて言われてるものらしい。
そんなに凄いのかと思って、
「そんなに良いんですか?」
と尋ね返すと、
「いや、逆だ。最悪なんだよ、あんたの持ってるもの。」
そう言われた。
最悪じゃダメじゃないか、と思ってたので、
「最悪って、それじゃ駄目じゃないですか。」
と言うと、
「普通はな。だけどお前は普通じゃない。なんでそれで生きてられるのかおかしい。」
トキコさんに言わせると、俺のもってる『モノ』ってのが、相当ひどいらしい。
実はケイちゃんがゲロを吐いたのも、俺がTAKAO君を叩いたときに祟られたらしい。
まぁ色々聞きたかったのだが、あまりにケイちゃんが気分が悪くなってしまったので、トキコさんとケイちゃんは先にタクシーで帰った。
僕は止めておいた自転車で帰った。
トキコさんのお店でなんと10万円ももらえた。
本当はいくらもらってんだろう?そう思ったけど、中学生の背中引っ叩いて10万円ならいいや、と思って喜んでた。
実を言うと、それから少しして僕は留学した。
その当時の仕事よりも、やりたい事があったのが理由だ。
まぁ結局3年前に戻ってきたものの、仕事がなくキャリアも無く、派遣をやりながら生活している。
3年前に帰国した後に、トキコさんに会った時に言われたのが、
「あんたのそれ、かなり逞しくなってるよ。」
そう言われニヤっと笑われた。
なんでも僕の『モノ』は異国の地でセイリョク(精力、生力?どちらかわかりません。)を養ったらしく、以前よりパワーアップしているらしい。
一応、真面目に勉強してただけなんですけどね。
それから3年、お祓いのバイトをしている。
ただ、トキコさんやケイちゃん、ヤスオさんは、いわゆる霊感的なものがあるらしく、色々見えるらしい。
ところが僕は本当に何も見えない。
なので、今でも引っ叩いたり、話しかけたりするだけである。
残念なのは、今でもケイちゃんは仕事が終わるとゲロを吐く。
僕のせいなので、いつも申し訳ない気持ちで一杯になる。
で、明日も実は一個仕事が入り、終わったら風俗行こうと考えてます。
あ、ちなみにドMです。
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2回目の今日
俺がK津園で経験した話。
K津好きなら誰でも知ってる高給店。
俺なんかだと、本当に偶にしか行けないような店なんだが、そこに新人が入ってネットで結構評判良かったから行ってみた。
評判通り可愛い娘で、とても礼儀正しい。
した後に、煙草を吸おうと自分のセカンドバックに手を伸ばすと、
「煙草持ってないんでしょ?ハイライトなら買い置きがあるよ」
と姫が。
そんなはずは無い。
朝、新品を開けて、まだ5~6本しか吸ってないはず。
でも、いくら探しても見つからない。
それより、何で俺がハイライトを吸ってることを知ってるんだ?
「さっきノワール(喫茶店:仮名)でコーヒー飲んだとき、忘れて来たんでしょ。はい、どうぞ」
そう言って新品のハイライトを開け、火をつけて俺に渡した。
「ねえ、何でそんなことがわかるの?ひょっとして、さっきノワールにいたの?」
「ううん(笑)貴方がコーヒー飲んでた頃は、出勤途中でタクシーの中だったよ。」
「え?え?え?」
「うふふ」
少し気味が悪いなと思ったけど、姫が余りにもあどけなく可愛いので、取り敢えず俺も笑って、
「へえ、凄いなぁ」
などと言って、その場ではそれ以上追求しなかった。
それからしばらくして、
「もうすぐ○○さんに、いいことがあるよ」
と姫が。
程なくして俺の携帯にメールが、
「やりましたね、3000円付きましたよ。俺も○○さんに乗ったんで一気に取り返しました」
中京競馬場に行ってた同僚からだった。
メインレースだけ頼んで買ってもらった馬券が当たったのだ。
「ねっ(笑)」
背筋が一気に寒くなった。
「ね、ねえ、な、なんで?」
「内緒っ」
「ちょっと~、マジ怖いんだけど」
「どーしよっかな、私の話聞いても引かないでね、お客さん良い人だから教えてあげるわ。実は私、2回目の今日なの」
「はぁ???」
「私、死んだの」
「そして生き返ったの」
「私、今日の夜、帰り道で車に跳ねられて死ぬの」
おいおい、この娘は何を言ってるんだ?・・・
薬とかなのか?
「そうしたらね、凄く広いお花畑にいるの。でもお花は白黒なの。私はどうしたらいいのかわからずウロウロしていると、一箇所凄く明るくなってる場所があって、そっちに近づこうとしたの。」
「でも、何だかそこに行っちゃいけないような気がして、やっぱり引き返したの。」
「でも、その明るい場所は、どんどん大きくなって私を飲み込もうとしてね。私、走って逃げて、頑張って走って、そうしたらなんか落とし穴みたいのに落ちたの」
『お客さん、よく眠ってましたね、付きましたよ』
「わたし、マンションからいつもタクシーでお店に来るのね。朝弱いから寝ちゃうこと多いんだけど、運転手さんに起こされて、あれ?夢だったのかな?でも凄いリアルだったなと思ったんだけど、お店始まっちゃうから、急いで控え室に行って準備したの。」
「それで最初のお客さんで貴方が入ってきたのよ。私にとっての昨日と同じ貴方が。」
全身鳥肌が立ち、震えている俺の手を姫は握ってくれた。
「でも、私、今回が初めてじゃないの。子供の頃、まだ保育園に入る前なんだけど、同じような経験があるの。」
そこまで姫が話した所で、タイマーが鳴った。
「あ、時間だね、シャワーは石鹸無しの方がいいんだよね。奥さん臭いに敏感だから(笑)」
もう何が何だかわからなくなって、俺も笑うしか無い。
顔は思いっきり引き攣ってたが。
最後に、
「また来てね」
と言い、Dキスした姫の舌は、何だか冷たい感じがした。
「え、でも今日の帰りに・・・車に・・・」
「今日は、ココの近くのホテルに泊まることにするから、きっと大丈夫だよ」
それからしばらくの間、毎日ネットで彼女のシフトをチェックした。
時々、予約する振りをして、電話で在籍の確認もした。
「お客さん。あの娘人気あるんで、すぐ予約埋まってしまうんですよ」
元気に働いてるようで安心した。
俺が行ってから3週間程で、理由はわからないが彼女は退店した。
もう何年も前の話。
何だか誰にも話しちゃいけない気がしたから、ずっと俺の心の中にしまっておいた話。