「 不気味 」 一覧
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ガラス
小学生の時、夕方ランドセルを忘れたので学校に取りに戻ったら、廊下の突き当たりの戸のガラスの部分に、自分が映ってなかった。
廊下のかわりに、小さい部屋と男の子が映っていた。
その男の子は、顔だけは隣のクラスのタムラ君だったけど、絶対違う。
野球帽も違ったし、体型も違ったし、何より目つきが違う。
体育座りで膝と帽子の隙間から、もの凄く暗い目でジーッと見ている。
すっとんで逃げた。
幻覚だったかもしれない。
なので小学生以来、ガラスが怖い。
それから去年、バイト先の大きい棚のガラスに、女の人の目だけが映っていて目が合った。
自分の目じゃなかった。
もっとちゃんと化粧した、大きくてきれいな無表情な目だった。
ドキッとした。
その2時間後、営業で来た人が、
「すぐそこの交差点で死亡事故があって酷い渋滞ですよ」
と話してた。
死んだのは老人だった。
でも死亡時刻が、私が女の目を見た時間と同じ10時半だった。
数ヵ月後、バイトの子が、
「この店に霊がいる気がする」
と言い出した。
まさかと思って聞くと、やはり若い女で、棚の中に居るらしい。
(建物ができる前から居て、居場所に棚を置いた為に重なっているらしい)
だからあの目は映ってたんじゃなく、中から覗いてたのかもしれない。
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遺言ビデオ
会社の同僚が亡くなった。
フリークライミングが趣味のKという奴で、俺とすごく仲がよくて家族ぐるみ(俺の方は独身だが)での付き合いがあった。
Kのフリークライミングへの入れ込み方は本格的で、休みがあればあっちの山、こっちの崖へと常に出かけていた。
亡くなる半年くらい前だったか、急にKが俺に頼みがあるといって話してきた。
「なあ、俺がもし死んだときのために、ビデオを撮っておいてほしいんだ」
趣味が趣味だけに、いつ命を落とすかもしれないので、あらかじめビデオメッセージを撮っておいて、万が一の際にはそれを家族に見せてほしいということだった。
俺は、そんなに危険なら家族もいるんだからやめろといったが、クライミングをやめることだけは絶対に考えられないと、Kはきっぱり言った。
いかにもKらしいなと思った俺は、撮影を引き受けた。
Kの家で撮影したらバレるので、俺の部屋で撮ることになった。
白い壁をバックに、ソファーに座ったKが喋り始める。
「えー、Kです。このビデオを見てるということは、僕は死んでしまったということになります。○○(奥さんの名前)、××(娘の名前)、今まで本当にありがとう。僕の勝手な趣味で、みんなに迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っています。僕を育ててくれたお父さん、お母さん、それに友人のみんな、僕が死んで悲しんでるかもしれませんが、どうか悲しまないでください。僕は天国で楽しくやっています。皆さんと会えないことは残念ですが、天国から見守っています。××(娘の名前)、お父さんはずっとお空の上から見ています。だから泣かないで、笑って見送ってください。ではさようなら」
もちろんこれを撮ったとき、Kは生きていたわけだが、それから半年後本当にKは死んでしまった。
クライミング中の滑落による事故死で、クライミング仲間によると、通常もし落ちた場合でも大丈夫なように下には安全マットを敷いて登るのだが、このときは、その落下予想地点から大きく外れて落下したために、事故を防ぎきれなかったのだそうだ。
通夜、告別式ともに悲壮なものだった。
泣き叫ぶKの奥さんと娘。
俺も信じられない思いだった。
まさか、あのKが。
一週間が過ぎたときに、俺は例のビデオをKの家族に見せることにした。
さすがに落ち着きを取り戻していたKの家族は、俺がKのメッセージビデオがあるといったら是非見せて欲しいと言って来たので、ちょうど初七日の法要があるときに親族の前で見せることになった。
俺がDVDを取り出した時点で、すでに泣き始める親族。
「これも供養になりますから、是非見てあげてください」
とDVDをセットし、再生した。
ヴーーーという音とともに、真っ暗な画面が10秒ほど続く。
あれ?撮影に失敗していたのか?と思った瞬間、真っ暗な中に突然Kの姿が浮かび上がり、喋り始めた。
あれ、俺の部屋で撮ったはずなんだが、こんなに暗かったか?
「えー、Kです。このビデオを・・るということは、僕は・・んでしまっ・・いう・・ります。○○(奥さんの名前)、××(娘の名前)、今まで本・・ありが・・・」
Kが喋る声に混ざって、さっきからずっと鳴り続けているヴーーーーーーという雑音がひどくて声が聞き取りにくい。
「僕を育ててくれたお父さん、お母さん、それに友人のみんな、僕が死んで悲しんでるかもしれませんが、どうか悲しまないでください。僕はズヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア××(娘の名前)、お父さん死んじゃっヴァアアアアアアアアアアアアア死にたくない!死にズヴァアアアアアアアにたくないよおおおおヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ザッ」
背筋が凍った。
最後の方は雑音でほとんど聞き取れなかったが、Kの台詞は明らかに撮影時と違う断末魔の叫びのような言葉に変わり、最後Kが喋り終わるときに暗闇の端から何かがKの腕を掴んで引っ張っていくのがはっきりと見えた。
これを見た親族は泣き叫び、Kの奥さんはなんて物を見せるんだと俺に掴みかかり、Kの父親は俺を殴りつけた。
奥さんの弟が、K兄さんはいたずらでこういうものを撮るような人じゃないと、なだめてくれたおかげでその場は収まったが、俺は土下座をして、すぐにこのDVDは処分しますといってみんなに謝った。
翌日、DVDを近所の寺に持っていったら処分をお願いしますという前に、住職がDVDの入った紙袋を見るや否や、
「あ、それはうちでは無理です」
と。
代わりに、ここなら浄霊してくれるという場所を教えてもらい、行ったがそこでも、
「えらいとんでもないものを持ってきたね」
と言われた。
そこの神主(霊媒師?)によると、Kはビデオを撮った時点で完全に地獄に引っ張り込まれており、何で半年、生き永らえたのかわからない、本来ならあの直後に事故に遭って死んでたはずだと言われた。
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火葬場のバイト
オレが昔、火葬場でバイトしてた時の話。
ある日の朝に斎場(火葬場)の玄関を掃除してたら黒いSUV車が入ってきて、成金な感じで時計もフランクミューラーなんかしてるおっさんが車から出てきて、死体を焼いてくれって言うんだよね。
通常は死体なんか直接運んでくる前に、業者とか親族から連絡があって、こっちも届出人の保険証とか死亡届書を持ってくるようにとか時間も指定してお願いするんだけど、そのおやじは斎場長にもう話が通ってるからすぐ焼いてくれって、かなり高圧的言ってくるんだよ。
なんで、とりあえずそのおっさんに待ってもらって斎場長に話しに言ったら、返事一つで焼いてやれっていうもんだから、しょうがなくすぐ準備してオーブン(火葬炉)開けたんだよ。
死体は30才くらいの男で、なんかまだ死んだばっかというか普通の死体よりも顔もピンク色してたんだけどね。
死体は普通、焼く前にもう一回確認するんだけど、外傷とかは別になくてきれいなもんだった。
で、棺桶閉めて炉に入れて焼き始めて大体20分くらいしてからなんだけど、オーブンの中からもの凄い音がすんだよね。
ドカンドカンって。
その時もうオレは目の前真っ暗になった。
もしかして生きてたんじゃねーの?って…。
でももう20分もしたら桶なんか全部焼けてるくらいだし、例え生きてたとしても今さら開けて助けるのは無理だって思ってしかとしちまった。
ていうか、手足がガクブルってどうすることもできなかった。
通常1時間くらいもあれば死体なんて全部灰になっちまうんだけど、めちゃめちゃ怖くて30分くらいずっとオーブン開けられなかった。
例の成金おやじみたいのはもういなくなってた。
オレはどうしても怖いから、斎場長呼びに行ってオーブン開けるの立ち会ってくれってお願いした。
焼いてる途中で中で音がしたことも全部説明した。
で、結局斎場長が開けたんだけど、炉を開けるときになんか焼肉みたいな匂いが、ぷんと漂って来た。
で、斎場長がトレイを引っ張り出したら、その男は何故か半生に焼けただれていて、体もうつぶせになっているように見えた。
その瞬間、オレは訳がわからなくなって気が遠くなって倒れたんだけどね。
でも今冷静に考えてみると、きっとその男、まだ生きていたんだな…。
そんで焼かれる熱さで、オーブンの中で棺桶をめちゃくちゃにぶっ壊しながら暴れていたんだと思う。
恐らくそれで、中のバーナーが壊れて体が完全に焼けず、半生だったんだな。
オレは、倒れてから一度もその火葬場には行ってないから正確な事情は良くわからない。
でもその後、斎場長がオレのとこに会いに来て、何故か1000万くれた。
他言無用だとかそいうことは一切口にせず、ただ1000万くれたんだよね…。
今はその金で暮らしているわけだが、トラウマになって今でも夢にでてくる。
しんどいわ。
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くねくね
これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。
都会とは違い、空気が断然うまい。
僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。
と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。
僕は、
『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』
と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。
すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。
その方向には案山子(かかし)がある。
『あの案山子がどうしたの?』
と兄に聞くと、兄は、
『いや、その向こうだ』
と言って、ますます目を凝らして見ている。
僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。
すると、確かに見える。
何だ…あれは。
遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。
しかも周りには田んぼがあるだけ。
近くに人がいるわけでもない。
僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かったから、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』
兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。
風がピタリと止んだのだ。
しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。
兄は、
『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』
と驚いた口調で言い、気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。
兄は、少々ワクワクした様子で、
『最初、俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』
と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。
すると、急に兄の顔に変化が生じた。
みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。
僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。
『何だったの?』
兄はゆっくり答えた。
『わカらナいホうガいイ……』
すでに兄の声では無かった。
兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。
しかし気になる。
遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。
少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。
しかし、兄は…。
よし、見るしかない。
どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!
僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。
僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、
『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』
と迫ってきた。
僕は、
『いや…まだ…』
と少しキョドった感じで答えたら、祖父は、
『よかった…』
と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。
僕は、わけの分からないまま、家に戻された。
帰ると、みんな泣いている。
僕の事で?
いや、違う。
よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。
僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。
そして家に帰る日、祖母がこう言った。
『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。
以前の兄の姿は、もう、無い。
また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。
何でこんな事に…
ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。
僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。
祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。
僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。
表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。
そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。
『いつか…元に戻るよね…』
そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。
そして、兄との思い出を回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。
…その時だった。
見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。
『くねくね』
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やってくる
漏れにはちょっと変な趣味があった。
その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出てそこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。
いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しい。
遠くに見える大きな給水タンクとか、酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、ぽつんと佇む眩しい自動販売機なんかを見ていると妙にワクワクしてくる。
漏れの家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ漏れの家の方に向って下ってくる。
だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。
その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら、
「あ、大きな蛾が飛んでるな~」
なんて思っていたら、坂道の一番上の方から物凄い勢いで下ってくる奴がいた。
「なんだ?」
と思って双眼鏡で見てみたら、全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。
奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、漏れと目も合いっぱなし。
ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。
ドアを閉めて、鍵をかけて、
「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」
って怯えていたら、ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。
明らかに漏れを探してる。
「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」
って心の中でつぶやきながら、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。
しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。
もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら、ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。
「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」
って感じで、奴の呻き声も聴こえる。
心臓が一瞬止まって、物凄い勢い脈打ち始めた。
さらにガクガク震えながら息を潜めていると、数十秒くらいでノックもチャイムも呻き声も止んで、元の静かな状態に……。
日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。
あいつはいったい何者だったんだ。